2021年に面白かった小説3つノンフィクション3つ
はい、いつも通り思い付きで選びました。
【小説】
- 菅浩江「博物館惑星Ⅲ 歓喜の歌」早川書房
- 月と地球のラグランジュ・ポイントに浮かぶ人口小惑星<アフロディーテ>は、惑星まるごと博物館だ。学芸員の尚美・シャハムと警備員の兵藤健は共に新人。両名は頼れる先輩に囲まれながらも、違法生物の持ち込みや贋作事件に巻き込まれ…
- 博物館の展示物には全く知識がない兵藤健を主役に据えたのが嬉しい。というのも、私も健と同じく芸術には素人だもんで、彼の考えがよく分かるからだ。また、彼とAI<ディケ>の関係も、ヒトとAIの理想的な関係を描いている。本当に、こんな関係が築けたらいいなあ。
- 「フレドリック・ブラウンSF短編全集 4 最初のタイムマシン」東京創元社 安原和見訳
- 1940年代から60年代にかけて活躍したアメリカのSF/ミステリ作家フレドリック・ブラウンのSF短編を、執筆順に編集した全四巻シリーズの完結編。本書は1951年から1965年までの作品を収録。
- ブラウンの作品は星新一に味わいが似ている。スラスラ読めてわかりやすい文章、徹底的にそぎ落とした人物描写、短くてキレがよくブラックなオチ。特にこの巻は全四巻の中でも短い作品を多数収録していて、ブラウンの味が思いっきり凝縮されている。とまれ、濃いとはいってものど越しは極めて良く、日頃はあまり本を読まない人にも自信をもってお薦めできる。
- 三嶋与夢「ドラグーン」小説家になろう
- 悪徳貴族の馬鹿息子ルーデル・アルセスは、幼い時に見たドラゴンとそれを駆る騎士ドラグーンに魅了される。それまでの悪行で誰からも見限られたルーデルだが、ドラグーンになるため生活のすべてを捧げ…
- 相変わらずブログの更新が滞っているのは、みんな「小説家になろう」のせいです←人のせいにするなよ ちなみに「なろう」の「完結済み」は「書き手は続きを書く気がない」という意味で、お話が終わっているとは限らないんだけど、この作品は綺麗に終わってます。ストーリーは「ワンピース」や「スラムダンク」同様、クソガキが憧れに向かいまっしぐらに突き進む、少年の冒険と成長を描く王道の物語なのでお楽しみに。
【ノンフィクション】
- Martin Campbell-Kelly/William Aspray/Nathan Ensmenger/Jeffrey R.Yost「コンピューティング史 人間は情報をいかに取り扱ってきたか 原著第3版」共立出版 杉本舞監訳 喜多千草・宇田理訳
- 「コンピュータ史」ではない。「コンピューティング史」だ。もちろんコンピュータの話が中心になるんだけど、それ以前の紙の時代も扱っている。というか、「第1部 コンピュータ前史」が、やたらと面白い。紙とインクの時代でも、オフィスは着々と進歩してきたのだ。私たちが使っているちょっとした道具も、当時としては革新的なOA機器だったり。もちろん、コンピュータ登場以降の英雄たちの栄枯盛衰もなかなかに熱い。
- リチャード・C・フランシス「家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか」白揚社 西尾香苗訳
- イヌ,ネコ,ブタ,ウシ,ウマ,ヒツジ…。人類は様々な生物を飼いならし、家畜とした。野生の環境と家畜の環境は大きく違う。その違いは、家畜化された生物にも大きな影響を及ぼし、様々な変異を引き起こした。中には多くの種に共通する変異もあって…
- 生物が隠し持っている進化の可能性に唖然とする。ところで、今になって気が付いたんだが、「ヒトは自らも家畜化した」なんて話もあって、だとすると、ウマやブタに現れた変異もヒトに現れ、そして将来は更に進むんだろうか。楽しみだなあ。なお「都市で進化する生物たち」も面白かった。
- ベン・ルイス「最後のダ・ヴィンチの真実 510億円の『傑作』に群がった欲望」上杉隼人訳 集英社インターナショナル
- 2017年11月、クリスティーズの競売で絵画の落札価格の最高額が更新される。その額4憶5千万ドル。対象はレオナルド・ダ・ヴィンチの「サルバトール・ムンディ」。著者はこの作品の由来と発見そして競売へと至る経緯を追い、その過程で現代の美術界の内幕を容赦なく暴いてゆく。知られざる美術界の現状をつぶさに描く、ルポルタージュの傑作。
- 作品を掘り出した美術商ロバート・サイモンとアレックス・パリッシュの活躍も楽しいし、それを評価する美術界の御大たちの姿や、売買に関わる有象無象の胡散臭い連中の肖像、大きな戦争が美術界に与える影響など、雑学やゴシップまがいの面白さが盛りだくさん。ただ、美術品を買うのが怖くなるのはなんとも。
そんなわけで、更新が滞っているのは「小説家になろう」のせいです、はい。だって面白いんだもん。
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