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2025年4月16日 (水)

ジェイコブ・ゴールドスタイン「マネーの世界史 我々を翻弄し続ける『お金』エンターテインメント」KADOKAWA 松藤留美子訳

本書は、マネーがどうやって今の形になったのか、さまざまな時代の瞬間をたどっていく物語だ。
  ――はじめに マネーはフィクション

最初に文字を書いたのは詩人ではない。会計係だ。
  ――第1章 マネーの起源

マネーとは、何物にも裏付けられない、ほぼ純粋な創造物でしかない。
  ――第2章 紙幣を発明したとき、経済革命が起きたが、その後、何もかも忘れることにした

(ブレーズ・パスカルより前は)未来というものは偶然か、神々か、唯一の神によって決められるものだった。
  ――第4章 確率を使って金持ちになる方法

「金融の本質はタイム・トラベルだ」「貯蓄とは資金を現在から未来へ移動させることだ。金融とは資金を未来から現在へ移動させることだ」
  ――第5章 タイム・トラベルとして金融 株式市場を張圧明する

異なる利害関係の人々――貸し手と借り手、投資家と労働者――の間で綱引きがあってこそ、マネーは安定する。
  ――第7章 百万長者の発明

生産性の向上のおかげで、ほぼすべての人が以前より豊かになった。つまり、現実的なことばで言えば、ほぼ全員がご先祖様には想像できなかったほど多くのマネーを手にすることになったのだ。
  ――第8章 誰もがもっとマネーを手に入れられる可能性がある

19世紀前半が終わるまで、イングランドが地球上で最初の近代的な工業経済を形成して、生産性が飛躍的に向上していく一方で、労働者の平均賃金はほとんど上がらなかった。
  ――第9章 だが実際のところ、誰もがもっとマネーを手に入れることなんてできるのか?

ぼくらは今日の1ドルが1年前の1ドルと同じだと考えている。そうではない。それは錯覚だ。
  ――第10章 金本位制 ある愛の物語

銀行の基本業務は短期の借入と長期の貸し出しだ。
  ――第13章 いかにして部屋の中のふたりの男が新しいタイプのマネーを発明したか

マネーの歴史は、だいたいのところ、人々が実際には気づかないうちにマネーに変貌するモノの歴史だといえる。
  ――第15章 デジタル・キャッシュのラディカルな夢

【どんな本?】

 マネー、お金。私たちはお金のために働き、お金のために悩み、お金のために政権を取り換え、時として戦争まで引き起こす。景気がいい時はどこからともなく湧き出てきて、株価が暴落するとたちまち消え失せる。いったい、カネはどこから出てきてどこに消えたのか。経済ニュースでは日銀の方針を盛んに報じるが、それにどんな意味があるのか。つか、そもそも日銀って何やってんの?

 経済の基盤となるカネ=マネーについて、その起源から変転・発展そして現代の金融政策や最近のビットコイン、果てはMMT(現代貨幣理論、→Wikipedia)に至るまで、歴史上のエピソードを通じてジャーナリストが素人に楽しくわかりやすく親しみやすく語る、一般向けの金融解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Money : The True Story of a Made-Up Thing, by Jacob Goldstein, 2020。日本語版は2024年12月6日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約300頁。9.5ポイント41字×17行×300頁=約209,100字、400字詰め原稿用紙で約523枚。文庫なら普通の厚さの一冊分。

 文章はくだけていて親しみやすい。一般に金融の話は面倒くさく分かりづらいのだが、本書は私が読んだ金融関係の本の中では最もわかりやすかった。

 ただし、経済政策や金融政策は学派によって主張が大きく異なる。著者はなるべく特定の学派に肩入れしないよう心がけている…というか、各学派の理屈、例えばMMTなどを紹介する際には原則として好意的に語っているので、ソコを心に留めておこう。

【構成は?】

 ほぼ時系列順に話が進む。これは金融史の発展ともほぼ歩調が合っているので、素直に頭から順に読もう。

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  • はじめに マネーはフィクション
  • Ⅰ マネーの発明
  • 第1章 マネーの起源
    わたしはあなたに羊を六頭借りています/マネーはすべてを変える
  • 第2章 紙幣を発明したとき、経済革命が起きたが、その後、何もかも忘れることにした
    何ものにも裏づけられていないマネー
  • Ⅱ 人殺し、少年王、そして資本主義の発明
  • 第3章 いかにして金細工職人が偶然、銀行を再発明したか(そして英国を大混乱に陥れたか)
    ジョン・ローの最初の行動
  • 第4章 確率を使って金持ちになる方法
    野に放たれた確率
  • 第5章 タイム・トラベルとして金融 株式市場を張圧明する
    空売りの物語
  • 第6章 ジョン・ロー、マネーを発行する
    みんながマネーだと信じれば、それはマネーだ
  • 第7章 百万長者の発明
    「話題は百万のことばかり」/リアル・エコノミー(実体経済)対ミシシッピ・バブル
  • Ⅲ さらにマネーを
  • 第8章 誰もがもっとマネーを手に入れられる可能性がある
    電球のようにパッとひらめく瞬間
  • 第9章 だが実際のところ、誰もがもっとマネーを手に入れることなんてできるのか?
    ラッダイトたちへの共感
  • Ⅳ 現代のマネー
  • 第10章 金本位制 ある愛の物語
    金に対する反論/貨幣錯覚(マネー・イリュージョン)
  • 第11章 そいつを中央銀行などと呼ぶな
    銀行を憎んだ大統領/8370種類の紙幣がある国/パニック発作(恐慌)/上院議員と銀行家集団が密かに狩猟クラブに出かけて中央銀行設立の構想を練る
  • 第12章 マネーは死んだ、マネーよ、永遠なれ
    どうしてマネー不足そのものが世界大恐慌を引き起こしたのか/金の手錠/「西欧文明の終わり」
  • ⅴ 21世紀のマネー
  • 第13章 いかにして部屋の中のふたりの男が新しいタイプのマネーを発明したか
    ふたりの男/大手銀行の参入/投資ブーム/シャドー・バンキング/ブルース・ベント、元本割れに直面する/シャドー・マネーはリアル・マネー/マネーと次の危機
  • 第14章 ユーロのおおざっぱな歴史(そして、どうしてドルのほうがうまくいくのか)
    人々が大胆な実験と認めたがらなかった実験は大胆な実験だった/ユーロは奇跡だ!/ユーロは罠だ!/これはおれのマネーだ、もっとほしけりゃ自分で刷るさ/やれることは何でもやる
  • 第15章 デジタル・キャッシュのラディカルな夢
    デジタル・キャッシュが最先端だったとき/万国のテクノ・リバタリアンたちよ、団結せよ!/デジタルで匿名のキャッシュを発明するのは本当に難しい/ビットコイン!/1ビットコインの価値は?/ビットコイン、ダークになる/無政府資本主義だが、無政府状態ではない/ビットコインの価格
  • 第16章 SBF
    おわりに マネーの未来/現金のない世界/銀行のない世界/政府がマネーを発行して、仕事が欲しい人なら誰にでもマネーを与える世界
  • 謝辞/出典・情報源

【感想は?】

 金融の解説書としては、私が読んだ本の中では最も親しみやすく、分かりやすい…というか、分かったつもりになれる本だ。もっとも、今まで読んだ本で基礎ができていたから、かもしれないし、あまし複雑な事に立ち入っていないから、かもしれない。

 そもそも説明の仕方が巧い。抽象的な理屈から入るのではなく、具体的な事例/エピソードから語ってゆくのだ。

 まずはコイン=硬貨から話が始まるのだが、いきなり面白い指摘をしている。「マネーが物々交換から生まれたという(略)説には、ひとつだけ重大な欠陥がある。どこにも証拠がないのだ」。言われてみれば確かに。

 次に紙幣が出てくる。995年頃の中国というから宋の頃か。重くてかさばる硬貨のかわりに、その預かり証が流通しはじめる。が、明王朝は懐古趣味で、紙幣を廃止したため、以降の発展は阻まれてしまう。

 銀行など現代の金融業の奇妙な点の一つは、カネ=マネーを増殖させる事だ。銀行は預かったカネの一部を除き、大半を貸し出す。これにより、政府が発行した通貨よりはるかに多くのマネーが市場に流れ、経済活動が活発になる。この辺のカラクリを明かす「Ⅱ 人殺し、少年王、そして資本主義の発明」は、歴史物語としても楽しい。

 とまれ、新たな金融の誕生と成長に伴い、金融バブルが生まれてはじけるのも、歴史の皮肉だろう。

 発達し普及した金融業は起業家などの資金調達を容易にする反面、バブル崩壊などの副作用を引き起こす。何らかの形で金融の統制や統制が必要だと人々は悟り、日本銀行や連邦準備制度理事会=FRBなどの中央銀行の創設へと向かい、更に金本位制から離れてゆく。

 これを語る「Ⅳ 現代のマネー」の舞台が米国なのも、著者の巧みな所だろう。昔から米国は小さな政府を好み、連邦政府より民間に任せる傾向が強かった。まあ州が集まって国家になった、って歴史的な経緯のせいだろうけど。だもんで、目次にあるように一時期は「8370種類の紙幣がある国」なんて状態にあった。

 よくそれで取引が成立したな、と思うんだが、実際になんとかなったんだから凄い。

 カネについてよく言われているように、

マネーをマネーたらしめているのは信用だ。
  ――第3章 いかにして金細工職人が偶然、銀行を再発明したか(そして英国を大混乱に陥れたか)

 そして、その信用を保証しているのが国家だ、と私は考えて…いや、感じている。その理由の一つは、税金だ。

マネーについて、かなり使える定義はこうだ。税金の支払いに使えるものであること。
  ――第6章 ジョン・ロー、マネーを発行する

 だからこそ、国家は通貨を管理しようとする。

マネーは国家を国家たらしめるものの一部なのだ。
  ――第11章 そいつを中央銀行などと呼ぶな

 実際、通貨が暴落した国家は三流と見なされるしね。

 そんな歴史書的な雰囲気から一転、サブプライム住宅ローン危機(→Wikipedia)から始まる「ⅴ 21世紀のマネー」は、今なお進行中の話も多く、生々しい迫力がある。

 と同時に、中央銀行制度や証券会社のMMFなど、現代の金融制度や金融政策の説明も嬉しい。例えば今の日本は金利が安い。これは日銀が「景気が悪い」と判断しているからだ。

経済が悪化しはじめたら、連邦準備制度理事会(FRB)がマネーを創造し、借り入れしやすいように低金利にする。これによって、借り手がなんとか生き延びて、企業や事業者がマネーを借りて投資や雇用に回すように促すのだ。
  ――第12章 マネーは死んだ、マネーよ、永遠なれ

 ちなみに日本政府ではなく日銀なのも現代的な国家の特徴で、政府に通貨の発行を任せると際限なくお札を刷って、すぐインフレと通貨安に陥るから。

 それはともかく、低金利にはもう一つ効果がある。輸出に有利なのだ。

低金利は通貨流通量を下落させる傾向があり、それによりその国の輸出品が、他国の買い手にとって安くなるのだ。
  ――第14章 ユーロのおおざっぱな歴史(そして、どうしてドルのほうがうまくいくのか)

 さて、当初の疑問、どこからカネが湧いてきて、どこに消えるのか。この解を、本書はMMTに代弁させている。これはチト乱暴に感じるんだよね、今んとこMMTは理屈だけで実績はないし。

政府はモノを買うことによってドルを創造する――新たなマネーを流通させる。課税や借り入れによってマネーを流通から引き上げる。
  ――おわりに マネーの未来

 あと、本書を読み終えると、金融政策で経済を制御できるような気分になるが、もちろんそんな事はない。例えば原油価格が上がれば日本はインフレになる。MMTに従うと「インフレ時は増税して市場からカネを回収しろ」となるが、んな事をしたら日本経済は凍り付くだろう。いや私もMMTを詳しく知ってるワケじゃないんだが。

 とまれ、今後も金融業が経済に大きな影響を持つだろうし、ニュースも日銀やFRBの方針を大きく報じるだろう。その全てが理解できるとまではいかないにせよ、多少は雰囲気が掴めるようになるはずだ。歴史が好きな人はもちろん、金融に興味がある(が知識は全くない)人にもお薦め。

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