アダム・オルター「僕らはそれに抵抗できない 『依存症ビジネス』のつくられかた」ダイヤモンド社 上原裕美子訳
本書は、こうした行動の依存性、すなわち「行動嗜癖」の発生と広がりを考察していく。
――プロローグ 自分の商品でハイになるな ジョブスと“売人”に共通する教え
【どんな本?】
iPhone とインターネットの普及で、私たちの暮らしは大きく変わった。便利になった反面、困った副作用も増えた。頻繁にメールやLINEやインスタグラムをチェックせずにはいられない/NETFLIXのドラマで寝不足になる/TikTokの動画を飽きずに見続ける/オンライン・ゲームの仲間が気になって四六時中ゲームに入り浸る…。
依存症といえば、従来は主に酒やヘロインなどの薬物を示した。だが、依存症を「ソレに耽溺し、ソレのことしか考えられなくなる」と定義すれば、インスタグラムやオンライン・ゲームも依存症と言えるだろう。
新しい依存である行動嗜癖をテーマに、それがどれほど蔓延しているのか、どんな手口で人々を虜にするのか、なぜ人は依存に陥るのか、行動嗜癖にどんな害があるのかを訴え、どうすれば依存を防ぎ、また脱却できるのかを示す、一般向けのホットなルポルタージュ。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
原書は Irresistible: The Rise of Addictive Technology and the Business of Keeping Us Hooked, Adam Alter, 2017。日本語版は2019年7月10日第1刷発行。私が読んだのは2022年2月25日発行の第6刷。着実に版を重ねてる。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約399頁。9.5ポイント45字×18行×399頁=約323,190字、400字詰め原稿用紙で約808枚。文庫なら厚い一冊か薄めの上下巻ぐらい。
文章はこなれていて親しみやすい。内容も特に難しくない。敢えて言えば、ゲームでもパチンコでも酒でも煙草でも博打でも、「やめたい/やめなきゃいけないのにやめられない」経験があれば、身に染みて感じるだろう。
【構成は?】
前の章を踏まえて後の章が展開するので、素直に頭から読もう。
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- プロローグ 自分の商品でハイになるな ジョブスと“売人”に共通する教え
「いいね!」はユーザーを抵抗不能な「依存症患者」にする/筋トレオタクからドラマの一気見まで 新時代の依存症「行動嗜癖」/すべては依存症になるようデザインされている?/「依存症ビジネス」がッ人を操る6つのテクニック/果たしてこの新しい依存症から逃れる術はあるのか
- 第1部 新しい依存症「行動嗜癖」とは何か
- 第1章 物質依存から行動依存へ 新しい依存症の誕生
「スクリーン漬け」の現代人/スマートフォンは私たちから何を奪っているのか?/1億人がのめり込んでいる、世界一依存性の高いゲーム/ウェラブル端末の進化が、「運動依存」を加速させた/行動への依存「行動嗜癖」とは何か/なぜ今「物質」以外の依存症を問題とすべきなのか?/40%の人が「依存症」!? あなたも無縁ではいられない/「ネット依存症」かどうかをチェックするテスト/「依存症」の語源とその歴史/フロイト、コカインを推奨す ドラッグ中毒の歴史/南北戦争からコカ・コーラを生んだ? 世界で最も依存症を生んだ「物質」/一緒にいるのにひとり 「スマホ依存」が子供に与える影響/ある大ヒットスマホアプリと“売人”扱いされたプログラマー/ついに出た「グーグルグラス依存症」 次々と新たな依存症が生まれる時代で
- 第2章 僕らはみんな依存症 何が人を依存させるのか
ヘロイン「ナンバー4」の物語 ベトナム戦争で兵士の85%が手を出した/10万人の帰還兵からクスリを抜けるか/たった5%!? 予想を裏切る謎の低再発率/まるでコインの裏表 対照的な2人の科学者が成し遂げたとんでもない発見/偶然の失敗がもたらした「快楽中枢」の発見/ラット34番の謎 普通の人でも依存症に陥る「不幸な条件」/“クレオパトラ”を虜にするための無慈悲な実験/あるゲーム依存症患者が“深み”にハマるまでの物語/依存症患者にとって、もっとも危険な瞬間とは/「人間は、物質に対してだけではなく、行動に対しても依存症になる」
- 第3章 愛と依存症の共通点 「やめたいのにやめられない」の生理学
糖尿病でも肥満でもない、世界でもっとも猛威をふるう現代病とは/脳の中で起こる「負の無限連鎖」/依存症になるかならないかを左右する「ミッシングリング」/愛はコカインに似ている?/「心理的な苦痛をなだめると思わせるものならどんな体験でも……」/スウェーデン人研究者が注目した、奇妙な反復行動/パーキンソン病患者がギャンブルをやめられなくなった意外な理由/行動のループと薬への耽溺の共通点/常識を覆した衝撃の実験 「好き」と「欲しい」は違う/依存症の真実 愛してはいけない相手に恋をする、好きじゃないのに欲しがる
- 第2部 新しい依存症が人を操る6つのテクニック
- 第4章 <1>目標 ウェラブル端末が新しいコカインに
パーキンソン病患者の仰天のライフハック/マラソンタイムの奇妙な偏り/オリンピック金メダル×世界記録を達成してもなお……/クイズ番組をハックせよ ある奇人の執念の勝利/「目標依存症」者が迎えた悲しき結末/現代の生活を支配する「目標」という呪い/メールチェックせずにいられない テクノロジーが生んだ脅迫概念/「ウェアブル端末」に追い立てられる人々 数値が彼らを虜にする/足が痛くても、出産直前でも、走るのをやめられない/目標追及があなたを「慢性的な敗北状態」にする/なぜトレーダーはいくら稼いでも幸せを感じられないのか? 社会的な比較の罠/成功しても失敗しても、出口がない 目標信仰の恐るべき“末路”
- 第5章 <2>フィードバック 「いいね!」というスロットマシンを回しつづけてしまう理由
ボタンがあれば、押さずにはいられないのはなぜ?/ウェブコミュニティ「レディット」が仕掛けた「ボタン」大騒動/人も動物も、確実な報酬よりも「予測不能なフィードバック」を好む?/「いいね!」ボタンにかけられた魔法の秘密/「スロットマシンは電子コカインだ」/「当たりに偽装したハズレ」に「幸運大使」 カジノが繰り出すあの手この手/「キャンディークラッシュ」をやみつきにする「ジュース」とは?/ゲーム漬けのラットが教えてくれたフィードバックの恐ろしすぎる効果/現実世界とゲームの世界を一体化する手法「マッピング」/VRは新たな「ドラッグ」となるのか?/見たいものしか見られない人間、そのにつけ込む“胴元”
- 第6章 <3>進歩の実感 スマホゲームが心をわしづかみにするのは“デザイン”のせい
任天堂のレジェンド宮本茂が「マリオ」を生み出すまで/20ドル紙幣をそれ以上で落札するなんて 「フック」で釣り上げられる/おとり商法“ペニーオークション” ネットでの買い物にご用心/「あと1回、あと1回……」 課金を迫るソーシャルゲームは詐欺とどう違うのか?/のめりこませる“デザイン”だって、データ分析があればお手のもの/ゲームに無関心だった女性ユーザーにつけこんんだハリウッドセレブアプリ/仕組まれた「ビギナーズラック」に気をつけろ/「単純でばかばかしい」ゲームほど心をわしづかみにする/スマホが、老若男女を問わずゲーム依存症にする
- 第7章 <4>難易度のエスカレート テトリスが病的なまでに魅力的なのはなぜか
退屈するくらいなら電気ショックを選ぶ?/世界中を興奮の坩堝にたたきこんだ伝説のゲーム/上達すると、心地いい テトリスが脳に効く理由/行動嗜癖がまとう創造や進歩という名の「マント」/テトリスに人がハマる学問的説明 「最近接発達領域」/フローに入るために必要な2つの要素とは/ゲーム依存症を生み出す「ルディック・ループ」は断ち切れるか?/難しすぎるゲーム「スーパーヘキサゴン」がもつ病的な魅力/「あとちょっと」は成功への道しるべなのか、依存への最短ルートなのか/「尻ぶつかり効果」vs最新テクノロジー 「停止規則」をめぐる争い/オフィスレスが長時間労働と過労死を招く 仕事をやめられないメカニズム/財布に備わる「停止規則」をクレジットカードが反故にする/やめられない止まらない エスカレートする難易度が、ユーザーをがんじがらめにする
- 第8章 <5>クリフハンガー ネットフリックスが僕たちに植えつけた恐るべき悪癖
ある映画の“崖っぷち”の結末/心理学者がウィーンのカフェで発見した「クリフハンガー」の力/なぜあるメロディーが頭から離れなくなるのか 不朽の名曲に共通する仕掛け/「真犯人は誰?」 開いたままのループが生み出した信じられないほどの熱狂/「未解決番組」中毒 先の展開が読めないことが人を虜にする/「史上最悪のラストシーン」が10年以上視聴者の心を奪う理由/欲求が満たされたときにはすでに……/平凡な日常にささやかなスリルを 設計された「騒動買い」/ネット動画「自動再生」の功罪 人の行動を自由に操るナッジの力/ネットフリックスが生んだ「ビンジ・ウォッチング」という新しい依存症/クリフハンガー発見者の崖っぷちの人生、その幕切れは?
- 第9章 <6>社会的相互作用 インスタグラムが使う「比較」という魔法
インスタグラムに「消された」ヒップなカメラアプリ/インスタが刺激する「他人と比較したい欲求」/他人からどう見られているのか気になって仕方がない SNSののめりこむ心の仕組み/インスタで「いいね!」中毒に陥った10代モデルの告白/異性の格付けサイトが格も依存性の高い理由/社会的欲求の驚くべき力 「同じ」と「違う」の両方でフィードバックが/ゲームに「友情」が持ち込まれるとき/「ピクルスになった脳は、二度とキュウリに戻りません」/人を依存症にするゲームがもつ3つの特徴/リアルで人間関係を築けない ネット依存症者が陥る感情的な弱視
- 第3部 新しい依存症に立ち向かうための3つの解決策
- 第10章 <1>予防はできるだけ早期に 1歳から操作できるデバイスから子どもを守る
「デジタル断食」サマーキャンプで起こった驚くべき改善/あらゆることを簡単にするデバイスが子どもから奪うもの/1歳から操作できるiPad、そして「スワイプ」という魔法/健全なスクリーン使用の3条件/解毒のための3フェーズ テクノロジーの持続可能な利用方法/子どものために親がとるべきでない3つの態度、とるべき4つの態度/ネット依存は病気なのか? それとも社会の問題なのか?/クスリで治療すべきなのか 20年以上診てきたネット依存症専門家の見解/軽めの依存秒への有効打はあるか 「動機付け面接」というアプローチ/よい習慣と健全な行動を促す環境のデザインこそ最良の予防策
- 第11章 <2>行動アーキテクチャで立ち直る 「依存症を克服できないのは意志が弱いから」は間違い
保守的な地域のほうがネットポルノにご執心?/「依存症を克服できないのは意志が弱いから」は本当か/めちゃくちゃ有効な「まぎらわせる」という手法/スマートフォン依存症を癒やす、皮肉たっぷりのスマートデバイス/よい習慣をどれだけ続けたら欲求は断ち切れるのか/「できない」と「しない」 宣言の仕方でここまで変わる/環境をデザインする「行動アーキテクチャ」というテクニック/親友を決めるのは、倫理観でも信念でもなく「近さ」だけ?/メールもパソコンも、手の届かないところへ/自分に「罰」を与えるデバイスを使って依存を断ち切る/注意の“ネオンサイン”を放つ可愛らしいデバイスでよい習慣を/「いいね!」を隠すスツールでフィードバックを無効化する/行動アーキテクチャを活用した“正しい”ドラマの視聴法/「行動錯誤」から逃れて、自分の環境を賢くデザインしよう
- 第12章 <3>ゲーミフィケーション 依存症ビジネスの仕掛けを逆手にとって悪い習慣を捨てる
街をきれいにし、人々を健康にした「楽しいキャンペーン」/依存症に陥れる行動嗜癖の力を逆手にとる/単語の暗記という苦痛を進んでさせた伝説のサイト/「ゲーミフィケーション」成功の3つのポイント/運動を続けるのに、ゲーミフィケーションをこう使う/健康促進のために、わざとゲーム性を落としたアプリ/勉強をミッションに変える 学校こそ、ゲーミフィケーションを採り入れよう/コールセンターのモチベーションを高めるには? カギは内発的動機/研修をゲーム化すると、仕事のパフォーマンスも定着率も向上する/VRで「痛み」を軽減する 医療への応用/トラウマの消し方 認知のバキューム効果/ゲームは本当に脳を活性化するのか? ゲーム化への批判1/何でもゲームにすればいいのか? ゲーム化への批判2/楽しいからよいのだというお墨付きが、動機をゆがめる ゲーム化への批判3/諸刃の剣だからこそ、ゲーミフィケーションの力を正しく使おう - エピローグ まだ見ぬ「未来の依存症」から身を守るために
- 謝辞
【感想は?】
私はハマりやすい。それだけに、この本は切実に身に染みた。
本書は3部構成だ。第1部は行動嗜癖の蔓延のほどを示し、第2部ではハマらせる手口を暴き、第3部で解決策を示す。
困ったことに第2部は「ハマるゲームを作るコツ」も教えてくれる。テトリスを例にとった第7章では「開発当初はソ連でもテトリス中毒が蔓延した」のは意外だった。当時は「西側の生産性を落とすためのソ連の陰謀」なんて陰謀論も流布してたが、ちゃんと裏があったのだw
さて、第1部では、今どれほど行動嗜癖が蔓延しているかを訴える。いずれもコンピュータとインターネットに関わるものだ。なお本書の英語版は2017年で日本語版は2019年の発行なので、2025年の現在は更に酷くなっていると考えるべきだろう。
最近の研究によると、最大40%の人が、メール、ゲーム、ポルノなど、ネットに関連した依存症のいずれかを抱えている。
――第1章 物質依存から行動依存へ 新しい依存症の誕生
かつて電子メールは「いつでも送受信できる」のが嬉しかったんだが、最近は「なるたけ速く反応する」のが良し、みたくなりつつあって、なんだかなあ、な気分も。いや今はメールよりLINEか。
この依存には、幾つかのメカニズムがある。「ソレはよいものだ」と脳に刷り込まれてしまうのだ。
依存症は学習によって生じる。
――第2章 僕らはみんな依存症 何が人を依存させるのか何らかの物質や行動自体が人を依存させるのではなく、自分の心理的な苦痛をやわらげる手段としてそれを利用することを学んでしまったときに、人はそれに依存するのだ。
――第3章 愛と依存症の共通点 「やめたいのにやめられない」の生理学
依存の恐ろしさは脳が変わってしまう事だ。これを巧みに表したのが、以下の言葉。
「ピクルスになった脳は、二度とキュウリには戻りません」
――第9章 <6>社会的相互作用 インスタグラムが使う「比較」という魔法
似たようなセリフが吾妻ひでおの「失踪日記」にあったような。「ぬか漬けのきゅうり」だったかな? きっとアルコホーリクス・アノニマスから借りたんだろうなあ。
さて、「脳が」と書くと恐ろしく感じるが、ちょっとだけ救いもある。ベトナム戦争に従軍した米軍将兵の多く(95%)がヘロインの提供を受けた。戦争終結時に下士官兵の35%に使用経験があり、19%は常習していた。帰国後は、どうなったか?
「95%はクリーンな状態を保っていた」。依存は、環境の影響が大きいのだ。もっとも、だからこそ、依存は恐くもある。環境を変えなければ、どんな治療法も元の木阿弥だからだ。
また、意外な事実も明らかになる。
薬物常習者は、その体験が好きではない。それなのになお薬物が欲しくてたまらないのである。
――第3章 愛と依存症の共通点 「やめたいのにやめられない」の生理学
「好き」と「欲しい」は異なるのだ。本書には「愛は依存に似ている」なんて話も出てくる。とすると、しつこくつきまとうストーカーも、「好き」ではなく「欲しい」なのかな、と思ったり。
第2部では、人を依存に陥らせ手口を明らかにしてゆく。と同時に、ここはハマるゲームやアプリの作り方として役に立つネタが多いのも困ったり嬉しかったり。
手口の一つは、数字だ。
人間は数字に集中していると脅迫的になる傾向がある。
――第4章 <1>目標 ウェラブル端末が新しいコカインに「カロリーを計算しても体重は減りません。カロリーの数字に対する執着が生まれるだけです」
――第7章 <4>難易度のエスカレート テトリスが病的なまでに魅力的なのはなぜか
これは万歩計や体重計が解りやすい。ダイエットでも、「毎日体重を測ろう」とよく言われる。私は万歩計を使っていて、数字で実績が出るとかなり励みになるのだ。本書では走らずにいられない人の話が出てきて、「マジか」と思ってしまう。私がそこまで歩数に拘らないのは、やはり生来の怠け者な性格のせいだろうか。
また、意外なことに、「確実に当たる」モノより、「当たったりハズれたりする」モノの方に、人は惹かれるそうだ。
人間は確実性のないフィードバックほど欲しくてたまらない気持ちになる。
――第5章 <2>フィードバック 「いいね!」というスロットマシンを回しつづけてしまう理由
チェスより麻雀に惹かれるのは、そのためか←たぶん違う
ゲームのデザインでも、幾つか納得する話が出てくる。例えばレベルアップ制があるRPGだと、最初はサクサクとレベルが上がり、次第にレベルが上がりにくくなる。ツカミが大事なのだ。
ビギナーズラックには人を依存させる力がある。
――第6章 <3>進歩の実感 スマホゲームが心をわしづかみにするのは“デザイン”のせい
かつて Linux ユーザは、「タコ(初心者)を大事に」と言っていた。最初にいい思いをすると、ハマるのだ。ヤクのバイニンも、最初の1回はサービスするしね。いや知らんけど。
また、勘ちがいさせるのもいい。
「すぐ近くにある勝利」――負けつづけているにもかかわらず、価値は目の前だと信じている状態――は、非常に依存性が高いのだ。
――第7章 <4>難易度のエスカレート テトリスが病的なまでに魅力的なのはなぜか
「ハズレ」ではなく「惜しい、もうちょっとだったのに!」と思わせるのだ。これで博打にハマる人は多いんだろう。というか、スロットマシンは、そういう手口を使って客を座らせ続けるのだ。
また、後々まで話題になるドラマの共通点も、本書は明らかにする。
人間は完了した体験よりも、完了していない体験のほうに、強く心を奪われる。
――第8章 <5>クリフハンガー ネットフリックスが僕たちに植えつけた恐るべき悪癖
本書に出てくるのは米国のドラマだが、私が知ってる範囲だと新世紀エヴァンゲリオンがコレだろう。あの、いかにも「制作が間に合わず息切れしました」的な空気を漂わせた最終回は、実に印象的で後をひくものだった。結局、後に作られた映画も大当たりしたし。
さて、最後の第3部では、依存から抜け出すためのさまざまな試みと、そこから学べる幾つかの教訓を示してゆく。
その一つは、環境だ。
依存症が悲惨であることは誰でも知っていますが、依存することにメリットもあるからこそ、その依存は発生しているのです。
――第10章 <1>予防はできるだけ早期に 1歳から操作できるデバイスから子どもを守る
先のベトナム従軍兵の例が示すように、依存のキッカケとなった原因が無くなれば、依存から抜け出しやすい。
また、別のクセとつけるのもいい。
行動アーキテクチャを賢く活用する方法は2通りに分かれる。
1つは、誘惑から切り離された環境をデザインすること。
そしてもう1つは、誘惑が避けられないものであるなら、それをごまかす方法を見極めること。
――第11章 <2>行動アーキテクチャで立ち直る 「依存症を克服できないのは意志が弱いから」は間違い
タバコの代わりにガムを噛む、などが代表例だ。もっとも、歴史的には失敗例もあるんだけど。モルヒネ中毒の治療用として導入したコカインとか。
その一つとして、脱却法や学習法をゲーム化するって手法もある。このゲームをデザインするにも、幾つかコツがある。というか、世にウケるゲームやサービスに共通する特徴と言い換えてもいい。
(ハマるゲームに)共通する3つの要素を明らかにした。
ポイント制であること、
バッジがあること、
そして上位に入ったプレイヤーを発表するランキング表(リーダーボード)があることだ。
――第12章 <3>ゲーミフィケーション 依存症ビジネスの仕掛けを逆手にとって悪い習慣を捨てる
…うーむ。結局、依存から抜け出したいのか、人を依存に陥らせたいのか、わからなくなってきたぞ←をい
冗談はともかく、語り口は親しみやすくとっつきやすい割に、その内容は身近で深刻であり、身につまされる点も多かった。酒や博打と異なり、インターネットもスマートフォンも現代では必需品で、どうしても使わざるを得ないため、完全に断ち切るのは無理だ。である以上、なんとか落としどころを見つけるしかない。そんな意味でも、本書の意義は深い。
日々、スマートフォンやインターネットを使わざるを得ない全ての人にお薦め。
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