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2026年3月31日 (火)

マイケル・ブラストランド+デイヴィッド・シュピーゲルハルター「もうダメかも 死ぬ確率の統計学」みすず書房 松井信彦訳

危険はいつどこにでもある。そして、どれをとっても例の2つの顔をもっている。無感情で型にはまった、計算に徹する顔と、人間くさい希望と恐怖に満ちた顔だ。
  ――はじめに

避妊薬、子宮内避妊具、インプラント、注射は99%の効果があるとされ、したがって1年後に妊娠するのは100人中1人未満と予想される
  ――8 セックス

個々の殺人は予測できないが、その数とパターンは予測できる。
  ――22 犯罪

確率とは混乱そのものなのである。
  ――27 審判の日

【どんな本?】

 危険はあらゆる所にある。道を歩けば交通事故にあうかもしれない。盛り場ではチンピラに絡まれることもある。病気で亡くなる人は多い。博打で有り金をスる人もあれば、薬物中毒で廃人になる人も。

 人生には様々なリスクがある。予防接種にしたって、人によっては副作用に苦しんだりする。だが、受けなければ伝染病にかかりかねない。

 いずれにしても、そこには利益と不利益がある。一人にとっては重大な事態だが、社会全体で見れば一定の法則が見えてくる。つまり、確率だ。大抵の国では、毎年の交通事故の件数がいきなり変わることはない。

 英国のジャーナリストと統計学教授が、人が見舞われる災厄について、主に英国の統計を用いてそのリスクを明らかにするとともに、災厄が引き起こす事態を物語形式で語る、少し変わった統計と確率の解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Norm Chronicles: Stories and Numbers About Danger and Death, Michael Blastland + David Spiegelhalter, 2013。日本語版は2020年4月10日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組み本文約364頁。9ポイント48字×20行×364頁=約349,440字、400字詰め原稿用紙で約874枚。文庫なら厚い一冊か薄めの上下巻ぐらい。

 文章は比較的にこなれている。ジャーナリストの著作のためか、英国人っぽい紛らわしいジョークも控えめ。一般向けを目指しているだけあって、内容もわかりやすい。中学生でも充分に読みこなせるだろう。

【構成は?】

 「はじめに」と「1 人生のはじまり」だけは最初に読もう。以降の章の基礎となる設定を語っている。以降の章は、気になった所だけを拾い読みしてもいい。

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  • はじめに
  • 1 人生のはじまり
  • 2 乳児期
  • 3 暴力
  • 4 平穏無事
  • 5 事故
  • 6 予防接種
  • 7 偶然の一致
  • 8 セックス
  • 9 薬物
  • 10 大きなリスク
  • 11 出産
  • 12 ギャンブル
  • 13 平均的なリスク
  • 14 偶然
  • 15 交通機関
  • 16 エクストリームスポーツ
  • 17 ライフスタイル
  • 18 安全衛生
  • 19 放射線
  • 20 天空
  • 21 失業
  • 22 犯罪
  • 23 手術
  • 24 検診
  • 25 老後のお金
  • 26 人生の終わり
  • 27 審判の日
  • 謝辞/索引/原注

【感想は?】

 統計と確率の本だ。それも、少し変わった構成になっている。

 統計も確率も数字だ。だがヒトは数字に弱い。直感的に数字を理解できる人は少ない。けど、物語には強く心を動かされる。だから、本書お各章は、大雑把に二部構成になっている。具体例を物語で示し、その後で数字を示していく。

 正直、私はこの物語パートは余計だと感じた。ぶっちゃけ、物語作家としては…まあ、アレだ。

 その分、数字を示すパートは良くできていると思う。特に感心したのが、二つの概念、マイクロモートとマイクロライフだ。

主として用いるのが、(略)マイクロモート(Micro Mott, MM)(略)で、死亡確率1/100万のことである。
  ――1 人生のはじまり

マイクロライフとは(略)30分である。
  ――17 ライフスタイル

 ソレがそれだけヤバいかを示すのがマイクロモートだ。要はパーセントの1万分の1なんだが、少数より整数のほうが直感的に分かりやすいのだ。

 そしてマイクロライフは、ソレでどれだけ寿命が縮むかを示す数字だ。こんな風に使う。

たばこ1本で平均余命は平均約15分短くなる
  ――17 ライフスタイル

 かなり切実に伝わってくると思う。

 ちなみに、統計の大半は英国の数字を用いている。日本とは異なるが、同じ島国の先進国だから、大きな違いはないだろう。

 お話は、まさしく「ゆりかごから墓場まで」の順に進んでゆく。まずは乳児の頃だ。

(乳児の)危険の大半は最初の数週間に集中しており、(略)最初の誕生日を迎えたなら、1年あたりのリスクは激減して、1歳になるまでの年4300MMから、7歳児の年100MM未満になるまで、あるいは全原因で1日あたり約1/4MMにまで下がる。
  ――2 乳児期

 昔は乳児の死亡率が高かった。現代でも途上国はそうだ。そして先進国でも、乳児の死亡率が高い。そもそも乳児は死にやすいんだろう。人類、よく今まで存続できたなあ。

 当然、産む側の負担も大きい。そして産んだ後も。

新生児の母親の10~15%前後が(産後うつに)悩まされる。
  ――11 出産

 前世紀はあまり話題にならなかった産後うつだが、実際にはありがちな事らしい。育児休暇の必要性がよくわかる数字だ。

 どうにか乳児期を過ぎても、親の心配は尽きない。その一つが犯罪に巻き込まれることだ。しかし…

あなたが親なら、平均的にいってわが子に対する断トツで最大の暴力リスクは、あなたである。
  ――3 暴力

 いわゆる児童虐待だね。そして…

殺されるリスクは15歳未満の子供のほうがどの年齢層よりも低く、年2~3MMほどだ。子供が1年かけてさらされる殺害リスクは、平均的な大人が数日単位でさらされている不自然な原因による急死の標準的なハザードと同じである。
  ――3 暴力

 これは老人にも当てはまるようで。

65歳ともなると、暴力犯罪のリスクは20代前半の男性と比べて1/10未満となる。(略)
イギリスで女性が暴力犯罪の犠牲になる確率は男性の半分だ。
  ――22 犯罪

 と、案外と子供と老人は犯罪の被害にあいにくい。最もヤバいのは若い男だったりする。これは事件ばかりでなく、事故も…

子供はほかのどの年齢層と比べても事故死の可能性は格段に低い。
  ――5 事故

 もしかしたら、その理由の一つは、親をはじめ周囲の大人が子供を見守るようになったおかげかも。

 日本でも、昭和に比べれば社会は子供に注意を払うようになった。これを逆に危ぶむ声もある。

子供の事故件数が一部低いのは過保護のせいかも知れず、子供は何も学ばずに大人になって代償を払うことになる、という主張をHSE(イギリス安全衛生庁)が受け入れているらしい
  ――5 事故

 最近の子供はヤバい事・所に近寄らない。だからヤバさが分からず、妙な所に踏み込んじゃうかもしれない。そんな心配だ。もっとも、これについては、「らしい」で、明言は避けている。

 先に書いたように、大人の方が暴力事件に巻き込まれやすい。テレビでも、殺人事件の報道が相次いでいる。マスコミが私たちの判断に与える影響は大きく…

何かに命を奪われかねないという心配が募るのは、命を奪われる確率が高いからではなく、テレビに向いていそうだからなのだ。
  ――4 平穏無事

手に入るどのデータを見ても長期的な傾向は横ばいか減少なのだが、イギリスではここ10年で犯罪が増加していると思われており、その根拠をちまたで聞いてみるとメディア報道が挙がる。
  ――22 犯罪

 と、こと細かな事件の報道があるたびに、私たちの心は怯えるのだ。

 新型コロナでも、予防接種の是非が話題になった。なんであれ、予防接種には多少の副作用が付きまとう。私の知人にも、腕の痛みを訴える人がいた。その程度ならともかく、重い副作用に見舞われた、なんて話もある。が、これも、ある程度は確率と統計の問題だ。

どのような大規模介入においても注射時期に前後して必ず悪い物事が起こる
  ――6 予防接種

 「注射時期に前後して」と言うと何か関係がありそうだが、世界はいつだって「悪い物事」が起きているのだ、どこかで。まあ、さすがにホルムズ海峡封鎖と予防接種を結びつける人はいないだろうけど。いなよね?

 医師の多くは予防接種を薦めるが強制はしない。というか、最近の医師はだいぶ態度が柔らかくなったように私は感じる。昔はもっと偉そうで独善的だった。まあ私が歳をとったから、かもしれないけど。

今日の医療はミスや不確かさを受け入れる間口を広げる段階に達しつつあり、ミスのリスクがあることや快方に向かわせている/いない本当の要因がわかっていないことを、従来よりも積極的に認めている。
  ――23 手術

 これは私も最近になって体験した。とある問題が見つかり原因を尋ねたところ、医師曰く「わからないですね~」だった。いや今は特に症状が出てなくて、困ってもいないんだけどね。

 さて、そんな予防医療や検診だが。擬陽性だの偽陰性だのの問題もあるが…

ヨーロッパで行われた男性18万2000人を対象とする調査では、11年後、検診を受けていいたグループで前立腺がんによる死亡が21%減っていた。これは男性1000人中1人の減少に相当することから、前立腺がんで死ぬ人を1人減らすには、1056人の男性に検診を受けてもらって治療の症例を37例増やす必要があるということである。
  ――24 検診

 そもそも「どれぐらい多い病気なのか」も重要なのだ。確率に加え、実際の数字も大事なんですね。

 確率ってのは直感に反するもので、完全にランダムな事象でも、いやランダムだからこそ、一か所/一時期にかたまる傾向もある。

真にランダムな事象にはまとまる傾向もある
  ――7 偶然の一致

 サイコロで6が出た際、次に6が出る確率が最も高いのは、何回目だろう? 実は1回目なのだ。

 事件や事故は避けるのが難しい。が、自ら危険に近づく人もいる。そんな危険の一つが、薬物だ。一般に薬物の危険を云々する際は、使用者本人の身に降りかかる危険に着目する場合が多い。が、本書が紹介する論は、社会全体や環境にも着目した危険度のランキングだ。

(使用者への害に加え社会や環境への害を計算し)算出されたランキングの最上位は72点のアルコール、ヘロインとクラックがそれぞれ55点と54点で続き、たばこは26点の6位、エクスタシーは(略)最下位に近い9点だった。
  ――9 薬物

 どう計算したんだろ? 社会への浸透度合いも考えたのなら、アルコールがトップなのも頷けるんだが。

 さて、本書では様々な危険とその度合いを数値で示している。じゃ本書で学べば安全に暮らせるか、というと、どうもヒトの心とはそれほど単純ではないようだ。

(法学教授のダン・)カハン(→英語版Wikipedia)の研究によると、新たな知識はえてして「みずからの情緒的および文化的気質を強化する形で」吸収される。
  ――10 大きなリスク

 たとえば酒が好きな人は、先に挙げたアルコールの危険度を軽く見るだろう。また、知識に耳を傾けるか否かは、「誰が言ったか」にも大きく左右される。

専門家の専門知識を、その専門家が自分の同類そうかどうか、自分と文化的姿勢を共有していそうかどうかで判断しているのである。(略)科学に知識が豊富な人ほどその傾向が強い。
  ――10 大きなリスク

 左派だから/右派だから、なんて理由で、専門家の意見の是非を判断する人は多い。あだ、「科学に知識が豊富な人ほどその傾向が強い」のは意外だった。この傾向は…

大きなリスク、すなわち何百、何千、何億もの人の身を危険にさらしかねないリスクは、文化的な認識に左右されがちである。
  ――10 大きなリスク

 大きなリスクの代表は、地球温暖化だろう。もはや科学ではなく政治問題だしなあ。

 さて、確率といえば、その成立から博打と縁が深い。まあ寺銭があるから、博打で勝つのは胴元と相場が決まってるんだが、寺銭の多寡は種類によって違う。

(イギリスの)カジノはルーレットに掛けられたお金の平均97.3%を還元している。
  ――12 ギャンブル

 意外と良心的なんだなあ。これ調べてたら、社会実情データ図録なんて面白いサイトを見つけた。テラ銭の割合なんてのも。宝くじは阿漕だなあ。

 さて日本のマスコミは統計データを発表する際、平均をよく使う。が、モノによっては平均は実情と大きく離れた数字になったりする。その例が収入だ、

イギリスでは約2/3の人の収入が単純平均より少ない。世界中の人を裕福な順に並べたなら、単純平均に当たる人の位置は下から3/4ほどになる。
  ――13 平均的なリスク

 こういうのは中央値または最頻値で発表して欲しいんだが、どうにかならんかね。

 もっとも、こういった統計や確率を駆使しても、どうにもならない事は往々にしてあるもので。

ドーソンは火災挙動分析官(FBAN)で、コロラド州で発生する森林火災の進路予想がその仕事である。
2012年、火災の挙動が危険なほど(コンピューターモデルでは)予測不能になりだし、(略)
(原因の)1つは甲虫の挙動の変化という、だれも検討すらしていなかったことだった。
冬にアメリカマツノキクイムシが押し寄せ、樹木を枯らして燃えやすくしていたのである。
  ――14 偶然

 これ、コンピューターモデルのばバグと言っていいんだろうか? あなた、どう思います?

 理屈じゃどうにもならない事の一つが、飛行機恐怖症だ。SF作家にもいる。確かレイ・ブラッドベリがそうだった。これも意外と多くて…

飛行機の恐怖症は(略)3~5%の人がとにかく飛びたがらず、17%ほどは「飛ぶのが怖い」ことを認め、30~40%はそこそこ不安になる。
  ――15 交通機関

 実際には自動車よりよほど安全なんだが、理屈じゃないんだよね、こういうの。

 ところが、敢えて危険に挑む人もいる。その一つがスカイダイビングやベースジャンピングだ。もちろん、事故も起きる。

アメリカのパラシュート協会の推定によると、2000~2007年には平均260万回のジャンプが行われた。(略)279人が亡くなっており(略)
詳細な検証によると、主な死者は何千回何万回と飛んできた経験豊富な愛好家だ。
  ――16 エクストリームスポーツ

 と、統計では、そういう事になっている。本書は「ベテランほど強いスリルを求めるから」と解釈している。が、別の解釈もできる気がする。飛ぶ回数が多い人ほど事故に見舞われる可能性が高いんでない?

 ダイビングは娯楽だが、仕事にも危険は付きまとう。ただ…

ILO(国際労働機関)では、2008年に全世界で20億人いた労働者に対して、5日以上の欠勤を要する負傷が3憶1700件、労災による死者が32万人と推定している。そのうち公式ルートで報告された死者数はわずか2万2000人だった。
  ――18 安全衛生

 数字が信用できるとは限らないのだ。にしても、剥離が大きすぎるだろ。いやこの数字、全世界なんで、途上国のデータも多く含んでるんだけど。

 もっとも、数字が出たからといって、それをキチンと解釈できるか否かは別問題。特に見えないモノは何かと惑わされやすい。その代表が放射線だ。単位もいろいろあるし。

シーベルト(略)は放射線暴露の生物学的影響を示す尺度である。
  ――19 放射線

 副島の原発事故では、様々な憶測が飛び交った。福島原発周辺で影響が最も深刻な地域の実効線量は10~50ミリシーベルト。全身CTスキャンでも、10ミリシーベルトの放射線を浴びる。なお、本書の刊行は2013年なんで、2026年の現在だと福島の線量は更に低くなっているはず。

 原発事故は人災だが、どうしようもない天災もある。その代表が隕石だ。これまた意外なことに、小惑星は頻繁に地球を訪れている。

差し渡し5~10mという(略)小惑星は、年に1度くらいふらりとやってくる。大気圏上空で爆発したなら、広嶋型原爆とだいたい同じTNT約1万5000トンに相当するエネルギーを放つと思われる。だが、ほとんどは目に触れないし、記録に残らない。
  ――20 天空

 マジかい。まあ小さいのは見つけにくいから、しょうがないね。じゃ大きければ見つけやすいし安全かというと…

恐竜を絶滅させた差し渡し10kmという大きさを超えるものは、基本的にはとめられないと見なされる。
  ――20 天空

 現代の技術じゃどうしようもないそうです。

 対して政府の政策次第にでどうにかなりそうなのが、失業率。やはり失業者は職に就いている者よりヤバいらしい。その原因は…

失業者に見られた死亡率の増加は、失業そのものが圧倒的なほど直接的な原因だった。
  ――21 失業

 やっぱり気落ちするのが大きいんですね。

 対して定年退職だと年金が出る。まあ現役時代より額は減り生活は苦しくなるが…

定年の段階で貧困に苦しんでいる人の大半は、その前から貧困だったのだ。貧困の引き金はおそらく定年退職ではない。
  ――25 老後のお金

 まあ日本も英国も、年金は現役時代の所得に応じて出るからなあ。これがいつまで貰えるか、つまり寿命となると。

イギリスの平均寿命はここ数十年、一定して年に3ヵ月延びている。
  ――26 人生の終わり

 途上国ならともかく、先進国でも寿命が延びているのだ。なお日本は既に世界トップクラスで、伸びは止まっている模様。ヒトの体の限界に近いんじゃなかろか。

 私の趣味で数字の部分だけをとり上げた紹介になっちゃったのは申し訳ない。その数字も、大半は英国の統計がネタ元なんで、日本人にはピンとこないかもしれないが、たぶん日本と大差ないと思う。この記事で挙げたように、数字が好きな人にお薦め。

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