SFマガジン2026年6月号
――新時代の黎明を見て、幾度でも問い直されるべきは平凡な市民が幸福になれない未来の、何が素晴らしいのかということだ。
――長谷敏司「市民の歴史」「軍人が文官に殺される国家は、軍人が文官を殺す国家より良いからだ」
――柴田勝家「朱子天外伝」
376頁の標準サイズ。
特集は吟鳥子監修で「SF少女マンガ特集2」でマンガが3本+1本に加え、清水玲子のインタビューや「1980~2020年代のSF少女マンガ家ガイド」など。表紙からして「輝夜姫」の晶の麗しくも凛々しく仁義きってる姿だし。
小説は6本。特集で1本、連載が4本、読み切りが2本。加えてマンガ4本、、連載の横山えいじ「おまかせレスキュー」。
SF少女マンガ特集2のマンガ3本+1本は坂井恵理「#私が産みました」,Ququ「如意」,河野スイ「ホルプ家のとある日常」に加え、吟鳥子による特集解説コミック「少女漫画はずっとSFしている」。
連載小説は4本。冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第65回に加え新連載3本は長谷敏司「市民の歴史」,藤井太洋「宇宙島年代記」,柴田勝家「朱子天外伝」。
読み切りは2本。暴力と破滅の運び手「まるはだかの地球誌」,阿缺「雲鯨記」阿井幸作訳。
SF少女マンガ特集2。
吟鳥子「少女漫画はずっとSFしている」は、本特集が採用されるまでの経緯を描いた作品。いわゆる「花の24年組」の後も優れたSF少女マンガが続々と出ているんだぞ、という熱意がひしひしと伝わってくる11頁。
坂井恵理「#私が産みました」。赤ん坊の育児でボロボロになった母親に薦められたネックレス状のアイテム、ネコタグ。その機能は…
生まれたばかりの赤ん坊は、食事や睡眠のサイクルも短くかつ不安定で、一人で育児を賄うのは相当に厳しい。そういや「もうダメかも 死ぬ確率の統計学」でも、幼児期の異常なまでの死亡率の赤さが数字で出ていた。オチも素晴らしい。私も欲しい。
Ququ「如意」。人気アイドルのMIAと、かつて少しだけ付き合っていた青年は、街角でテック企業に勤めているという技術者に声をかけられる。その話というのは…
出だしから、背景に独特の味がある。輪郭はシャープながらも柔らかみのある線で描かれる、近未来の渋谷を感じさせる街の風景が、明るく華やかながらもよそよそしい都会の夜の空気を巧く醸し出している。
河野スイ「ホルプ家のとある日常」。荒れ果て草木が生い茂る庭に置かれた棺桶。そこから出てきた娘は、短剣を持っている。石造りの城のような建物に入り、螺旋階段を昇ると…
他の三作は、少女マンガというより青年誌やレディース・コミックが似合いそうな絵柄なのに対し、本作は私が想像する少女マンガの絵柄に近い繊細な感じ。大胆なコマ割りも、少女マンガの特徴だと思う。
宇垣美里インタビュー「サバイブするための少女マンガとSF」。「最近は少女マンガと少年マンガという分類自体があいまいになってきていますよね」。それ言ったら三日三晩の討論が始まってしまうぞw 「きらら」系は少女マンガなのか、とかw 「瑠璃の宝石」なんてセンス・オブ・ワンダーてんこ盛りだし。SFじゃないけど。あと竹本泉や須藤真澄も分類は難しい。
連載小説。
冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第65回。ノーマ・オクトーバーは、弱毒化したウイルスを授けようとハンターに提案する。ハンターはしばらく意識を失い、<クインテット>の仲間からも切り離されるだろう。ノーマの目論見を見抜けぬまま、ハンターは処置を受ける。イースターズ・オフィスに身柄を拘束されたホスピタルは、尋問に素直に応じるが…
戦闘の終盤でシザースの恐るべき能力と、カギを握る人物であるホスピタルの暗躍と目的が明らかになった前回に続き、今回もクインテット・オフィス共に大変な危機へと投げ込まれる。シザースの複雑怪奇な内情と、それに抗うハンターとバロットそしてバジルの奮闘も読みどころ。
長谷敏司「市民の歴史」。2029年。AI研究者の竜宮千里は壮大な意図を持って米国から日本に戻る。テーマの一つは脳の構造をAIで推測する研究で、脳神経学者の小鍛治陽子との共同研究だ。研究にはカネが要る。特にAI研究は、いかに多くのGPUを確保するかが鍵だ。そのためには実績が必要で…
2026年現在、既にGPUとメモリがAIの研究/開発で爆買いされ品不足になっていて、カネのある者の勝ち、みたいな感があって、それを巧く描いていると思う。歴史的に、これに似た状況は、鉄鋼と鉄道だろうか。AIが最も進出しにくい分野は政治だと思っていたが、そこも政局の変動を折り込むことで「そうきったか~」と唸ってしまった。
藤井太洋「宇宙島年代記」。2326年。16歳の宇登神瑞乃は<コクナン島>に転校する。先行ラグランジュ点にある円筒形をしたオニール型のコロニーだ。島民の多くはMODと呼ばれる人体改造措置を受けている。慣れない人口重力などに戸惑いながら転校の挨拶を済ます。思ったよりクラスメイトは親切に受け入れてくれたが…
遠心力による疑似重力のクセや宇宙空間における距離感・速度感などの科学的な背景から、コロニーがいかにして稼ぐかといった経済的な問題まで、藤井太洋らしい説得力に満ちた考証にはにたすた唸らされるばかり。クセは強いがシッカリした同級生たちにも好感が持てる。しかも、連載初回からさっそく騒動と冒険の予感が。
柴田勝家「朱子天外伝」。金の侵略により宋は臨安府に都を移す。役人である父の朱松に連れられ、朱熹も臨安府へ移り住む。11歳の時、朱熹は町の商人の子らに袋叩きにされる。都は元から住む者と、遷都により移り住んできた者とがいがみあっていたのだ。運河では金との戦いに赴こうとする岳飛将軍とその息子の岳雲が、船で民衆の歓声を浴びている。
舞台は南宋の曙時代。主人公の朱熹は朱子(→Wikipedia)、岳飛(→Wikipedia)も中国では人気の武将らしい。後に学者として名を成す朱熹が、幼いながらも理屈っぽいのが、いかにもな感じ。そして、彼の前に現れた量憶と名のる少年は、本作のカギを握っているようで…
読み切り小説。
暴力と破滅の運び手「まるはだかの地球誌」。劇場で働いていたおれは、異様な空間にいた。どこからか声が聞こえる。「あなたがたの宇宙は、評価が終われば恒久的なエネルギー源として利用されるでしょう」。何を言ってるのかわからんが、宇宙が滅びるっぽい。
2024年10月号掲載の「あなたの部分の物語」路線のお話。調べたらディミトリス・パパイオアヌーは実在の振付家らしい。確かに何を考えてそんな振付にしたのかわからんw
阿缺「雲鯨記」阿井幸作訳。恋人だった阿葉の遺骨を地球に持ち帰るため、僕は惑星ビーモンを訪れた。ここには雲鯨が住む。別の惑星カーの海に生まれ、星々を旅してビーモンの金色海に泳ぎ着く。金色海は重力を打ち消す物質F937を微量に含んでいる。雲鯨はF937を体内で濃縮し、空を飛ぶ。そして雲鯨の血を狙う密猟者もビーモンに集まり…
2月号の「架空生物特集」の続き?に相応しい、奇妙でダイナミックな生物の雲鯨が魅力的な作品。いや捕鯨保護派の私としては、いささか複雑な気分なんだが。密漁の方法も、日本の捕鯨の特徴である母船を中心として複数種の船による船団方式だし。それはともかく、雲鯨に空を飛ばせる仕掛けは見事。
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