SFマガジン2021年4月号
「いまのところ雪風が本ミッションを拒む様子は認められない」
――神林長平「戦闘妖精・雪風 第四部 アグレッサーズ」 第5話「そのときはリリー・クレマンという登場人物はいなかったけどね」
――飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第7回
376頁の普通サイズ。
特集は「小林泰三特集」と「追悼:佐治嘉隆」。
小説は9本。
まず「小林泰三特集」で4本。「単純な形」,「虹色の高速道路」,「きらきらした小路」,創作落語「時の旅」。
連載は4本。神林長平「戦闘妖精・雪風 第四部 アグレッサーズ」 第5話,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第35回,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第7回,藤井太洋「マン・カインド」第15回。
加えて読み切り1本。高野史緒&佐々木淳子「桜の園のリディア」。
では「小林泰三特集」から。
「単純な形」。イラストレーター藤原ヨウコウ「このとはの海 カタシロの庭」とのコラボレーション。わたしは単純な形が好きだ。だから、次元潜水船の製造を頼まれた時は、正八胞体にした。
正八胞体? へ? と思ったら、二次元だと正方形、三次元だと立方体、なら…ということだろう。しょうもないオチが楽しいw
「虹色の高速道路」。二年ほど前倒しで、俺は祖父から「操りの儀式」を引き継ぐ羽目になった。七面倒くさい計算を山ほどしなくちゃならん。だが、やらないと天地の均衡が崩れるらしい。嫌になって神社の裏山に逃げ出した俺は、幼馴染の貞子に会う。
儀式に目盛りやら算盤やら計算尺やらを使うってあたりで、「おお、キタキタ」と盛り上がってしまう。こういう、落人部落っぽい因習が残る村って舞台と、妙にサイエンスっぽいネタの組み合わせの妙も、小林泰三ならではの味。とか思ってたら、なんじゃい銀色のボディスーツってw
「きらきらした小路」。幼い僕に、親はこう言い続けた。「絶対に脇にそれてはいけないよ」「死んでしまうからね」。普通にしていれば、路からそれることはない。それると、暗い穴の中に落ち込んでしまう。
童話風に語る本格サイエンス・フィクション。「覗くな」と言われると覗き、「入るな」と言われれば入ってしまうのがお話のお約束。「僕」も、お約束にたがわず…。擬人化って点じゃ「はたらく細胞」なんだけど、これは「BLACK」の方かな?
「時の旅」。どんな仕事についても長続きしない留さん、今日は「いい金儲けを思いついた」とご隠居に相談にきた。ご隠居は「どうせロクでもない話だろう」とは思いつつ、留さんの話を聞けば、「まず、タイムマシーンを用意させてもらいます」などと言う。
SF創作落語。新作落語でも、やっぱり留さんやご隠居が出てくるのかw まあ、これは様式ってもんだろうなあ。SF落語ならではのオチが見事w
「小林泰三特集」はここまで。
神林長平「戦闘妖精・雪風 第四部 アグレッサーズ」 第5話。アグレッサー部隊としての初任務が始まる。雪風には新機能ATDS=注目対象表示システムが加わった。雪風のコンピュータを調べ、各機能の消費エネルギーを示す。多くのエネルギーを食っている機能が、雪風が注目している機能だろう、そういう発想のシステムだ。
零もブッカー少佐も、「雪風がミッションを拒む様子は…」「雪風のいまの気持ちが…」と、雪風を単なる機械ではなく生き物のように扱っているのが感慨深い。ATDSもまるきしfMRIだし。そんな緊張感をマイペースで吹っ飛ばす桂城少尉が素敵w いよいよ田村大尉と対決か…と期待させて、いけず。
冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第35回。救出されバロットと再会したのも束の間、再びウフコックは潜入を試みる。目的はブルーの行方を突き止めること、潜入先は<誓約の銃>のアジト、小型貨客船<黒い要塞>。イライジャの眼鏡にターンしたウフコックは、静かに聞き耳を立て…
時系列をシャッフルしながら進む本作品、今回は衝撃的な場面で幕を開ける。誰が登場するかではなく、誰が登場しないかに注目してしまう。うーん、どっちなんだ? 今回も懐かしい名前が出てきたが、そうきたかあ。
飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第7回。「クレマンの年代記」を読みふける小野寺早都子に、美術部長の遠野暁が声をかける。小野寺は遠野が苦手だ。早坂の<止体>を平気でスケッチする無神経さが気に入らない。その遠野も「クレマンの年代記」を読んだが、リリー・クレマンは登場しなかった、と言う。
「同好会棟」なんてのがあるあたりで、かなり偏差値の高い学校なんだろうなあ、と感じたり。こういう風に生徒の自主性を認めるのは、学校側も相応に生徒を信頼しているからで、底辺校じゃこうはいかない。それに加え、ケッタイな同好会がウジャウジャある所は、ちょっと「究極超人あ~る」を思い浮かべた。秘密基地にも粉砕バットが転がってるんだろうか。
藤井太洋「マン・カインド」第15回。三角州を戦場として、イグナシオ率いる<テラ・アマソナス>が守り、軍事企業<グッドフェローズ>が攻める、公正戦が始まる。それを中継する迫田。
森林の中を高速で<マスチフ>が突っ走る場面が強い印象を残す。「落葉樹林の進化史」で知ったんだが、ヒトの手が入っていない森は、倒木や落ち葉に覆われていて、移動するのも一苦労だ。こういう所をマシンで移動するには、車輪より脚の方が都合がいい。とはいえ、上下左右にガタガタ揺れるから、迫田も苦しいだろうなあ。
高野史緒&佐々木淳子「桜の園のリディア」。帝政ロシア末期の1905年8月。ピョートルは26歳になっても家庭教師や翻訳で食いつなぎ、各地をフラついていた。気まぐれに辺境の駅で降りたピョートルに、15,6歳の少女が声をかける。「私よ、アーニャよ」。だがピョートルがこの地に来たのは初めてだ。強引にピョートルを家に招くアーニャ。彼女の家族はみなアーニャにそっくりだった。
高野史緒お得意のロシア物で、元ネタの一つはアントン・チェーホフの「桜の園」(→Wikipedia)…って、読んだことないけど。沈みゆく地主一族の物語に、エドガー・アラン・ポーを思わせる「不気味な館」物の香りを添え、この時代ならではのヒネリを加えた作品。
次号は冗談から出た駒で樋口恭介編集の「異常論文特集」。この調子で裏SFマガジンを立ち上げて欲しい。編集は各SF作家の持ち回りでw
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