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2025年5月14日 (水)

SFマガジン2025年6月号

「シザースが背後にいる。全ては仕組まれたことだ」
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第59回

「俺たちは今、変わりゆく世界そのものを構築する戦争、その先端に立っているんだ」
  ――吉上亮「ヴェルト」第二部第六章

 376頁の標準サイズ。

 特集は「大阪・関西万博/バーチャル大阪パビリオン特集」。大阪パビリオン推進委員会のディレクターを務める佐久間洋司を中心として、公式ストーリーの「ユーダイモニア」冒頭や関係者のインタビューなど。

 小説は9本+3本。連載が5本+3本、読み切りが4本。

 連載小説5本+3本。辻村七子「博士とマリア」第3回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第59回,吉上亮「ヴェルト」第二部第六章,夢枕獏「小角の城」第81回,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第27回に加え、田丸雅智「未来図ショートショート」3本「シェアボディー」「フォードシェフ」「おっちゃん」。

 読み切り小説は4本。佐久間洋司原案・監修+結城紫雄著「ユーダイモニア」冒頭,安野貴博「月面の弁護人」,暴力と破滅の運び手「ミッドナイト・イン・トロカデロ」,ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 前編」酒井昭伸訳。

 連載小説。

 辻村七子「博士とマリア」第3回。大企業HAPの関連企業の関連企業の船で、シュロたちは同じ部屋に寝泊まりして働いていた。朝の4時から20時まで働きづめ、食事は気まぐれ。仕事は養殖真珠の絡むきとえり分け、器用で目がいい者が役立つため、若い女が多い。あまりに酷い雇用条件に、リーダー格のカンナが交渉に出向いたが、そのまま帰ってこない。

 大企業HAPのブラックぶりが如実に描かれる今回。朝4時から夜20時までの1日16時間労働だけでも無茶で、「こりゃ死ぬな」と思っていたら更にその先があり、思わず笑ってしまった。下手なタコ部屋すらしのぐ。いや笑ってるけど、現実の世界も確実にこの方向に向かってるんだよなあ。豹変する千代も楽しいが、更に…

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第59回。共感を失ったラスティは暴走し、今は人質をとってリバーサイド・ホテルに立てこもっている。事件は市を震撼させ、警察も大きく動き出した。ウフコックはシザースの筋書きだと断言する。事態の収拾に乗り出すイースターズ・オフィスに、ハンターらクインテットが協力を申し出る。

 ラスティが大暴れする前回に続き、そのラスティに振り回される周囲の人々を描く回。バロットとウフコックのコンビには安定感・安心感があるし、狡猾さを増したバジルを中心としたクインテットも単なるマフィアとは一線を画す組織としての強みがある。それだけに、両者が組む必要がある状況ってだけで、なんか不気味さを感じてしまう。

 吉上亮「ヴェルト」第二部第六章。ナポレオンに連れられ同盟軍が立てこもる要塞の攻略に付き合わされる処刑人サンソン。ここトゥーロンは王党派に加えスペイン・ナポリ王国・シチリア王国・サルディーニャ王国そして英国が力添えし、更にオーストリアからも援軍が来ると噂されている。その前に要塞を落としたいが、海からの補給を受けており…

 ナポレオンが名を挙げたトゥーロン攻囲戦(→Wikipedia)をネタにした回。今までは謎めいた存在だったナポレオンが、今回は意外なくらい心の内を語ってくれる。砲兵将校としての合理的な思考・世界観を基盤としながらも、この作品のテーマであるアレに気づいている彼は…

 飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第27回。文化祭の大災害により、町も高校も大きな被害を受けた。高校で生き延びた者は、生徒・教職員ともに1/4程度。校舎も大きく変容し、使える建物や教室も減った。それでも、生徒たちは学校に通う。

 何度も書いているが、登場人?物たちが、「自分は人間ではない」と知っているのが、本作の大きな特徴。今回の中心人?物である宇田広安が自宅で食事を摂る場面は、この作品の特異な設定を象徴する異様さに満ちている。

 読み切り小説。

 佐久間洋司原案・監修+結城紫雄著「ユーダイモニア」冒頭。都市<AO>の中心<ネクサス>の高層フロアで目を覚ます。突然に連れてこられたが、リオが巧みに案内してくれるので、大きな不安はない。トレーニングも成果が出て、外出が許された。「街全体が、大きな図書館みたい」と感動していたが…

 冒頭のみ収録。一種のユートピア物の体裁を取っている。平和で幸せな社会の中に、波乱を起こす者、本作品ではノアが居るのも、ユートピア物のお約束だろう。住む者が人間の姿をして人間の言葉を話し現代人に近い考え方をして現代の技術の延長に見える(だから直感的に使い方が分かる)ガジェットに囲まれているあたりは親しみやすい。

 安野貴博「月面の弁護人」。2042年。スティーブンは、弁護士から宇宙飛行士になり、緯度経度0つまり地球の真正面にあるNASAの基地でキャップテンを務めている。そこに国家航天局から逃亡者がやってきた。かの国とは関係断絶状態にあり、資源開発をめぐり競争関係にある。リンファと名のる逃亡者は…

 冒頭に宇宙条約(→Wikipedia)の引用、そして主人公スティーブンは弁護士。となれば想像がつくように、「いかに法の裏をかくか」をネタとした作品。13頁の短い作品ながら、「おお!」「そうきたか」と読者の予想を覆す鋭いアイデアが詰まっている。

 暴力と破滅の運び手「ミッドナイト・イン・トロカデロ」。1878年のパリ万博で建てられたトロカデロ宮に幽霊が出る。今は1935年、2年後の万博に備え、ロイック中堅技師は悩んでいた。トロカデロ宮を他の場所に移すか廃棄するか。上司のアルベール主任は優柔不断で頼りにならない。問題はパイプオルガンで…

 うおお、楽器の女王パイプオルガンだぁぁっ!そう、本作は滅多にお目にかかれないパイプオルガンSFなのだ。それだけで私のは星3個あげちゃう。なぜパイプオルガンが楽器の女王かって?そりゃね、他の楽器と違ってパイプオルガンは動けないから。だもんで、他の楽器と合奏する際は、他の楽器がパイプオルガンに調律を合わせるのだ。姿だって、楽器というより建物と呼ぶべき堂々たる迫力だし。

 ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「緑紋病 前編」酒井昭伸訳。島で過ごす人魚のミッシェルにダヴー博士から魅力的な仕事の依頼が来た。ジョナサン・テルジアンの生涯で、所在が掴めない時期が三週間ほどある。再び姿を現した時、彼の考え方は大きく変わっていた。未熟とはいえ相応に情報ネットワークが発達している時代だから、何らかの痕跡がある筈だ。

 技術も社会も大きく変貌した遠未来と、私たちの時代に近い世界が交互に語られる。かつてウォルター・ジョン・ウィリアムズはパチモンのサイバーパンクみたく言われてた。大量のSFガジェットをいちいち説明せず怒涛のように登場させる芸風はワイドスクリーン・バロックっぽいが、近未来のパートは船戸与一もかくやと思わせる昏く熱くディープなネタを扱っている。

 次号はウィリアム。ギブスン特集。訳者の黒丸尚も扱うんだろうか?

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