関根慶太郎監著 瀧澤美奈子著「読んで納得!図解で理解!『ものをはかる』しくみ」新星出版社
単位のルーツはどの民族でも、だいたい次の3系統に分類できる。
1 体の部分の長さや歩幅を尺度に利用した単位
2 自然の現象や物を尺度に利用した単位
3 生活習慣を尺度に利用した単位
――第1章 基本量のはかり方
【どんな本?】
「日本酒度」ってなに? 電気料金や下水道料金はどうやって決める? 「桜の開花」の基準は? 虹はどれぐらい遠い? 警察のネズミ捕りの仕掛けは? 乱視はどう調べる? 放射線の多寡は? マラソンのコースはどうやって決める? 地球の重さがなぜ判る? 星の重さは?
キッチンメーターや血圧計など身近な計測機器のしくみから、春のニュースの定番である桜の開花予報、科学と工学の粋である天文学まで、様々なコノ・コトのはかり方・決め方・数値化の方法を、豊富な写真とイラストで親しみやすく語る、一般向けの科学・工学解説書。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2007年7月25日初版発行。単行本ソフトカバー横一段組み本文約253頁。9.5ポイント26字×25行×253頁=約164,450字。各頁の上20%~40%程度はイラストや写真で、また文中にも図版が入ったりするので、文字数はもっと少ない。書名の「図解で理解!」は伊達じゃない。
文章は比較的にこなれている。ただ内容の分かりやすさは記事によりけり。工学系の学者の著書でありがちなように、得意分野だと高度な話がバリバリ出てくるのだ。数式も容赦なく出てくる。ただし加減乗除に累乗と平方根までなので、理屈では中学生でも理解できる…ハズ。いや私は読み飛ばしたけど。
【構成は?】
2~4頁の独立した記事が並ぶ構成なので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。各章の末尾にも1頁の独立したコラムがある。
クリックで詳細表示
- 第1章 基本量のはかり方
- はかり方の基本
- 第2章 感覚量をはかる
- 味覚をはかる
- 辛味をはかる
- 日本酒の味はどう表す
- アルコールの度数って何?
- 日本酒度をはかる
- 酸度をはかる
- においをはかる
- 包丁の切れ味をはかる
- 第3章 生活をはかる
- 重さをはかる
- 複雑な庭の面積をはかる
- 体積をはかる
- 地面の傾斜をはかる
- 水道使用量をはかる
- ガス使用量をはかる
- 電気使用量をはかる
- 電気料金をはかる
- タクシーメーターのしくみ
- パーキングメーターのしくみ
- 照明の明るさをはかる
- 電波の周波数をはかる
- 方角をはかる
- 磁力をはかる
- カメラのオートフォーカスのしくみ
- カメラの手ぶれ防止のしくみ
- 火災報知機のしくみ
- 第4章 自然をはかる
- 山の高さをはかる
- 海や湖の深さをはかる
- 川の流れの速さをはかる
- 水の透明度をはかる
- 年代をはかる
- 花の開花度
- 水質をはかる
- 地面の水分量をはかる
- 第5章 天気・気象をはかる
- 気温をはかる
- 気圧をはかる
- 湿度をはかる
- 風速をはかる
- 雨量をはかる
- 震度をはかる
- マグニチュードをはかる
- 竜巻の強さをはかる
- 雷までの距離をはかる
- 雨雲の移動速度をはかる
- 積雪量をはかる
- 視度(視程)をはかる
- 二時までの距離をはかる
- 第6章 交通をはかる
- 自動車の速度をはかる
- 船と飛行機の速度をはかる
- 飛行機の高度をはかる
- タイヤの空気圧をはかる
- エンジンの馬力をはかる
- 自分のいる位置を知る
- スピード取り締まりはどうはかる
- 道路標識の表示距離
- 第7章 健康をはかる
- 体温をはかる
- ヘルスメーター
- 血圧をはかる
- 視力と乱視をはかる
- 聴覚をはかる
- 肌年齢をはかる
- 血管年齢をはかる
- 体脂肪率をはかる
- 食品のカロリーをはかる
- 呼気のアルコール濃度をはかる
- 心臓の状態を知る
- 脳波をはかる
- サーモグラフィのしくみ
- 第8章 環境をはかる
- 人工衛星による環境計測
- 騒音の大きさをはかる
- 振動の大きさをはかる
- CO2濃度をはかる
- 放射線の量をはかる
- クリーンルーム
- まな板の汚れをはかる
- 第9章 スポーツをはかる
- 歩行数をはかる
- ゴルフなどで使う距離計
- 短距離のタイムをはかる
- マラソンの距離をはかる
- マラソンのタイムをはかる
- 第10章 地球をはかる
- 地球の重力の大きさをはかる
- 地磁気の大きさをはかる
- 地球の形や大きさをはかる
- 大陸の移動をはかる
- 海流の速度をはかる
- 地球の重さをはかる
- 標高の基準
- 第11章 宇宙をはかる
- 月や太陽までの距離をはかる
- 星や銀河までの距離をはかる
- 星の明るさをはかる
- 星の重さをはかる
- 太陽の温度をはかる
- 宇宙の膨張速度をはかる
- 惑星でなくなった冥王星
- さくいん
【感想は?】
典型的な科学/工学の雑学本だ。
そのためか、多くの人に親しんでもらうために、様々な配慮をしている。写真やイラストが紙面の半分近くを占めていて。パッと見ただけでもとっつきやすさを感じる。各記事が独立していて、長さも2~4頁と短いので、スキマ時間でチビチビと読めるし、美味しそうな所だけをつまみ食いできるのも嬉しい。
ただ、工学系の著者にありがちなパターンで、筆が乗ってくると専門的な話が出てきたり、数式がワンサカと載っているのは、まあそういうモンです。よって読む側にもスキルが必要で、ったって数学や科学の能力じゃない。「わからない所は気にせず読み飛ばす」って能力ね。特に数式。ミステリ小説じゃあるまいし、多少読み飛ばしても無問題。
幸いにして本書は2~4頁の独立した記事が並ぶ構成なので、前の記事が理解できなくても後の記事には何の影響もないし。
また、第2章が感覚量で第3章が生活と、身近で暮らしに密着した話題なのも編集の工夫だろう。やはり自分が実際に感じたり、日々の生活に影響があるネタだと、強い興味がわくのだ。
という事で、「ぼちぼち包丁を研がねば」と感じている私には、こんなネタが嬉しかったり。
研究によると、包丁にモノが当たった瞬間の切れ味は、刃先0.1mmの角度の鋭さで決まり、切断する途中の切れ味は刃面のなめらかさで決まるようです。
――包丁の切れ味をはかる
ちなみに、あんまし刃先を鋭くするとすぐ鈍るんで、プロは加減するそうです。
こんなのも、「おお賢い!」と感心したり。デジタルカメラのオートフォーカスの「コントラスト検出方式」なんだが…
“ピントが合っているのは、コントラストが最も高いときである”という考え方で、ピントを検出する方法です。
――カメラのオートフォーカスのしくみ
言われてみればその通りなんだが、よく気が付いたなあ。コンピュータの画像処理・演算能力も必要だし、現在ならではの技術だね。ちなみにオートフォーカスには「位相差検出方式」もあって、主に一眼レフで使ってるとか(→Wikipedia)。最近の複数レンズを備えたスマートフォンは、どういう理屈なんだろ? こういう所が、2007年発行の悔しい所。
やはり身近なネタでは、国土地理院が司る水準点(→Wikipedia)。これは標高の基準となるモノで、思わず Google Map で漁ってしまった。近所にもあるので、散歩のついでに見てこよう。
日本各地には標高の永久標識である水準点が約2万点もあって、あらかじめ正確な標高と位置が測量されています。
――山の高さをはかる
「あれ、そうなの?」も、雑学本の楽しみの一つ。例えば震度(→Wikipedia)。
震度は地震の振動の強さを表す指数で、単純な物理量ではありません。そのため、もともと体感で決めてきた尺度です。
――震度をはかる
数字一つで示されると、ナニやら厳密な規格がありそうな気がしてくるんだよな。でも実際には揺れ幅・周期・継続時間などがあって、数字一つで表すのが難しいのだ。とはいえ、あくまでも「もともとは」であって、現在は気象庁が工夫して計算してるんだけど。
やはり「そうだったのか!」が、これ。
変速ギアがトップ(変速比1)のとき、速度計の針の「角度」とタコメーターの針の「角度」が同じであるのが正しい習わしである。
――自動車の速度をはかる
クルマに詳しい人は知ってるんだろうなあ。最近のクルマは自動変速が多いけど、上の理屈を知っていれば「今は何速か」が判るのだ。
「こんな所にお役所が」と感心したのが、脳波計。
脳波計は、頭皮に付けた電極から生じる活動電位の変動を増幅し、波形として記録します。そのため、電極。入力部、増幅部、補助入力部、記録部、電源部から成り立っています。また、安全性を含めてJIS規格で規定されています。
――脳波をはかる
「脳波」も近年はfMRIなどが発達し、あまり聞かなくなった言葉だけど、一時期はオカルト系でよく出てくるネタでした。SFでもポール・アンダースンの小説が、って読んでないけど。
やはりオカルトとSFの定番が放射線)(→Wikipedia)。これもシーベルト(→Wikipedia)なんて単位があって、一つの数字で表してるけど…
放射線にはいろいろな種類があるだけに、計測器もさまざまな種類(*1)があります。そのため、ふつうは対象によってどの放射線を測定するかをあらかじめ決めて、検出器を選びます。
――放射線の量をはかる
と、中身はフクザツなのだ。
*1:β線=電子,β+線=陽電子,α線=ヘリウム原子核,エックス線=電磁波,γ線=高エネルギー電磁波
ちなみに放射線測定器はタダで借りられる。
(財)放射線計測協会では、文部科学省の委託を受けて、簡易放射線測定器「はかるくん」(*2)の無料貸し出しを行い、自然放射線への理解増進をはかっている(→簡易放射線測定器の貸出)。
――放射線の量をはかる
これも調べて分かったんだが、今は「はかるくん」もイロイロと進歩している様子。
*2:はかるくんWebの「はかるくん」の種類によると、はかるくんCP-100/はかるくんDX-200/はかるくんDX-300/はかるくんメモリー/はかるくんⅡ/はかるくんGM-100/はかるくんGM-200の7種類がある。
やはり最近の進歩が凄いのが、万歩計。スマートフォンや時計にも機能がついてたり。私は相変わらずiPod nano を使ってるけど。いやスマートフォンだと電池の減りが気になって。ちなみに…
「万歩計」は同社(山佐時計計器株式会社)の登録商標。
――歩行数をはかる
ということで、スマートフォンとかは歩数計などの表現を使ってる。あと山佐時計計器株式会社は、スマートウォッチ型やバックル型など、様々なバリエーションを出してるなあ。
などの身近なネタの後、終盤では地球規模や宇宙規模の話題が。話の規模は大きいけど、「はかる」となると、やたら数字が小さくなるから科学者は大変だ。例えば地磁気。
地表での地磁気の大きさは、(略)冷蔵庫に付けるマグネット(フェライト磁石)の1/1万程度です。
――地磁気の大きさをはかる
その程度でさえ動くコンパスも凄いと思う。
これが宇宙となると、やはり謎も残っていて。
太陽を取り囲むコロナ(太陽大気の上層に太陽半径の10倍以上の距離まで広がっている)は約100万Kという超高温であることがわかっていますが、その理由は太陽系最大の謎とされ「コロナ加熱問題」(→Wikipedia)と呼ばれています。
――太陽の温度をはかる
これも調べたら、2025年現在の今も複数の仮説が並び立っている状態だった。現代の科学でも、こういう細かい?謎がたくさん残っているんだろうなあ。というか、謎が一つ解けると二つの謎が生まれるのが科学だし。
幅広い分野のネタをたくさん集め、それぞれを2~4頁の短い記事にまとめた、とっつきやすく親しみやすい科学/工学の雑学本。読み終えると個々の記事が短いので食い足りない気もするが、じっくり読むと各記事の中身は意外に濃かったりする。雑学が好きな人にお薦め。
ただ、進歩の激しい科学/工学系の本なので、さすがに発行が2007年なのは寂しい。改訂版が欲しいぞ。
【関連記事】
- 2025.6.13 ジョン・マッケイド「おいしさの人類史 人類初のひと噛みから『うまみ革命』まで」河出書房新社 中里京子訳
- 2025.4.24 安斎直宗「シンセサイザーの全知識」リットーミュージック
- 2025.2.13 スティーヴ・ヘイク「スポーツを変えたテクノロジー アスリートを進化させる道具の科学」白揚社 藤原多伽夫訳 浅井武解説
- 2021.6.8 DK「イラスト授業シリーズ ひと目でわかるテクノロジーのしくみとはたらき図鑑」創元社 村上雅人/小林忍監修 東辻賢治郎訳
- 2019.8.1 「モノができる仕組み事典 日用品から旅客機まで50種の完成するまでの工程を現場写真で構成」成美堂出版
- 2018.10.15 イアン・ホワイトロー「単位の歴史 測る・計る・量る」大月書店 冨永星訳
- 書評一覧:科学/技術
| 固定リンク
「書評:科学/技術」カテゴリの記事
- ロマ・アグラワル「ナットとボルト 世界を変えた7つの小さな発明」草思社 牧尾晴喜訳(2025.11.27)
- 村上柾勝「シェークスピアは誰ですか? 計量文献学の世界」文春新書(2025.11.07)
- 関根慶太郎監著 瀧澤美奈子著「読んで納得!図解で理解!『ものをはかる』しくみ」新星出版社(2025.10.21)
- ジョセフ・メイザー「数学記号の誕生」河出書房新社 松浦俊輔訳(2025.09.29)
- リー・アラン・ダガトキン+リュドミラ・トルート「キツネを飼いならす 知られざる生物学者と驚くべき家畜化実験の物語」青土社 高里ひろ訳(2025.08.31)


コメント