フランソワ・デュポワ「楽器の科学 美しい音色を生み出す『構造』と『しくみ』」講談社ブルーバックス 木村彩訳
本書は、音楽という芸術表現において欠かすことのできない存在である楽器を科学の視点でとらえ、あらゆる楽器が音響科学の理論と技術によって支えられた存在であることをお伝えするために書かれました。
――はじめに
【どんな本?】
フルートは金属製なのに木管楽器と呼ばれる。バイオリンの図体はギターより小さいのに大きな音をコンサートホール全体に響かせる。そのコンサートホールの壁や天井は、ナニやら意味ありげな出っ張りや曲面で飾られている。
なぜ楽器は鳴るのか。小さな楽器が、どうやって大きな音を出せるのか。フルートとサックスとクラリネット、それぞれの音悪露の違いはどこからくるのか。
科学的な見地から見た音の基本から始まり、様々な楽器のしくみと特徴ある音色を生み出す仕掛け、そしてコンサートホールの構造と工夫から演奏者の楽器やホールへの思い入れまで、楽器の原理から愉快なエピソードまでを、マレット奏者にして作曲家の著者が語る、一般向けの音楽と科学の解説書。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2022年4月20日第1刷発行。新書版ソフトカバー横一段組み本文約230頁。9ポイント26字×27行×230頁=約161,460字、400字詰め原稿用紙で約404枚。文庫ならやや薄めだが、写真やイラストやグラフを豊富に収録しているので、文字数は8割程度。
文章はこなれていて親しみやすい。内容も初心者向けでわかりやすい。書名に科学とあるが、あまり突っ込んだ話は出てこない。あくまでも初心者向けで、むしろプロの音楽家のエッセイ集っぽい雰囲気もある。
【構成は?】
とはいえ科学の本なので、前の章を基礎として後の章が続く構成だ。素直に頭から読もう。例外は最後の「第5楽章 演奏の極意」で、ここは完全に他の章から独立しているので、いつ読んでもいい。
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- はじめに/推薦のことば ガブリエル・タッキーノ/プレリュード
- 第1楽章 作曲の「かけ算」を支える楽器たち 楽器には5種類ある
- 1-1 楽器を分類する科学
- 1-2 体鳴楽器 idiophone イディオフォン
- 1-3 膜鳴楽器 membranophone メンブラノフォン
- 1-4 弦鳴楽器 chordophone コードフォン
- 1-5 気鳴楽器 aerophone アエロフォン
- 1-6 電鳴楽器 electrophone エレクトロフォン
- 第2楽章 楽器の個性は「倍音」で決まる 楽器が奏でる「音」の科学①
- 2-1 音とはなんだろう
- 2-2 「音の高さ」とはなんだろう
- 2-3 決められた基準音
- 2-4 「音色」とはなんだろう
- 2-5 振幅包絡とはなんだろう
- 第3楽章 楽器の音色は「共鳴」が美しくする 楽器が奏でる「音」の科学②
- 3-1 共鳴とはなんだろう
- 3-2 楽器の音はどのように鳴るのか
- 3-3 共鳴を作り出す構造としくみ
- 3-4 弦楽器の構造としくみ ①バイオリンの場合
- 3-5 弦楽器の構造としくみ ②ピアノの場合
- 3-6 管楽器の構造としくみ ①空気の振動をどう生み出すか
- 3-7 管楽器の構造としくみ ②トランペットとトロンボーンの場合
- 3-8 打楽器の構造としくみ
- 第4楽章 「楽器の最高性能」を引き出す空間とは? コンサートホールの音響科学
- 4-1 コンサートホールは誰が作る? 「音響技術者」という職人
- 4-2 コンサートホールをめぐる音響現象
- 4-3 「靴箱」と「葡萄畑」 コンサートホールの二つの形
- 4-4 オーケストラとコンサートホールのふしぎな関係
- 4-5 コンサートホールの音響はどう決まる?
- 4-6 最高の音響を求めて
- 第5楽章 演奏の極意 世界的ソリスト10人が教えるプロの楽器論
- 5-1 世界の音楽家たちの音響体験
長谷川陽子(チェロ)
佐々木典子(ソプラノ)
パトリック・メッシーナ(クラリネット)
ヴァンサン・リュカ(フルート)
テディ・パアパヴラミ(バイオリン)
リゥドヴィック・セルミ(ピアノ、作曲)
マーク・シャロス(作曲、インプロビゼーション、ピアノ、シンセサイザー)
タファ・シセ(パーカッション、作曲)
アレクサンドル・〝サーシャ”・ボルダチョフ(ハープ、作曲、編曲)
フランソワ・デュポワ(作曲、マリンバ) - おわりに
- さくいん
【感想は?】
やっぱり音、それも音楽の話は面白いなあ。
私は流行歌ばっかりでクラシックはほとんど知らない。それでも楽器の話は好きなのだ。
まずは楽器の分類で驚く。「楽器の分類にはものすごくたくさんの考え方」があるのに納得。そして本書では楽器の音の生まれ方・鳴り方で分けている。科学的というより工学的な分類だね。このためギターもピアノも弦鳴楽器となり、オルガンもクラリネットも気鳴楽器になるのだ。鍵盤楽器や吹奏楽器とかは、演奏方法による分類なんだなあ。
ちなみに最後の電鳴楽器は、ご想像の通りエレキギターやシンセサイザーなど電気仕掛けの楽器20世紀生まれかと思ったが、意外と誕生は早かった。
1759年、イエズス会の神父であり、数学者・科学者でもあったジャン・バティスト・ティレ・ド・ラ・ボルド(1730~1777)が、静電気で鳴るチェンバロを発明しました。
――第1楽章 作曲の「かけ算」を支える楽器たち
あとオンド・マルトノは知らなかったけど、音はみんな聞いたことがあると思う(→Youtube)。
続く第2楽章。基準音が440Hzのはずが、楽団によって微妙に違うのに笑った。「昔からそうだった」のはともかく、「根城のホールのパイプオルガンがそうだから」は、さすが楽器の女王と感心してしまう。ちなみに基準音が決まる前は…
(基準音の周波数が定まる前の)当時の演奏家たちは演奏環境に合わせて変調するのが常識だったといわれています。
“教会の音”は歌いやすいように全体的に低めに、“室内楽の音”は華やかさを演出するために高めに設定するなどしていました。
――第2楽章 楽器の個性は「倍音」で決まる
あと、偶数倍音が多いサックスと奇数倍音が多いクラリネット、なんて話も興味深い。
そしてやっと楽器のしくみと工学上の工夫に分け入っていく第3楽章。ここではバイオリンを楽団のスターに押し上げた構造上の工夫、魂柱に驚いた。そんな仕掛けがあったのか。
もっとも、音を大きくする副作用もあって。
増幅させた音の振動は、減衰する速度も速くなります。
――第3楽章 楽器の音色は「共鳴」が美しくする
だからバンジョーや三味線は、アタックが強くサスティンが少ないのか。
バイオリンと異なりギターは楽団のスターになれなかった。それは音が小さく、多くの聴衆が入る大ホール全体に生音を響かせられなかったせいだ。そこを克服しようとしたのがボディに金属板を使ったリゾネーター・ギター(→Wikipedia)。ただ音色が独特で、ブルースやカントリーには合うけどオーケストラには合わない。
金属の板にはすべての周波数を同じように増幅する性質があります。楽器にとって、これはきわめて不都合な性質です。なぜなら、弾いた音が全体的に「わんわん」と響いてしまい、楽器の演奏者としては不鮮明な音の塊になってしまうからです。
――第3楽章 楽器の音色は「共鳴」が美しくする
と、この説明で腑に落ちた。
続く第4楽章はコンサートホールの話。やはり大きなハコは音が違うようで。
吸音率が一定の場合は、容積が大きいほど残響時間は長くなります。
――第4楽章 「楽器の最高性能」を引き出す空間とは?
あと、音は周波数によっても性質が違い…
低音が回折しやすかったのに対し、高音=高い周波数の音は、反射しやすいという特徴があります。
――第4楽章 「楽器の最高性能」を引き出す空間とは?
昔の東京ドームの音質が酷かったのは、このせいなんだろうか。
最後の第5楽章は、演奏者へのインタビュウ。今さらながら、楽器によって演奏者が持ち歩く楽器と、ホールに付随する楽器の違いに気がついた。ピアノとハープは据え付けなもんで、
いったいどれくらい、リサイタル直前に弦を張り直したり、ピアノの下に四つんばいになってもぐりこみ、ペダルの調整をし直したりしたことか!
――第5楽章 演奏の極意
…てな苦労も。現代のポピュラー音楽は電気ピアノやシンセサイザーが主なんで、鍵盤奏者はそういう苦労をしないで済むんだろうなあ。
他にもカーネギー・ホール改装の騒動など、音楽と音響に関わる興味深い挿話がいっぱい。「科学」と呼ぶには道草を食いすぎている感もあるけど、むしろ本書はソコが魅力になっていると思う。あれだね、受験に関係ない話が面白い教師の授業みたいな。ということで、音と音楽に興味があり、野次馬根性旺盛な人にお薦め。
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