豊田有恒「日本アニメ誕生」勉誠出版
初期アニメに関わった多くのクリエーターに関しても、恩師と仰ぐ手塚治虫を含めて、知る限りのエピソードを紹介し、かれらの業績を、あらためて顕彰してみたい。
――まえがき才能が問題になるのは、プロになってからである。最初は、趣味が嵩じるかどうかで決まるのだ。
――第10章 パラレル・クリエーションのころ
【どんな本?】
1960年代初頭。学生ながら早川書房「SFマガジン」主催の第一回日本SFコンテストに「時間砲」で入賞したものの、それで食えていける状態ではなく、将来を決めかねていた豊田有恒は、同期入賞の平井和正の紹介でテレビアニメ『エイトマン』のシナリオを任される。当時の日本のテレビアニメは黎明期で人材の交流は多く、やがて『鉄腕アトム』にも関わるようになり…
日本SF作家第一世代の一人でもある著者が、テレビアニメ関係を中心に思い出を語る、青春の交友録・回顧録。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2020年8月28日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約200頁。9.5ポイント43字×16行×200頁=約137,600字、400字詰め原稿用紙で約344枚。文庫なら薄い一冊分。
文章はこなれていて読みやすい。まあベテラン作家だし。内容は…手塚治虫をはじめとして、そのスジの有名人が続々と出てくるため、ソッチに詳しい人にはわかりやすい。そうじゃない人? 読まないでしょ、どうせ。
【構成は?】
時系列順に進むが、気になった所だけを拾い読みしても楽しめる。
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- まえがき
- 第1章 手塚治虫との出会い。押しかけ原作を強要
手塚治虫に会いに行く/手塚式出版社回り/『宇宙塵』の月例会/リミテッドアニメ、バンクシステムという手法/アニメ版『アトム』
- 第2章 エイトマン誕生!「細胞具」って、なに?
同期入賞の仲間たち/平井和正との切磋琢磨の日々/『エイトマン』誕生/『エイトマン』のテレビ化/シナリオの書き方/河島治之というスーパーマン/細胞具?/リアリティの重視/身の振り方を考える/超小型原子炉と賦活剤
- 第3章 シナリオがない!
手塚治虫の目配り/文芸課長・石津嵐/シナリオ地獄/「チョコレートを買ってきてください!」/「ラフレシアの巻」/人生最大の殺気 - 第4章 社長が消えた!
編集室への立てこもり/創作の秘密/盗作問題
- 第5章 アトム輸出。お茶の水博士は、ドイツ人?
『アトム』のアメリカ進出/ドイツ訛りの科学者 - 第6章 「イルカ文明の巻」視聴率トップ
戦うことをためらう主人公/社内公募でキャラクターを決める/出渕裕の「やられメカ」 - 第7章 手塚治虫とけんか別れ
虫プロの現場/美術部の重要性/ふたりの節子/アニメの音/優秀な人材/拡大路線/新番組『ナンバー7』/手塚の激怒/虫プロ退職
- 第8章 再びTBSへ 『スーパージェッター』『宇宙少年ソラン』
TBSからの要請/『スーパージェッター』の仲間たち/「タイムパトロール」の設定/大仇・ジャガー/久松文雄と長岡秀星の起用/もう一つのペンネーム/リーダー・福本和也/架空の歴史を創りだす/中島梓の誤解/またもや手塚を怒らせる/虫プロからの電話/手塚との和解/手塚治虫の受賞/第一次アニメブーム/『冒険ガボテン島』の設定/仲間たちのその後/主題歌の魅力/アニメ界から遠ざかる
- 第9章 『宇宙戦艦ヤマト』下敷きは西遊記
翻訳の仕事/本格的なsfアニメを/西崎義展との出会い/ハインラインのようなSFを/アニメ心に火がつく/原子の火/終末論に迎合する/「荒廃した地球」という舞台/『西遊記』を下敷きに/『宇宙戦艦ヤマト』の原作者/最初の小説版
- 第10章 パラレル・クリエーションのころ
星敬と土屋裕/パラレル・クリエーション発足/若いクリエーターたち/常連、とり・みき/田中良直と原田知世ファンクラブ/多才なるメンバーたち/定義しにくい友人、田北鑑生/妻は相撲部屋の女将さん?/才能の差/社員旅行の思い出/ミニ版・ときわ荘 - 第11章 日本アニメの将来
CGアニメの隆盛/アニメ創世期を構成に
【感想は?】
私がSF者になったのは、豊田有恒のせいだったのか。納得。
冒頭から懐かしいタイトルの連続で涙が出そうになる。鉄腕アトム,鉄人28号、エイトマン。
いずれも現在はYoutubeでオープニングが見られる。いい時代だなあ。さすがに絵はモノクロで京アニなどの華麗な絵に慣れた人には紙芝居に感じるだろうが、音楽だって手間かかってるぞ。なんたって、みんな生楽器のオーケストラだし。1960年代初頭だから、録音も多重録音じゃなくて、奏者をみんな集めて録ったんだろうなあ。贅沢な話だ。
と、そんな、年寄りが遠い目をして昔を懐かしむ、そういう本です。
テレビ界・アニメ界・SF界ともに若かった時代。というか、テレビアニメ自体がなかった。アニメ映画はあったけど。そんな時代に、週間のテレビアニメを、それもSFでやる。今思えば、なんでそんな無謀な事を考えたのか見当もつかないが、たぶん手塚治虫の影響だろうなあ。
その手塚治虫への畏敬の念は、全編を通して語られる。もちろんアニメでの付き合いもあるが…
SF界は、活字と映像のあいだに垣根がない。
――第1章 手塚治虫との出会い
のだった。親友の平井和正に巻き込まれ、学生ながらエイトマンのシナリオを描く羽目になる著者だが…
「シナリオって、どうやって書くんですか?」
――第2章 エイトマン誕生!
ってな体たらく。みんな手探りでやってたんだろうなあ。映画やドラマのシナリオはソレナリに蓄積があるんだろうが、アニメならではの事情もある。
30分番組のシナリオが、四百字詰めの原稿用紙で、実写では35枚程度とすれば、アニメでは50枚以上も必要となる。
――第6章 「イルカ文明の巻」視聴率トップ
実写だと、例えば役者の動作を具体的に書いちゃいけない(→「ハリウッド脚本術」)。何を表現するかは脚本家の縄張りだが、どう表現するかは役者の縄張りなのだ。これがアニメだと、照明や効果音まで脚本家が考えるのだ。
その効果音も…
アニメの音というのは、実際にない音もあり、実写と比べると大変なのである。
――第7章 手塚治虫とけんか別れ
なんてあって、「そりゃねえ」と今さら納得したり。波動砲の音なんて、誰も知らないしw
やはり当時のアニメならではの制約もあって、例えば主題歌で「子供が歌えない主題歌ではだめだ」とか。納得はともかく理解はできるが、「半音があると、普通のハーモニカで演奏できないから、子供たちに馴染みにくい」は、気が付かなかった。子供向けのコンテンツは、大変なんだね。
素人読者を意識してか、アニメの制作過程もザックリだが親切に書いてある。最近、原作とドラマの違いが話題になったが、映像化の場合は集団での話し合い…というより揉み合いで少しづつ出来上がってくるようで、スタッフとの喧嘩もしばしば。
「文句を言うなら、おまえが書いてみろ!」
「絵が描けるくらいなら、シナリオなんて、書いているか!」
――第4章 社長が消えた!
には笑った。
裁判にもなった『宇宙戦艦ヤマト』が、ああいう形になった経緯も面白い。
この設定には、下敷きがある。(略)西遊記である。
――第9章 『宇宙戦艦ヤマト』下敷きは西遊記
おお、言われてみれば。確かに「遠方から××を持ちかえる」って話だしねえ。これを制作に漕ぎつけるまでも色々とあって。
「巨大ロボットは出てこないのか」
――第9章 『宇宙戦艦ヤマト』下敷きは西遊記
なんて言われたり。大金が動くだけに、制作側も前例のあるモノにすがりたいんだろう。さて、例の裁判にしても、本書を読む限り、原作を一人の個人に帰するのは無茶な気がしてくる。キモである、あの設定にしても…
戦艦ヤマトを使おうと言いだしたのは、松本零士だった
――第9章 『宇宙戦艦ヤマト』下敷きは西遊記
と、松本零士の貢献を認めている。多くの人物が登場し、その大半に畏敬または親愛の情を示す著者だが、西崎義展だけは例外で、プロデュースの能力は認めながらも、散々にディスってたり。
終盤では自らが社長を務めたパラレル・クリエイションの話で、今をときめくクリエーターたちが続々とでてくるのが楽しい。そうか、火浦功は実在したのか。
多くの人が登場する中で、私の印象に残ったのが、映画館のロビーで著者がナンパした相手の話。SFマガジンを持ってるからってんで話しかけたら…。オチも凄い。「この近くに、ひいおじいさまのお宮があるから」って、そういう事か。
日本のSFもテレビアニメも生まれたばかりの時代。若者たちが和気あいあいと話し合い、または喧々囂々の論争をしながら、手探りで作品を創り上げてゆく、その過程を遠い目で綴った群像劇。日本アニメの黎明期ばかりでなく、機動戦士ガンダムや機動警察パトレイバーなどのスタッフに興味があるなら読んでおこう。
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