リチャード・ローズ「エネルギー400年史 薪から石炭、石油、原子力、再生可能エネルギーまで」草思社 秋山勝訳
本書が正面から問いただそうとしているのは、エネルギーそのものをめぐる歴史である。
――はじめにウィリアム・グリルス・アダムズ「重大な発見のほぼすべては無視されるか、あるいは日の目を見ることのない段階を経過する世間の関心がほかに向いているか、あるいはその発見を受け入れる準備が世間にできていない時期に発見されたのか、そのいずれかの理由で黙殺されてしまうものなのである」
――第12章 滔々たる水の流れ
【どんな本?】
熱源として、照明として、そして動力として。人は様々なモノからエネルギーを得て暮らしてきた。それらのエネルギーは暮らしを変えるとともに、人が住む環境も変えてゆく。
21世紀初頭の今日、エネルギー源は、石油から天然ガスや原子力、または風力や太陽光などの再生可能エネルギーへと移り変わろうとしているが、多くの問題を抱え、決して順調とは言えない。
だが、これは今日に始まった話ではない。薪から石炭へ、石炭から石油へと移り変わる際にも、幾つもの問題や軋轢があり、多くの人たちの創意工夫と努力が必要だった。
産業革命の前日から現代まで、人々はどんな世界でどう暮らし、どんなエネルギーを用い、どんな問題を抱え、どう解決してきたのか。
エネルギー源の開拓と変遷の歴史を辿り、歴史の視点から21世紀のエネルギー問題を問い直す、一般向けの歴史書。
なお、気になる人のために示しておく。著者は原子力発電を認める立場だ。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
原書は ENERGY : A Human History, by Richard Rhodes, 2018。日本語版は2019年7月25日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組み本文約535頁に加え、訳者あとがき6頁。9ポイント45字×19行×535頁=約457,425字、400字詰め原稿用紙で約1,144枚。文庫なら上下巻ぐらいの分量。
文章は比較的にこなれている。最近になって気づいたけど、草思社の翻訳本は読みやすい本が多いなあ。内容も分かりやすい。歴史を辿る本だが、各場面ごとに地理的・歴史的な背景事情を素人向けに説明しているので、私のように歴史が苦手な人でもスルリと頭に入ってくる。距離や重さの単位は原書だとヤード・ポンド法だが、訳者がメートル法で補っているのは嬉しい心遣いだ。
【構成は?】
ほぼ時系列順に進む。ただし各章は独立しているので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。
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- はじめに エネルギーをめぐる400年の旅
- この世界を形作ったものたち
- 「気候変動」という難題
- 歴史から明日への道を学ぶ
- 第1部 動力
- 第1章 森なくして王国なし 材木/薪/石炭
- シェイクスピアの材木争奪戦
- 国家の安全保障を支える「木」
- 新大陸に木材を求める
- 忌み嫌われた「黒い石」
- ロンドンの貧しき煙突掃除夫たち
- 病と死をもたらす煤煙
- 汚染都市をいかに浄化するか
- 第2章 火で水を汲み上げる 石炭/真空ポンプ/大気圧蒸気機関
- 子供も女性も家族総出の炭鉱労働
- 炭鉱ガスによる大爆発事故
- 水没して放棄される炭鉱
- 「真空」を利用して水を汲み上げる
- 火薬を使った動力の研究
- 大気圧による蒸気機関の誕生
- 第3章 意志を持つ巨人 セイヴァリの蒸気機関/ニューコメンの蒸気機関
- セイヴァリの「火で揚水する機械」
- ニューコメンの蒸気機関
- 石炭の運搬をめぐる問題
- 木製軌道のワゴンウェイ
- 木炭からコークスへ
- 第4章 全世界を相手にする ワットの蒸気機関
- グラスゴー大学の実験工房
- ニューコメンの機関を改良する
- 「顕熱」と「潜熱」の発見
- シリンダーから分離された「復水器」
- ボールトン・アンド・ワット社
- 直線運動から回転運動へ
- 第5章 キャッチ・ミー・フォー・キャン 高圧蒸気機関/蒸気車/蒸気機関車
- ブリッジウォーターの運河
- 鉄製の軌条と車輪
- 大気圧機関から高圧蒸気機関へ
- トレヴィシックの「馬なし蒸気車」
- 蒸気機関車と馬との競争
- 「キャッチ・ミー・フォー・キャン」号
- 第6章 征服されざる蒸気 スティーブンソンの蒸気機関車
- 化石燃料の時代へ
- 鉄製軌条を走るトーマスの鉄道
- スティーブンソンの蒸気機関車
- リヴァプール・アンド・マンチェスター鉄道
- チャット・モスとの過酷な戦い
- レインヒルの機関車トライアル
- 「ロケット号」の圧勝
- 時間・空間の観念と感覚が変わる
- 第2部 照明
- 第7章 灯心草からガス灯へ 獣脂/コールタール/医療用ガス/石炭ガス/ガス灯
- 夜の暗闇の弱々しい明かり
- 照明燃料としての石炭ガス
- 華やかなガス灯による実演
- ガス灯を建物に設置する
- 「人工空気」による吸入ガス治療法
- 「笑気ガス」による麻酔効果
- ガス灯でパリを照らす?
- 30マイルのガス管施設
- 第8章 大海獣を追って 捕鯨/鯨油・鯨蝋
- 北米ナンタケット島への移住
- 灯油を得るための捕鯨
- 商業捕鯨の再興を求めて
- 大西洋から太平洋に鯨を追う
- 最盛期を迎える商業捕鯨
- 第9章 燃える水 テレピン油/カンフェン/瀝青/ケロシン/石油
- ダイオウマツからテレピン油を採る
- アスファルトからケロシンを作る
- 新しい原材料「石の油」
- 石油に秘められた商品価値
- 照明にふさわしい油の発見
- 石油を求めて井戸を掘る
- アンクル・ビリー、石油を掘り当てる
- 第10章 野生動物のようなもの 石油
- 人口洪水を起こして石油を運ぶ
- アルコール税で石油が圧勝する
- 南部軍に追撃される捕鯨船団
- 「捕獲の原則」と「共有地の悲劇」
- 第11章 自然に宿る大いなる力 ライデン瓶/動物電気/電堆/電磁誘導/発電機
- ライデン瓶とフランクリン
- ガルヴァーニの奇妙な発見
- ボルタに否定された「動物電気」
- 電流が磁場を生み出す
- ファラデーの発電機
- 第12章 滔々たる水の流れ 直流・交流/水力発電/長距離送電システム
- 天然の巨大な動力源
- 直流電気と交流電気の戦い
- 長距離送電をいかに実現させるか
- ウェスティングハウスのもくろみ
- 変圧器を並列に配置する
- 中央発電所からの定期送電
- エジソンとウェスティングハウス
- エジソンの直流送電案
- ナイアガラ・フォールズからの送電開始
- 第13章 巨大なチーズの堆積 馬車/肥料/グアノ/馬車鉄道/路面電車
- 都市の通りにあふれる馬たち
- 島を覆う「非常に強力な肥料」
- 病気を運ぶ目に見えないもの
- 路面電車がもたらした変化
- 第14章 黒雲の柱 煤煙/天然ガス/都市ガス
- 町を覆うすさまじい煙
- 煤煙が街に不道徳をもたらす
- 天然ガスと製造ガスの競合
- 第3部 新しき火
- 第15章 神より授かりしもの 内燃機関自動車/ガソリン添加剤/テトラエチル鉛
- 多種多様の「馬なし馬車」
- 内燃機関が蒸気と電気に勝つ
- ノッキング問題とオクタン価
- ガソリンの添加剤を模索する
- 有鉛ガソリンの登場
- テトラエチル鉛中毒をめぐる攻防
- 米国内の石油が枯渇する?
- 第16章 片腕でもできる溶接 探鉱/原油掘削/アーク溶接/電気溶接/天然ガス/パイプライン
- サウジアラビアに眠る原油
- イブン・サウード国王との交渉
- 繰り返される試掘
- 3200万バレルの原油産出
- 溶接技術が可能にしたもの
- 第一次世界大戦と溶接技術
- 広がるパイプラインと天然ガス
- Uボートによる油槽船団襲撃
- アメリカを横断するパイプライン
- 天然ガスへの移行と炭鉱ストライキ
- 第17章 1957年のフルパワー 原子炉/原子爆弾/ウラン235/プルトニウム/天然原子炉
- フェルミの原子炉
- 「趣意書」に描かれた未来
- マンハッタン計画とウラン鉱
- 原子力潜水艦の建造計画
- 「アトム・フォー・ピース」
- 民生用原子炉の開発
- シッピングポート原子力発電所
- アフリカの「天然原子炉」
- 第18章 スモッグがもたらすもの 大気汚染/スモッグ/光化学スモッグ
- ピッツバーグの犠牲者
- 隠蔽される大気汚染
- 排気ガスと光化学スモッグ
- 自動車の公害防止規制
- 環境クズネッツ曲線
- 第19章 迫りくる暗黒時代 環境保護運動/優生学/新マルサス主義/水爆実験/LNTモデル
- 世界の終わりと悲観主義の広がり
- 「優生学」と「人口爆発」という悪夢
- 資源の枯渇と人口過剰という恐怖
- 「放射線」に対する恐怖と誤解
- ビキニ環礁の水爆実験
- 「いかなる線量でも危害をもたらす」
- 直線閾値なし(LNT)モデル
- 第20章 未来への出航 風力発電/太陽光発電/原子力発電/福島・スリーマイル・チェルノブイリ/放射性廃棄物/脱炭素化/石炭・石油・天然ガス・原子力
- 風力発電、太陽光発電
- 温暖化の抑制と「脱炭素化」
- チェルノブイリ原発事故
- 事故件数と就業者の死亡災害数
- 地中深く埋められた廃棄物
- マルケッティのグラフ
- 科学とテクノロジーがもたらすもの
- 謝辞/訳者あとがき/原註/参考文献/人名索引
【感想は?】
本書の結論を一言で言うと、こうだ。
どのようなエネルギーシステムであれ、そのシステムには強みと弱みがある。
――第20章 未来への出航
原子力発電は一定の電力を続けて出すのに向いている。逆にいきなり出力を上げるのは苦手だ。ベースロード電源とは、そういう意味である。それだけではない。見積もりでは安くあがるはずだったが、核廃棄物(俗称核のゴミ)の処理などを勘定に入れるとだいぶ違ってしまう。もっとも、これも高速増殖炉の是非などで変わるんだけど。
現在の主なエネルギー源は、石油だろう。原子力であれ風力や太陽光であれ、石油以外のエネルギー源に代わるまでには、しばらくかかりそうだ。これは別に現代だけの話じゃない。歴史的に見てもそうだったんだよ、本書はそういう内容である。
政治学者ルイス・デ・ソウザ「ひとつのエネルギーが市場の1~10%の占有率を獲得するまでには40~50年かかり、1%の時点から、最終的に市場の半分を占めるまでには、ほぼ1世紀の時間がかかる」
――第20章 未来への出航
最も最初に登場したエネルギー源は、薪すなわち木だ。
エリザベス一世が治めていたのは、木で作られた王国だった。
――第1章 森なくして王国なし
だが当時のイギリスは木材が枯渇しつつあった。薪・造船・製鉄そして耕作地などで、国家は森林資源を食いつぶす。このパターンはイギリスに限らず、メソポタミアやローマなど多くの前例があるんだけど(→「エネルギーの人類史」、「森と文明」)。
ってんで潤沢に手に入る石炭へと移っていくんだが、当時のイギリスの石炭は不純物の多い瀝青炭(→Wikipedia)。だもんでロンドンをはじめイギリス都市部の空は煤煙で真っ黒になる。
これを動力に使ったのが有名な産業革命だけど、その際の技術史の挿話の中でも印象的なのが、圧力弁。
(ドニ・)パパンの弁は、現代の圧力調整器の安全弁と非常によく似ており、(略)調理器具の爆発を防ぐことができた。
――第2章 火で水を汲み上げる
圧力鍋を作る際の副産物が圧力弁で、これが蒸気機関の発達で大きな役割を果たす。キッチンにある調理器具の工夫が力強いSLに役立つあたりが、技術の面白いところ。
あと最近「小説家になろう」の異世界転生物にハマってる身として意外だったのが、当時の旅行事情。意外と馬車は使われていないのだ。
昔のイングランドの道は決して褒められたようなものではなかった。(略)
こうした状態は18世紀中頃まで続き、ほこりまみれの夏、地面がぬかるむ冬には、徒歩もしくは馬に乗って人は旅していた。
――第3章 意志を持つ巨人
領主がメンテをサボるせいで道が悪すぎ、とてもじゃないが馬車は通れなかったんですね。
とまれ、石炭の需要は増え、地表近くの石炭は掘りつくされる。だが地中深くまで坑道を掘ると、地下水が染み出てくる。その排水ポンプ開発の物語が、蒸気機関の発達の物語でもある。
18世紀初頭、エネルギー源としての石炭はイギリスの半分を担っていたが、19世紀初頭の時点で、その比率は75%に達し、その後もさらに増え続けていった。
――第4章 全世界を相手にする
その蒸気機関も高効率化・小型化され、「これなら馬車馬の代わりになんじゃね?」と蒸気機関車が生まれたのはいいが…
「(リチャード・トレヴィシックの蒸気)機関の働きは見事だったが、しかし、その重量のせいで軌条の鉄板がよく割れていた」
――第5章 キャッチ・ミー・フー・キャン
インフラが追い付かなかったんですね。エネルギーの転換で難しいのがコレで、現在でも電気自動車や水素自動車の普及を阻む原因の一つが充電スタンドや水素スタンドの少なさだったり。ちなみにトレヴィシック、最初に作ったのは蒸気機関車じゃなくて蒸気自動車だったりする。無茶しやがって。でも市場を考えたら、自動車の方が大きそうだよね。
とまれ、産業革命による経済の爆発的発展は凄まじいもので。
1788年以降、イングランドの鉄の生産量は、8~10年ごとに倍増した。
――第6章 征服されざる蒸気
今は(たぶん資本のグローバル化によって)あましアテにならないけど、数十年前までは鉄鋼生産量は国力の重要な指標だったんです。
さて、動力源として注目された石炭だけど、第九代ダンドナルド伯爵アーチボルド・コクランは石炭からコークスを作る際の副産物コールタールに目をつける。海軍国イギリスは木造の船体に穴をあけるフナクイムシに悩んでて、これを避けるためコールタールを塗りゃいいと考えたのだ。更にその副産物が石炭ガスで、これはやがてガス灯に使われる。
もっとも、石炭ガスの最初の使い道は肺病の治療用ってのがおかしい。とまれ、この発明は無駄になったワケでもなく。
(ジェームズ・)ワットの人口空気の発生装置は、原理上はガス灯用のガス発生装置とまったく同じだった。
――第7章 灯心草からガス灯へ
こうう紆余曲折が技術史の面白いところだよね。産業革命にしたって、その基礎となる機械工学は小麦を粉に挽く水車で発達してたり(→「水車・風車・機関車」)。
こういった石炭の利用は新大陸アメリカにも渡る。と同時に、煤煙による大気汚染も輸出されてしまうのが情けない。1861年にピッツバーグを訪れた作家アントニー・トロロープ曰く。
「町は濃密な煙の底に沈んでいる」
――第14章 黒雲の柱
こういった経済の繁栄とともに煤煙ももたらす石炭をよそに、石油も発見されつつあった。ただ、その組成は複雑で。
試料から留出された油成分は、それぞれ沸点が異なっていた。
――第9章 燃える水
詳しくは「トコトンやさしい石油の本」あたりが参考になります。お陰で蒸留によりガソリンや軽油や重油などに分ける事ができるんだけど。特にガソリンは内燃機関=自動車の普及とともに売れ行きが上がるんだが、一つ問題があった。太平洋戦争時の大日本帝国も悩んだオクタン価、すなわちエンジン出力をいかに高めるかだ。そこでガソリンに何かを加えてオクタン価を上げようと頑張り、悪名高い有鉛ガソリン(→Wikipedia)へとたどり着く。この発明も苦労の連続で…
元素が発する臭気がひどくなるほど、その元素のノッキングの抑制効果は高まった。
――第15章 神より授かりしもの
そりゃ悩むよなあ。そうやって苦労して有鉛ガソリンを発明したはいいが、これが光化学スモッグや酸性雨に代表される大気汚染を引き起こすんだから、なんとも。私が若い頃も街頭スピーカーが「光化学スモッグ警報が発令されました」とガナってた。昭和ってのは、そーゆー時代でもあるんです。
それはともかく、パワーの問題が解決したアメリカは自動車社会へと突き進む。当然、石油の需要も増える。幸い合衆国内には油田が多く、こっちも盛んに開発される。そのため…
(第二次世界大戦)当時、アメリカは全世界の原油生産量の60%以上を占め、一日あたり100万バレル(1憶6千万リットル)を超える余剰生産力を備えていた。
――第16章 片腕でもできる溶接
つくづく、なんでこんな国と戦争する気になったんだか。
その石油の副産物というか、たいていの油田じゃ一緒に天然ガスも噴き出す。まあ分子の形は似たようなモンだし。要は炭素を水素が取り囲んでるわけ。で炭素が多けりゃ液体つまりガソリンや灯油になり、もっと多けりゃ個体のワックスになり、炭素が少なきゃメタンとかのガスになる。
ところが当初はガスの使い方がわからず、無駄に捨てたり燃やしたりしてた。
20世紀の数十年間、アメリカをはじめ世界中でどれほど莫大な量の天然ガスが意味もなく放出され続け、地球温暖化を推し進めたのか、その積算を試みた者はまだ誰もいない。
――第16章 片腕でもできる溶接
いや、ちゃんと理由はあるんだ。石油は液体だからタンクで運べる。でもガスを運ぶ技術がなかった。もちLNGタンカーなんかない。今でも天然ガスは地産地消に近い(→「トコトンやさしい天然ガスの本」)。これを解決したのが、長距離パイプライン。
液体燃料の歴史とは、パイプラインの歴史でもある。(略)長距離輸送のパイプライン建造を可能にした技術こそ、放電現象を利用したアーク溶接にほかならなかった。
――第16章 片腕でもできる溶接
当時のパイプの継ぎ目は重ね合わせたり詰め物をしたりリベット溶接とか。その継ぎ目からガスが漏れるんで、あまし長いパイプラインは作れなかった。この問題を解決したのが溶接技術ってのが、技術史の意外さというか面白さと言うか。まあ、言われてみりゃ納得なんだけど。
終盤では焦点が電力と原子力に移り、配電網の直流と交流の対立から原子力発電の費用などに話が及ぶ。特に原子力発電の費用の試算じゃ燃料も大きな要素で、1950年代では増殖炉(→Wikipedia)などによる核燃料サイクルが可能として計算してたっぽい。いずれにせよ、ピッツバーグが苦しんだ大気汚染の心配はないわけで…
デュケイン・ライト・カンパニーの会長フィリップ・A・フレイジャーに聞いた話では、同社が原子力発電を手がけた基本的な理由は「公害防止」のためだったという。
――第17章 1957年のフルパワー
と、当時はクリーンなエネルギーとして明るい未来を思い描いてたのだ。
勝手な想像だが、アメリカは特に核への愛着と幻想が強いんだと思う。なにせ第二次世界大戦を終わらせたんだし。その後、キューバ危機やスリーマイル島事故などを経て印象が変わってきたけど。
それはともかく、放射線被爆の長期的な影響は、そう簡単には分からない。1952年12月、カナダのチョークリバーで原子炉事故が起き、30年後の追跡調査では「平均寿命より一歳以上」長生きなんて結果も出てる。ただ、これには別の解釈もある。
「健常労働者効果」とは、選択バイアスの一種で、そもそも労働者は働けるだけの健康体を持ち、平均すると一般人よりも健康で、死亡率も低くなるという現象だ。
――第19章 迫りくる暗黒時代
いずれにせよ、原子力だの放射線だのって話は、イマイチよくわからない。だもんで、どうしても印象で決めつけちゃう所がある。私も、こんな性質があるとは知らなかった。
(アーネスト・)カスパリの新発見が衝撃的だったのは、1日2.5レントゲンを21日間にわたって照射、合計52.5レントゲンの線量をキイロショウジョウバエに照射したにもかかわらず、突然変異の増加率はまったく変化していなかった点にあった。
――第19章 迫りくる暗黒時代
ある閾値を超えない限り、ほぼ無害なのだ。ゲームのダメージ計算だとアルテリオス計算式(→ニコニコ大百科)ですね←もっとわかんねえよ
現実問題として、じゃその閾値は具体的に幾つ?とか 1レントゲンは何ベクレル? とか聞かれると私もわかんないんだけど。どうも1レントゲンは10ミリシーベルトらしいWikipedia。シーベルトは被爆量で、ベクレルは放射量かあ(→Wikipedia)。うーむ、こんな事も知らずに私は原子力発電の是非を語っていたのか。
風力や太陽光とかもエコっぽいけど、風が止まれば風力は使えないし、太陽光も夜は使えない。2016年アメリカの各発電方式の平均設備利用率は、というと。
- 原子力発電所:92.1%
- 水力発電網:38%
- 風力発電:34.7%
- 太陽光発電:27.2%
- 火力発電所:50%
火力と水力の稼働率がけっこう低いのが意外なんだけど、改めて考えればベースが原子力でピークの予備が水力・火力なら当然か。とすると風力は頑張ってる方なんだけど、風は人間の都合に合わせてくれないしねえ。
全体としてみると、薪→石炭→石油→原子力とエネルギー源が変わるたびに、似たようなメロディを奏でているのがわかる。
- エネルギーを見つけた当初は喜んで使い始める。
- 竈や蒸気機関など、より効率的で使いやすい技術が広がる。
- やがて身近な資源を使い潰し、より遠くから資源を運んでくる。
- 費用が高騰するが、いまさら止められない。
- 木を刈りつくして砂漠化、石炭の煤煙によるスモッグなど、ツケが回ってくる。
- 新しいエネルギーを見つけ、そっちに移る。
人類ってのは、いつまでたっても学ばない生き物なんだなあ、などと少し悲しくなるんだけど、生物はみんな似たようなモンなのかもしれない。
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- 2011.08.12 藤田和男監修「トコトンやさしい石油の本」日刊工業新聞社B&Tブックス
- 書評一覧:歴史/地理
【今日の一曲】
Mountain - Nantucket Sleighride
微妙にテーマからズレた曲ばかりを紹介してる「今日の一曲」だけど、今回は珍しく(←をい)本書の場面の一つ、ナンタケット島の捕鯨を扱った曲を。ベースのフェリックス・パパラルディとギターのレスリー・ウェストが仕切ってたバンドだけど、この曲は珍しくスティーヴ・ナイトのオルガンがいい味出してます。でもライブだとやっぱりギターのレスリー・ウェストが暴れまくるんだけどw
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