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2025年7月 3日 (木)

SFマガジン2025年8月号

「きみたちは飢えた人たちを救え」
「世界のそれ以外の部分は、ぼくが救う」
  ――ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 後編」酒井昭伸訳

「単刀直入に申し上げますと、本船は海賊によって包囲されています」
  ――辻村七子「博士とマリア」最終回

「彼の世界へのまなざしには奇妙なところがあります。ここにあってここにないものをみている」
  ――吉上亮「ヴェルト」第二部第七章

「さあ、皆さん、血を流しましょう」
  ――津久井五月「カササギを絞め殺す」

「おれは、その仏様を斬っちまった」
  ――「天正アポカリプス」

 376頁の標準サイズ。

 特集はスプロール・シリーズの新版刊行にあわせ「ウィリアム・ギブスン特集」。作品紹介とギブスンへのインタビュウーに加え、解説やエッセイなど。

 小説は8本+3本。連載が5本+ショートショート3本、読み切りが3本。

 連載小説5本+3本。辻村七子「博士とマリア」最終回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第60回,吉上亮「ヴェルト」第二部第七章,夢枕獏「小角の城」第82回,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第28回に加え、田丸雅智「未来図ショートショート」3本「世界を写す」「リサ先生の保育」「クラフトミート」。

 読み切り小説は3本。津久井五月「カササギを絞め殺す」,高木ケイ「天正アポカリプス」,ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 後編」酒井昭伸訳。

 連載小説。

  辻村七子「博士とマリア」最終回。ドクターとマリアⅡの船は、海賊船に包囲される。乗り込んできたのは因縁の相手、モルセ。かつて組織の同僚であり、ドクターの妻マリアを殺した男。そのコルセが求めたのは…

  相当に深刻な状況で深刻な話が展開するにも関わらず、空気を読まないマリアⅡの茶々のお陰で、なんとも間の抜けたユーモラスな雰囲気になるのが、この作品の楽しい所。今回は、ある意味怒涛の展開なんだが、読後感はクールでユーモラスな感じが星新一の作品に少し似てる。

  冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第60回。ケネス・C・Oらを人質としたラスティ達が立てこもるリバーサイド・ホテルを、イースターズ・オフィスに楽園とマルドゥック市警察そしてクインテットまでもが加わって襲撃が始まる。バロットたちは首尾よくケネス・C・Oたちを見つけたが…

  エンハンサーたちが入り乱れての激しいバトルが始まる回。襲う側も迎え撃つ側も、それぞれに成長してる。ラスティは登場時から凶悪な戦士だったが、今回は更にパワーアップしてる。バジルも能力に磨きをかけ、細かいながらも便利で意表を突く使い方をマスターした。

 吉上亮「ヴェルト」第二部第七章。トューロン包囲戦で傷を負ったナポレオンを送り届けたアンリ・サンソンンはパリに戻ってきた。大公安委員は次々と粛清を進める。その長を務めるマクシミリアン・ロベスピエールは、健康を害して療養中だった。

 作中のロベスピエールは生真面目で潔癖な理想家で、特に今回は病を患っているらしく線の細さも感じさせる。自由を標榜して起こした革命であるにも関わらず、政権の不安定さから検閲を施行して言論の自由を押しつぶしてしまうあたりは、なんとも。

  飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第28回。<夏の区界>の敵意に晒され、<青の区界>の変異は進み、計算資源はぎりぎりまで搾り取られる。子供たちが高校へ行っているあいだに閑散としている青野の町は、風すらも止み…

  海苔子ちゃん、満を持して登場…と思ったら。今さらになって、<青の区界>は高校生たちのための町なのだ、と思い知る。鯨の登場場面では、あの怪作「神鯨」を思い浮かべた。ところでVR空間を舞台にした作品は魔法や錬金術が使えるけどSF扱いになるんだろうか?

 読み切り小説。

 津久井五月「カササギを絞め殺す」。ミミテク。耳道に隠したスピーカーとマイクに加えコンタクトレンズで、その場に相応しい言動をAIが示す。慣れないと使っているのがすぐバレるが、佐野典真は幼い頃から鍛え、自然に「浅見天馬」として振る舞える。この特技を活かし、カモを見定めるため高級カジノに乗り込んだ。

 うわあ、欲しいぞミミテク。別にスターになりたいワケじゃない。普通の常識人として振る舞えれば充分、と思うのは私だけじゃないはず。流行りのAIに流行りの裏家業を組み合わせながらも、実に人間臭いドラマに仕立てた腕は見事。少し星新一の「肩の上の秘書」に似たアイデアながら、小説としての感触は全く異なるのも、「SF小説」の可能性を感じさせてくれる。

 高木ケイ「天正アポカリプス」。城は包囲され、中の者はみな飢えている。昨日、百姓には汁が一杯だけ。具はほぐした縄。妙な夢を見て、起きたのは日がすっかり上ってから。乞食坊主に相談に行くが…

 一人称が「ぼく」だったり「おれ」だったり。上からくる混乱かと思ったが、どうも違う。とはいえ、語り手の見聞きした事柄はあまりにも異様。映像化したら、かなり強いインパクトを持つだろうなあ。

  ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 後編」酒井昭伸訳。ジョナサン・テルジアンの行方不明の三週間を追う、人魚のミッシェル。そこに聞こえてくる、かつての恋人ダートンの声。「ミッシェル、愛してる」。今は見つかっていないが、時間の問題だろう。どう対処すべきか?

  近未来のテルジアンの場面と、遠未来のミッシェルの場面が交代で話は進む。テルジアン側は現代の国際社会の暗い部分を、これでもかと突きつけてくる。新薬開発の偏りとかね。アフリカでエイズが蔓延した理由の一つでもあるんだよなあ。ミッシェル側の展開は実に意外だった。

  「ウィリアム・ギブスン特集」で、千葉県知事の熊谷俊人が登場。なぜって、この人、元チバシティ市長だから。取材する編集部は市議会議員時代の議事録まで読み漁る準備万端ぶりに頭が下がる。たった6頁の記事に、そこまで準備するとは。受ける県知事側も選挙で選ばれる政治家に相応しく、雄弁に語る語る。

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