カテゴリー「書評:SF:小説以外」の146件の記事

2026年5月18日 (月)

SFマガジン2026年6月号

 ――新時代の黎明を見て、幾度でも問い直されるべきは平凡な市民が幸福になれない未来の、何が素晴らしいのかということだ。
  ――長谷敏司「市民の歴史」

「軍人が文官に殺される国家は、軍人が文官を殺す国家より良いからだ」
  ――柴田勝家「朱子天外伝」

 376頁の標準サイズ。

 特集は吟鳥子監修で「SF少女マンガ特集2」でマンガが3本+1本に加え、清水玲子のインタビューや「1980~2020年代のSF少女マンガ家ガイド」など。表紙からして「輝夜姫」の晶の麗しくも凛々しく仁義きってる姿だし。

 小説は6本。特集で1本、連載が4本、読み切りが2本。加えてマンガ4本、、連載の横山えいじ「おまかせレスキュー」。

 SF少女マンガ特集2のマンガ3本+1本は坂井恵理「#私が産みました」,Ququ「如意」,河野スイ「ホルプ家のとある日常」に加え、吟鳥子による特集解説コミック「少女漫画はずっとSFしている」。

 連載小説は4本。冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第65回に加え新連載3本は長谷敏司「市民の歴史」,藤井太洋「宇宙島年代記」,柴田勝家「朱子天外伝」。

 読み切りは2本。暴力と破滅の運び手「まるはだかの地球誌」,阿缺「雲鯨記」阿井幸作訳。

 SF少女マンガ特集2。

 吟鳥子「少女漫画はずっとSFしている」は、本特集が採用されるまでの経緯を描いた作品。いわゆる「花の24年組」の後も優れたSF少女マンガが続々と出ているんだぞ、という熱意がひしひしと伝わってくる11頁。

 坂井恵理「#私が産みました」。赤ん坊の育児でボロボロになった母親に薦められたネックレス状のアイテム、ネコタグ。その機能は…

 生まれたばかりの赤ん坊は、食事や睡眠のサイクルも短くかつ不安定で、一人で育児を賄うのは相当に厳しい。そういや「もうダメかも 死ぬ確率の統計学」でも、幼児期の異常なまでの死亡率の赤さが数字で出ていた。オチも素晴らしい。私も欲しい。

 Ququ「如意」。人気アイドルのMIAと、かつて少しだけ付き合っていた青年は、街角でテック企業に勤めているという技術者に声をかけられる。その話というのは…

 出だしから、背景に独特の味がある。輪郭はシャープながらも柔らかみのある線で描かれる、近未来の渋谷を感じさせる街の風景が、明るく華やかながらもよそよそしい都会の夜の空気を巧く醸し出している。

 河野スイ「ホルプ家のとある日常」。荒れ果て草木が生い茂る庭に置かれた棺桶。そこから出てきた娘は、短剣を持っている。石造りの城のような建物に入り、螺旋階段を昇ると…

 他の三作は、少女マンガというより青年誌やレディース・コミックが似合いそうな絵柄なのに対し、本作は私が想像する少女マンガの絵柄に近い繊細な感じ。大胆なコマ割りも、少女マンガの特徴だと思う。

 宇垣美里インタビュー「サバイブするための少女マンガとSF」。「最近は少女マンガと少年マンガという分類自体があいまいになってきていますよね」。それ言ったら三日三晩の討論が始まってしまうぞw 「きらら」系は少女マンガなのか、とかw 「瑠璃の宝石」なんてセンス・オブ・ワンダーてんこ盛りだし。SFじゃないけど。あと竹本泉や須藤真澄も分類は難しい。

 連載小説。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第65回。ノーマ・オクトーバーは、弱毒化したウイルスを授けようとハンターに提案する。ハンターはしばらく意識を失い、<クインテット>の仲間からも切り離されるだろう。ノーマの目論見を見抜けぬまま、ハンターは処置を受ける。イースターズ・オフィスに身柄を拘束されたホスピタルは、尋問に素直に応じるが…

 戦闘の終盤でシザースの恐るべき能力と、カギを握る人物であるホスピタルの暗躍と目的が明らかになった前回に続き、今回もクインテット・オフィス共に大変な危機へと投げ込まれる。シザースの複雑怪奇な内情と、それに抗うハンターとバロットそしてバジルの奮闘も読みどころ。

 長谷敏司「市民の歴史」。2029年。AI研究者の竜宮千里は壮大な意図を持って米国から日本に戻る。テーマの一つは脳の構造をAIで推測する研究で、脳神経学者の小鍛治陽子との共同研究だ。研究にはカネが要る。特にAI研究は、いかに多くのGPUを確保するかが鍵だ。そのためには実績が必要で…

 2026年現在、既にGPUとメモリがAIの研究/開発で爆買いされ品不足になっていて、カネのある者の勝ち、みたいな感があって、それを巧く描いていると思う。歴史的に、これに似た状況は、鉄鋼と鉄道だろうか。AIが最も進出しにくい分野は政治だと思っていたが、そこも政局の変動を折り込むことで「そうきったか~」と唸ってしまった。

 藤井太洋「宇宙島年代記」。2326年。16歳の宇登神瑞乃は<コクナン島>に転校する。先行ラグランジュ点にある円筒形をしたオニール型のコロニーだ。島民の多くはMODと呼ばれる人体改造措置を受けている。慣れない人口重力などに戸惑いながら転校の挨拶を済ます。思ったよりクラスメイトは親切に受け入れてくれたが…

 遠心力による疑似重力のクセや宇宙空間における距離感・速度感などの科学的な背景から、コロニーがいかにして稼ぐかといった経済的な問題まで、藤井太洋らしい説得力に満ちた考証にはにたすた唸らされるばかり。クセは強いがシッカリした同級生たちにも好感が持てる。しかも、連載初回からさっそく騒動と冒険の予感が。

 柴田勝家「朱子天外伝」。金の侵略により宋は臨安府に都を移す。役人である父の朱松に連れられ、朱熹も臨安府へ移り住む。11歳の時、朱熹は町の商人の子らに袋叩きにされる。都は元から住む者と、遷都により移り住んできた者とがいがみあっていたのだ。運河では金との戦いに赴こうとする岳飛将軍とその息子の岳雲が、船で民衆の歓声を浴びている。

 舞台は南宋の曙時代。主人公の朱熹は朱子(→Wikipedia)、岳飛(→Wikipedia)も中国では人気の武将らしい。後に学者として名を成す朱熹が、幼いながらも理屈っぽいのが、いかにもな感じ。そして、彼の前に現れた量憶と名のる少年は、本作のカギを握っているようで…

 読み切り小説。

 暴力と破滅の運び手「まるはだかの地球誌」。劇場で働いていたおれは、異様な空間にいた。どこからか声が聞こえる。「あなたがたの宇宙は、評価が終われば恒久的なエネルギー源として利用されるでしょう」。何を言ってるのかわからんが、宇宙が滅びるっぽい。

 2024年10月号掲載の「あなたの部分の物語」路線のお話。調べたらディミトリス・パパイオアヌーは実在の振付家らしい。確かに何を考えてそんな振付にしたのかわからんw

 阿缺「雲鯨記」阿井幸作訳。恋人だった阿葉の遺骨を地球に持ち帰るため、僕は惑星ビーモンを訪れた。ここには雲鯨が住む。別の惑星カーの海に生まれ、星々を旅してビーモンの金色海に泳ぎ着く。金色海は重力を打ち消す物質F937を微量に含んでいる。雲鯨はF937を体内で濃縮し、空を飛ぶ。そして雲鯨の血を狙う密猟者もビーモンに集まり…

 2月号の「架空生物特集」の続き?に相応しい、奇妙でダイナミックな生物の雲鯨が魅力的な作品。いや捕鯨保護派の私としては、いささか複雑な気分なんだが。密漁の方法も、日本の捕鯨の特徴である母船を中心として複数種の船による船団方式だし。それはともかく、雲鯨に空を飛ばせる仕掛けは見事。

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2026年3月16日 (月)

SFマガジン2026年4月号

人間の本当の居場所ってどこなんだろう
  ――矢野アロウ「マイボディ・オン・ザ・ムーン」

「皆さんは、煩雑な管理作業から解放されて、より生産的でクリエイティブな活動に向かうことができます」
  ――草上仁「月蝕」

 376頁の標準サイズ。

 特集は2つ。一つは「プロジェクト・ヘイル・メアリー」特集として対談やエッセイなど。もう一つはジョン・ヴァーリイ追悼特集。

 小説は9本+1本。特集で1本、連載が3本、読み切りは5本+1本。

 ジョン・ヴァーリイ追悼特集は「プッシャー」浅倉久志訳。

 連載小説は3本。冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第64回,山本浩貴(いぬのせなか座)「親さと空」第3回,藤岡みなみ「タイムトラベル専門書店、はじめました」新連載。

 読み切りは5本+1本。円城塔「無名再帰書」「竜の命名」,片瀬二郎「ゴールド8」,トシヤ・カメイ「コモレビ」勝山海百合訳,草上仁「月蝕」に加え矢野アロウ「マイボディ・オン・ザ・ムーン」冒頭の豪華400枚。

 ジョン・ヴァーリイ追悼特集。

 ヴァーリイが亡くなったとは知らなかった。今は絶版となった短編集「残像」で彼と出会い、以来、八世界シリーズを中心に邦訳された作品をずっと読んできた。彼の作品を一言で表すなら「喪失感」だろう。八世界シリーズからして、人類は故郷の地球を失っている。とか思ったら、大野万紀の追悼エッセイにも…。円城塔の寄稿も意外だった。

 「プッシャー」浅倉久志訳。イアン・ハイセは白髪混じりでたくましい肩の男。彼は児童公園で子供たちを見回す。いい感じの女の子がいた。10~12歳ぐらい。見つめると、イアンに語りかけてくる。名はレディアント。イアンは得意の物語を語り始める。

 ええ歳こいたオッサンが、何やら目論見を持って10~12歳程度の女児をひっかける。ヤバくね?ってな疑惑は、お話は進むにつれ、どんどん膨れ上がってゆく。幾つかの断片的な情報から、物語世界は科学と技術が発達して治安がいい、理想的な未来世界なのが伺えるのだが…。ヴァーリイらしい、切なさが漂う作品。

 連載小説。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第64回。イースターズ・オフィスに<楽園>と市警、そして<クインテット>一味が連合してのリバーサイド・ホテル襲撃はついに終わる。多くの犠牲者が出たものの、捕えられた人質を取り返した。また、敵の主犯格も手中に収めたものの、これはとんでもない危険人物で…

 冒頭からシザースならではの特異な能力が披露される。シザースの能力?は、ハンターの特殊能力の共感と似てるんだよね。共感は感情を共鳴させるんだが、各員は自我を保ってる。シザースはというと、こちらはそれぞれ。マクスウェルは自我を失ってるっぽいけど…

 山本浩貴(いぬのせなか座)「親さと空」第3回。2025年10月、大学生になった柚葉は東京芸術劇場での短期集中ワークショップで万葉と出会う。万葉は早口で勢いよく喋り、グイグイと距離を詰めてくる。しかも話題はアチコチへと飛び回り…

 ほぼ現在を舞台とした今回。ややメタな展開も挟みつつ、いわゆる「創作系」な人の生態というか会話というか、その辺が興味深いお話だった。特に万葉。哲学・科学・芸術と、やたら関心の幅が広く多くの分野を食い散らかし、かつ自分なりに解釈しては繋げていくオツムが凄い。

 藤岡みなみ「タイムトラベル専門書店、はじめました」新連載。2025年11月、東京都板橋区小豆沢にタイムトラベル専門書店 utouto が開店した。400年も続く名士、蓮沼家の旧邸宅の一角にある。門や建物は旧家らしい伝統と貫録を備えている。また江戸から大正・昭和など、さまざまな時代の品々に囲まれ…

 どこまで本当でどこからが作り話か、混沌としているあたりが、いかにもタイムトラベル専門書店な感じだ。たしかにタイムトラベラーやタイムパトロールや異星人が紛れ込んでいても不思議はない。

 読み切り5本+1本。

 円城塔「無名再帰書」。図書室で本を読むムアのまわりを、光が取り巻く。光の調子は読んでいる本により異なる。魔術に近いが、ムアが意図して発動しているワケじゃない。レルは魔術の力を持たないソウルレスだ。魔術のトリガーは人それぞれだが、一般に呪文を用いる。長い呪文では詠唱者による効果のばらつきが大きくなる。

 次の「竜の命名」と共に、2026年4月に刊行予定の連作短編集『土人形と動死体』の一編。円城塔には珍しいファンタジイ作品だが、読者を煙に巻く独特の文体と、妙な屁理屈で辻褄を合わせる芸風は健在。本作では魔術と呪文の関係を、円城塔ならではの屁理屈で追求しつつ、楽員の落ちこぼれムアとレルの意外な才能が…

 円城塔「竜の命名」。様々な人が住み、多くの言語が入り乱れる新構築で、ミティクは調整役のような役割を担っている。言葉の行き違いで起きる騒動を、多くの言語に通じるミティクが収めるのだ。今回の騒ぎは連続殺蜥蜴人事件。被害者は3人、すべて蜥蜴人だ。蜥蜴人のクメヌと食事をとりつつ事情を話し合い…

 連続殺蜥蜴人事件の謎を追うバディ物…の体裁ながら、肝心のクメヌが無表情なだけでなく、実際にあまり感情的じゃないのがトボけた味を出してる。次第に明らかになる蜥蜴人の生態と考え方は、エイリアン物としても楽しい。いやオチはアレだがw

 片瀬二郎「ゴールド8」。<行動集会>のせいで向こう岸へ渡る橋が封鎖された。マトゥーラたちは軽自動車で逃げ出すが、渋滞につかまってしまう。運転席のゴールドエイトは最低限の身動きしかしない。ときおりドローンがとおり過ぎる。ネットは<行動集会>のときから使えなくなった。

 欧州や米国ばかりでなく、最近は日本でも大きくなりつつある移民排斥の風潮がテーマの作品。インターネットの封鎖は、つい最近イランが実施したワケで、2026年初頭の今に読むと、実に生々しい。そういやイランもペルシア系・トルコ系・クルド系・アルメニア系と多民族な上に、アフガニスタンからの避難民も多くて…などと考えると、更に生々しくなってきて怖い。

 トシヤ・カメイ「コモレビ」勝山海百合訳。エミは骨の白さの部屋で合成タタミに座っている。しわぶき混じり、というよりしわぶきの合間をぬって、天井からさがるマイクロフォンに話す。「コモレビ」「木々の葉のあいだを陽の光が通り抜ける」

 1頁半の掌編。爆発的にAIの発展と普及が進む最近のご時世にピッタリの作品だ。

 草上仁「月蝕」。天体・気象管理局の主な使命は、天体運行と気象変動の管理だが、他にも様々な役割があった。設備は老朽化してトラブルが絶えない。局員たちも常に追い回され、ジワジワと高齢化が進む。そこにセールスマンが完全自動化を売り込んできた。

 お話はメルヘンなんだが、局員たちの境遇は妙にナマナマしく、身につまされる人も多いんじゃなかろか。ニュースなどに出てくる工場は、たいてい清潔で自動化が進んでるけど、ちょっと裏手に回れば機械油が染み込んだ床や壁とか、ガッコンガッコン音を立てるけど信頼のおける機械とかが、重要な役割を果たしてたり。

 矢野アロウ「マイボディ・オン・ザ・ムーン」冒頭。2024年、中国に通じつつNASAに務める楊張敏は、中国の国家安全部に拉致され異様な話を聞く。月の南極近くのクレーターに人工物らしき構造物を見つけた。中には透明なカプセルが立ち並び、首がなく座禅を組んだ遺体が入っている。その数は数十。

 冒頭とはいえ400枚、ちょっとした文庫本一冊並みの大サービス。しかも「月で人工物が見つかる」という、アーサー・C・クラーク「2001年宇宙の旅」やジェイムズ・P・ホーガン「星を継ぐもの」などのスケールの大きい傑作に真っ向から挑む野心作。書籍版は2026年6月18日に単行本上下巻で刊行。原稿用紙2000枚というから収録分は約1/5、主な登場人物と舞台設定が明らかになった程度だが、感触は本格派かつ重量空の手ごたえ。

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2026年2月26日 (木)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2026年版」早川書房

 年に一度のSF者ご用達。いや最近SFを読んでない私が云々するのはどうかとも思うけど。

 ベストSF2025、国内篇はあの化物本、伊藤典夫評論集成が2位に入る大活躍。SF界じゃ翻訳家は単に訳すってだけじゃない。海外のSFを紹介するっていう大役も果たしていて、そういう仕事への感謝というかリスペクトが大きいのだ。あとアポカリプスホテルは何かと予想を裏切る面白さだった。逆に期待通りのお馬鹿さだったニャイト・オブ・ザ・リビングキャットも、アチコチに制作陣の映画への愛が滲んでて良かったなあ。

 飛博隆インタビュウでは、《廃園の天使》シリーズの今後の話が少し。本当に終わるんだろうか。

 海外篇では(2026年2月現在)第十二回日本翻訳大賞の二次選考対象にも残った「バベル オックスフォード翻訳家革命秘史」が堂々のトップ。さすがに「ドクトル・ガーリン」は選外。

 コラム「歴史SFの隆盛」。「妖星伝」「どんがらがん」「さよならダイノサウルス」は…さすがに違うかw

 国内&海外ファンタジイ、「十二国記」の新作短編集ってマジか?

 科学ノンフィクションはAI大暴れと思ったら。でも「基礎モデルとロボットの融合」は是非読みたい。「感情労働の未来」「饒舌な動植物たち」「土と生命の46憶年史」も美味しそう。藤井一至とか前野ウルド浩太郎 とか、研究者が面白い本を書いてスタアになる傾向は、ノンフィクション好きとしちゃ有り難い。あと「動物には何が見え、聞こえ、感じられるのか」はセンス・オブ・ワンダーが溢れてる。

 SF映画、「スーパーマン」「フランケンシュタイン」って、いつの時代だ?

 「SFが読みたい!の早川さん」。帆掛さんは堂々たる裏ヒロイン顔だろ。「地球の長い午後」や「十月はたそがれの国」も邦題のセンスがいいよね。

 「素数の呼び声」、本当に出るの? 間宮改衣の新作を光文社が用意してる!「ここはすべての夜明けまえ」には暫く脳みそを乗っ取られたんで凄い楽しみ。

 中国との関係悪化は日本人作家の中国での出版にも悪影響があるらしい。これだから言論の自由がない国はブツブツ。

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2026年1月13日 (火)

SFマガジン2026年2月号

こんとん。目、鼻、耳、口の七つの穴がなく、六本の脚と四枚の羽を持つという伝説上の生き物だ。
  ――

「正義は結局、抵抗する者の手にだけ委ねられるのだ。従う者に正義はない」
  ――吉上亮「ヴェルト」第二部第十章

 376頁の標準サイズ。

 特集は「架空生物特集」として小説が豪華7本に評論やエッセイなど。加えてジェイムズ・ティプトリー・ジュニア小特集。

 小説は12本+1本。特集で7本+1本、連載が4本、読み切りは冒頭のみが1本。

 架空生物特集。小説は7本。藍銅ツバメ「こんとん」,酉島伝法「ブリーダーズ」,溝淵久美子「リラクウォッカ」,草野原々「大山鳴獣ネズギガント」,柞刈湯葉「ライフ・アズ・ア・ウェポン」,坂永雄一「星の薪」,アン・レッキー「魂の湖」中村融訳。…って、あれ?このネタなら草上仁は? まあいい。今回、表紙と各小説の扉イラストはすべてぬまがさワタリが担当。

 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア小特集は「タイムマシンをオモチャにしないでください、あるいは、わたしはF.B.I.のために≪アスタウンディング≫誌のバックナンバー15924冊をズタボロにした。」小野田和子訳。

 連載小説4本。冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第63回,吉上亮「ヴェルト」第二部第十章,夢枕獏「小角の城」第85回,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第31回の最終回。

 加えて第13回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作「みずうみの満ちるまで」冒頭。

 架空生物特集。

 藍銅ツバメ「こんとん」。こんとんはプラスチックの飼育ケースにいる。小型龍の餌として一匹三百円で売られていたのを、一樹は思い付きで買ってしまった。飼育書もロクにない。小型龍の飼育書の餌の保管法に少し書いてある。曰く餌も食べず水も飲まなず、一か月ほどで死ぬ。水を入れた小皿を飼育ケースに入れたら、こんとんは小皿をひっくり返し水を浴びてしまった。

 こんとんはWIkipediaにもあった。作品中のこんとんはゴールデンハムスターほどの大きさで動きは鈍く微妙に不器用。なんかブサかわいいというか、そういう系統。間の抜けた癒し系で、某SNSで流行ってるたぬきに近いかも。私も昔に飼っていたおバカなジャンガリアンを思い出した。

 酉島伝法「ブリーダーズ」。室伏実はヘブタ脳炎から回復した。ダニが媒介するヘブタ・ウィルスが原因とされる。症状はディラン効果またはイヤーワーム(→Wikipedia)。頭の中で特定の曲が繰り返し鳴り響くのだ。久しぶりに元軽音サークルの仲間との会合に出た室伏だが、その日を境に消息を絶つ。

 気色悪い生き物を書かせたらSF界随一の酉島伝法だけあって、この作品もなかなかにおぞましい。イヤーワームの困った点は、別に好きでもない曲が耳にこびりつくこと。まあ、好きな曲がこびりついたら、それがキッカケで嫌いになりそうで、それはそれで嫌だなあ。お話は、やっぱり酉島ワールドでした。

 溝淵久美子「リラクウォッカ」。アパートで二十代の女性が自殺した。彼女はリラクオッカを飼っていた。笑顔のように見えるクォッカ(→Wikipedia)をペット用に改造した生物だ。リラクオッカは、ヒトがストレスを感じた時の体臭を心地よいと感じ、すり寄ってくる。一時期は流行したが、今は野生化して特定外債生物として害獣指定されている。

 現在はペット扱いされている犬や猫も元は野生だったし、ドミトリ・ベリャーエフのキツネの例もあり、近い将来に似たことを目論む企業が出るだろう、というか既にやってるかも。お話は…動物が好きな人にはかなりキツい話です。

 草野原々「大山鳴獣ネズギガント」。身の丈二メートルを超えるメタリック装甲のヤスデ、アースロプレウラ(→Wikipedia)が配信している。元は迷惑系配信者だったのがお縄になり、精神をオークションでセリに出された。買い手は某教団。改造サイバネ・ヤスデに精神転写され、宇宙の辺境の惑星に飛ばされて…

 これも草野原々らしく、バリトン・J・ベイリーばりの奇想が続々と飛び出す怪作。いや惑星の描写はロバート・L・フォワードの「ロシュワールド」にも匹敵する壮大でダイナミックな風景なんだが、なにせ草野原々だしw 精包が出てきた時点でなんか嫌な予感がしたんだが、なんちゅうオチだw

 柞刈湯葉「ライフ・アズ・ア・ウェポン」。2028年、イランのテヘラン。エリオール(仮名)はイスラエル諜報特務庁モサドのスパイだ。となれば、目的はイラン核兵器開発の阻止。特に大事なのはウランの濃縮技術、その核をなす遠心分離機カスケード…のはずが、なぜか追跡しているのは分子生物学者の研究者ダリヤ・フェルザンスフル・メフル。

 イランとイスラエルって組み合わせから、やたらと物騒な中身を思わせる。タイトルと分子生物学も、そっちの兵器を匂わせるのだが…。エリオール君のキャラが私たちの思い浮かべるモサドと大きく違うのが面白い。こういオチも、現在のイランならいかにもありそう。

 坂永雄一「星の薪」。薪取りが帰ってきた。星祭りが始まる。今年は特別だ。三年に一度の、龍天樹を昇天させる大星祭り。子供たちははしゃいでいる。先生も居残り課題を切り上げた。山頂にある鍋底地形の町。外は極寒。龍天樹は大きい。直径十メートル、高さ百メートルに及ぶ。龍山の麓に一本ずつ半キロメートルほど間隔をあけて植えられている。

 異星の町が舞台の作品。気密警察や炭素倹約体制などの言葉から、資源が涸れつつあることが伺える。終盤で展開するヴィジョンで、ラリイ・ニーヴンの某長編を思い浮かべた。舞台のスケールは小さいどころか息苦しいぐらいだが、作品のスケールは大きい。

 アン・レッキー「魂の湖」中村融訳。村のそばの湖は<魂の湖>ではない。幼生のスポーンは湖の昏い深みに惹かれ、湖畔で過ごす。あといちど脱皮すれば成体になる。母親たちは湖畔を離れろと叫ぶ。今までも幼生は脱皮が遅かった。魂があるのか、そう幼生を心配する母親もいる。

 「叛逆航路」シリーズの人。視点は二つ。両生類っぽい生態で村単位の社会で暮らすエイリアンと、人類が住める惑星を探しているっぽいチームの人類学者。エイリアンの生態は極めて異質ながら、知性があるのは充分に伝わってくる。が、人類側の都合は…。今までの歴史を考えると、確かに、ねえ。

 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア小特集。「タイムマシンをオモチャにしないでください、あるいは、わたしはF.B.I.のために≪アスタウンディング≫誌のバックナンバー15924冊をズタボロにした。」小野田和子訳。銀河間不定期貨物船<オカリナⅢ>は原型時間に戻った。ヘリング船長は半重力房から出ようとレバーを引くが…

 トム・ゴドウィンの「冷たい方程式」を下敷きにしたドタバタ・ギャグ…と思わせて。タイトルからしてユーモラスな作品だと匂わせていて、実際その通りかつヒネリを利かせた作品。というか、今思えば、この人、独特のヒネリが効いた作品が多いんだよね。「たったひとつの冴えたやりかた 」は間違いなく傑作だけど、主な芸風を代表するのは「接続された女」だと思う。

 連載小説。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第63回。リバーサイド・ホテルの戦いは続く。テーマパーク<プレジャー・ドーム>は、ファミリー向けの娯楽施設だ。逃れて潜むキドニーたちを追う2人と4匹。リディア・マーヴェリックと黒豹のデビル,マヤ・ノーツと白蛇のデイジー,そして犬のシルフィードとナイトメア。罠と承知でリディアとマヤたちは戦場に飛び込む。

 今まで別の戦場で戦っていたハンター勢とオフィス&市警。それが戦いが進むにつれ、同じ戦場に合流することも。しかし考え方の違いから、何かと軋轢も起きる。中でもマヤとバロットのすれ違いが、悲しくもあり可笑しくもあり。そして、ついにエド・ゴーリーの正体と目的が。

 吉上亮「ヴェルト」第二部第十章。恐怖政治は続き、処刑人のサンソンは忙しい。陰謀の首魁として総裁フーシェを弾劾し、全会一致で可決され、フーシェはクラブ除籍となる。だがフーシェは行方をくらます。ロベスピエールは体調不良を理由に委員会にも国民公会にも欠席を続けている。

 第二部最終回。激動のフランス革命を、処刑人サンソンの視点でじっくり描いた第二部。最終回もサンソンは多忙な仕事に勤しむ。のだが、落ち着いて考えると、サンソンが見えない所でこそ人は死にまくってるんだよなあ。有能ながらも胡散臭さを漂わせていたナポレオン、やはりウラがあったか。第三部は書き下ろしだそうです。

 飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第31回の最終回。更なる崩壊を続ける<青野の区界>、園丁たちと遠野暁の戦い、変容する『クレマンの年代記』の謎、それと小野寺早都子の関係、天使の正体。幾つもの仕掛けが絡み合いながらも時としてバッサリと斬り落とす。嵐が去った後のような読了感の最終回だ。

 第13回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作「みずうみの満ちるまで」冒頭。環境は悪化し、難民は増える一方。対して富裕層は仮想空間で永遠の命を得る。だが、全財産を寄付し敢えて死を選ぶ富者もいた。彼らを看取る施設がヘヴンズガーデン。その朝、従業員のエルムは、お気に入りのベンチで、見知らぬ娘と出会った。

 静かで穏やかな導入部。少し郊外にある大規模な霊園も、風景は穏やかで綺麗なんだよな、などと思いつつ。なにせ死を迎える施設だし。だが、話が進むにつれて、次第にこの世界の絶望的な状況と、施設の置かれた厳しい立場が見えてくる。現実の異世界でも難民のニュースは毎日のように入ってくるしなあ。こんな大きなテーマに挑んだ度胸だけでも凄い。台詞に「」がないのも、静謐な雰囲気を醸し出してる巧みな工夫。

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2025年11月24日 (月)

SFマガジン2025年12月号

0.006気圧の大気中では、舞い上がった砂塵は速やかに地面に落下するからだ。
  ――宮西建礼「マールスの子どもたち」

「おまえの母親は英雄だ。くれぐれもそれを忘れるんじゃない」
  ――ウォレ・タラビ「暴噴」鳴庭真人訳

私が親友を壊したのは、17歳の冬のことです。
  ――小野美由紀「春を待つ君を待つ」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「火星SF特集」として小説4本に評論やエッセイなど。

 小説は11本+1本。特集で4本、連載が5本、読み切りが2本+冒頭のみが1本。

 火星SF特集。小説は4本。宮西建礼「マールスの子どもたち」,チャズ・ブレンチリー「第十二の駅」桐谷知未訳,ウォレ・タラビ「暴噴」鳴庭真人訳,王侃瑜「火星の祝融」大恵和実訳。

 連載小説5本。山本浩貴(いぬのせなか座)「親さと空」第2回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第62回,吉上亮「ヴェルト」第二部第九章,夢枕獏「小角の城」第84回,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第30回。

 読み切り小説2本。カスガ「不滅の遊戯」,小野美由紀「春を待つ君を待つ」。

 冒頭のみは第13回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作の関本聡「摂氏千度、五万気圧」。

 火星SF特集。

 宮西建礼「マールスの子どもたち」。レムとロムはコンテナトラックに潜み“都市”への密航を企てた。“都市”は自己複製機械群マルシスによりクレーター内で建設が進みつつある。ただしそこに人はいない。マルシス制御下の自動機械が動いているだけ。画面でも見れるが、二人は自らの目で見たかったのだ。望みは叶ったものの、マルシスに見つかりお説教を食らう。

 火星に相応しく酸素タンクの容量が気になる定番の冒頭から、今世紀ならではの技術を用いた“都市”の建設風景はSF心をくすぐりワクワクする。トム・ソーヤ―よろしく少年の冒険物語になるかと思いきや、現在ホットな進歩を遂げつつあるアレの行く末を見つめた舞台背景は、希望と絶望が入り混じったモノで…

 チャズ・ブレンチリー「第十二の駅」桐谷知未訳。カッシーニ・クレーターには、まわりを巡るモノレールがある。その駅の一つは“第十二の駅”と呼ばれ、必ず誰かが居る。周辺には何もない。駅にも説明板がなく、駅名の由来は人に訊ねるしかない。かつて“大戦争”で大英帝国とロシアが戦い…

 いかにもイギリス出身の作家らしい作品。というのも、イギリス陸軍は大日本帝国陸軍と同じく、部隊は出身地ごとに編成するからだ。スコットランド高地の舞台はタータンチェックのスカートをはいてバグパイプを吹いてたりする(→Wikipedia)。米国の作家だと、こういう発想は出ないだろう。いや本作の雰囲気はイングランドっぽいけど。

 ウォレ・タラビ「暴噴」鳴庭真人訳。フォラケが軌道のネリオ・ステーションで火星の地表の掘削現場を監視していた時、通信回線から轟音が鳴り響く。現場で爆発が起きたようだ。キック(→JOGMEC石油・天然ガス資源情報キック)と判断したフォラケは情報を整理する。想定した数字より2桁も大きい。現場には弟のフェミもいる。

 暴噴って言葉は知らなかったが、なんとなく見当がつくのが漢字の嬉しい所。ナイジェリア出身の著者らしくアフリカ宇宙機関が火星開発に携わっているのが独特。アフリカは鉱物資源が豊富なので、掘削技術が発達するのは理にかなってる。遠隔操作型のロボット,イベジの活躍が楽しい作品。

 王侃瑜「火星の祝融」大恵和実訳。祝融は火星の大都市天荒を管理するAIだ。その能力を認めた人類はより多くの任務を祝融に任せ、権限も拡大した。ナノマシン生産に秀でた火星の人々は肉体をナノ化し、祝融に権限を譲って火星から去る。残された祝融は自らを拡張し生命について考え始める。

 もしかして「フロストとベータ」?と思ったら「光の王」が少し混じって「十二月の鍵」に…という、年寄りを泣かせまくる作品。たまたまカブったのかと思ったが、これは完全にロジャー・ゼラズニイへのオマージュだ。神話ベースだし。壮大なストーリーを短編にギュッと詰めこんだせいか、語り口は武骨でぶっきらぼうだが、それだけに濃ゆいSF魂が煮えたぎってる。

 連載小説。

 山本浩貴(いぬのせなか座)「親さと空」第2回。2017年。柚葉は中学受験を経て県内チップの中高一貫校に入学する。だがほとんど学校には通わず、オンラインFSPゲーム Vosok に入り浸っていた。そこで知り合った同年代のマリアと親しくなり、無料インディーズ・ゲームにも手を伸ばす。その一つ Arek-Chain は奇妙なゲームで…

 前作「無断と土」に引き続き、本作でも今回はゲームが重要な役割を果たす。つか光の速度でも距離が問題になるって、どんな運動神経してるんだFPSプレイヤー。続いて出てくる Arek-Chain、不気味さと怪しさは抜群で。カギとなる事件(ネタバレ?→アムネスティインターナショナル)も実に怖い。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第62回。イースターズ・オフィス,クィンテットそしてマルドゥック市警の三者連合によるリバーサイド・ホテル攻略は続く。バジルから三階のセキュリティ・フロアを任されたトーディは、刑務所でギャングから効果的な放火の方法を学んだ。それを今、役立てよう。

 前回に続き次々とホラーな場面が続く回。特におぞましいのがハエ男。某映画の気色悪さが生々しく蘇ってくる。ばかりか、本作のハエ男はおましい方向へ大きな進歩を遂げて…。

 吉上亮「ヴェルト」第二部第九章。大恐怖(→Wikipedia)のさなか、ロベスピエールの指揮による<最高存在の祭典>が始まる。相次ぐ処刑のせいか、革命の熱は冷めてゆく。だが処刑の数は増す一方だ。なまじ効率的な道具ができたため、歯止めがなくなってしまった。この事態を憂いながらも、サンソンは役目をまっとうし続ける。

 なかなかSFな仕掛けが出てこない本作だが、王の目に続く仕掛けがやっと片鱗を見せる。それも意外な所で。科学者らしい遠大な目標のために邁進する某氏(ネタバレ、→Wikipedia)の姿は崇高…には見えず、狂気に囚われているように感じるのは何故だ。でも、その発想は相応しいかも。

 飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第30回。大館いつきに大小の刃物が迫る。フロックコートの男と印南凍が揉み合っている。女が石室一佐にのしかかり、一佐の身体から銛を抜く。早坂篤子が女に飛びかかる。

 いろいろあるが、最後の一行の衝撃が最も大きい。

 読み切り。

 カスガ「不滅の遊戯」。北条茅子は入学した高校で南七都子と出会う。二人だけの囲碁同好会で、二人は三年間ただ碁を打ち続けた。競技会に参加するでもなく、二人だけで。もっとも、当初の茅子は小学生の頃に三か月ほど囲碁教室に通っただけ。七都子に至っては入門書を読み始めたばかり。それでも七都子はめきめきと腕をあげ…

 何かに特化した集団の中では、往々にして独自の言葉が発達する。家族の中だけ、職場の仲間内だけ、または業界用語とか。あれは単位時間内の情報伝達量を増やすという合理的な目的より、仲間意識を養う役割が大きいんだろう…ってカタいな、俺。シライシユウコのイラストが作品の空気を巧みに伝えている。

 小野美由紀「春を待つ君を待つ」。登志乃世イツキは、小学三年生のときにスイと仲良くなる。スイの父は一代でセクサロイド製造会社を育て上げた。名門の一貫校で成金と蔑まれるスイは、とても可愛く男子からもてた。甘やかされて育ったスイは自由奔放で傲慢だった。イツキはそんなスイが大好きだった。スイは人気アイドルのハルそっくりなセクサロイドを手に入れ…

 文章の大半がベッドシーンという、なかなかに攻めた作品。イツキがカウンセラーに語る一人称で話は進む。これ聴いてるカウンセラーは落ち着かないだろうなあw ある意味ジェームズ・ティプトリー・ジュニアの「接続された女」なんだが、もちろん展開はまったく違う。

 第13回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作の関本聡「摂氏千度、五万気圧」の冒頭。温暖化が進む地球。太陽系外から<救済者>が突然現れ、幾つかの密閉都市を造り去ってゆく。やがて地表の気温は昼まで70℃にまで上がり、人が住めるのは密閉都市だけとなる…例外を除いて。だが密閉都市のいくつかと、連絡が取れなくなる。バンクーバーとフェアバンクスのコクーン(密閉都市)は、調査隊を派遣する。

 いかにも映像化したら映えそうな<救済者>到来の出だしは、多少の胡散臭さもあって懐かしの50年代SFっぽい雰囲気が漂う。この胡散臭さは<救済者>の真意と正体にも付きまとっている。いや掲載分じゃ何もわからないけど。地表に残った「例外」のパートでは、スケールの大きい海洋冒険物語の予感がする。

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2025年10月24日 (金)

豊田有恒「日本アニメ誕生」勉誠出版

初期アニメに関わった多くのクリエーターに関しても、恩師と仰ぐ手塚治虫を含めて、知る限りのエピソードを紹介し、かれらの業績を、あらためて顕彰してみたい。
  ――まえがき

才能が問題になるのは、プロになってからである。最初は、趣味が嵩じるかどうかで決まるのだ。
  ――第10章 パラレル・クリエーションのころ

【どんな本?】

 1960年代初頭。学生ながら早川書房「SFマガジン」主催の第一回日本SFコンテストに「時間砲」で入賞したものの、それで食えていける状態ではなく、将来を決めかねていた豊田有恒は、同期入賞の平井和正の紹介でテレビアニメ『エイトマン』のシナリオを任される。当時の日本のテレビアニメは黎明期で人材の交流は多く、やがて『鉄腕アトム』にも関わるようになり…

 日本SF作家第一世代の一人でもある著者が、テレビアニメ関係を中心に思い出を語る、青春の交友録・回顧録。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2020年8月28日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約200頁。9.5ポイント43字×16行×200頁=約137,600字、400字詰め原稿用紙で約344枚。文庫なら薄い一冊分。

 文章はこなれていて読みやすい。まあベテラン作家だし。内容は…手塚治虫をはじめとして、そのスジの有名人が続々と出てくるため、ソッチに詳しい人にはわかりやすい。そうじゃない人? 読まないでしょ、どうせ。

【構成は?】

 時系列順に進むが、気になった所だけを拾い読みしても楽しめる。

クリックで詳細表示
  • まえがき
  • 第1章 手塚治虫との出会い。押しかけ原作を強要
    手塚治虫に会いに行く/手塚式出版社回り/『宇宙塵』の月例会/リミテッドアニメ、バンクシステムという手法/アニメ版『アトム』
  • 第2章 エイトマン誕生!「細胞具」って、なに?
    同期入賞の仲間たち/平井和正との切磋琢磨の日々/『エイトマン』誕生/『エイトマン』のテレビ化/シナリオの書き方/河島治之というスーパーマン/細胞具?/リアリティの重視/身の振り方を考える/超小型原子炉と賦活剤
  • 第3章 シナリオがない!
    手塚治虫の目配り/文芸課長・石津嵐/シナリオ地獄/「チョコレートを買ってきてください!」/「ラフレシアの巻」/人生最大の殺気
  • 第4章 社長が消えた!
    編集室への立てこもり/創作の秘密/盗作問題
  • 第5章 アトム輸出。お茶の水博士は、ドイツ人?
    『アトム』のアメリカ進出/ドイツ訛りの科学者
  • 第6章 「イルカ文明の巻」視聴率トップ
    戦うことをためらう主人公/社内公募でキャラクターを決める/出渕裕の「やられメカ」
  • 第7章 手塚治虫とけんか別れ
    虫プロの現場/美術部の重要性/ふたりの節子/アニメの音/優秀な人材/拡大路線/新番組『ナンバー7』/手塚の激怒/虫プロ退職
  • 第8章 再びTBSへ 『スーパージェッター』『宇宙少年ソラン』
    TBSからの要請/『スーパージェッター』の仲間たち/「タイムパトロール」の設定/大仇・ジャガー/久松文雄と長岡秀星の起用/もう一つのペンネーム/リーダー・福本和也/架空の歴史を創りだす/中島梓の誤解/またもや手塚を怒らせる/虫プロからの電話/手塚との和解/手塚治虫の受賞/第一次アニメブーム/『冒険ガボテン島』の設定/仲間たちのその後/主題歌の魅力/アニメ界から遠ざかる
  • 第9章 『宇宙戦艦ヤマト』下敷きは西遊記
    翻訳の仕事/本格的なsfアニメを/西崎義展との出会い/ハインラインのようなSFを/アニメ心に火がつく/原子の火/終末論に迎合する/「荒廃した地球」という舞台/『西遊記』を下敷きに/『宇宙戦艦ヤマト』の原作者/最初の小説版
  • 第10章 パラレル・クリエーションのころ
    星敬と土屋裕/パラレル・クリエーション発足/若いクリエーターたち/常連、とり・みき/田中良直と原田知世ファンクラブ/多才なるメンバーたち/定義しにくい友人、田北鑑生/妻は相撲部屋の女将さん?/才能の差/社員旅行の思い出/ミニ版・ときわ荘
  • 第11章 日本アニメの将来
    CGアニメの隆盛/アニメ創世期を構成に

【感想は?】

 私がSF者になったのは、豊田有恒のせいだったのか。納得。

 冒頭から懐かしいタイトルの連続で涙が出そうになる。鉄腕アトム,鉄人28号、エイトマン。

 いずれも現在はYoutubeでオープニングが見られる。いい時代だなあ。さすがに絵はモノクロで京アニなどの華麗な絵に慣れた人には紙芝居に感じるだろうが、音楽だって手間かかってるぞ。なんたって、みんな生楽器のオーケストラだし。1960年代初頭だから、録音も多重録音じゃなくて、奏者をみんな集めて録ったんだろうなあ。贅沢な話だ。

 と、そんな、年寄りが遠い目をして昔を懐かしむ、そういう本です。

 テレビ界・アニメ界・SF界ともに若かった時代。というか、テレビアニメ自体がなかった。アニメ映画はあったけど。そんな時代に、週間のテレビアニメを、それもSFでやる。今思えば、なんでそんな無謀な事を考えたのか見当もつかないが、たぶん手塚治虫の影響だろうなあ。

 その手塚治虫への畏敬の念は、全編を通して語られる。もちろんアニメでの付き合いもあるが…

SF界は、活字と映像のあいだに垣根がない。
  ――第1章 手塚治虫との出会い

 のだった。親友の平井和正に巻き込まれ、学生ながらエイトマンのシナリオを描く羽目になる著者だが…

「シナリオって、どうやって書くんですか?」
  ――第2章 エイトマン誕生!

 ってな体たらく。みんな手探りでやってたんだろうなあ。映画やドラマのシナリオはソレナリに蓄積があるんだろうが、アニメならではの事情もある。

30分番組のシナリオが、四百字詰めの原稿用紙で、実写では35枚程度とすれば、アニメでは50枚以上も必要となる。
  ――第6章 「イルカ文明の巻」視聴率トップ

 実写だと、例えば役者の動作を具体的に書いちゃいけない(→「ハリウッド脚本術」)。何を表現するかは脚本家の縄張りだが、どう表現するかは役者の縄張りなのだ。これがアニメだと、照明や効果音まで脚本家が考えるのだ。

 その効果音も…

アニメの音というのは、実際にない音もあり、実写と比べると大変なのである。
  ――第7章 手塚治虫とけんか別れ

 なんてあって、「そりゃねえ」と今さら納得したり。波動砲の音なんて、誰も知らないしw

 やはり当時のアニメならではの制約もあって、例えば主題歌で「子供が歌えない主題歌ではだめだ」とか。納得はともかく理解はできるが、「半音があると、普通のハーモニカで演奏できないから、子供たちに馴染みにくい」は、気が付かなかった。子供向けのコンテンツは、大変なんだね。

 素人読者を意識してか、アニメの制作過程もザックリだが親切に書いてある。最近、原作とドラマの違いが話題になったが、映像化の場合は集団での話し合い…というより揉み合いで少しづつ出来上がってくるようで、スタッフとの喧嘩もしばしば。

「文句を言うなら、おまえが書いてみろ!」
「絵が描けるくらいなら、シナリオなんて、書いているか!」
  ――第4章 社長が消えた!

 には笑った。

 裁判にもなった『宇宙戦艦ヤマト』が、ああいう形になった経緯も面白い。

この設定には、下敷きがある。(略)西遊記である。
  ――第9章 『宇宙戦艦ヤマト』下敷きは西遊記

 おお、言われてみれば。確かに「遠方から××を持ちかえる」って話だしねえ。これを制作に漕ぎつけるまでも色々とあって。

「巨大ロボットは出てこないのか」
  ――第9章 『宇宙戦艦ヤマト』下敷きは西遊記

 なんて言われたり。大金が動くだけに、制作側も前例のあるモノにすがりたいんだろう。さて、例の裁判にしても、本書を読む限り、原作を一人の個人に帰するのは無茶な気がしてくる。キモである、あの設定にしても…

戦艦ヤマトを使おうと言いだしたのは、松本零士だった
  ――第9章 『宇宙戦艦ヤマト』下敷きは西遊記

 と、松本零士の貢献を認めている。多くの人物が登場し、その大半に畏敬または親愛の情を示す著者だが、西崎義展だけは例外で、プロデュースの能力は認めながらも、散々にディスってたり。

 終盤では自らが社長を務めたパラレル・クリエイションの話で、今をときめくクリエーターたちが続々とでてくるのが楽しい。そうか、火浦功は実在したのか。

 多くの人が登場する中で、私の印象に残ったのが、映画館のロビーで著者がナンパした相手の話。SFマガジンを持ってるからってんで話しかけたら…。オチも凄い。「この近くに、ひいおじいさまのお宮があるから」って、そういう事か。

 日本のSFもテレビアニメも生まれたばかりの時代。若者たちが和気あいあいと話し合い、または喧々囂々の論争をしながら、手探りで作品を創り上げてゆく、その過程を遠い目で綴った群像劇。日本アニメの黎明期ばかりでなく、機動戦士ガンダムや機動警察パトレイバーなどのスタッフに興味があるなら読んでおこう。

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2025年9月 7日 (日)

SFマガジン2025年10月号

「あなたがたご両親は、彼がいったい何を見ているのか、知りたいとは思いませんでしたか?」
  ――韓松「まなざしの恐怖」立原透耶訳

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ホラーSF特集」として小説3本に評論やエッセイなど。

 小説は11本+3本。特集で3本、連載が5本+ショートショート3本、読み切りが3本。

 ホラーSF特集。小説は3本。大木芙紗子「竜子団地B棟202号室」,韓松「まなざしの恐怖」立原透耶訳,ジェフリー・フォード「秋の自然誌」鯨井久志訳。

 連載小説5本+3本。山本浩貴(いぬのせなか座)「親さと空」第1回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第61回,吉上亮「ヴェルト」第二部第八章,夢枕獏「小角の城」第83回,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第29回に加え、田丸雅智「未来図ショートショート」は最終回3本「農の工場」「ロボット供養」「恋のラジオ」。

 読み切り小説3本。藤田祥平「疑似家族」,夏海公司「八木山音花のIT奇譚 遮真」,麦原遼「魔法使い時代の入眠時幻像」。

 ホラーSF特集。

 大木芙紗子「竜子団地B棟202号室」。竜子団地のB棟は、おばけ団地と呼ばれている。B棟だけ蔦がびっしり覆っているから。この蔦、夜になると、ときどきぼんやりと光る。大学のえらい先生や研究者が、何度も蔦を調べにきた。四年前、小学校に入る前の年に、わたしたちは団地に越してきた。一年生になって弟の夢が生まれ、三年生のときにお父さんが死んだ。

 「これぞホラーSF」と言いたくなるような、正統派のホラー。小学生の女の子の一人称が巧みに効いてくる。彼女の語りによって、ジワジワと事態が掴めてくると共に、ヤバい事態が明らかになって…

 韓松「まなざしの恐怖」立原透耶訳。難産の末に生まれたのは男の子。ただし目が十個あった。さっそく翌日の新聞に記事が載ったが、それ以上の取材は病院が拒んだ。研究者たちは子供を調べたが、遺伝的には普通で突然変異もなかった。夫妻のもとには未確認飛行物体研究会など得体の知れない連中も押し寄せ…

 男の子も両親も看護師も研究者も、個人名は全く出てこないので、語り口はやや突き放した雰囲気がある。夫妻の周囲が騒ぎ立てるあたりは、ドタバタ喜劇の空気も漂う。のだが、オチはやっぱりホラーだった。

 ジェフリー・フォード「秋の自然誌」鯨井久志訳。十月末の午後、リクとミチはオープンカーで伊豆半島に向かう。雇い主が、伊豆の温泉旅行を手配してくれたのだ。宿で迎えたのは、女将のチナツ婆さんと、ポニーと見まがうばかりの犬。

 お話の骨組みは、ちと懐かしい昭和後期の空気が漂う。旅行先も伊豆だしね。人気のない旅館に老婆と異様に大きい犬って舞台も、当時の作品の匂いがする。意図してそう書いてるんなら、たいしたものだ。

 連載小説。

 山本浩貴(いぬのせなか座)「親さと空」第1回。2029年。新型コロナウィルスの新たな変異体が現れる。致死率は低いは感染力は強く、困った後遺症を残す。最近の記憶が残りにくいのだ。感染者を補助するシステムノーカーは使用者の日々の記録を録り解析し学習し、その人「らしさ」を模倣・拡張する。いわば個人のパートナーとなる…

 2021年6月号の異常論文特集の「無断と土」以来の登場。ならきっとヘンな作品なんだろうなあ、と思ったら期待以上にヘンな作品だった。普通に地の文で始まるが、なんやらの報告書や日記や詩も乱入し、時事ネタも混ざって独特の世界が広がってる。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第61回。リバーサイド・ホテルに立てこもるラスティらに立ち向かう、イースターズ・オフィスと<クィンテット>連合軍。死地に赴くアビーを心配するバロットだが…

 これもまたホラーSF特集号に相応しい回。ただしジワジワくるタイプじゃなくて視覚的でスプラッタな方向。いつもながら銃弾が飛び交うガン・アクションに加え、今回は接近して刃物で切り合うバトルも。

 吉上亮「ヴェルト」第二部第八章。1794年45月7日。健康を回復したマクシミリアン・ロベスピエールは大公安委員長として権力を掌握し、議会の演説で<最高存在>の祭典の開催を宣言する。革命以来、地方では軍が内乱鎮圧で民を虐殺し、パリではサンソンが連日の処刑を行っていた。

 フランス革命の暗黒面を見せつける回。パリの暴動や多数の処刑は物語でもよく描かれるが、地方での虐殺は知らなかった。通信手段も発達していないこの時代、パリの意向を全国に浸透させるのは難しかっただろう。そのツケは民が払う羽目になったんだなあ。

 飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第29回。<夏の区界>が、<青野の区界>に入ってくる。<ちびっ子>を迎えうつ八岐大蛇。園丁たちは鯨から離脱し…

 自分が電脳空間内のAIだと知っているAI、なんてややこしい存在が当たり前に動き回るこの物語、この回では更に他の区界をはじめ様々な「次元」の存在が乱入してきて、何がなんやら。

 読み切り小説。

 藤田祥平「疑似家族」。永井荷風や内田百閒や井伏鱒二を敬愛する作家の三好正数は、生活苦で妻に逃げられ子も奪われた。ヤケになって今風の芸風で出した新作は売れたが気分は晴れない。そこで友人に勧められたのが東京ファミリーレンタル。家族のフリをしてくれるサービスだ。

 インドには奥さんと子どものフリをする高級売春宿があるって話をどこかで聞いたが、真偽は不明。古典を今風にアレンジって、例えば国を追われたお姫様や悪役令嬢が異国で成り上がり云々って、シェイクスピアのリア王の焼き直しとも言えるよね。

 夏海公司「八木山音花のIT奇譚 遮真」。展示会で馴染みの編集者に会ったライターの笹木律は、請われて編集者の写真を撮る。その写真には、いないはずの記者が写っていた。不思議に思い、笹木は八木山音花に相談すると…

 そうそう、最近のカメラはとっても賢くなってるんだよなあ。プロセッサの速度が上がり、昔なら数日かかる処理が一瞬で終わる。更にAIの進歩が拍車をかけて。ってな現状を基に、ホラーSFR特集号に相応しい展開に。

 麦原遼「魔法使い時代の入眠時幻像」。20年あまり、王国の<聖地>と呼ばれる地のひとつで過ごしてきた。昼に初級の生徒たちを連れて、基本的学習用の庭を歩く。ものを指して呼び方を教える。生徒たちが復唱する。ある生徒が「今、違ってる」と指摘した。最近来た子だ。

 魔法のしくみがとても斬新で驚いた。このしくみが生み出す効果と、人びとの対応策も素晴らしい。魔法なんでジャンルはファンタジイなんだけど、仕掛けの面白さにはセンス・オブ・ワンダーが詰まってる。長編のシリーズにしてもいいぐらい独創的で見事な言語ファンタジイ。

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2025年7月 3日 (木)

SFマガジン2025年8月号

「きみたちは飢えた人たちを救え」
「世界のそれ以外の部分は、ぼくが救う」
  ――ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 後編」酒井昭伸訳

「単刀直入に申し上げますと、本船は海賊によって包囲されています」
  ――辻村七子「博士とマリア」最終回

「彼の世界へのまなざしには奇妙なところがあります。ここにあってここにないものをみている」
  ――吉上亮「ヴェルト」第二部第七章

「さあ、皆さん、血を流しましょう」
  ――津久井五月「カササギを絞め殺す」

「おれは、その仏様を斬っちまった」
  ――「天正アポカリプス」

 376頁の標準サイズ。

 特集はスプロール・シリーズの新版刊行にあわせ「ウィリアム・ギブスン特集」。作品紹介とギブスンへのインタビュウーに加え、解説やエッセイなど。

 小説は8本+3本。連載が5本+ショートショート3本、読み切りが3本。

 連載小説5本+3本。辻村七子「博士とマリア」最終回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第60回,吉上亮「ヴェルト」第二部第七章,夢枕獏「小角の城」第82回,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第28回に加え、田丸雅智「未来図ショートショート」3本「世界を写す」「リサ先生の保育」「クラフトミート」。

 読み切り小説は3本。津久井五月「カササギを絞め殺す」,高木ケイ「天正アポカリプス」,ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 後編」酒井昭伸訳。

 連載小説。

  辻村七子「博士とマリア」最終回。ドクターとマリアⅡの船は、海賊船に包囲される。乗り込んできたのは因縁の相手、モルセ。かつて組織の同僚であり、ドクターの妻マリアを殺した男。そのコルセが求めたのは…

  相当に深刻な状況で深刻な話が展開するにも関わらず、空気を読まないマリアⅡの茶々のお陰で、なんとも間の抜けたユーモラスな雰囲気になるのが、この作品の楽しい所。今回は、ある意味怒涛の展開なんだが、読後感はクールでユーモラスな感じが星新一の作品に少し似てる。

  冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第60回。ケネス・C・Oらを人質としたラスティ達が立てこもるリバーサイド・ホテルを、イースターズ・オフィスに楽園とマルドゥック市警察そしてクインテットまでもが加わって襲撃が始まる。バロットたちは首尾よくケネス・C・Oたちを見つけたが…

  エンハンサーたちが入り乱れての激しいバトルが始まる回。襲う側も迎え撃つ側も、それぞれに成長してる。ラスティは登場時から凶悪な戦士だったが、今回は更にパワーアップしてる。バジルも能力に磨きをかけ、細かいながらも便利で意表を突く使い方をマスターした。

 吉上亮「ヴェルト」第二部第七章。トューロン包囲戦で傷を負ったナポレオンを送り届けたアンリ・サンソンンはパリに戻ってきた。大公安委員は次々と粛清を進める。その長を務めるマクシミリアン・ロベスピエールは、健康を害して療養中だった。

 作中のロベスピエールは生真面目で潔癖な理想家で、特に今回は病を患っているらしく線の細さも感じさせる。自由を標榜して起こした革命であるにも関わらず、政権の不安定さから検閲を施行して言論の自由を押しつぶしてしまうあたりは、なんとも。

  飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第28回。<夏の区界>の敵意に晒され、<青の区界>の変異は進み、計算資源はぎりぎりまで搾り取られる。子供たちが高校へ行っているあいだに閑散としている青野の町は、風すらも止み…

  海苔子ちゃん、満を持して登場…と思ったら。今さらになって、<青の区界>は高校生たちのための町なのだ、と思い知る。鯨の登場場面では、あの怪作「神鯨」を思い浮かべた。ところでVR空間を舞台にした作品は魔法や錬金術が使えるけどSF扱いになるんだろうか?

 読み切り小説。

 津久井五月「カササギを絞め殺す」。ミミテク。耳道に隠したスピーカーとマイクに加えコンタクトレンズで、その場に相応しい言動をAIが示す。慣れないと使っているのがすぐバレるが、佐野典真は幼い頃から鍛え、自然に「浅見天馬」として振る舞える。この特技を活かし、カモを見定めるため高級カジノに乗り込んだ。

 うわあ、欲しいぞミミテク。別にスターになりたいワケじゃない。普通の常識人として振る舞えれば充分、と思うのは私だけじゃないはず。流行りのAIに流行りの裏家業を組み合わせながらも、実に人間臭いドラマに仕立てた腕は見事。少し星新一の「肩の上の秘書」に似たアイデアながら、小説としての感触は全く異なるのも、「SF小説」の可能性を感じさせてくれる。

 高木ケイ「天正アポカリプス」。城は包囲され、中の者はみな飢えている。昨日、百姓には汁が一杯だけ。具はほぐした縄。妙な夢を見て、起きたのは日がすっかり上ってから。乞食坊主に相談に行くが…

 一人称が「ぼく」だったり「おれ」だったり。上からくる混乱かと思ったが、どうも違う。とはいえ、語り手の見聞きした事柄はあまりにも異様。映像化したら、かなり強いインパクトを持つだろうなあ。

  ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 後編」酒井昭伸訳。ジョナサン・テルジアンの行方不明の三週間を追う、人魚のミッシェル。そこに聞こえてくる、かつての恋人ダートンの声。「ミッシェル、愛してる」。今は見つかっていないが、時間の問題だろう。どう対処すべきか?

  近未来のテルジアンの場面と、遠未来のミッシェルの場面が交代で話は進む。テルジアン側は現代の国際社会の暗い部分を、これでもかと突きつけてくる。新薬開発の偏りとかね。アフリカでエイズが蔓延した理由の一つでもあるんだよなあ。ミッシェル側の展開は実に意外だった。

  「ウィリアム・ギブスン特集」で、千葉県知事の熊谷俊人が登場。なぜって、この人、元チバシティ市長だから。取材する編集部は市議会議員時代の議事録まで読み漁る準備万端ぶりに頭が下がる。たった6頁の記事に、そこまで準備するとは。受ける県知事側も選挙で選ばれる政治家に相応しく、雄弁に語る語る。

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2025年5月14日 (水)

SFマガジン2025年6月号

「シザースが背後にいる。全ては仕組まれたことだ」
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第59回

「俺たちは今、変わりゆく世界そのものを構築する戦争、その先端に立っているんだ」
  ――吉上亮「ヴェルト」第二部第六章

 376頁の標準サイズ。

 特集は「大阪・関西万博/バーチャル大阪パビリオン特集」。大阪パビリオン推進委員会のディレクターを務める佐久間洋司を中心として、公式ストーリーの「ユーダイモニア」冒頭や関係者のインタビューなど。

 小説は9本+3本。連載が5本+3本、読み切りが4本。

 連載小説5本+3本。辻村七子「博士とマリア」第3回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第59回,吉上亮「ヴェルト」第二部第六章,夢枕獏「小角の城」第81回,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第27回に加え、田丸雅智「未来図ショートショート」3本「シェアボディー」「フォードシェフ」「おっちゃん」。

 読み切り小説は4本。佐久間洋司原案・監修+結城紫雄著「ユーダイモニア」冒頭,安野貴博「月面の弁護人」,暴力と破滅の運び手「ミッドナイト・イン・トロカデロ」,ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 前編」酒井昭伸訳。

 連載小説。

 辻村七子「博士とマリア」第3回。大企業HAPの関連企業の関連企業の船で、シュロたちは同じ部屋に寝泊まりして働いていた。朝の4時から20時まで働きづめ、食事は気まぐれ。仕事は養殖真珠の絡むきとえり分け、器用で目がいい者が役立つため、若い女が多い。あまりに酷い雇用条件に、リーダー格のカンナが交渉に出向いたが、そのまま帰ってこない。

 大企業HAPのブラックぶりが如実に描かれる今回。朝4時から夜20時までの1日16時間労働だけでも無茶で、「こりゃ死ぬな」と思っていたら更にその先があり、思わず笑ってしまった。下手なタコ部屋すらしのぐ。いや笑ってるけど、現実の世界も確実にこの方向に向かってるんだよなあ。豹変する千代も楽しいが、更に…

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第59回。共感を失ったラスティは暴走し、今は人質をとってリバーサイド・ホテルに立てこもっている。事件は市を震撼させ、警察も大きく動き出した。ウフコックはシザースの筋書きだと断言する。事態の収拾に乗り出すイースターズ・オフィスに、ハンターらクインテットが協力を申し出る。

 ラスティが大暴れする前回に続き、そのラスティに振り回される周囲の人々を描く回。バロットとウフコックのコンビには安定感・安心感があるし、狡猾さを増したバジルを中心としたクインテットも単なるマフィアとは一線を画す組織としての強みがある。それだけに、両者が組む必要がある状況ってだけで、なんか不気味さを感じてしまう。

 吉上亮「ヴェルト」第二部第六章。ナポレオンに連れられ同盟軍が立てこもる要塞の攻略に付き合わされる処刑人サンソン。ここトゥーロンは王党派に加えスペイン・ナポリ王国・シチリア王国・サルディーニャ王国そして英国が力添えし、更にオーストリアからも援軍が来ると噂されている。その前に要塞を落としたいが、海からの補給を受けており…

 ナポレオンが名を挙げたトゥーロン攻囲戦(→Wikipedia)をネタにした回。今までは謎めいた存在だったナポレオンが、今回は意外なくらい心の内を語ってくれる。砲兵将校としての合理的な思考・世界観を基盤としながらも、この作品のテーマであるアレに気づいている彼は…

 飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第27回。文化祭の大災害により、町も高校も大きな被害を受けた。高校で生き延びた者は、生徒・教職員ともに1/4程度。校舎も大きく変容し、使える建物や教室も減った。それでも、生徒たちは学校に通う。

 何度も書いているが、登場人?物たちが、「自分は人間ではない」と知っているのが、本作の大きな特徴。今回の中心人?物である宇田広安が自宅で食事を摂る場面は、この作品の特異な設定を象徴する異様さに満ちている。

 読み切り小説。

 佐久間洋司原案・監修+結城紫雄著「ユーダイモニア」冒頭。都市<AO>の中心<ネクサス>の高層フロアで目を覚ます。突然に連れてこられたが、リオが巧みに案内してくれるので、大きな不安はない。トレーニングも成果が出て、外出が許された。「街全体が、大きな図書館みたい」と感動していたが…

 冒頭のみ収録。一種のユートピア物の体裁を取っている。平和で幸せな社会の中に、波乱を起こす者、本作品ではノアが居るのも、ユートピア物のお約束だろう。住む者が人間の姿をして人間の言葉を話し現代人に近い考え方をして現代の技術の延長に見える(だから直感的に使い方が分かる)ガジェットに囲まれているあたりは親しみやすい。

 安野貴博「月面の弁護人」。2042年。スティーブンは、弁護士から宇宙飛行士になり、緯度経度0つまり地球の真正面にあるNASAの基地でキャップテンを務めている。そこに国家航天局から逃亡者がやってきた。かの国とは関係断絶状態にあり、資源開発をめぐり競争関係にある。リンファと名のる逃亡者は…

 冒頭に宇宙条約(→Wikipedia)の引用、そして主人公スティーブンは弁護士。となれば想像がつくように、「いかに法の裏をかくか」をネタとした作品。13頁の短い作品ながら、「おお!」「そうきたか」と読者の予想を覆す鋭いアイデアが詰まっている。

 暴力と破滅の運び手「ミッドナイト・イン・トロカデロ」。1878年のパリ万博で建てられたトロカデロ宮に幽霊が出る。今は1935年、2年後の万博に備え、ロイック中堅技師は悩んでいた。トロカデロ宮を他の場所に移すか廃棄するか。上司のアルベール主任は優柔不断で頼りにならない。問題はパイプオルガンで…

 うおお、楽器の女王パイプオルガンだぁぁっ!そう、本作は滅多にお目にかかれないパイプオルガンSFなのだ。それだけで私のは星3個あげちゃう。なぜパイプオルガンが楽器の女王かって?そりゃね、他の楽器と違ってパイプオルガンは動けないから。だもんで、他の楽器と合奏する際は、他の楽器がパイプオルガンに調律を合わせるのだ。姿だって、楽器というより建物と呼ぶべき堂々たる迫力だし。

 ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 前編」酒井昭伸訳。島で過ごす人魚のミッシェルにダヴー博士から魅力的な仕事の依頼が来た。ジョナサン・テルジアンの生涯で、所在が掴めない時期が三週間ほどある。再び姿を現した時、彼の考え方は大きく変わっていた。未熟とはいえ相応に情報ネットワークが発達している時代だから、何らかの痕跡がある筈だ。

 技術も社会も大きく変貌した遠未来と、私たちの時代に近い世界が交互に語られる。かつてウォルター・ジョン・ウィリアムズはパチモンのサイバーパンクみたく言われてた。大量のSFガジェットをいちいち説明せず怒涛のように登場させる芸風はワイドスクリーン・バロックっぽいが、近未来のパートは船戸与一もかくやと思わせる昏く熱くディープなネタを扱っている。

 次号はウィリアム。ギブスン特集。訳者の黒丸尚も扱うんだろうか?

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2025年3月 9日 (日)

SFマガジン2025年4月号

こいつは問題機だ。
  ――神林長平「戦闘妖精・雪風 エピソード零 棘を抜く者」

戦争を始めることは無能な政治家でもできる。だが、戦争を終わらせることができるのは有能な政治家だけだ。
  ――吉上亮「ヴェルト」第二部第五章

母語以外の言語で映画を撮る場合、安心してトライできるのがSFというジャンルなのだと思います。
  ――『ミッキー17』監督ポン・ジュノ インタビュー

いやあ、驚いたね。
あいつが、ルーレットじゃなくて、スロットマシンだったなんてさ。
  ――草上仁「ルーレット」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「SF少女マンガ特集」として、マンガが再録3作+描きおろし5作に解説や作品ガイドなど。再録は萩尾望都「金曜の夜の集会」,大島弓子「サマタイム」,坂田靖子「ノスタルジー」。描きおろしは永野のりこ「地球をわれに」,吟鳥子「SFアリ」「少女の書くSF」「AIのSF」,白井弓子「あみ手の星」。

 小説は6本+3本。連載で4本+3本、読切2本。

 連載4本+3本。辻村七子「博士とマリア」第2回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第58回,吉上亮「ヴェルト」第二部第五章,夢枕獏「小角の城」第80回に加え、田丸雅智「未来図ショートショート」3本「新しい助っ人」「空の上の修学旅行」「バーチャル・レジデンス」。

 読み切り2本。神林長平「戦闘妖精・雪風 エピソード零 棘を抜く者」,草上仁「ルーレット」。

 まずは「SF少女マンガ特集」。

 萩尾望都「金曜の夜の集会」。8月最後の金曜日。小学生の男の子マーモは、夜に天文クラブでローエル・ボーエル彗星を見るのを楽しみにしていた…が、ルース先生に急用が出来て中止になってしまった。

 初出はSFマガジン1980年11月増刊号。マーモの友人ダッグのズボンなど、他の漫画家ならスクリ-ン・トーンを使うだろう所を手で柄をつけてる。お陰でシワの依り方がよくわかる。8頁目、丘の上から街を見下ろすコマは、この人のお得意の構図。

 大島弓子「サマタイム」。夏の夕食どき、小さな山村の送電線が切れて電話と電気が止まる。東京かあら里帰りするはずの信一は数日帰ってこない。実与ちゃんとの結婚を控えたトオルは、信一を迎えに東京まで行く羽目に。

 初出は別冊ララ1984年9月号。停電の場面こそベタで黒いが、頁が進むほどに頁は白くなっていく。人物だけで背景がないコマや、真っ白で文字だけのコマもある。こういう、「注目させたいモノ」に的を絞った描き方が巧みだ。

 坂田靖子「ノスタルジー」。水星には王国があった。王様は猫目石を磨くのが仕事だった。その日、ゼンマイが止まってしまった。王国のエネルギー危機だ。

 初出はSFマガジン1986年3月号。この人も頁が白い。世界観は素っ頓狂なのに、絵柄がユーモラスでトボけた感じのためか、妙に親しみを感じる。眼が点や線なのも、この人の独特の持ち味。

 永野のりこ「地球をわれに」。ハカセは創り上げた。マッドな願いを叶える装置を。地球をわがものにしようと、装置を起動し、大いなる者を召喚した…

 はい、そうです。十八番の理系メガネ男子と可愛い女の子のお話です。つか、この人、少女マンガに入るんだろうか? いや面白いからいいけどw

 吟鳥子「SFアリ」「少女の書くSF」「AIのSF」。いずれも8頁の短編ながら、綺麗にオチがついてる。あと、文字が大きいのが年寄りには嬉しい。

 白井弓子「あみ手の星」。この星の者はみな、いつも編んでいる。移民団が持ち込んだ工作機械の殆どが不良品で、無事なのは紡績機だけだった。なので人々は、あらゆる道具を自らの手で編み織るしかないのだ。

 これは貴重な編み物SF。白と黒の中間、グレーの使い方が巧みだ。

 連載小説。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第58回。<マリーン>の水上バイクに護衛されて<白い要塞>は運河を遡上し、波止場へたどり着く。波止場ではラスティにベンヴェリオらが迎えに来ていた。

 ラスティが突っ走る回。彼に振り回されるジェイクの不安がヒシヒシと伝わってくる。この作品、長さもすごいが登場人物の数もすさまじい。著者は全部、頭に入ってるんだろうか?

 吉上亮「ヴェルト」第二部第五章。公安委員会の部屋。処刑人のサンソンはロペスピエールに語る。「父祖より受け継いだ処刑人の職を辞したい」と。息子のアンリに継がせる気もない。革命の前から、処刑人は身分制度の外にいた。

 今回は狂信的なサン・ジュスト(→Wikipedia)とジョルジュ・ジャック・ダントン(→Wikipedia)などが登場するが、サンソンの奥さんマリー=アンヌがひときわ光る。

 辻村七子「博士とマリア」第2回。自分の姿はマシな方だ、そうブッサンは思っている。だが特別に美しいとは言えない、とも。美しくありたい、そう願い、日々の努力を怠らないブッサンは、とびきり美しい男を見かける。あの美しさを手に入れる手段があれば…

 前回はドクターとマリアⅡの掛け合いが楽しかったが、今回は両者ともに脇に回り、美を追求する男ブッサンが中心となって話が進む。巨大企業HAPが支配する世界で、そこらの労働者であるブッサンが貯めた額程度でどうにかなるとは思えなかったが、そこはそれ。

 読み切り。

 神林長平「戦闘妖精・雪風 エピソード零 棘を抜く者」。フェアリイ星、FAF。スーパーシルフの機体シリアルナンバー79113は問題機だ。乗ったパイロット一名が死亡、一名が負傷、フライトオフィサ一名が負傷、機外に放り出されたのが一名。そこに腕はいいが性格に難ありな新人パイロットがやってきた。

 この記事を書くため改めて流し読みしたら、だいぶ印象が変わった。最初は零と雪風に注目したんだが、今回はブッカー少佐に目が行く。クーリィ准将の無茶な要求と、徹底してマイペースな部下&機体の板挟みになってる少佐に同情してしまう。

 草上仁「ルーレット」。一時期は勢いづいていたが、今は老いぼれたガンブラー。残ったのは借金と、勝負のカタで手に入れたルーレットだけ。ルーレットったってモノじゃない。れっきとしたペットだ。今は六本足の。困ったことに、金貸しは見切りをつけたらしい。ならいっそ高飛びを、と考えたが…

 草上仁にしては長めの作品。主人公は裏社会で生きる者に相応しく、その場しのぎのセコい手を駆使して金貸しから逃げまくる。よく今まで生きてこれたなあ、と思うぐらい、しょうもないw 逃亡中もギャンブラーに相応しく、いちいち博打に出るのが楽しい。オチも酷いw

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