脇本平也「宗教学入門」講談社学術文庫
宗教学の立場について(略)つぎの三つの点から説明を付け加えておきます。
1.宗教学は客観的に事実を問題にし主観的な価値判断は避ける。
2.宗教を人間の生活現象の一局面としてとらえる。
3.特定の一宗教ではなくて複数の多宗教を資料として取り扱う。
――1 宗教学の立場と分野
【どんな本?】
宗教学とは何か。本書では、多様な宗教を客観的に比べ、それぞれの特徴と共通点を見てゆく。その切り口もまた様々で、起源や歴史,思想や儀礼,世界観,教団組織,社会との関係そして人々の関わり方や与える影響など、視点は多岐にわたる。
本書は入門編として、宗教学の全般を見渡すことを目指す。そのため代表的な説や論は概論を紹介するに留め、個々の論の詳細には立ち入らない。
「宗教学とは何で、どんな事をやるのか」を紹介する、一般受けの宗教学入門書。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
原著は脇本平也「宗教を語る 入門宗教学」日新出版で1983年1月1日発売。講談社学術文庫版は1997年8月10日第1刷発行。私が読んだのは2000年7月19日の第7刷。着実に売れてます。文庫で縦一段組み本文約317頁に加え、山折哲雄の解説8頁。8.5ポイント41字×17行×317頁=220,949字、400字詰め原稿用紙で約553枚。文庫では普通の厚さ。
文章はこなれていて親しみやすい。内容もわかりやすい。巻末に索引があるのは嬉しいが、性だけの人名がよく出てくるのは不親切。精神分析の(ジークムント・)フロイトは有名だが、金枝篇の著者で人類学者の(ジェームズ・)フレイザーは微妙なところ、原始文化の著者で人類学者の(エドワード・バーネット・)タイラーを知る素人は少ないだろう。
【構成は?】
教科書として書いた本であり、原則として前の章を基礎として後の章が展開するので、素直に頭から読もう。
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- 学術文庫版まえがき
- 1 宗教学の立場と分野
- 1 宗教学の立場
- 2 宗教学の歴史的成立
- 3 宗教学の専門諸分野
- 2 宗教の原初形態
- 1 考古学的考察
- 2 民族学的考察
- 3 科学・呪術・宗教
- 1 フレイザーの呪術論
- 2 呪術の類型
- 3 呪術の原理
- 4 科学と呪術
- 5 呪術と宗教
- 4 宗教の諸類型
- 1 有神的宗教と無神的宗教
- 2 権威主義的宗教と人間主義的宗教
- 3 神秘主義的宗教と預言者的宗教
- 4 汎神的宗教
- 5 救い型・悟り型・つながり型
- 6 民族宗教と世界宗教
- 7 宗教進化の5類型
- 5 宗教の構成要素
- 1 教義・儀礼・教団・体験
- 2 宗教思想
- 3 宗教儀礼
- 4 宗教集団
- 5 宗教体験
- 6 宗教的実在観
- 1 実在観の諸相
- 2 人格的「神」の観念
- 3 非人格的実在の観念
- 4 神と法
- 7 宗教的人間観
- 1 人間起源神話
- 2 人間の二元的構造
- 3 自己の問題
- 4 宗教的人間の目標とその実現
- 8 宗教的世界観
- 1 その意味と内容
- 2 宇宙論
- 3 他界観・来世観
- 4 空間論・時間論
- 9 宗教儀礼
- 1 儀礼の類型
- 2 宗教的修行
- 3 儀礼の機能
- 4 おまつり
- 10 教団と社会
- 1 宗教集団の類型
- 2 教団内部の組織化
- 3 宗教と経済
- 4 宗教と政治
- 5 宗教と社会変動
- 11 宗教体験と人格
- 1 宗教体験の特徴
- 2 宗教神秘主義
- 3 無意識と宗教
- 4 宗教的人格の形成と成熟
- 12 宗教の機能
- 1 宗教の場
- 2 宗教的生のエネルギー
- 3 人生の基本構造
- 4 聖なるもの
- 5 意味の納得と発見
- あとがき(原本)/解説 山折哲雄/索引
【感想は?】
「宗教学は何をやっているのか」が知りたくて読んだ本だ。その目的にはちょうどいい本だった。頁数も適度だし。
結論から言うと、「文化人類学の一分野で宗教に焦点をあてたもの」という感じ。一応、「複数の多宗教を資料として取り扱う」とあるが、キリスト教と仏教と神道の例が多い。これは著者も読者もよく知っているので、説明に都合がいいからだろう。
やはり学問としての起源は欧州つまりキリスト教社会で、そこから手を広げていったようだ。とはいえ、本書は著者が日本人で仏教に詳しいためか、キリスト教に偏った感はない。他にはゾロアスター教やデュオニソスなど古代ギリシャの神々,天照大神,そしてなぜかマルキシズムなどが出てくる。
学問の手法としては、やはり「分類」と「要素分け」から始まるようだ。
「分類」は、世界の様々な宗教を、幾つかのグループに分けてゆく。ただ、その切り口も色々ある。【構成は?】を見ればわかるように、有神的/無神的,権威主義的/人間主義的,神秘主義的/預言者的…と、幾つもの(数学的な意味での)次元があるのだ。
もちろん、どの切り口にしても、スッパリと二分できるわけではなく、「~の色が濃い」ぐらいがせいぜいだし、その濃さも時期や宗派によって違ったりする。
続く「要素分け」は、「宗教は何を含んでいるか」を考えるものだ。本書は四つ、教義・儀礼・教団・体験を挙げている。これがまた、宗派を分類する際の指標にもなったり。
また、儀礼にしても、これまた目の付け所によって分け方は様々だ。「〇〇断ち」のような消極的儀礼と奉献のような積極的儀礼に分けたり、成人式のような通過儀礼と収穫儀礼のような教化儀礼に分けたり、一つの儀礼を厳粛な祭儀とお祭り的な祝祭に分けたり。こういう、相違点と共通点を見いだすあたりは、文化人類学の面白さそのものだ。
などを読むうちに、「そうか、学問とは分類と要素分けから始まるのか」なんて偉そうな事を考えてしまう。何度も書いているが、分類も要素分けも、目のつけ方次第で様々な分類方法・要素分けの方法があるワケで、一つの対象も色とりどりの表情を見せてくれるのだ。
当然ながら、宗教につきものの神話や宇宙論も出てくるし、フロイトやユングなどにも触れている。こういう怪しいのが出てくると、俄然ワクワクしてくるのがヲタクの性。
そういう点では「3 科学・呪術・宗教」はフレイザーの金枝篇から美味しい所を軽くつまんでる感があって。いや萌える(誤字ではない!)でしょ類感呪術とか模倣呪術とか感染呪術とか、厨二な心を刺激しまくり。残念ながら本書は軽くつまんでるだけで、「詳しくは原本にあたれ」って姿勢なんだけど。今、ちょいと調べたら、「図説 金枝篇」なんて出てるのね。
かと思えば次の「4 宗教の諸類型」では、いきなり「1 有神的宗教と無神的宗教」とかあって、これもアレな感性をくすぐりまくるワケです。残念ながら本書はあまし道教に触れてないんだけど、道教はどっちになるんだろ? 「神」って言葉は出てくるけど、日本語の「神」とは意味が違うみたいだし。
とはいえ、本書の目的はあくまでも宗教学の全体図を示す事であって、個々の宗教や具体例には深く踏み込まないのが惜しいところ。もっとも、それを始めたら何十巻もの大著になっちゃうから、仕方がないか。
やはり概論なので少々食い足りない感はあるものの、そこはさすがに入門書。最後の「あとがき」で関連図書を幾つか挙げ、より深く知りたい人はこちらをどうぞ、と次のステップの道案内まで載っている。なかなか親切です。
という事で、「宗教学って何をしてるの?」と野次馬根性が首をもたげた人にお薦め。ちなみに、これっで少しだけ「宗教学」はわかるけど、「宗教」はあましわからんです、はい。
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