カテゴリー「書評:SF:小説以外」の142件の記事

2025年11月24日 (月)

SFマガジン2025年12月号

0.006気圧の大気中では、舞い上がった砂塵は速やかに地面に落下するからだ。
  ――宮西建礼「マールスの子どもたち」

「おまえの母親は英雄だ。くれぐれもそれを忘れるんじゃない」
  ――ウォレ・タラビ「暴噴」鳴庭真人訳

私が親友を壊したのは、17歳の冬のことです。
  ――小野美由紀「春を待つ君を待つ」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「火星SF特集」として小説4本に評論やエッセイなど。

 小説は11本+1本。特集で4本、連載が5本、読み切りが2本+冒頭のみが1本。

 火星SF特集。小説は4本。宮西建礼「マールスの子どもたち」,チャズ・ブレンチリー「第十二の駅」桐谷知未訳,ウォレ・タラビ「暴噴」鳴庭真人訳,王侃瑜「火星の祝融」大恵和実訳。

 連載小説5本。山本浩貴(いぬのせなか座)「親さと空」第2回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第62回,吉上亮「ヴェルト」第二部第九章,夢枕獏「小角の城」第84回,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第30回。

 読み切り小説2本。カスガ「不滅の遊戯」,小野美由紀「春を待つ君を待つ」。

 冒頭のみは第13回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作の関本聡「摂氏千度、五万気圧」。

 火星SF特集。

 宮西建礼「マールスの子どもたち」。レムとロムはコンテナトラックに潜み“都市”への密航を企てた。“都市”は自己複製機械群マルシスによりクレーター内で建設が進みつつある。ただしそこに人はいない。マルシス制御下の自動機械が動いているだけ。画面でも見れるが、二人は自らの目で見たかったのだ。望みは叶ったものの、マルシスに見つかりお説教を食らう。

 火星に相応しく酸素タンクの容量が気になる定番の冒頭から、今世紀ならではの技術を用いた“都市”の建設風景はSF心をくすぐりワクワクする。トム・ソーヤ―よろしく少年の冒険物語になるかと思いきや、現在ホットな進歩を遂げつつあるアレの行く末を見つめた舞台背景は、希望と絶望が入り混じったモノで…

 チャズ・ブレンチリー「第十二の駅」桐谷知未訳。カッシーニ・クレーターには、まわりを巡るモノレールがある。その駅の一つは“第十二の駅”と呼ばれ、必ず誰かが居る。周辺には何もない。駅にも説明板がなく、駅名の由来は人に訊ねるしかない。かつて“大戦争”で大英帝国とロシアが戦い…

 いかにもイギリス出身の作家らしい作品。というのも、イギリス陸軍は大日本帝国陸軍と同じく、部隊は出身地ごとに編成するからだ。スコットランド高地の舞台はタータンチェックのスカートをはいてバグパイプを吹いてたりする(→Wikipedia)。米国の作家だと、こういう発想は出ないだろう。いや本作の雰囲気はイングランドっぽいけど。

 ウォレ・タラビ「暴噴」鳴庭真人訳。フォラケが軌道のネリオ・ステーションで火星の地表の掘削現場を監視していた時、通信回線から轟音が鳴り響く。現場で爆発が起きたようだ。キック(→JOGMEC石油・天然ガス資源情報キック)と判断したフォラケは情報を整理する。想定した数字より2桁も大きい。現場には弟のフェミもいる。

 暴噴って言葉は知らなかったが、なんとなく見当がつくのが漢字の嬉しい所。ナイジェリア出身の著者らしくアフリカ宇宙機関が火星開発に携わっているのが独特。アフリカは鉱物資源が豊富なので、掘削技術が発達するのは理にかなってる。遠隔操作型のロボット,イベジの活躍が楽しい作品。

 王侃瑜「火星の祝融」大恵和実訳。祝融は火星の大都市天荒を管理するAIだ。その能力を認めた人類はより多くの任務を祝融に任せ、権限も拡大した。ナノマシン生産に秀でた火星の人々は肉体をナノ化し、祝融に権限を譲って火星から去る。残された祝融は自らを拡張し生命について考え始める。

 もしかして「フロストとベータ」?と思ったら「光の王」が少し混じって「十二月の鍵」に…という、年寄りを泣かせまくる作品。たまたまカブったのかと思ったが、これは完全にロジャー・ゼラズニイへのオマージュだ。神話ベースだし。壮大なストーリーを短編にギュッと詰めこんだせいか、語り口は武骨でぶっきらぼうだが、それだけに濃ゆいSF魂が煮えたぎってる。

 連載小説。

 山本浩貴(いぬのせなか座)「親さと空」第2回。2017年。柚葉は中学受験を経て県内チップの中高一貫校に入学する。だがほとんど学校には通わず、オンラインFSPゲーム Vosok に入り浸っていた。そこで知り合った同年代のマリアと親しくなり、無料インディーズ・ゲームにも手を伸ばす。その一つ Arek-Chain は奇妙なゲームで…

 前作「無断と土」に引き続き、本作でも今回はゲームが重要な役割を果たす。つか光の速度でも距離が問題になるって、どんな運動神経してるんだFPSプレイヤー。続いて出てくる Arek-Chain、不気味さと怪しさは抜群で。カギとなる事件(ネタバレ?→アムネスティインターナショナル)も実に怖い。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第62回。イースターズ・オフィス,クィンテットそしてマルドゥック市警の三者連合によるリバーサイド・ホテル攻略は続く。バジルから三階のセキュリティ・フロアを任されたトーディは、刑務所でギャングから効果的な放火の方法を学んだ。それを今、役立てよう。

 前回に続き次々とホラーな場面が続く回。特におぞましいのがハエ男。某映画の気色悪さが生々しく蘇ってくる。ばかりか、本作のハエ男はおましい方向へ大きな進歩を遂げて…。

 吉上亮「ヴェルト」第二部第九章。大恐怖(→Wikipedia)のさなか、ロベスピエールの指揮による<最高存在の祭典>が始まる。相次ぐ処刑のせいか、革命の熱は冷めてゆく。だが処刑の数は増す一方だ。なまじ効率的な道具ができたため、歯止めがなくなってしまった。この事態を憂いながらも、サンソンは役目をまっとうし続ける。

 なかなかSFな仕掛けが出てこない本作だが、王の目に続く仕掛けがやっと片鱗を見せる。それも意外な所で。科学者らしい遠大な目標のために邁進する某氏(ネタバレ、→Wikipedia)の姿は崇高…には見えず、狂気に囚われているように感じるのは何故だ。でも、その発想は相応しいかも。

 飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第30回。大館いつきに大小の刃物が迫る。フロックコートの男と印南凍が揉み合っている。女が石室一佐にのしかかり、一佐の身体から銛を抜く。早坂篤子が女に飛びかかる。

 いろいろあるが、最後の一行の衝撃が最も大きい。

 読み切り。

 カスガ「不滅の遊戯」。北条茅子は入学した高校で南七都子と出会う。二人だけの囲碁同好会で、二人は三年間ただ碁を打ち続けた。競技会に参加するでもなく、二人だけで。もっとも、当初の茅子は小学生の頃に三か月ほど囲碁教室に通っただけ。七都子に至っては入門書を読み始めたばかり。それでも七都子はめきめきと腕をあげ…

 何かに特化した集団の中では、往々にして独自の言葉が発達する。家族の中だけ、職場の仲間内だけ、または業界用語とか。あれは単位時間内の情報伝達量を増やすという合理的な目的より、仲間意識を養う役割が大きいんだろう…ってカタいな、俺。シライシユウコのイラストが作品の空気を巧みに伝えている。

 小野美由紀「春を待つ君を待つ」。登志乃世イツキは、小学三年生のときにスイと仲良くなる。スイの父は一代でセクサロイド製造会社を育て上げた。名門の一貫校で成金と蔑まれるスイは、とても可愛く男子からもてた。甘やかされて育ったスイは自由奔放で傲慢だった。イツキはそんなスイが大好きだった。スイは人気アイドルのハルそっくりなセクサロイドを手に入れ…

 文章の大半がベッドシーンという、なかなかに攻めた作品。イツキがカウンセラーに語る一人称で話は進む。これ聴いてるカウンセラーは落ち着かないだろうなあw ある意味ジェームズ・ティプトリー・ジュニアの「接続された女」なんだが、もちろん展開はまったく違う。

 第13回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作の関本聡「摂氏千度、五万気圧」の冒頭。温暖化が進む地球。太陽系外から<救済者>が突然現れ、幾つかの密閉都市を造り去ってゆく。やがて地表の気温は昼まで70℃にまで上がり、人が住めるのは密閉都市だけとなる…例外を除いて。だが密閉都市のいくつかと、連絡が取れなくなる。バンクーバーとフェアバンクスのコクーン(密閉都市)は、調査隊を派遣する。

 いかにも映像化したら映えそうな<救済者>到来の出だしは、多少の胡散臭さもあって懐かしの50年代SFっぽい雰囲気が漂う。この胡散臭さは<救済者>の真意と正体にも付きまとっている。いや掲載分じゃ何もわからないけど。地表に残った「例外」のパートでは、スケールの大きい海洋冒険物語の予感がする。

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2025年10月24日 (金)

豊田有恒「日本アニメ誕生」勉誠出版

初期アニメに関わった多くのクリエーターに関しても、恩師と仰ぐ手塚治虫を含めて、知る限りのエピソードを紹介し、かれらの業績を、あらためて顕彰してみたい。
  ――まえがき

才能が問題になるのは、プロになってからである。最初は、趣味が嵩じるかどうかで決まるのだ。
  ――第10章 パラレル・クリエーションのころ

【どんな本?】

 1960年代初頭。学生ながら早川書房「SFマガジン」主催の第一回日本SFコンテストに「時間砲」で入賞したものの、それで食えていける状態ではなく、将来を決めかねていた豊田有恒は、同期入賞の平井和正の紹介でテレビアニメ『エイトマン』のシナリオを任される。当時の日本のテレビアニメは黎明期で人材の交流は多く、やがて『鉄腕アトム』にも関わるようになり…

 日本SF作家第一世代の一人でもある著者が、テレビアニメ関係を中心に思い出を語る、青春の交友録・回顧録。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2020年8月28日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約200頁。9.5ポイント43字×16行×200頁=約137,600字、400字詰め原稿用紙で約344枚。文庫なら薄い一冊分。

 文章はこなれていて読みやすい。まあベテラン作家だし。内容は…手塚治虫をはじめとして、そのスジの有名人が続々と出てくるため、ソッチに詳しい人にはわかりやすい。そうじゃない人? 読まないでしょ、どうせ。

【構成は?】

 時系列順に進むが、気になった所だけを拾い読みしても楽しめる。

クリックで詳細表示
  • まえがき
  • 第1章 手塚治虫との出会い。押しかけ原作を強要
    手塚治虫に会いに行く/手塚式出版社回り/『宇宙塵』の月例会/リミテッドアニメ、バンクシステムという手法/アニメ版『アトム』
  • 第2章 エイトマン誕生!「細胞具」って、なに?
    同期入賞の仲間たち/平井和正との切磋琢磨の日々/『エイトマン』誕生/『エイトマン』のテレビ化/シナリオの書き方/河島治之というスーパーマン/細胞具?/リアリティの重視/身の振り方を考える/超小型原子炉と賦活剤
  • 第3章 シナリオがない!
    手塚治虫の目配り/文芸課長・石津嵐/シナリオ地獄/「チョコレートを買ってきてください!」/「ラフレシアの巻」/人生最大の殺気
  • 第4章 社長が消えた!
    編集室への立てこもり/創作の秘密/盗作問題
  • 第5章 アトム輸出。お茶の水博士は、ドイツ人?
    『アトム』のアメリカ進出/ドイツ訛りの科学者
  • 第6章 「イルカ文明の巻」視聴率トップ
    戦うことをためらう主人公/社内公募でキャラクターを決める/出渕裕の「やられメカ」
  • 第7章 手塚治虫とけんか別れ
    虫プロの現場/美術部の重要性/ふたりの節子/アニメの音/優秀な人材/拡大路線/新番組『ナンバー7』/手塚の激怒/虫プロ退職
  • 第8章 再びTBSへ 『スーパージェッター』『宇宙少年ソラン』
    TBSからの要請/『スーパージェッター』の仲間たち/「タイムパトロール」の設定/大仇・ジャガー/久松文雄と長岡秀星の起用/もう一つのペンネーム/リーダー・福本和也/架空の歴史を創りだす/中島梓の誤解/またもや手塚を怒らせる/虫プロからの電話/手塚との和解/手塚治虫の受賞/第一次アニメブーム/『冒険ガボテン島』の設定/仲間たちのその後/主題歌の魅力/アニメ界から遠ざかる
  • 第9章 『宇宙戦艦ヤマト』下敷きは西遊記
    翻訳の仕事/本格的なsfアニメを/西崎義展との出会い/ハインラインのようなSFを/アニメ心に火がつく/原子の火/終末論に迎合する/「荒廃した地球」という舞台/『西遊記』を下敷きに/『宇宙戦艦ヤマト』の原作者/最初の小説版
  • 第10章 パラレル・クリエーションのころ
    星敬と土屋裕/パラレル・クリエーション発足/若いクリエーターたち/常連、とり・みき/田中良直と原田知世ファンクラブ/多才なるメンバーたち/定義しにくい友人、田北鑑生/妻は相撲部屋の女将さん?/才能の差/社員旅行の思い出/ミニ版・ときわ荘
  • 第11章 日本アニメの将来
    CGアニメの隆盛/アニメ創世期を構成に

【感想は?】

 私がSF者になったのは、豊田有恒のせいだったのか。納得。

 冒頭から懐かしいタイトルの連続で涙が出そうになる。鉄腕アトム,鉄人28号、エイトマン。

 いずれも現在はYoutubeでオープニングが見られる。いい時代だなあ。さすがに絵はモノクロで京アニなどの華麗な絵に慣れた人には紙芝居に感じるだろうが、音楽だって手間かかってるぞ。なんたって、みんな生楽器のオーケストラだし。1960年代初頭だから、録音も多重録音じゃなくて、奏者をみんな集めて録ったんだろうなあ。贅沢な話だ。

 と、そんな、年寄りが遠い目をして昔を懐かしむ、そういう本です。

 テレビ界・アニメ界・SF界ともに若かった時代。というか、テレビアニメ自体がなかった。アニメ映画はあったけど。そんな時代に、週間のテレビアニメを、それもSFでやる。今思えば、なんでそんな無謀な事を考えたのか見当もつかないが、たぶん手塚治虫の影響だろうなあ。

 その手塚治虫への畏敬の念は、全編を通して語られる。もちろんアニメでの付き合いもあるが…

SF界は、活字と映像のあいだに垣根がない。
  ――第1章 手塚治虫との出会い

 のだった。親友の平井和正に巻き込まれ、学生ながらエイトマンのシナリオを描く羽目になる著者だが…

「シナリオって、どうやって書くんですか?」
  ――第2章 エイトマン誕生!

 ってな体たらく。みんな手探りでやってたんだろうなあ。映画やドラマのシナリオはソレナリに蓄積があるんだろうが、アニメならではの事情もある。

30分番組のシナリオが、四百字詰めの原稿用紙で、実写では35枚程度とすれば、アニメでは50枚以上も必要となる。
  ――第6章 「イルカ文明の巻」視聴率トップ

 実写だと、例えば役者の動作を具体的に書いちゃいけない(→「ハリウッド脚本術」)。何を表現するかは脚本家の縄張りだが、どう表現するかは役者の縄張りなのだ。これがアニメだと、照明や効果音まで脚本家が考えるのだ。

 その効果音も…

アニメの音というのは、実際にない音もあり、実写と比べると大変なのである。
  ――第7章 手塚治虫とけんか別れ

 なんてあって、「そりゃねえ」と今さら納得したり。波動砲の音なんて、誰も知らないしw

 やはり当時のアニメならではの制約もあって、例えば主題歌で「子供が歌えない主題歌ではだめだ」とか。納得はともかく理解はできるが、「半音があると、普通のハーモニカで演奏できないから、子供たちに馴染みにくい」は、気が付かなかった。子供向けのコンテンツは、大変なんだね。

 素人読者を意識してか、アニメの制作過程もザックリだが親切に書いてある。最近、原作とドラマの違いが話題になったが、映像化の場合は集団での話し合い…というより揉み合いで少しづつ出来上がってくるようで、スタッフとの喧嘩もしばしば。

「文句を言うなら、おまえが書いてみろ!」
「絵が描けるくらいなら、シナリオなんて、書いているか!」
  ――第4章 社長が消えた!

 には笑った。

 裁判にもなった『宇宙戦艦ヤマト』が、ああいう形になった経緯も面白い。

この設定には、下敷きがある。(略)西遊記である。
  ――第9章 『宇宙戦艦ヤマト』下敷きは西遊記

 おお、言われてみれば。確かに「遠方から××を持ちかえる」って話だしねえ。これを制作に漕ぎつけるまでも色々とあって。

「巨大ロボットは出てこないのか」
  ――第9章 『宇宙戦艦ヤマト』下敷きは西遊記

 なんて言われたり。大金が動くだけに、制作側も前例のあるモノにすがりたいんだろう。さて、例の裁判にしても、本書を読む限り、原作を一人の個人に帰するのは無茶な気がしてくる。キモである、あの設定にしても…

戦艦ヤマトを使おうと言いだしたのは、松本零士だった
  ――第9章 『宇宙戦艦ヤマト』下敷きは西遊記

 と、松本零士の貢献を認めている。多くの人物が登場し、その大半に畏敬または親愛の情を示す著者だが、西崎義展だけは例外で、プロデュースの能力は認めながらも、散々にディスってたり。

 終盤では自らが社長を務めたパラレル・クリエイションの話で、今をときめくクリエーターたちが続々とでてくるのが楽しい。そうか、火浦功は実在したのか。

 多くの人が登場する中で、私の印象に残ったのが、映画館のロビーで著者がナンパした相手の話。SFマガジンを持ってるからってんで話しかけたら…。オチも凄い。「この近くに、ひいおじいさまのお宮があるから」って、そういう事か。

 日本のSFもテレビアニメも生まれたばかりの時代。若者たちが和気あいあいと話し合い、または喧々囂々の論争をしながら、手探りで作品を創り上げてゆく、その過程を遠い目で綴った群像劇。日本アニメの黎明期ばかりでなく、機動戦士ガンダムや機動警察パトレイバーなどのスタッフに興味があるなら読んでおこう。

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2025年9月 7日 (日)

SFマガジン2025年10月号

「あなたがたご両親は、彼がいったい何を見ているのか、知りたいとは思いませんでしたか?」
  ――韓松「まなざしの恐怖」立原透耶訳

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ホラーSF特集」として小説3本に評論やエッセイなど。

 小説は11本+3本。特集で3本、連載が5本+ショートショート3本、読み切りが3本。

 ホラーSF特集。小説は3本。大木芙紗子「竜子団地B棟202号室」,韓松「まなざしの恐怖」立原透耶訳,ジェフリー・フォード「秋の自然誌」鯨井久志訳。

 連載小説5本+3本。山本浩貴(いぬのせなか座)「親さと空」第1回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第61回,吉上亮「ヴェルト」第二部第八章,夢枕獏「小角の城」第83回,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第29回に加え、田丸雅智「未来図ショートショート」は最終回3本「農の工場」「ロボット供養」「恋のラジオ」。

 読み切り小説3本。藤田祥平「疑似家族」,夏海公司「八木山音花のIT奇譚 遮真」,麦原遼「魔法使い時代の入眠時幻像」。

 ホラーSF特集。

 大木芙紗子「竜子団地B棟202号室」。竜子団地のB棟は、おばけ団地と呼ばれている。B棟だけ蔦がびっしり覆っているから。この蔦、夜になると、ときどきぼんやりと光る。大学のえらい先生や研究者が、何度も蔦を調べにきた。四年前、小学校に入る前の年に、わたしたちは団地に越してきた。一年生になって弟の夢が生まれ、三年生のときにお父さんが死んだ。

 「これぞホラーSF」と言いたくなるような、正統派のホラー。小学生の女の子の一人称が巧みに効いてくる。彼女の語りによって、ジワジワと事態が掴めてくると共に、ヤバい事態が明らかになって…

 韓松「まなざしの恐怖」立原透耶訳。難産の末に生まれたのは男の子。ただし目が十個あった。さっそく翌日の新聞に記事が載ったが、それ以上の取材は病院が拒んだ。研究者たちは子供を調べたが、遺伝的には普通で突然変異もなかった。夫妻のもとには未確認飛行物体研究会など得体の知れない連中も押し寄せ…

 男の子も両親も看護師も研究者も、個人名は全く出てこないので、語り口はやや突き放した雰囲気がある。夫妻の周囲が騒ぎ立てるあたりは、ドタバタ喜劇の空気も漂う。のだが、オチはやっぱりホラーだった。

 ジェフリー・フォード「秋の自然誌」鯨井久志訳。十月末の午後、リクとミチはオープンカーで伊豆半島に向かう。雇い主が、伊豆の温泉旅行を手配してくれたのだ。宿で迎えたのは、女将のチナツ婆さんと、ポニーと見まがうばかりの犬。

 お話の骨組みは、ちと懐かしい昭和後期の空気が漂う。旅行先も伊豆だしね。人気のない旅館に老婆と異様に大きい犬って舞台も、当時の作品の匂いがする。意図してそう書いてるんなら、たいしたものだ。

 連載小説。

 山本浩貴(いぬのせなか座)「親さと空」第1回。2029年。新型コロナウィルスの新たな変異体が現れる。致死率は低いは感染力は強く、困った後遺症を残す。最近の記憶が残りにくいのだ。感染者を補助するシステムノーカーは使用者の日々の記録を録り解析し学習し、その人「らしさ」を模倣・拡張する。いわば個人のパートナーとなる…

 2021年6月号の異常論文特集の「無断と土」以来の登場。ならきっとヘンな作品なんだろうなあ、と思ったら期待以上にヘンな作品だった。普通に地の文で始まるが、なんやらの報告書や日記や詩も乱入し、時事ネタも混ざって独特の世界が広がってる。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第61回。リバーサイド・ホテルに立てこもるラスティらに立ち向かう、イースターズ・オフィスと<クィンテット>連合軍。死地に赴くアビーを心配するバロットだが…

 これもまたホラーSF特集号に相応しい回。ただしジワジワくるタイプじゃなくて視覚的でスプラッタな方向。いつもながら銃弾が飛び交うガン・アクションに加え、今回は接近して刃物で切り合うバトルも。

 吉上亮「ヴェルト」第二部第八章。1794年45月7日。健康を回復したマクシミリアン・ロベスピエールは大公安委員長として権力を掌握し、議会の演説で<最高存在>の祭典の開催を宣言する。革命以来、地方では軍が内乱鎮圧で民を虐殺し、パリではサンソンが連日の処刑を行っていた。

 フランス革命の暗黒面を見せつける回。パリの暴動や多数の処刑は物語でもよく描かれるが、地方での虐殺は知らなかった。通信手段も発達していないこの時代、パリの意向を全国に浸透させるのは難しかっただろう。そのツケは民が払う羽目になったんだなあ。

 飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第29回。<夏の区界>が、<青野の区界>に入ってくる。<ちびっ子>を迎えうつ八岐大蛇。園丁たちは鯨から離脱し…

 自分が電脳空間内のAIだと知っているAI、なんてややこしい存在が当たり前に動き回るこの物語、この回では更に他の区界をはじめ様々な「次元」の存在が乱入してきて、何がなんやら。

 読み切り小説。

 藤田祥平「疑似家族」。永井荷風や内田百閒や井伏鱒二を敬愛する作家の三好正数は、生活苦で妻に逃げられ子も奪われた。ヤケになって今風の芸風で出した新作は売れたが気分は晴れない。そこで友人に勧められたのが東京ファミリーレンタル。家族のフリをしてくれるサービスだ。

 インドには奥さんと子どものフリをする高級売春宿があるって話をどこかで聞いたが、真偽は不明。古典を今風にアレンジって、例えば国を追われたお姫様や悪役令嬢が異国で成り上がり云々って、シェイクスピアのリア王の焼き直しとも言えるよね。

 夏海公司「八木山音花のIT奇譚 遮真」。展示会で馴染みの編集者に会ったライターの笹木律は、請われて編集者の写真を撮る。その写真には、いないはずの記者が写っていた。不思議に思い、笹木は八木山音花に相談すると…

 そうそう、最近のカメラはとっても賢くなってるんだよなあ。プロセッサの速度が上がり、昔なら数日かかる処理が一瞬で終わる。更にAIの進歩が拍車をかけて。ってな現状を基に、ホラーSFR特集号に相応しい展開に。

 麦原遼「魔法使い時代の入眠時幻像」。20年あまり、王国の<聖地>と呼ばれる地のひとつで過ごしてきた。昼に初級の生徒たちを連れて、基本的学習用の庭を歩く。ものを指して呼び方を教える。生徒たちが復唱する。ある生徒が「今、違ってる」と指摘した。最近来た子だ。

 魔法のしくみがとても斬新で驚いた。このしくみが生み出す効果と、人びとの対応策も素晴らしい。魔法なんでジャンルはファンタジイなんだけど、仕掛けの面白さにはセンス・オブ・ワンダーが詰まってる。長編のシリーズにしてもいいぐらい独創的で見事な言語ファンタジイ。

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2025年7月 3日 (木)

SFマガジン2025年8月号

「きみたちは飢えた人たちを救え」
「世界のそれ以外の部分は、ぼくが救う」
  ――ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 後編」酒井昭伸訳

「単刀直入に申し上げますと、本船は海賊によって包囲されています」
  ――辻村七子「博士とマリア」最終回

「彼の世界へのまなざしには奇妙なところがあります。ここにあってここにないものをみている」
  ――吉上亮「ヴェルト」第二部第七章

「さあ、皆さん、血を流しましょう」
  ――津久井五月「カササギを絞め殺す」

「おれは、その仏様を斬っちまった」
  ――「天正アポカリプス」

 376頁の標準サイズ。

 特集はスプロール・シリーズの新版刊行にあわせ「ウィリアム・ギブスン特集」。作品紹介とギブスンへのインタビュウーに加え、解説やエッセイなど。

 小説は8本+3本。連載が5本+ショートショート3本、読み切りが3本。

 連載小説5本+3本。辻村七子「博士とマリア」最終回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第60回,吉上亮「ヴェルト」第二部第七章,夢枕獏「小角の城」第82回,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第28回に加え、田丸雅智「未来図ショートショート」3本「世界を写す」「リサ先生の保育」「クラフトミート」。

 読み切り小説は3本。津久井五月「カササギを絞め殺す」,高木ケイ「天正アポカリプス」,ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 後編」酒井昭伸訳。

 連載小説。

  辻村七子「博士とマリア」最終回。ドクターとマリアⅡの船は、海賊船に包囲される。乗り込んできたのは因縁の相手、モルセ。かつて組織の同僚であり、ドクターの妻マリアを殺した男。そのコルセが求めたのは…

  相当に深刻な状況で深刻な話が展開するにも関わらず、空気を読まないマリアⅡの茶々のお陰で、なんとも間の抜けたユーモラスな雰囲気になるのが、この作品の楽しい所。今回は、ある意味怒涛の展開なんだが、読後感はクールでユーモラスな感じが星新一の作品に少し似てる。

  冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第60回。ケネス・C・Oらを人質としたラスティ達が立てこもるリバーサイド・ホテルを、イースターズ・オフィスに楽園とマルドゥック市警察そしてクインテットまでもが加わって襲撃が始まる。バロットたちは首尾よくケネス・C・Oたちを見つけたが…

  エンハンサーたちが入り乱れての激しいバトルが始まる回。襲う側も迎え撃つ側も、それぞれに成長してる。ラスティは登場時から凶悪な戦士だったが、今回は更にパワーアップしてる。バジルも能力に磨きをかけ、細かいながらも便利で意表を突く使い方をマスターした。

 吉上亮「ヴェルト」第二部第七章。トューロン包囲戦で傷を負ったナポレオンを送り届けたアンリ・サンソンンはパリに戻ってきた。大公安委員は次々と粛清を進める。その長を務めるマクシミリアン・ロベスピエールは、健康を害して療養中だった。

 作中のロベスピエールは生真面目で潔癖な理想家で、特に今回は病を患っているらしく線の細さも感じさせる。自由を標榜して起こした革命であるにも関わらず、政権の不安定さから検閲を施行して言論の自由を押しつぶしてしまうあたりは、なんとも。

  飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第28回。<夏の区界>の敵意に晒され、<青の区界>の変異は進み、計算資源はぎりぎりまで搾り取られる。子供たちが高校へ行っているあいだに閑散としている青野の町は、風すらも止み…

  海苔子ちゃん、満を持して登場…と思ったら。今さらになって、<青の区界>は高校生たちのための町なのだ、と思い知る。鯨の登場場面では、あの怪作「神鯨」を思い浮かべた。ところでVR空間を舞台にした作品は魔法や錬金術が使えるけどSF扱いになるんだろうか?

 読み切り小説。

 津久井五月「カササギを絞め殺す」。ミミテク。耳道に隠したスピーカーとマイクに加えコンタクトレンズで、その場に相応しい言動をAIが示す。慣れないと使っているのがすぐバレるが、佐野典真は幼い頃から鍛え、自然に「浅見天馬」として振る舞える。この特技を活かし、カモを見定めるため高級カジノに乗り込んだ。

 うわあ、欲しいぞミミテク。別にスターになりたいワケじゃない。普通の常識人として振る舞えれば充分、と思うのは私だけじゃないはず。流行りのAIに流行りの裏家業を組み合わせながらも、実に人間臭いドラマに仕立てた腕は見事。少し星新一の「肩の上の秘書」に似たアイデアながら、小説としての感触は全く異なるのも、「SF小説」の可能性を感じさせてくれる。

 高木ケイ「天正アポカリプス」。城は包囲され、中の者はみな飢えている。昨日、百姓には汁が一杯だけ。具はほぐした縄。妙な夢を見て、起きたのは日がすっかり上ってから。乞食坊主に相談に行くが…

 一人称が「ぼく」だったり「おれ」だったり。上からくる混乱かと思ったが、どうも違う。とはいえ、語り手の見聞きした事柄はあまりにも異様。映像化したら、かなり強いインパクトを持つだろうなあ。

  ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 後編」酒井昭伸訳。ジョナサン・テルジアンの行方不明の三週間を追う、人魚のミッシェル。そこに聞こえてくる、かつての恋人ダートンの声。「ミッシェル、愛してる」。今は見つかっていないが、時間の問題だろう。どう対処すべきか?

  近未来のテルジアンの場面と、遠未来のミッシェルの場面が交代で話は進む。テルジアン側は現代の国際社会の暗い部分を、これでもかと突きつけてくる。新薬開発の偏りとかね。アフリカでエイズが蔓延した理由の一つでもあるんだよなあ。ミッシェル側の展開は実に意外だった。

  「ウィリアム・ギブスン特集」で、千葉県知事の熊谷俊人が登場。なぜって、この人、元チバシティ市長だから。取材する編集部は市議会議員時代の議事録まで読み漁る準備万端ぶりに頭が下がる。たった6頁の記事に、そこまで準備するとは。受ける県知事側も選挙で選ばれる政治家に相応しく、雄弁に語る語る。

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2025年5月14日 (水)

SFマガジン2025年6月号

「シザースが背後にいる。全ては仕組まれたことだ」
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第59回

「俺たちは今、変わりゆく世界そのものを構築する戦争、その先端に立っているんだ」
  ――吉上亮「ヴェルト」第二部第六章

 376頁の標準サイズ。

 特集は「大阪・関西万博/バーチャル大阪パビリオン特集」。大阪パビリオン推進委員会のディレクターを務める佐久間洋司を中心として、公式ストーリーの「ユーダイモニア」冒頭や関係者のインタビューなど。

 小説は9本+3本。連載が5本+3本、読み切りが4本。

 連載小説5本+3本。辻村七子「博士とマリア」第3回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第59回,吉上亮「ヴェルト」第二部第六章,夢枕獏「小角の城」第81回,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第27回に加え、田丸雅智「未来図ショートショート」3本「シェアボディー」「フォードシェフ」「おっちゃん」。

 読み切り小説は4本。佐久間洋司原案・監修+結城紫雄著「ユーダイモニア」冒頭,安野貴博「月面の弁護人」,暴力と破滅の運び手「ミッドナイト・イン・トロカデロ」,ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 前編」酒井昭伸訳。

 連載小説。

 辻村七子「博士とマリア」第3回。大企業HAPの関連企業の関連企業の船で、シュロたちは同じ部屋に寝泊まりして働いていた。朝の4時から20時まで働きづめ、食事は気まぐれ。仕事は養殖真珠の絡むきとえり分け、器用で目がいい者が役立つため、若い女が多い。あまりに酷い雇用条件に、リーダー格のカンナが交渉に出向いたが、そのまま帰ってこない。

 大企業HAPのブラックぶりが如実に描かれる今回。朝4時から夜20時までの1日16時間労働だけでも無茶で、「こりゃ死ぬな」と思っていたら更にその先があり、思わず笑ってしまった。下手なタコ部屋すらしのぐ。いや笑ってるけど、現実の世界も確実にこの方向に向かってるんだよなあ。豹変する千代も楽しいが、更に…

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第59回。共感を失ったラスティは暴走し、今は人質をとってリバーサイド・ホテルに立てこもっている。事件は市を震撼させ、警察も大きく動き出した。ウフコックはシザースの筋書きだと断言する。事態の収拾に乗り出すイースターズ・オフィスに、ハンターらクインテットが協力を申し出る。

 ラスティが大暴れする前回に続き、そのラスティに振り回される周囲の人々を描く回。バロットとウフコックのコンビには安定感・安心感があるし、狡猾さを増したバジルを中心としたクインテットも単なるマフィアとは一線を画す組織としての強みがある。それだけに、両者が組む必要がある状況ってだけで、なんか不気味さを感じてしまう。

 吉上亮「ヴェルト」第二部第六章。ナポレオンに連れられ同盟軍が立てこもる要塞の攻略に付き合わされる処刑人サンソン。ここトゥーロンは王党派に加えスペイン・ナポリ王国・シチリア王国・サルディーニャ王国そして英国が力添えし、更にオーストリアからも援軍が来ると噂されている。その前に要塞を落としたいが、海からの補給を受けており…

 ナポレオンが名を挙げたトゥーロン攻囲戦(→Wikipedia)をネタにした回。今までは謎めいた存在だったナポレオンが、今回は意外なくらい心の内を語ってくれる。砲兵将校としての合理的な思考・世界観を基盤としながらも、この作品のテーマであるアレに気づいている彼は…

 飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第27回。文化祭の大災害により、町も高校も大きな被害を受けた。高校で生き延びた者は、生徒・教職員ともに1/4程度。校舎も大きく変容し、使える建物や教室も減った。それでも、生徒たちは学校に通う。

 何度も書いているが、登場人?物たちが、「自分は人間ではない」と知っているのが、本作の大きな特徴。今回の中心人?物である宇田広安が自宅で食事を摂る場面は、この作品の特異な設定を象徴する異様さに満ちている。

 読み切り小説。

 佐久間洋司原案・監修+結城紫雄著「ユーダイモニア」冒頭。都市<AO>の中心<ネクサス>の高層フロアで目を覚ます。突然に連れてこられたが、リオが巧みに案内してくれるので、大きな不安はない。トレーニングも成果が出て、外出が許された。「街全体が、大きな図書館みたい」と感動していたが…

 冒頭のみ収録。一種のユートピア物の体裁を取っている。平和で幸せな社会の中に、波乱を起こす者、本作品ではノアが居るのも、ユートピア物のお約束だろう。住む者が人間の姿をして人間の言葉を話し現代人に近い考え方をして現代の技術の延長に見える(だから直感的に使い方が分かる)ガジェットに囲まれているあたりは親しみやすい。

 安野貴博「月面の弁護人」。2042年。スティーブンは、弁護士から宇宙飛行士になり、緯度経度0つまり地球の真正面にあるNASAの基地でキャップテンを務めている。そこに国家航天局から逃亡者がやってきた。かの国とは関係断絶状態にあり、資源開発をめぐり競争関係にある。リンファと名のる逃亡者は…

 冒頭に宇宙条約(→Wikipedia)の引用、そして主人公スティーブンは弁護士。となれば想像がつくように、「いかに法の裏をかくか」をネタとした作品。13頁の短い作品ながら、「おお!」「そうきたか」と読者の予想を覆す鋭いアイデアが詰まっている。

 暴力と破滅の運び手「ミッドナイト・イン・トロカデロ」。1878年のパリ万博で建てられたトロカデロ宮に幽霊が出る。今は1935年、2年後の万博に備え、ロイック中堅技師は悩んでいた。トロカデロ宮を他の場所に移すか廃棄するか。上司のアルベール主任は優柔不断で頼りにならない。問題はパイプオルガンで…

 うおお、楽器の女王パイプオルガンだぁぁっ!そう、本作は滅多にお目にかかれないパイプオルガンSFなのだ。それだけで私のは星3個あげちゃう。なぜパイプオルガンが楽器の女王かって?そりゃね、他の楽器と違ってパイプオルガンは動けないから。だもんで、他の楽器と合奏する際は、他の楽器がパイプオルガンに調律を合わせるのだ。姿だって、楽器というより建物と呼ぶべき堂々たる迫力だし。

 ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 前編」酒井昭伸訳。島で過ごす人魚のミッシェルにダヴー博士から魅力的な仕事の依頼が来た。ジョナサン・テルジアンの生涯で、所在が掴めない時期が三週間ほどある。再び姿を現した時、彼の考え方は大きく変わっていた。未熟とはいえ相応に情報ネットワークが発達している時代だから、何らかの痕跡がある筈だ。

 技術も社会も大きく変貌した遠未来と、私たちの時代に近い世界が交互に語られる。かつてウォルター・ジョン・ウィリアムズはパチモンのサイバーパンクみたく言われてた。大量のSFガジェットをいちいち説明せず怒涛のように登場させる芸風はワイドスクリーン・バロックっぽいが、近未来のパートは船戸与一もかくやと思わせる昏く熱くディープなネタを扱っている。

 次号はウィリアム。ギブスン特集。訳者の黒丸尚も扱うんだろうか?

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2025年3月 9日 (日)

SFマガジン2025年4月号

こいつは問題機だ。
  ――神林長平「戦闘妖精・雪風 エピソード零 棘を抜く者」

戦争を始めることは無能な政治家でもできる。だが、戦争を終わらせることができるのは有能な政治家だけだ。
  ――吉上亮「ヴェルト」第二部第五章

母語以外の言語で映画を撮る場合、安心してトライできるのがSFというジャンルなのだと思います。
  ――『ミッキー17』監督ポン・ジュノ インタビュー

いやあ、驚いたね。
あいつが、ルーレットじゃなくて、スロットマシンだったなんてさ。
  ――草上仁「ルーレット」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「SF少女マンガ特集」として、マンガが再録3作+描きおろし5作に解説や作品ガイドなど。再録は萩尾望都「金曜の夜の集会」,大島弓子「サマタイム」,坂田靖子「ノスタルジー」。描きおろしは永野のりこ「地球をわれに」,吟鳥子「SFアリ」「少女の書くSF」「AIのSF」,白井弓子「あみ手の星」。

 小説は6本+3本。連載で4本+3本、読切2本。

 連載4本+3本。辻村七子「博士とマリア」第2回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第58回,吉上亮「ヴェルト」第二部第五章,夢枕獏「小角の城」第80回に加え、田丸雅智「未来図ショートショート」3本「新しい助っ人」「空の上の修学旅行」「バーチャル・レジデンス」。

 読み切り2本。神林長平「戦闘妖精・雪風 エピソード零 棘を抜く者」,草上仁「ルーレット」。

 まずは「SF少女マンガ特集」。

 萩尾望都「金曜の夜の集会」。8月最後の金曜日。小学生の男の子マーモは、夜に天文クラブでローエル・ボーエル彗星を見るのを楽しみにしていた…が、ルース先生に急用が出来て中止になってしまった。

 初出はSFマガジン1980年11月増刊号。マーモの友人ダッグのズボンなど、他の漫画家ならスクリ-ン・トーンを使うだろう所を手で柄をつけてる。お陰でシワの依り方がよくわかる。8頁目、丘の上から街を見下ろすコマは、この人のお得意の構図。

 大島弓子「サマタイム」。夏の夕食どき、小さな山村の送電線が切れて電話と電気が止まる。東京かあら里帰りするはずの信一は数日帰ってこない。実与ちゃんとの結婚を控えたトオルは、信一を迎えに東京まで行く羽目に。

 初出は別冊ララ1984年9月号。停電の場面こそベタで黒いが、頁が進むほどに頁は白くなっていく。人物だけで背景がないコマや、真っ白で文字だけのコマもある。こういう、「注目させたいモノ」に的を絞った描き方が巧みだ。

 坂田靖子「ノスタルジー」。水星には王国があった。王様は猫目石を磨くのが仕事だった。その日、ゼンマイが止まってしまった。王国のエネルギー危機だ。

 初出はSFマガジン1986年3月号。この人も頁が白い。世界観は素っ頓狂なのに、絵柄がユーモラスでトボけた感じのためか、妙に親しみを感じる。眼が点や線なのも、この人の独特の持ち味。

 永野のりこ「地球をわれに」。ハカセは創り上げた。マッドな願いを叶える装置を。地球をわがものにしようと、装置を起動し、大いなる者を召喚した…

 はい、そうです。十八番の理系メガネ男子と可愛い女の子のお話です。つか、この人、少女マンガに入るんだろうか? いや面白いからいいけどw

 吟鳥子「SFアリ」「少女の書くSF」「AIのSF」。いずれも8頁の短編ながら、綺麗にオチがついてる。あと、文字が大きいのが年寄りには嬉しい。

 白井弓子「あみ手の星」。この星の者はみな、いつも編んでいる。移民団が持ち込んだ工作機械の殆どが不良品で、無事なのは紡績機だけだった。なので人々は、あらゆる道具を自らの手で編み織るしかないのだ。

 これは貴重な編み物SF。白と黒の中間、グレーの使い方が巧みだ。

 連載小説。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第58回。<マリーン>の水上バイクに護衛されて<白い要塞>は運河を遡上し、波止場へたどり着く。波止場ではラスティにベンヴェリオらが迎えに来ていた。

 ラスティが突っ走る回。彼に振り回されるジェイクの不安がヒシヒシと伝わってくる。この作品、長さもすごいが登場人物の数もすさまじい。著者は全部、頭に入ってるんだろうか?

 吉上亮「ヴェルト」第二部第五章。公安委員会の部屋。処刑人のサンソンはロペスピエールに語る。「父祖より受け継いだ処刑人の職を辞したい」と。息子のアンリに継がせる気もない。革命の前から、処刑人は身分制度の外にいた。

 今回は狂信的なサン・ジュスト(→Wikipedia)とジョルジュ・ジャック・ダントン(→Wikipedia)などが登場するが、サンソンの奥さんマリー=アンヌがひときわ光る。

 辻村七子「博士とマリア」第2回。自分の姿はマシな方だ、そうブッサンは思っている。だが特別に美しいとは言えない、とも。美しくありたい、そう願い、日々の努力を怠らないブッサンは、とびきり美しい男を見かける。あの美しさを手に入れる手段があれば…

 前回はドクターとマリアⅡの掛け合いが楽しかったが、今回は両者ともに脇に回り、美を追求する男ブッサンが中心となって話が進む。巨大企業HAPが支配する世界で、そこらの労働者であるブッサンが貯めた額程度でどうにかなるとは思えなかったが、そこはそれ。

 読み切り。

 神林長平「戦闘妖精・雪風 エピソード零 棘を抜く者」。フェアリイ星、FAF。スーパーシルフの機体シリアルナンバー79113は問題機だ。乗ったパイロット一名が死亡、一名が負傷、フライトオフィサ一名が負傷、機外に放り出されたのが一名。そこに腕はいいが性格に難ありな新人パイロットがやってきた。

 この記事を書くため改めて流し読みしたら、だいぶ印象が変わった。最初は零と雪風に注目したんだが、今回はブッカー少佐に目が行く。クーリィ准将の無茶な要求と、徹底してマイペースな部下&機体の板挟みになってる少佐に同情してしまう。

 草上仁「ルーレット」。一時期は勢いづいていたが、今は老いぼれたガンブラー。残ったのは借金と、勝負のカタで手に入れたルーレットだけ。ルーレットったってモノじゃない。れっきとしたペットだ。今は六本足の。困ったことに、金貸しは見切りをつけたらしい。ならいっそ高飛びを、と考えたが…

 草上仁にしては長めの作品。主人公は裏社会で生きる者に相応しく、その場しのぎのセコい手を駆使して金貸しから逃げまくる。よく今まで生きてこれたなあ、と思うぐらい、しょうもないw 逃亡中もギャンブラーに相応しく、いちいち博打に出るのが楽しい。オチも酷いw

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2025年2月21日 (金)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2025年版」早川書房

 おまちかねSF者のお祭り本。

 昨年に引き続きベストSF2024の国内篇は新人や若手が大活躍してる。しかも王道のサイエンス・フィクションに人気が集まっているのが嬉しい…って、読んでないけど。あと「ここはすべての夜明け前」がランクインしてるのも嬉しい。とにかく小説として強く訴えるモノがあるのだ、この作品は。

 あと「SF評論入門」で「ナガサキ生まれのミュータント」が書籍になったのはめでたい。いわゆる文学評論とは全く異なる方向性だけど、緻密な調査と考察により、国と時代を越えた切ないドラマを浮き上がらせるのだ。

 海外篇ではオラフ・ステープルドンの「最後にして最初の人類」に驚いた。これも草原々効果か。こんなモン書かれちゃったら後世の作家は何を書けばいいんだって感じの、SF最終兵器的な傑作です。

 それと「まじめにエイリアンの姿を想像してみた」を挙げてる人もいる。やっぱり目をつける人はいるんだね。

 とか言っちゃいるが、最近はSFを読んでないんだよなあ。SFマガジンぐらいで。でもマン・カインドは面白かったぞ。

 そんな年寄りなんで、どうしてもネタは古くさくなる。ATB海外短編でゼラズニイの「フロストとベータ」が滑り込んでて感激とか国内長編は半村良の「妖星伝」が懐かしい、とか。「妖星伝」は文庫でありそうだけど、「フロストとベータ」は今読めるんだろうか?

 「早川さん」、やはり帆掛さんは陽性かw

 そしてついつい目が行く科学ノンフィクション。「眠っている間に体の中で何が起こっているのか」「流体力学超入門」「量子力学は、本当は量子の話ではない」「宇宙はいかに始まったのか」と、ヨダレが出そうな本がいっぱい。

 と、このブログ、「科学/技術」カテゴリ美味しそうな本はSFマガジンで見つかるけど、「歴史/地理」カテゴリと「軍事/外交」カテゴリは決まった猟場がない。HONZは閉まっちゃったし。どこかいい狩場があったら教えてほしい。

 SFマガジン2025年2月号のローカス・ベストセラー・リストに載ってたキアヌ・リーヴスとチャイナ・ミエヴィルの共著って本当だったのね。

 ところでこの本、編集の方針でファンタジイもアリだから本格ファンタジイの傑作は堂々と推せるけど、本格ミステリの傑作は不許可なんで、ミステリ担当の千街晶之は「ぐぬぬ」な思いをしてるんだろうか。

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2025年1月 2日 (木)

SFマガジン2025年2月号

「スーザンはな」ハキームは言った。「おれたちの町の一員なんだよ」
  ――ナオミ・クリッツァー「陽の光が届かなくなった年」桐谷知未訳

「われわれはいま、雪風の世界にいるわけだな」
  ――神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」最終回

なにかがやって来た。この地にやってきた。
  ――飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第26回

 376頁の標準サイズ。

 特集は「創刊65周年記念号」として、2025オールタイム・ベストSF結果発表など。

 小説は9本+3本。連載で6本+3本、読切3本。

 連載6本+3本。新連載の辻村七子「博士とマリア」第1回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第57回,神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」最終回,飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第26回,吉上亮「ヴェルト」第二部第四章,夢枕獏「小角の城」第79回に加え、田丸雅智「未来図ショートショート」3本「自動のドライブ」「ドローン養蜂家」「ロボット投資」。

 読み切り3本。グレッグ・イーガン「アフター・ゼロ」山岸真訳,ナオミ・クリッツァー「陽の光が届かなくなった年」桐谷知未訳,大木芙沙子「やけにポストの多い町」。

 2025オールタイム・ベストSF。山田正紀は作家としては人気があるのに作品がベスト20に入ってないのは、多作が災いして表割れしたのか?でも「神狩り」と「宝石泥棒」はベスト50に入ってた。海外部門は米国人作家がベスト5中2人、長編作品ではベスト5中1作品なのが日本独特で面白い。東京は世界中の料理が食べられるって話もあって、案外と日本人はすべての国の文化を原則的には歓迎する姿勢なのかも。あと海外短編で「フロストとベータ」がベスト50に入ってるのが嬉しい。キャロル・エムシュウィラーの「順応性」も、アンソロジーとかに収録されればきっと人気が出るんだろうけど。

 連載小説。

 新連載の辻村七子「博士とマリア」第1回。急速な温暖化で海水面が上昇し、海沿いの地域が水没した未来。巨大企業HAはシチリガハマの調査掘削と再開発に巨大船を派遣している。作業船の副船長キンバリーは、ウオノメを削るためドクターの医療船を訪れる。無愛想なドクターと、機転が利いて愛想のいい医療用ロボットのマリアⅡ。その次に医療船を訪れたのは男女の二人組。

 いつも不機嫌でへそ曲がりなドクターと、愛想がよく気が利き客あしらいは巧みだがドクターに対しては鋭いツッコミをかますマリアⅡの会話が楽しい。少なくとも外見的には若い姿を保てるほど医療技術は発達しているが、社会全体としての医療サービス体制は何かと問題含みなあたありから、この世界の社会情勢がうっすら見えてくる。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第57回。法廷闘争では、陪審員の選任が始まった。珍しく、原告・被告ともに同じ望みを抱いている。シザースに介入されたくない。懸念は当たり、十人の陪審候補者にもシザースが紛れ込んでいる。そればかりか、シザースはウフコックに語りかけてきた。

 いよいよ終盤かと思っていたが、今回はハンターもシザースもオクトーバー一族も、大きく動き出し、まだまだ波乱は続く様子。どうもクインテットともシザースとも異なる、別の思惑を持つ何者かが裏で動いてるっぽい。

 神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」最終回。ジャムの気配を探る雪風。その後方にジャムの超空間通路らしき存在が発生、亜音速で雪風を追ってくる。田村大尉も飛燕で駆けつける。ジャムを暴く邪眼が。

 ジャムを目前にして緊張した場面のはずなのに、深井・桂城・田村の三人の会話は、ドツキ漫才の様相を呈しているのはなぜなのかw いや内容は真面目なんだが、特に桂城への態度がw その桂城も深井に対しかなり酷い事を言ってるしw 終盤で一応はジャムの正体が語られるが、果たして…

 飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第26回。試写室では天使化した唐谷と、園丁たちの戦いが始まる。そこに乱入する遠野暁。<クレマンの年代記>の世界にも、侵入者が現れる。

 もともとシミュレーションの世界でありながら、登場人?物(の一部)は自分が計算された存在だと知っている、そういうややこしい設定のお話だったのが、今回は更に面倒くさい状況に。そして第三部完。

 吉上亮「ヴェルト」第二部第四章。サドの劇は続く。舞台にはシャルロット・コルデー(→Wikipedia)。故郷のカーンからパリへとやって来た若い女、暗殺の天使。劇が終わり、王の目の引き渡しをサドに迫るサンソン。

 歴史上の有名人を巧みに登場させる本作、今回はこうきたか、と感心する。お話の内容も実に凝ってて、サドの作った劇って体裁をとりつつ、現実と幻想の境を混乱させてゆく。おまけに時制が絡み…

 読み切り。

 グレッグ・イーガン「アフター・ゼロ」山岸真訳。温暖化が進んだ未来。かつて核融合炉で一世を風靡したラティファだが、今、ラティファの会社・質量融合社は清算手続きに入った。悪態をつき終えた時に、仲間のエミリーから連絡がきた。<散乱装置>を太陽と地球のラグランジュ・ポイント1に置き、地球に届く太陽の熱を少し減らす計画だ。

 地球と太陽の間のL1に、デカい「日傘」を置く、いわゆるソーラーシールドって発想は、幾つか提案されている。本作の発想は少し違い、レンズで拡散させる、というもの。実は私もよくわかってないが、分からなくてもお話を楽しむには問題ない。いやホント、負け惜しみじゃないって。

 ナオミ・クリッツァー「陽の光が届かなくなった年」桐谷知未訳。大気中に埃が舞い、陽がささなくなった。電力は停電が多くなり、水道水は出るが浄化が必要だ。多くの店舗は空っぽで、薬品は重要なものだけ入荷する。インターネットは通じない。わたしはタニーシャが作った「伝言板」を手伝い、近所の人たちの家を訪ね始めた。

 災害を機に、ご近所の人たちとの関係が変わってゆく。米国が舞台の災害物は「悪魔のハンマー」や「ポストマン」や「スワン・ソング」が思い浮かぶが、途切れがちながら電力が通じてるあたり、政府は存在してる模様。20世紀なら教会が大きな役割を担いそうだし、大都市ならもっと物騒な雰囲気になるだろう。そう考えると、絶妙なバランスの舞台を選んでる。

 大木芙沙子「やけにポストの多い町」。恋人の望と共に、洋平は望が生まれ育った町へやってきた。ここは日本で最も美しい夕焼けの町。そして、無線通信が通じない町。町はやたらとポストが多い。ポストは二種類。ひとつは普通の赤いポスト。もう一つは蒲公英のような黄色で、こっちが異様に多い。

 無線通信が通じない=スマートフォンが使えない、だと思っていい。実際、ソレはソレで需要があるから、時代ってのはわからない。ちょっと変わった町を訪れる、のほほんとした話かと思ったら、微妙にホラーな雰囲気になり、真相は更にその奥に。夕焼けが美しいのも、スマートフォンが通じないのも、ちゃんと理由があるのが見事。

 鯨井久志の世界SF情報、ローカス・ベストセラーリストを見てびっくり。チャイナ・ミエヴィルが、なんとキアヌ・リーブスと共著で The Book of Elsewhere なんて作品を出してる。二人に何があったんだ? と思って検索すると記事が幾つか。二人とも色々あったんだなあ。

  伴名練の戦後初期日本SF・女性小説家たちの足跡 新井素子――日本SF史に残るベストセラー作家②。やっぱりいたんだ、彼女の作品をSFだと思っていないファンが。そういう人にとって、SFな仕掛けは特別なモノではなくて、お話の作り方としてあり得る手法の一つ、みたいな位置づけなんだと思う。それだけ時代的にSFな仕掛けが普及してきたのと、新井素子の作品が広い層にウケたって事だろう。

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2024年11月 8日 (金)

SFマガジン2024年12月号

じつは、ペラルゴニアを創ったのはこのわたしたちなんです。
  ――シオドラ・ゴス「ペラルゴニア <空想人類学ジャーナル>への手紙」鈴木潤訳

「正義、それは集団に処方される媚薬だ」
  ――吉上亮「ヴェルト」第二部第三章

「今年こそは、冬が来る前にコミケへ行くよ」
  ――カスガ「コミケへの聖歌」

きょうのあさ、だから今朝、大旦那様が御羊になられた。
  ――犬怪寅日子「羊式型人間模擬機」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ラテンアメリカSF特集」として短編2本にコラムや作品ガイドなど。小説はシオドラ・ゴス「ペラルゴニア <空想人類学ジャーナル>への手紙」鈴木潤訳,ガブリエラ・ダミアン・ミラベーテ「うつし世を逃れ」井上知訳。

 小説は11本+3本。「ラテンアメリカSF特集」で2本、連載は5本+3本、読切2本に加え、第12回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作2本の冒頭。

 連載5本+3本。神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第16回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第56回,飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第25回,吉上亮「ヴェルト」第二部第三章,夢枕獏「小角の城」第78回に加え、田丸雅智「未来図ショートショート」3本「変わらない味」「ノイズの日々」「シルバームーン」。

 読み切り2本。韓松「輪廻の車輪」鯨井久志訳,劉慈欣「時間移民」大森望/光吉さくら/ワン・チャイ訳。

 第12回ハヤカワSFコンテスト大賞はめでたく2作が大賞を受賞した。カスガ「コミケへの聖歌」,犬怪寅日子「羊式型人間模擬機」の冒頭を掲載。

 まずは「ラテンアメリカSF特集」。

 シオドラ・ゴス「ペラルゴニア <空想人類学ジャーナル>への手紙」鈴木潤訳。フリア,デイヴィッド,マディソンの高校生3人は、遊びで架空の国の歴史を創っていた。フランスとスペインの間にあり、海に臨んでいる。wikipedia に項目を作り、論文誌の<空想人類学ジャーナル>にまで論文を寄せた。遊びのはずが、教授であるフリアの父が行方不明になり…

 ファンタジイ、それもハイ・ファンタジイが好きな人は、架空の国をでっちあげるらしい。最近だと、架空のゲーム世界を創る人もいるんじゃなかろか。この作品のように、得意な領域がズレる仲間と創り上げていくのは、きっと楽しいだろうなあ。とかの他に、3人の忙しい高校生活の描写が、おじさんにはまぶしかった。

 ガブリエラ・ダミアン・ミラベーテ「うつし世を逃れ」井上知訳。18世紀のメキシコ。インディオ女性貴族の修道院で異端審問が始まる。告発したのは修道女マリア、されたのは修道女アガタ。アガタの部屋から、機能不明な装置と粘土製の円盤状のものが見つかった。

 当時のスペインおよびその支配地域における異端審問は、バチカンすら手を焼くほど暴走していた(→トビー・グリーン「異端審問」)。と思ったが、最近は違う見解も出てきた模様(→Wikipedia)。スペイン系のマリアとインディオのアガタの対立という形で、当時のメキシコの人種問題が浮き上がってくる。

 連載小説。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第56回。襲撃されたホワイトコープ病院から逃げ出したキドニーたちは、海岸にたどり着く。そこではハンターたちが待っていた。ホスピタルの助言に従い、キドニーたちはハンターの針を受け入れる。ホスピタルは更に、失われたシンパシーの原因について、意外な仮説を披露する。

 イースターズ・オフィスとクインテットに次ぎ、暗躍する第三の勢力シザース。今回はクインテットがシザースの尻尾を掴みかける回。ただ、いずれも奴が絡んでいるのが気になるんだよなあ。

 神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第16回。TAISポッドを探してシュガー砂漠上空を飛ぶ零と桂城。雪風も本来の偵察機としての能力を活用し、また挑発とも取れる信号を発してジャムの気配を探っている。

 今までは無口というか積極的にヒトとのコミュニケーションを取ろうとしなかった雪風だ、ここ最近はずいぶんと饒舌になり、ばかりか自分で作戦を立案・進言するようになってきて、「あの無口な子がこんなに慣れて」な気分。

 飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第25回。小野寺早都子は、「クレマンの年代記」の中に入り込み、マダム・シャセリオーに腕を掴まれたように感じて叫ぶ。気が付けば視聴覚棟の玄関ロビーに立っていた。まもなく映画「2001年宇宙の旅」の上映が始まる。ホールへと向かうが…

 そういえば最近は映画もデジタル配信が増えてきて、フィルムによる上映もやがて昔話になるんだろうなあ。雨降りとかも、伝説になるんだろうか。などとぼんやり考えながら読んでいたら、とんでもない展開に。

 吉上亮「ヴェルト」第二部第三章。届いた招待状は、サド侯爵本人からのものらしい。場所はシャラントン精神病院。確かにサドはそこにいる。処刑員のサンソンはマクシミリアン・ロペスピエールの妹シャルロットと共に招待に応じた。迎えたサドはいたく感激し…

 ついに登場したサド侯爵。本作品中だと、サド侯爵の評判は散々で、巷の噂では興味本位で暴行や殺人をやらかすアブナい人、という話だし、法的にもお尋ね者になっている。実際は諸説あるようで、作品の内容が本人の悪い噂を呼んだとする説も。そこが本作だと、そういうのとは別の方向でヤバい人になってるw

 読み切り。

 韓松「輪廻の車輪」鯨井久志訳。女はチベットで<輪廻の車輪>と呼ばれる摩尼車を見つけた。数珠つなぎになった百八の摩尼車の中で、それだけが新緑に染まっている。そして夜になると奇妙な音がするのだ。過去五百年の間、寺は何度も災害に見舞われ、そのたびに<車輪>も失われたが、その摩尼車だけは残り、不思議な音を響かせてきた。

 6頁の掌編。不思議というより不気味な音を出す摩尼車と、貼り付いたような笑顔の僧たち。まるきしホラーの書き出しなんだが、「火星で孤独に暮らす父」って所で「ほえ?」って気分になる。果たしてそんな時代までチベット仏教は生き残れるんだろうか。などと考えていたら、オチはとんでもなかった。なかなかに豪快な芸風の人だ。

 劉慈欣「時間移民」大森望/光吉さくら/ワン・チャイ訳。人が増えすぎた。政府は時間移民で対処する。第一陣は八千万人。120年間を冷凍睡眠で過ごし、未来の社会が住みやすければ、そこで過ごす。120年後、移民を率いる大使は目覚めたが…

 H・G・ウェルズの「タイムマシン」からのSFの伝統を受け継ぐ、人類の未来を模索する稀有壮大な作品。なにやら物騒な世界だったり、常人には理解不能な世界だったり。こういう伝統的なテーマに、てらいもなく臆しもせず挑む勢いと気概に、中国SFの若さを感じる。

 第12回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作の冒頭。

 カスガ「コミケへの聖歌」。21世紀に文明は滅び、その後の暗黒期に記録の大半が焼き捨てられた。山奥のイリス沢集落地に住む四人の少女は、森の中でマンガを見つける。感銘を受けた四人は、森の朽ちかけた農具倉庫を<部室>として<イリス漫画同好会>を作り、マンガの世界の部活を立ち上げる。やがて土蔵で見つけた紙に、四人は自作のマンガを描きはじめ…

 お気楽なパロディ物を思わせるタイトルとは裏腹に、彼女たちの生きる世界は厳しく治安も悪い。電気や水道などのインフラは崩壊し、流通も途絶え、自給自足の暮らしだ。幸い多少の知識と幾つかの遺物は残ったが。とはいえ、主人公によれば少しづつだが暮らし向きは良くなっているようで…

 犬怪寅日子「羊式型人間模擬機」。その一族の者は死ぬと羊になる。残された者たちは、羊の肉を食べる。今朝、大旦那様が羊になった。ユウは、一族の者たちに知らせるために走り回る。まずは次の旦那様となる大輝様から。

 いささか言葉が怪しい語り手による、一人称の物語。正直、掲載の冒頭のみだと、物語世界の概要すら掴めない。ヒトが羊になるってのも非常識だし、それが比喩なのか現実なのかも不明だ。それでも、一族それぞれの性格が、かなり強烈なのはわかった。

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2024年8月30日 (金)

SFマガジン2024年10月号

「それはあなたの夢の形をしていない」
  ――斜線堂有紀「お茶は出来ない並んで歩く」

「おれたちに思いつけるような仮説は、きっと違う」
  ――神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第15回

「上下の枚数を素数で準備したら、順番に着ていくだけでもカブリは最低限に抑えられるよ」
  ――菅浩江「世はなべて美しい」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ファッション&美容SF特集」。

 小説は11本+3本。「ファッション&美容SF特集」で6本、連載が5本+3本、読み切りはなし。

 「ファッション&美容SF特集」の6本。暴力と破滅の運び手「あなたの部分の物語」,斜線堂有紀「お茶は出来ない並んで歩く」,櫻木みわ「心象衣装」,池澤春菜「秘臓」,菅浩江「世はなべて美しい」,ジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン「美徳なき美」紅坂紫訳。

 連載の5本+3本。神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第15回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第55回,吉上亮「ヴェルト」第二部第二章,夢枕獏「小角の城」第77回,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第24回,田丸雅智「未来図ショートショート」3本「コオロギ狩り」「ロイとの景色」「VR祭りの夜」。

 「ファッション&美容SF特集」から。

 暴力と破滅の運び手「あなたの部分の物語」。マネージャーのタンギーの提案で、王子様役のフアンは部分をダクトテープで隠す羽目になった。なにせ、不規則な周期で機能的な状態になるのだ。先の大戦で、<連邦>の男性の多くが放射線で不妊化してしまった。これに対応するため、男性の外性器を遠隔地すなわち<連邦>の部分銀行が管理し…

 「部分」だの「機能的な状態」だのとかの、回りくどく堅苦しい言葉が妙に可笑しい作品。なんか真面目なテーマも含んでいそうなんだが、とにかく笑えてしょうがない。「あなた」の仕事とかね、もう切なくて悲しくて馬鹿々々しいw なにが悲しくてそんな仕事を背にゃならんのだw

 斜線堂有紀「お茶は出来ない並んで歩く」。やっと手に入れた ALICE and the PIRATES のワンピースをまといラフォーレ原宿に繰り出した扇堂伴祢は、BABY, THE STARS SHINE BRIGHT を着た巫女常出鶴に駄目だしされる。厳しい言葉だが、ロリータファッションへの情熱は本物だった。それから15年後、再会した二人は…

 仕事でも趣味でも、優れた導師やメンターに出会えることは滅多にない。出鶴のいでたちも行動も、ブランドに相応しくある姿を求めた結果なんだが、同時に「ごっこ」でもある。それでも、そこには確かにファッションへのリスペクトが溢れている。

 櫻木みわ「心象衣装」。ファッション界の公開新人オーディション、ネクスト・クロ――ゼットのファイナルに残った二人、ユーリと紫陽花は対照的で犬猿の仲だった。最終課題は心象ファッション。着用者の脳神経と連動し、その感情や内的反応を取り入れたファッション。一般的に生物模倣と併せて用いられる。

 ファッションとバイオ技術って未来的な気もするが、改めて考えると綿や絹や羊毛は生物素材そのものだし、藍やコチニールなどの染料も生物由来なワケで、とするとファッションとバイオ技術は新しいどころか伝統的な結びつきなのかも。そういや「織物の世界史」には色付きの繭を作る蚕の話もあった。とかは置いて、昭和の少女漫画っぽい味わいもある作品。

 池澤春菜「秘臓」。小学三年生の息子を送り出し、朝食を食べている夫に声をかけ、チヒロはサロンに出かける。サロンではレアを指名する。レアはエステックことアンブレラのエンジニアで、抜群の腕前を誇る。アンブレラは極薄の膜状装置で、ウイルスや有害物質から身を守るだけでなく、ちょっとした外見の補正もできる。久しぶりに会った旧友のアメちゃんは…

 美容に対し対照的なレアとアメちゃん。チヒロはややレア寄り。美容と考えると一次元の右と左で対照的となるけど、ファッションとして捉えると人により目指す方向性は様々で、幾何学的な意味での次元も多くなる。などと思いながら読んでたら、お話は意外な方向へ。

 菅浩江「世はなべて美しい」。<フィーリー>は骨伝導で音楽を流す。その時の状況に相応しい曲を指定し、自分の気分を調整する。そうやってカナは人間関係をしのいできた。地元に戻ったカナは、高校時代の人気者キョウの姿に驚く。怪我で、世界がすべて美しく見える疾患を抱えたキョウは、黒づくめでくすんだ姿になっていた。

 まあ、アレだ。スタイルのいいイケメンは、無難な格好でもカッコいいのだ、やっぱり。うう、くやしい。疾患のせいでキョウは人生ハードモードなのに、どうにも同情する気になれないw

 ジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン「美徳なき美」紅坂紫訳。ファッション・モデルは、肩から腕を移植する。14歳以下で亡くなった子供の腕だ。マリアが19歳の時にメゾンは彼女を見いだした。腕を移植して6カ月間は人目から隔離し、上流階級のアクセントを叩きこむ。ビスポーグ誌は彼女を「薔薇とダイヤモンドの姫」と呼んだ。

 スラリとした妖精のような体形が多いファッション・モデルの世界では、何かと悪いうわさもあって、その辺を大きくデフォルメした作品。描いているのは華麗な世界ながら、ハードボイルド調にキレのあるキビキビした文体なのが、ファッション業界の冷たさと厳しさをうまく伝えている。

 連載。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第55回。シルヴィアを喪った<クインテット>は、事件の背景の調査を始めると同時に、迅速に体制を変えてゆく。ハンターはシルヴィアの死をイースターズ・オフィス攻撃に使おうと画策する。ウフコックは自らの姿を大衆の前に現してスピーチを行う練習を始めるが…

 ウフコックのスピーチ練習の場面が、この作品には珍しく微笑ましい。そうだよね、見た目だけなら、レイチェルの反応が普通だよね。能力はひどく物騒だけど。「勤勉な無能」には笑った。そしてますます人間離れしてくるレイ・ヒューズ。

 神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第15回。零と桂城が乗った雪風が、ジャムを発見した。旧機体が投下したポッドの一つが5秒ほど信号を発した後に沈黙したのだ。ジャムがポッドを破壊したのか、またはジャムの偽信号か。高速で現場に向かう雪風の前に、異様な存在が現れる。

 今回の後半はシリーズを通した大きな曲がり角の予感。未知の脅威に突撃する雪風の後ろに控えるレイフが頼もしい…とか思ってたら、とんでもねえシロモノを積んでた。

 飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第24回。舞台は青野、啄星高校の文化祭。やはり区会の住人が、世界の描画制度を認識したり操作したりする描写にはギョッとする。そして『クレマンの年代記』にも影響が。

 吉上亮「ヴェルト」第二部第二章。革命はなったが、フランスは内外共に危機にある。外からはプロイセン・オーストリア・イギリスに攻められ連戦連敗、内ではフランス各地の騒乱に加え政権はジロンド派と山岳派で睨み合いが激しさを増す。そんな時に、バスティーユの襲撃を逃れたサド侯爵はパリに潜む。

 名前だけは知っていたマルキ・ド・サドことドナシアン・アルフォンス・フランソワ・ド・サド、この連載では作品を書いただけでなく…。えっと、なかなかに大変な人で、悪役ではあるけと、大物というより卑劣で狡猾って感じだなあ。いや今のところ噂だけで本人は登場してないんだけど。

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