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2024年6月 6日 (木)

ランドール・マンロー「もっとホワット・イフ? 地球の1日が1秒になったらどうなるか」早川書房 吉田三知代訳

どれも絶対にご家庭では試さないでください。
  ――おことわり

マリオは1日何カロリーを消費しますか?
  ――さくっと答えます#1

【どんな本?】

 NASA のロボット工学者だった著者が、自分のサイトに集まった珍問・奇問に対し、時には真面目に計算し、または専門家に相談し、それなりに妥当な解を漫画を交えユーモラスに示した、一般向けの楽しい科学解説書その2。

 先の「ホワット・イフ?」が大ヒットしたためか、読者から寄せられる質問は量ばかりかバラエティも狂気もヤバさもグレード・アップし、著者は政府の監視リストにまで乗る羽目に。

 ということで、覚悟して読みましょう。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は What IF? 2 : Additional Serious Scientific Answers to Absurd Hypothetical Questions, by Randall Munroe, 2022。日本語版は2023年2月25日初版発行。単行本ソフトカバー横一段組み本文約381頁に加え、訳者あとがき2頁。9ポイント33字×29行×381頁=約364,617字、400字詰め原稿用紙で約912枚。文庫なら薄めの上下巻ぐらい…だが、紙面の半分ぐらいはイラストというか漫画なので、実際の文字数は半分ぐらい。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しくない。たまに数式が出てくるが、読み飛ばしても問題ない。もっとも、ネタを含んだ式が稀にあるので油断はできないんだけど。

【構成は?】

 質問と回答は、一つの質問に5~10頁程度の解答が続く形。加えて前著の影響か多くの質問が集まったらしく、複数の質問にまとめて簡潔に答える「さくっと答えます」「ちょっとヤバそうな質問集」が間に挟まる。それぞれ完全に独立した記事なので、美味しそうな所だけをつまみ食いしてもいい。

 はじめに

読者からの質問と著者の解答

 謝辞/参考文献/訳者あとがき

【感想は?】

 馬鹿々々しい質問を真面目に計算して答えを出したうえで、想定外の結論に達するユーモア科学解説本の第2弾。

 しょっぱなから質問が狂ってる。「太陽系を木星のところまでスープでいっぱいにしたら、どうなりますか?」 えっと、5歳のアメリアちゃん、何故にスープw

 多少なりとも物理学を知っていれば、質量だけでもヤバい事になりそうなのは思いつく。が、真面目に計算する奴は滅多にいない。と共に、この回答でアメリアちゃんは納得するんだろうか、なんて疑問も浮かぶ。まあ、返答が返ってくる頃にはアメリアちゃんも質問を忘れているだろうなあw

 次に漫画でよくある、沢山の鳥に持ち上げてもらうって発想、やっぱりあったw 結論としては、色々と難しそう。

 科学的に「そうだったのか!」と感心するのも沢山ある。木星の一部分を家一軒分だけ地上に持ってきたら、は思いつかなかった。木星と言えば傑作冒険SF「サターン・デッドヒート」が思い浮かぶ…って、土星じゃん。まあ似たようなモンでしょ、巨大ガス惑星だし←をい この項では、私がスッカリ忘れていた巨大ガス惑星の特性を思い出させてくれた。確かに木星や土星に潜るのは難しそうだ←当たり前だろ

 やはり意外だったのがブランコ。子供の頃、欲しかったなあ、とっても長いブランコ。すんげえスピードが出そうで。ところが力学的に考えてみると、ブランコってのは不思議で。つまり外から運動エネルギーを与えてなくても、なぜか揺れが大きくなる。いや後ろから押すってのはナシで。これをキチンと考えてて、「おお!」と感心してしまった。とすると、支柱の材質によっては…

 など、マンロー君は真面目に計算しているかと思えば、鮮やかにハズす芸も楽しい。例えば「靴箱をいっぱいにして最も高額にする方法」。金やプラチナなど貴金属に続き、お高い物質としてプルトニウムを挙げ…おい、マズいだろw とソッチに思考を誘導しといて、ソレかいw

 やはり実際に計算してみるってのは面白いモンで、日頃から「そうだろうなあ」と思ってる事柄も、計算して結果が出ると、どひゃあ、となる時もある。「スマートフォンを真空管で作ったら?」も、その一つ。皆さんコンピュータの進歩はご存知だけど、計算結果を現実のモノで例えると、これがなかなか。まあ答えはいつも通り、コッチの思考の穴を突いてくるんだけどw

 まあ計算とは書いたけど、質問によっては実に大雑把な推計(フェルミ推定、→Wikipedia)で、中にはこんなのも。

誤差はゼロを2,3個付けたり取ったりする範囲だ

 いい加減な気もするけど、天文学者あたりは、この手の「1~2桁は誤差」な計算をよくやるらしい。こういうテキトーなネタがあることで、私は「とりあえずやってみよう」と気楽にいい加減な計算を試みることが増えた。いやソレで何かの役に立つワケじゃないけどw

 先の「ホワット・イフ?」が売れまくったためか、アレな人も惹きつけてしまい、著者にはこんな質問も寄せられる羽目になったのはご愁傷様と言うべきか。

エアフォースワンをドローンでやっつけるにはどうすればいいですか?
  ――ちょっとヤバそうな質問集#1

 えっと、それを尋ねて、どうするつもりなんだい?

 など、素っ頓狂な問いに笑いながら「アホな事を考えるのは俺だけじゃないんだ」と謎の安心感を抱き、真面目に調査・計算・シミュレーションする過程で「そんな方法もあるんだ」と感心し、アサッテの方向の結論に「ソッチかい!」と呆れる、楽しい科学と工学の本。肩の凝らない雑学が好きな人にお薦め。

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