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2025年3月 9日 (日)

SFマガジン2025年4月号

こいつは問題機だ。
  ――神林長平「戦闘妖精・雪風 エピソード零 棘を抜く者」

戦争を始めることは無能な政治家でもできる。だが、戦争を終わらせることができるのは有能な政治家だけだ。
  ――吉上亮「ヴェルト」第二部第五章

母語以外の言語で映画を撮る場合、安心してトライできるのがSFというジャンルなのだと思います。
  ――『ミッキー17』監督ポン・ジュノ インタビュー

いやあ、驚いたね。
あいつが、ルーレットじゃなくて、スロットマシンだったなんてさ。
  ――草上仁「ルーレット」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「SF少女マンガ特集」として、マンガが再録3作+描きおろし5作に解説や作品ガイドなど。再録は萩尾望都「金曜の夜の集会」,大島弓子「サマタイム」,坂田靖子「ノスタルジー」。描きおろしは永野のりこ「地球をわれに」,吟鳥子「SFアリ」「少女の書くSF」「AIのSF」,白井弓子「あみ手の星」。

 小説は6本+3本。連載で4本+3本、読切2本。

 連載4本+3本。辻村七子「博士とマリア」第2回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第58回,吉上亮「ヴェルト」第二部第五章,夢枕獏「小角の城」第80回に加え、田丸雅智「未来図ショートショート」3本「新しい助っ人」「空の上の修学旅行」「バーチャル・レジデンス」。

 読み切り2本。神林長平「戦闘妖精・雪風 エピソード零 棘を抜く者」,草上仁「ルーレット」。

 まずは「SF少女マンガ特集」。

 萩尾望都「金曜の夜の集会」。8月最後の金曜日。小学生の男の子マーモは、夜に天文クラブでローエル・ボーエル彗星を見るのを楽しみにしていた…が、ルース先生に急用が出来て中止になってしまった。

 初出はSFマガジン1980年11月増刊号。マーモの友人ダッグのズボンなど、他の漫画家ならスクリ-ン・トーンを使うだろう所を手で柄をつけてる。お陰でシワの依り方がよくわかる。8頁目、丘の上から街を見下ろすコマは、この人のお得意の構図。

 大島弓子「サマタイム」。夏の夕食どき、小さな山村の送電線が切れて電話と電気が止まる。東京かあら里帰りするはずの信一は数日帰ってこない。実与ちゃんとの結婚を控えたトオルは、信一を迎えに東京まで行く羽目に。

 初出は別冊ララ1984年9月号。停電の場面こそベタで黒いが、頁が進むほどに頁は白くなっていく。人物だけで背景がないコマや、真っ白で文字だけのコマもある。こういう、「注目させたいモノ」に的を絞った描き方が巧みだ。

 坂田靖子「ノスタルジー」。水星には王国があった。王様は猫目石を磨くのが仕事だった。その日、ゼンマイが止まってしまった。王国のエネルギー危機だ。

 初出はSFマガジン1986年3月号。この人も頁が白い。世界観は素っ頓狂なのに、絵柄がユーモラスでトボけた感じのためか、妙に親しみを感じる。眼が点や線なのも、この人の独特の持ち味。

 永野のりこ「地球をわれに」。ハカセは創り上げた。マッドな願いを叶える装置を。地球をわがものにしようと、装置を起動し、大いなる者を召喚した…

 はい、そうです。十八番の理系メガネ男子と可愛い女の子のお話です。つか、この人、少女マンガに入るんだろうか? いや面白いからいいけどw

 吟鳥子「SFアリ」「少女の書くSF」「AIのSF」。いずれも8頁の短編ながら、綺麗にオチがついてる。あと、文字が大きいのが年寄りには嬉しい。

 白井弓子「あみ手の星」。この星の者はみな、いつも編んでいる。移民団が持ち込んだ工作機械の殆どが不良品で、無事なのは紡績機だけだった。なので人々は、あらゆる道具を自らの手で編み織るしかないのだ。

 これは貴重な編み物SF。白と黒の中間、グレーの使い方が巧みだ。

 連載小説。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第58回。<マリーン>の水上バイクに護衛されて<白い要塞>は運河を遡上し、波止場へたどり着く。波止場ではラスティにベンヴェリオらが迎えに来ていた。

 ラスティが突っ走る回。彼に振り回されるジェイクの不安がヒシヒシと伝わってくる。この作品、長さもすごいが登場人物の数もすさまじい。著者は全部、頭に入ってるんだろうか?

 吉上亮「ヴェルト」第二部第五章。公安委員会の部屋。処刑人のサンソンはロペスピエールに語る。「父祖より受け継いだ処刑人の職を辞したい」と。息子のアンリに継がせる気もない。革命の前から、処刑人は身分制度の外にいた。

 今回は狂信的なサン・ジュスト(→Wikipedia)とジョルジュ・ジャック・ダントン(→Wikipedia)などが登場するが、サンソンの奥さんマリー=アンヌがひときわ光る。

 辻村七子「博士とマリア」第2回。自分の姿はマシな方だ、そうブッサンは思っている。だが特別に美しいとは言えない、とも。美しくありたい、そう願い、日々の努力を怠らないブッサンは、とびきり美しい男を見かける。あの美しさを手に入れる手段があれば…

 前回はドクターとマリアⅡの掛け合いが楽しかったが、今回は両者ともに脇に回り、美を追求する男ブッサンが中心となって話が進む。巨大企業HAPが支配する世界で、そこらの労働者であるブッサンが貯めた額程度でどうにかなるとは思えなかったが、そこはそれ。

 読み切り。

 神林長平「戦闘妖精・雪風 エピソード零 棘を抜く者」。フェアリイ星、FAF。スーパーシルフの機体シリアルナンバー79113は問題機だ。乗ったパイロット一名が死亡、一名が負傷、フライトオフィサ一名が負傷、機外に放り出されたのが一名。そこに腕はいいが性格に難ありな新人パイロットがやってきた。

 この記事を書くため改めて流し読みしたら、だいぶ印象が変わった。最初は零と雪風に注目したんだが、今回はブッカー少佐に目が行く。クーリィ准将の無茶な要求と、徹底してマイペースな部下&機体の板挟みになってる少佐に同情してしまう。

 草上仁「ルーレット」。一時期は勢いづいていたが、今は老いぼれたガンブラー。残ったのは借金と、勝負のカタで手に入れたルーレットだけ。ルーレットったってモノじゃない。れっきとしたペットだ。今は六本足の。困ったことに、金貸しは見切りをつけたらしい。ならいっそ高飛びを、と考えたが…

 草上仁にしては長めの作品。主人公は裏社会で生きる者に相応しく、その場しのぎのセコい手を駆使して金貸しから逃げまくる。よく今まで生きてこれたなあ、と思うぐらい、しょうもないw 逃亡中もギャンブラーに相応しく、いちいち博打に出るのが楽しい。オチも酷いw

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