西多昌規「眠っている間に体の中で何が起こっているのか」草思社
この本では、わたしの専門である脳をはじめ、心臓や肺、胃腸、骨や筋肉、免疫、内分泌、泌尿器、皮膚などが、睡眠中にどのような状態になっているのか、また睡眠不足によってどのようなダメージを受けるのかについて、過去の研究をひもときながらまとめています。
――はじめに
【どんな本?】
眠りについて書かれた書物や記事は多い。その多くは脳や神経系を扱っている。だが、「寝不足はお肌に悪い」などと言われるように、睡眠は体の全体に影響する。では、なぜ寝不足が肌によくないのか。睡眠は肌にどんな役割を果たすのか。眠っている間に、肌には何が起きているのか。
本書が扱うのは、肌ばかりではない。ホルモンで有名な内分泌系,感染症を防ぐ免疫系,胃腸などの消化器系,肺などの呼吸器系,心臓などの循環器系,骨と筋肉の筋骨格系,頻尿が困る泌尿器系,お肌=皮膚、そしてもちろん脳神経系など、機能で見た体のそれぞれの機構が、眠っている間に何をしているのか・どうなっているかを調べ、寝不足や睡眠の質の悪化が及ぼす影響を明らかにする、身近で切実で一般向けの科学・医学解説書。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2024年2月7日第1刷発行。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約296頁。9.5ポイント43字×17行×296頁=約216,376字、400字詰め原稿用紙で約541枚。文庫なら普通の一冊分。
文章はこなれていて親しみやすい。やっぱり日本語ネイティブが書いた本はいいね。内容も分かりやすいんだが、読み方にコツがある。というのも、専門用語がビシバシ出てくるからだ。脳下垂体やS状結腸など体の一部だったり、グレリンやレプチンなどの体内物質だったり。これらをキッチリ理解しようとはせず、言葉だけ覚えてテキトーに読み飛ばそう。それも最後まで覚えていなくてもいい。その章を読む間だけ、「そういうモノがある」と思っていれば充分。複数の章で出てくる言葉もあるけど、本書はその都度、説明してくれます。
【構成は?】
「はじめに」と「第1章」は基礎や用語説明なので最初に読もう。以降の章はほぼ独立しているので、気になった所から読んでも構わない。
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- はじめに
- 第1章 睡眠・生体リズムの基礎
- 1 睡眠段階 ノンレム睡眠とレム睡眠
- 2 睡眠はどこから生まれるのか? 睡眠中枢の話
- 3 覚醒を制御するオレキシン 覚醒と睡眠のコンロトーラー
- 4 朝の光を視交叉上核がキャッチして、交感神経を刺激する
- 5 眠りのホルモン? 謎の多いメラトニン
- 6 深部体温でわかる生体リズム
- 7 徹夜明けなのに眠りが浅いのはなぜか?
- 8 睡眠中に活動が低くなる交感神経、活発になる副交感神経
- コラム 睡眠中の寝返りは少ない方がいい?
- 第2章 眠っている間に内分泌系では何が起こっているのか
- 1 内分泌系にとって睡眠はなぜ重要なのか
- 2 内分泌系の基礎 ホルモンとは何か
- 3 ホルモンの24時間リズムは多種多様
- 4 成長ホルモン 「寝る子は育つ」は正しい?
- 5 コルチゾル 夜中に喘息発作が多いわけ
- 6 甲状腺ホルモン 寝不足でギラギラしてくるわけ
- 7 性ホルモン 不妊や月経前症候群は夜のホルモンが不安定になるため
- 8 ブドウ糖代謝 睡眠中に血糖値は上がる?
- 9 食欲と睡眠 睡眠不足だと太りやすくなる
- 10 ミネラル調節 寝不足は脱水になり易い
- 第3章 眠っている間に免疫系では何が起こっているのか
- 1 なぜ風邪をひくと眠くなるのか
- 2 免疫とは? 病原体から身を守る免疫、そして睡眠
- 3 睡眠不足だと風邪をひきやすくなるのは本当?
- 4 風邪や肺炎、膀胱炎、炎症反応って何? 急性炎症について
- 5 細胞間のSNS? サイトカイン
- 6 睡眠を生じさせるサイトカイン
- 7 風邪をひくと眠くなるが、睡眠は悪化する
- 8 睡眠不足によって機能低下するサイトカイン
- 9 がんやうつ病も炎症から? 慢性炎症の怖さと睡眠不足
- コラム 炎症と鎮痛剤、睡眠物質プロスタグランジン
- 第4章 眠っている間に消化器系では何が起こっているのか
- 1 寝る前に食べるとなぜ悪いのか
- 2 睡眠中の胃腸の動きと自律神経 朝にお腹が減るのはなぜ?
- 3 睡眠中は、胃に入った物が逆流しやすい
- 4 睡眠不足での胃の危機的状況
- 5 睡眠中も休まない働き者の小腸
- 6 大腸、肛門と睡眠、眠っている間に便が出ない精巧なメカニズム
- 7 睡眠中に胸焼けが起こる逆流性食道炎、睡眠時無呼吸症候群との意外な関係
- 8 過敏性腸症候群と睡眠障害との悪いサイクル
- 9 頑固な便秘「慢性便秘症」と睡眠 女性は寝すぎると便秘になりやすい
- 第5章 眠っている間に呼吸器系では何が起こっているのか
- 1 眠っている間の呼吸は不安定
- 2 眠っている間の呼吸筋の力は低下する
- 3 低酸素への反応も、睡眠中は鈍くなる
- 4 息苦しいと目覚めてしまうわけ
- 5 睡眠中はのどの空気の通り道がつぶれやすくなる
- 6 睡眠中は、肺での換気効率も悪くなる
- 7 睡眠時無呼吸症候群 頻度、症状、合併症
- 8 無呼吸はどうして人体に悪いのか1 交感神経系の過剰活動
- 9 無呼吸はどうして人体に悪いのか2 低酸素状態
- 第6章 眠っている間に循環器系では何が起こっているのか
- 1 日本人の1/3が高血圧
- 2 慢性的な睡眠不足では、血圧は上昇する
- 3 ノンレム睡眠中に血圧が下がるメカニズム
- 4 レム睡眠中に血圧が不安定になるわけ
- 5 睡眠中も血圧が下がらない危険なノン・ディッパーとは
- 6 オレキシン 隠れた睡眠中の血圧ペースメーカー
- 第7章 眠っている間に脳神経系では何が起こっているのか
- 1 眠っている間の記憶の整理と忘却
- 2 ノンレム睡眠中に素早く、かつゆっくり「振動」する脳
- 3 ノンレム睡眠中に「洗浄」される脳
- 4 レム睡眠中に血流が増加する脳
- 5 レム睡眠で脳は大人でも成長する?
- 6 睡眠中に活動を停止するドーパミンやセロトニン
- 7 夢を見る脳
- 8 睡眠不足で老化する脳
- 第8章 眠っている間に筋骨格系では何が起こっているのか
- 1 リカバリーとしての睡眠1 筋トレと睡眠
- 2 睡眠中に強化される筋肉
- 3 睡眠不足で壊れる筋肉
- 4 リカバリーとしての睡眠2 骨折と睡眠
- 5 睡眠で生まれ変わる骨
- 6 睡眠不足で壊れる骨
- 7 炎症は骨も筋肉も弱めてしまう
- 8 骨を強化する意外な立役者 レプチンと自律神経
- 第9章 眠っている間に泌尿器系では何が起こっているのか
- 1 睡眠中にトイレの回数が減る理由
- 2 子どもの夜尿症の原因は?
- 3 歳をとると困る夜間頻尿の3つの原因
- 4 睡眠不足で尿量が増える?
- 5 睡眠時無呼吸症候群と夜間頻尿の深い関係
- 6 妊娠中の夜間頻尿 がまんのし過ぎは、尿路感染症になりやすい
- 第10章 眠っている間に皮膚では何が起こっているのか
- 1 美肌には「ゴールデンタイム」だけで十分なのか
- 2 皮膚の構造とターンオーバー
- 3 成長ホルモンは皮膚のどこにはたらくのか
- 4 たるみ、シワ、乾燥、シミ……睡眠不足による皮膚ダメージ
- 5 寝不足の皮膚の血流低下と目の下の「クマ」
- 6 皮膚の酸化ストレスと睡眠
- 7 朝起きたら顔がむくむ、寝相が悪いとシワが増える
- 8 寝不足による見た目の劣化で社会から孤立する
- おわりに
- 参考文献
【感想は?】
本書のテーマは睡眠時の体の変化だ。が、医学に疎い私は、それ以前の、ヒトの体についての知識も有り難かった。もちろん、睡眠時の話も嬉しい。
なんたって、しょっぱなから驚かされた。体の一日のリズムについてだ。
生体リズムは脳にしかない、というのは間違いです。胃腸や肝臓、心臓、腎臓、皮膚、筋肉など、あらゆる末梢の組織に生体リズム、つまり時計遺伝子がインストールされています。
――第1章 睡眠・生体リズムの基礎
それぞれが独自にリズムを刻んでいるのだ。もっとも、ちゃんと同期をとる仕掛けもあって、脳の視交叉上核がマスター・クロックなんだけど。NTPサーバみたいなモンだね。
続く内分泌系は、ホルモンを扱う。ったって、ホルモン焼きとは少し違う。本書のホルモンとは…
細胞から血中に分泌されて、ほかの臓器や細胞に作用するメッセンジャー役が、ホルモンです。
――第2章 眠っている間に内分泌系では何が起こっているのか
一種の情報系だね。「落ち着け」と知らせるノルアドレナリンや、満腹を知らせるレプチンとか。ヒトの体は、神経に加えて化学物質でも情報の伝達・受信をしているのだ。恐らくだがホルモンの長所はブロードキャストな事だろう、P2PやDMではなく。
さて、ここでは多くの人が経験している事を裏書きしてくれる。つまり、寝不足と食欲の関係だ。
お腹が減って空腹になると睡眠時間は減ります。また睡眠不足になると、食欲は増えます。
――第2章 眠っている間に内分泌系では何が起こっているのか
そう、寝不足だと腹が減るのだ。当然、その結果としてブクブク太るのである。ダイエットには充分な睡眠も必要なのだ。
寝不足はダイエットに悪影響ってだけじゃない。風邪にもかかりやすくなる。
夜間の平均睡眠時間が5時間以下の睡眠不足の人は、7時間眠った人と比べて、4.5倍多く風邪にかかり、風症状が出やすい
――第3章 眠っている間に免疫系では何が起こっているのか<
うーむ、恐ろしい。コロナを防ぐには充分な睡眠も大事なのだ。ここでは、注釈にも美味しい話があった。
白血球は、好中球、リンパ球、単球(マクロファージ)、好酸球、好塩基球の5種類に分けられる。
――第3章 眠っている間に免疫系では何が起こっているのか
「はたらく細胞」では好中球だけが白血球扱いだったが、本書ではマクロファージなども白血球の仲間になっている。たぶん好中球・好酸球・好塩基球は、それぞれ中世・酸性・アルカリ性で活躍するって意味なんだろう。
私は朝起きた時には腹が減っている。だもんで朝食をガッツリ摂るタイプだ。眠っている間にも胃腸が働いてるんだろう、と思ったら、やっぱり。
脂肪をつくる「BMAL1」というタンパク質の活動が、午後10時から午前2時がピークになります。したがってこの深夜の時間帯に吸収された食べ物は、脂肪合成が促進され、脂肪として蓄積されやすい、すなわち太りやすくなります。
――第4章 眠っている間に消化器系では何が起こっているのか
夜更かしすると夜食が欲しくなるのはこのためか←たぶん違う そして寝る前に食べると太るって話は本当だったのだ。ここでは、寝てる間に大便が漏れない理由も書いてあった。睡眠中は腸の蠕動が不活発になるのだ。
お次は呼吸器系。ここでは睡眠時無呼吸症候群を大きく取り上げている。というのも、著者も睡眠時無呼吸症候群を患っているため。珍しいように思える病気だが…
日本における睡眠時無呼吸症候群の患者数は2200万人(30~69歳人口の32.7%)、CPAP治療を必要とする重症患者は940万人(30~69歳人口の14.0%)と推計されました。
――第5章 眠っている間に呼吸器系では何が起こっているのか
と、日本では隠れた患者がとても多い。だって自分じゃわからないし。なんか Apple Watch が欲しくなってきたぞ。ちなみに本書では後の章でも睡眠時無呼吸症候群がチョコチョコ出てくる。よほど注意喚起したいんだなあ。
第6章では循環器系、つまり心臓や血管の話。となれば、やはり出ました高血圧。
厚生労働省による令和元年(2019年)の国民健康・栄養調査を見ると、実に約3450万人もの人が、高血圧に当てはまります。
――第6章 眠っている間に循環器系では何が起こっているのか
もはや国民病だね。ここでも、寝不足は血圧を上げると書いてある。血圧が気になるなら、夜は充分に寝ましょう。
第7章は、睡眠の本命である脳の話。私も夢を見るけど、起きるとスグに忘れてしまう。忘れるだけで、実は…
人間の脳は、平均的な睡眠時間(約8時間)のうちに、約4.8時間にもわたる膨大な量の夢をつくり出している
――第7章 眠っている間に脳神経系では何が起こっているのか
と、とんでもなくたくさんの夢を見ているらしい。夢はレム睡眠でと言われるけど、実はノンレム睡眠中も夢を見ているそうだ。
次の第8章は、骨と筋肉。実は著者、早稲田大医学スポーツ科学学術院の教授で、これが本業。「Good to Go 最新科学が解き明かす、リカバリーの真実」にもあったように、アスリートにとっては睡眠も重要で…
トレーニング効果を上げるためには、筋肉が回復する2~3日間は、深いノンレム睡眠もレム睡眠も含む、十分な睡眠時間をとることが重要です。
――第8章 眠っている間に筋骨格系では何が起こっているのか
だとか。これは筋肉だけでなく、骨も同じ。
人間の体の中では、古い骨をつねに壊して、その場で新しい骨をつくるということを繰り返しています。
――第8章 眠っている間に筋骨格系では何が起こっているのか
寝不足だと、骨を壊す働きが盛んになり、つくる働きが鈍くなって、骨粗鬆症の危険が増します。年寄りはちゃんと寝ましょう。
お次は泌尿器系。歳をとると夜中に膀胱がいっぱいになって深夜に起きることが多くなるけど、若い人にも苦労はある。
(夜尿症は)3歳では3人に1人、5才では5人に1人、小学校低学年で10人に1人、中学生で20人に1人
――第9章 眠っている間に泌尿器系では何が起こっているのか
と、「おねしょ」の人も意外と多いのだ。中学生でも、クラスに1~2人はいる勘定だね。
終盤では「寝不足はお肌に悪い」理由を切々と書いてある。その代表が目の下のクマ。曰く…
睡眠不足のときにできるクマは、目の周りのうっ血、つまり血行不良によって生じます。目の周りの皮膚は、体の皮膚の中でももっとも薄いので、ちょっとした変化でも目立つのです。
――第10章 眠っている間に皮膚では何が起こっているのか<
これを更に深掘りすると…
睡眠不足では、交感神経系が活発になってしまい、細い血管が収縮してさらに細くなってしまうことが、血行不良の原因として考えられます。
――第10章 眠っている間に皮膚では何が起こっているのか
だ、そうです。また、寝室の温度や湿度もお肌の具合に影響があるそうで、あまし乾いてるとお肌が脂ぎってくるとか。
と、さんざん寝不足を警告してたけど、「じゃ何時間ぐらい寝ればいいのさ」となると、これが困ったことに…
「良い睡眠」とは、8時間以上たっぷりと長く眠る事でも、深いノンレム睡眠が多い睡眠でもありません。その人が「まあよく眠れた」と考えていて、日中に元気に活動できていれば、それが「良い睡眠」です。
――おわりに
なんてある。つまり、人によりけりなのだ。
専門用語が容赦なく出てくるけど、医師や医学者になるのでなければ、テキトーに流して読もう。一般向けの本なので、医学に疎くても大丈夫。小学校の理科で学んだ程度でも、充分についていける。素人向けに各臓器のしくみと働きから書いてあるし。全ての人に関係ある本だから万民にお薦めしたいが、ダイエット中や高血圧や美容に関心がある人には特にお薦め。
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