SFマガジン2026年8月号
コスモノートとは本来、孤独な仕事だ。そうだろう?
――塩崎ツトム「郷愁」「ぶら下がれる人間の数が、産業の価値をはかる物差しなんだ」
――長谷敏司「市民の歴史」第2回
376頁の標準サイズ。
特集は堺三保監修で「巨大ロボットSF特集」として「巨大ロボットSF映像作品総解説」ほか。
小説は6本。連載が5本、読み切りが1本。
連載小説は5本。冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第66回,長谷敏司「市民の歴史」第2回,藤井太洋「宇宙島年代記」第2回,柴田勝家「朱子天外伝」第2回,山本浩貴(いぬのせなか座)「親さと空」第4回。
読み切りは1本。塩崎ツトム「郷愁」。
巨大ロボットSF特集。
巨大ロボットSF映像作品総解説が圧巻。多くの作品が頁半分ながら、4頁を占めるのが「機動戦士ガンダム」「スパイダーマン&《スーパー戦隊》シリーズ」,3頁が「機動武闘伝Gガンダム&《オルタナティブ》シリーズ」と「新世紀エヴァンゲリオン」,2頁が「マジンガーZ」「ゲッターロボ」なのは、やはり人気と影響力ゆえか。
ウクライナでもホルムズ海峡でもドローンが盛んに使われているが、人型ではない。巨大ロボット好きな者にとっては幸福な事だ。
堺三保の特集解説に曰く「ガンダム以降、巨大ロボットさえ出てくれば中身はとやかく言われないので創作者は好き放題できた」(意訳)には笑った。にっかつロマンポルノかよw 確かにそういう部分はあるんだろうなあ。
連載小説。
冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第66回。<白い要塞>で、バロットは兄のショーンと再会する。お互い過去を吹っ切れたようだ。船内ではイースターズ・オフィス側とクィンテットとの駆け引きが始まる。再び協力してグランタワーを襲うためだ。クィンテット側は主にバジルが主導し、荒っぽい言動で隠しつつ、たたかな交渉力を見せる。
今までの派手なアクションから打って変わり、静かで知的ながらも緊張感漂う駆け引きが展開する回。また、チラホラと影は見せつつも、実態は掴めない<シザース>の性質と正体が、少しづつ明らかになる。そして最後に衝撃の告白が。
長谷敏司「市民の歴史」第2回。2030年。基礎的な技術力と資本力がモノをいうAIの時代。世界をリードするのは米国と中国だ。日本はハードウェアもソフトウェア基盤も米国に乗っかっていた。その米国が従来の開放的な方針をガラリと変え、囲い込みに入る。何らかの形で基盤を抑えたいが、既に出遅れの感が否めず…
確かに最近のLLMを基礎とするAIの進歩はあまりに急激で、将来を考えると様々な不安が沸きあがる。またGPUやPC用メモリの値上がり具合は、資本力の影響の大きさを否応なしに実感させられてしまう。これを高度成長時代の道路などのインフラ整備に例えて理解しようとする政治家の発想には感心してしまった。そういう視点もあるんだなあ。
藤井太洋「宇宙島年代記」第2回。航宙実習に出たナルミたちはミーティングに入る。不規則な軌道を航行する幽霊船を捉える相談だ。他のメンバーにそれぞれ役割が割り振られる中、電気代謝ではない瑞乃は留守番となる。そこで土壇場でMODを入れてタイムキーパーを務めることになった。ところが肝心の幽霊船の正体は…
冒頭の日本共和国大使の宇登神真理と<コクナン島>市長ミサオ・サーラとの会談場面から、現在の<コクナン島>の厳しい状況が明らかになる。コーヒーがロブスタ種なのは、著者のベトナム滞在体験が活きているんだろうか。自転で疑似重力を作っているコロニーならではのロビーの構造が、いかにも著者らしくて唸ってしまった。
山本浩貴(いぬのせなか座)「親さと空」第4回。鈴木一平たちと語ってから、万葉と柚葉は同居を始め、共に様々な事をやりはじめた。万葉はmaYoの名で Vtuber 活動も始める。やがて、かつて柚葉がハマっていた奇妙なゲームの Ark--Chain を思い出す。そして共に遊んでいたマリアの連絡を取り、Ark-Chaim を送ってもらう。
インディーながら、というかインディーらしく、なかなかに奇妙で不気味な雰囲気の漂うゲームの Ark-Chain。ここまで読む限りでは、特にストーリーも目的もなく、そのくせ妙に現実の世界を舞台にしてるっぽいのが気になる。
柴田勝家「朱子天外伝」第2回。大潮の季節には潮流が川に逆流してきて、大きな波が発生する。大海嘯、ポロロッカだ、若者たちは丸太で大波乗りに挑む。そこに一人の老人が現れた。風波和尚、風狂僧として有名だ。大波に挑み、鮮やかに乗りこなす。祝いの烟炮が打ちあがる。それを見た朱熹と量憶は、何かを閃いた。
舞台は12世紀の中国のはずなのに、サーフィンだの処理落ちだのと奇妙な言葉が紛れ込むあたりが、いかにも胡散臭くて怪しげ。儒学者は堅苦しい印象があるが、禅僧だと何やっても「禅だし」で納得できちゃうあたりは、仏教の懐の深さ…と言えば聞こえはいいが、いい加減さだよね。
読み切りの塩崎ツトム「郷愁」。2174年、太陽系に向かう反物質小天体<黒の正方形>が見つかる。諸国は大急ぎで観測衛星を送りだす中、大中華航空公司は火星テラフォーミング用の衛星を転用する。かつて高級観光宇宙ステーションで働いていたわたしは、就労要件に従い顔をユーリー・ガガーリンそっくりに整形した。今は<黒の正方形>観測観測で隊唯一の有人ステーションに乗員として乗っている。
反物質小天体はSF風味プンプンだが、それはあくまでも舞台装置。主なテーマは「ロシア的思想」だろう。ロシアが分裂し、中国が資本にモノをいわせロシア人宇宙飛行士を雇い、太陽系が富裕層の観光地となった世界で、古いロシア的思想にドップリ漬かったドミトリ・チチェーリンと「わたし」の出会いを描く。ウクライナ戦争で注目を浴びるロシアは何を考えているのか、その思想と国民性の根底を解き明かそうとする作品。
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