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2021年1月 1日 (金)

2020年に面白かった小説3つノンフィクション3つ

 例年通り思い付きで選んでます。

【小説】

春暮康一「オーラリメイカー」早川書房
 遠未来。アリスタルコス星系は、明らかに人為的に改造されていた。九つの惑星のうち四つは、水星ほどの質量で、公転面が60度以上も傾き、極端な楕円軌道で近日点と遠日点は他の惑星の軌道スレスレをかすめている。何者が改造したのか。知的種族の共同探索は、この謎を解くため現地に赴く。
 超古代の知的生物が遺した遺物から始まるSF小説は数々あれど、これほど大規模なものは滅多にない。この魅力的な謎に最新科学の知識を駆使して真っ向から取り組み、なおかつ意外性に満ちた真相へと導く手腕は、新人ながら骨太の底力を感じさせる。SFならではの楽しみに満ちた、センス・オブ・ワンダー溢れる文句なしの王道本格SF。
テッド・チャン「息吹」早川書房 大森望訳
 極端に寡作ながら、作品を発表するたびに大きな話題を呼び起こすテッド・チャンの日本で二番目の作品集。不思議な世界における、静かな終焉のきざはしを語る表題作「息吹」、人工知能とプラットフォームの代替わりと子育てあるあるを巧みに組み合わせた「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」、記録することとソレを残すことの功罪を対照的な社会を背景に浮かび上がらせる「偽りのない真実、偽りのない気持ち」など、いずれも短いながら、いや短いからこそ、読者に強烈な印象を残す傑作ぞろい。
伏瀬「転生したらスライムだった件小説家になろう
 タイトルまんまのお話。異世界に転生したはいいが、なんの因果か最弱のスライムに。「え?いろいろチートな能力を得てウハウハできるんじゃないの?」と愚痴りたいが、そこには愚痴をこぼす相手すらいない。いやナニやら「捕食者」なんて妙なスキルはあるんだけど…
 略称「転スラ」で有名な作品。最近めっきり記事更新が減ったのは、「小説家になろう」にハマったせいなんで、その代表として。「転スラ」じゃあゴブタとガビル様が好きだなあ。頑張ってるのに、なんか報われない所とかw いやガビル様は半ば自業自得なんだけどw

【ノンフィクション】

ブラッド・トリンスキー&アラン・ディ・ペルナ「エレクトリック・ギター革命史」リットーミュージック 石川千晶訳
 いまさらバイオリンの新しい形を考える者はいないし、音色もストラディバリウスが理想とされている。だがエレクトリック・ギターは様々な形が次々と生まれ、その音色もプレイヤーによって様々だ。そのエレクトリック・ギターはどのように生まれ、誰が何のためにどんな工夫を加え、現代のように多種多様なバリエーションを生み出したのか。誕生前夜のリゾネーターがら現代のビンテージ・ブームまで、職人とギタリストの創意工夫の歴史を辿る。
 そう、エレクトリック・ギターの魅力は数々あれど、最大の魅力は未だ「究極の音と形」が定まっていない点だろう。ボディの形と素材からピックアップやスイッチなどの電気回路、多種多様なエフェクターやアンプの組み合わせ、そしてタッピングやアーミングなどの奏法に至るまで、正解というものがない。ヘッドレスなんてデザインは、従来の楽器じゃまず考えられない。そういう若々しい楽器であるエレクトリック・ギターの魅力がタップリ詰まった楽しい本だ。
ロジャー・クレイア「イラク原子炉攻撃! イスラエル空軍秘密作戦の全貌」並木書房 高澤市郎訳
 バビロン作戦。1981年6月7日、イラクの西部のオシラク原子炉を、イスラエル空軍が攻撃して破壊した衝撃的な軍事作戦である。イスラエルはいかにして情報を掴み、必要な機材を手に入れ、実施したのか。作戦を実行したイスラエル空軍のパイロットはもちろん、情報機関モサドの暗躍からオシラク原子炉の職員まで、幅広い取材で作戦の全容を生々しく描く軍事るポルタージュ。
 まず、物語として、やたらめったら面白い。他国上空を許可なく横切り原子炉を攻撃するという言語道断な作戦にも関わらず、イスラエルを応援したくなるからタチが悪い。またルポルタージュとしても卓越していて、専門用語をほとんど使わず、極めて丁寧に個々の機動から装備の性能やクセ、各操作の意味までこと細かく教えてくれるのが嬉しい。間違いなく軍事ドキュメンタリーの傑作。
岩本太郎「実用メカニズム事典 機械設計の発想力を鍛える機構101選」森北出版
 カム、滑車、歯車、クローラー。機械を作るには、動きを伝えたり、動きの方向やタイミングを変えたり、速さや動きの幅を変えたりする機構が要る。どんな機構があり、どんな働きをして、どのような制限があるのか。プロの設計者を支援すべく、あらゆるメカニズムを豊富な図解で紹介する、プロ向けのメカニズムの事典。
 プロ向けの事典だからして、当然ながら記述は無愛想だし、数式もバリバリ出てくる。もちろん素人が読みこなせる本じゃない。とはいえ、たっぷり載っているイラストは極めて親切で、それぞれの機構を脳内で動かしながら見ていると、「おおっ!」と人類の叡智に感動することしばし。脳内妄想能力の発達したヲタクだからこそ味わえる至福の時間が詰まった一冊。

【終わりに】

 こうやってまとめようとすると、「ゲームの王国」や「天冥の標Ⅹ 青葉よ、豊かなれ」や「巨神降臨」など、SFで推したい作品が次々と沸いてくるから困る。「フレドリック・ブラウンSF短編全集」も入れたかったんだが、完結してないんで今回は見送った。

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