SFマガジン2025年2月号
「スーザンはな」ハキームは言った。「おれたちの町の一員なんだよ」
――ナオミ・クリッツァー「陽の光が届かなくなった年」桐谷知未訳「われわれはいま、雪風の世界にいるわけだな」
――神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」最終回なにかがやって来た。この地にやってきた。
――飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第26回
376頁の標準サイズ。
特集は「創刊65周年記念号」として、2025オールタイム・ベストSF結果発表など。
小説は9本+3本。連載で6本+3本、読切3本。
連載6本+3本。新連載の辻村七子「博士とマリア」第1回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第57回,神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」最終回,飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第26回,吉上亮「ヴェルト」第二部第四章,夢枕獏「小角の城」第79回に加え、田丸雅智「未来図ショートショート」3本「自動のドライブ」「ドローン養蜂家」「ロボット投資」。
読み切り3本。グレッグ・イーガン「アフター・ゼロ」山岸真訳,ナオミ・クリッツァー「陽の光が届かなくなった年」桐谷知未訳,大木芙沙子「やけにポストの多い町」。
2025オールタイム・ベストSF。山田正紀は作家としては人気があるのに作品がベスト20に入ってないのは、多作が災いして表割れしたのか?でも「神狩り」と「宝石泥棒」はベスト50に入ってた。海外部門は米国人作家がベスト5中2人、長編作品ではベスト5中1作品なのが日本独特で面白い。東京は世界中の料理が食べられるって話もあって、案外と日本人はすべての国の文化を原則的には歓迎する姿勢なのかも。あと海外短編で「フロストとベータ」がベスト50に入ってるのが嬉しい。キャロル・エムシュウィラーの「順応性」も、アンソロジーとかに収録されればきっと人気が出るんだろうけど。
連載小説。
新連載の辻村七子「博士とマリア」第1回。急速な温暖化で海水面が上昇し、海沿いの地域が水没した未来。巨大企業HAはシチリガハマの調査掘削と再開発に巨大船を派遣している。作業船の副船長キンバリーは、ウオノメを削るためドクターの医療船を訪れる。無愛想なドクターと、機転が利いて愛想のいい医療用ロボットのマリアⅡ。その次に医療船を訪れたのは男女の二人組。
いつも不機嫌でへそ曲がりなドクターと、愛想がよく気が利き客あしらいは巧みだがドクターに対しては鋭いツッコミをかますマリアⅡの会話が楽しい。少なくとも外見的には若い姿を保てるほど医療技術は発達しているが、社会全体としての医療サービス体制は何かと問題含みなあたありから、この世界の社会情勢がうっすら見えてくる。
冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第57回。法廷闘争では、陪審員の選任が始まった。珍しく、原告・被告ともに同じ望みを抱いている。シザースに介入されたくない。懸念は当たり、十人の陪審候補者にもシザースが紛れ込んでいる。そればかりか、シザースはウフコックに語りかけてきた。
いよいよ終盤かと思っていたが、今回はハンターもシザースもオクトーバー一族も、大きく動き出し、まだまだ波乱は続く様子。どうもクインテットともシザースとも異なる、別の思惑を持つ何者かが裏で動いてるっぽい。
神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」最終回。ジャムの気配を探る雪風。その後方にジャムの超空間通路らしき存在が発生、亜音速で雪風を追ってくる。田村大尉も飛燕で駆けつける。ジャムを暴く邪眼が。
ジャムを目前にして緊張した場面のはずなのに、深井・桂城・田村の三人の会話は、ドツキ漫才の様相を呈しているのはなぜなのかw いや内容は真面目なんだが、特に桂城への態度がw その桂城も深井に対しかなり酷い事を言ってるしw 終盤で一応はジャムの正体が語られるが、果たして…
飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第26回。試写室では天使化した唐谷と、園丁たちの戦いが始まる。そこに乱入する遠野暁。<クレマンの年代記>の世界にも、侵入者が現れる。
もともとシミュレーションの世界でありながら、登場人?物(の一部)は自分が計算された存在だと知っている、そういうややこしい設定のお話だったのが、今回は更に面倒くさい状況に。そして第三部完。
吉上亮「ヴェルト」第二部第四章。サドの劇は続く。舞台にはシャルロット・コルデー(→Wikipedia)。故郷のカーンからパリへとやって来た若い女、暗殺の天使。劇が終わり、王の目の引き渡しをサドに迫るサンソン。
歴史上の有名人を巧みに登場させる本作、今回はこうきたか、と感心する。お話の内容も実に凝ってて、サドの作った劇って体裁をとりつつ、現実と幻想の境を混乱させてゆく。おまけに時制が絡み…
読み切り。
グレッグ・イーガン「アフター・ゼロ」山岸真訳。温暖化が進んだ未来。かつて核融合炉で一世を風靡したラティファだが、今、ラティファの会社・質量融合社は清算手続きに入った。悪態をつき終えた時に、仲間のエミリーから連絡がきた。<散乱装置>を太陽と地球のラグランジュ・ポイント1に置き、地球に届く太陽の熱を少し減らす計画だ。
地球と太陽の間のL1に、デカい「日傘」を置く、いわゆるソーラーシールドって発想は、幾つか提案されている。本作の発想は少し違い、レンズで拡散させる、というもの。実は私もよくわかってないが、分からなくてもお話を楽しむには問題ない。いやホント、負け惜しみじゃないって。
ナオミ・クリッツァー「陽の光が届かなくなった年」桐谷知未訳。大気中に埃が舞い、陽がささなくなった。電力は停電が多くなり、水道水は出るが浄化が必要だ。多くの店舗は空っぽで、薬品は重要なものだけ入荷する。インターネットは通じない。わたしはタニーシャが作った「伝言板」を手伝い、近所の人たちの家を訪ね始めた。
災害を機に、ご近所の人たちとの関係が変わってゆく。米国が舞台の災害物は「悪魔のハンマー」や「ポストマン」や「スワン・ソング」が思い浮かぶが、途切れがちながら電力が通じてるあたり、政府は存在してる模様。20世紀なら教会が大きな役割を担いそうだし、大都市ならもっと物騒な雰囲気になるだろう。そう考えると、絶妙なバランスの舞台を選んでる。
大木芙沙子「やけにポストの多い町」。恋人の望と共に、洋平は望が生まれ育った町へやってきた。ここは日本で最も美しい夕焼けの町。そして、無線通信が通じない町。町はやたらとポストが多い。ポストは二種類。ひとつは普通の赤いポスト。もう一つは蒲公英のような黄色で、こっちが異様に多い。
無線通信が通じない=スマートフォンが使えない、だと思っていい。実際、ソレはソレで需要があるから、時代ってのはわからない。ちょっと変わった町を訪れる、のほほんとした話かと思ったら、微妙にホラーな雰囲気になり、真相は更にその奥に。夕焼けが美しいのも、スマートフォンが通じないのも、ちゃんと理由があるのが見事。
鯨井久志の世界SF情報、ローカス・ベストセラーリストを見てびっくり。チャイナ・ミエヴィルが、なんとキアヌ・リーブスと共著で The Book of Elsewhere なんて作品を出してる。二人に何があったんだ? と思って検索すると記事が幾つか。二人とも色々あったんだなあ。
伴名練の戦後初期日本SF・女性小説家たちの足跡 新井素子――日本SF史に残るベストセラー作家②。やっぱりいたんだ、彼女の作品をSFだと思っていないファンが。そういう人にとって、SFな仕掛けは特別なモノではなくて、お話の作り方としてあり得る手法の一つ、みたいな位置づけなんだと思う。それだけ時代的にSFな仕掛けが普及してきたのと、新井素子の作品が広い層にウケたって事だろう。
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