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2019年9月27日 (金)

ナショナル・ジオグラフィック別冊「科学の迷信 世界をまどわせた思い込みの真相」日経BPムック

春分の日または天文学上、春の最初に当たる日に、卵を垂直に置いたら立つ、というのは本当だ。
また、このワザを試しに秋分の日とか、夏至や冬至の日などにやってみても、確かに立つ。
ついでに言うと、一年中、どの日にやっても立つ。

【どんな本?】

 重い物は軽い物より早く落ちる? 指をポキポキと鳴らすと関節炎になる? レミングは集団自殺する? ダウジングで地下水が見つかる?

 昔から人々の間には様々な事件や怪物やジンクス、おまじないなどの言い伝えがあったし、現代でも新たな都市伝説や陰謀論が流布しては消えてゆくが、占星術のように長い年月を経て生き延びるものもある。

 天動説や瀉血など、当時の一流の知識人までもが信じていた説から、ホメオパシーや永久機関などいかにも怪しげなもの、そしてネス湖の怪獣やミステリーサークルなど遊び心をそそるネタまで、バラエティに富んだ話を100個集め、豊富な写真とイラストで楽しく読めるように工夫した、一般向けのお楽しみムック。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は 100 Hoaxes and Mistakes That Fooled Science, 2018。日本語版は2018年10月14日発行。雑誌より一回り大きいサイズで横三段組み本文約150頁。8.5ポイント15字×42行×3段×150頁=約283,500字、400字詰め原稿用紙で約709枚。文庫なら厚い一冊分なんだが、紙面の2/3ぐらいは写真やイラストなので、実際の文字数は3割ぐらい。小説なら中編の分量。

 文章は読みやすい。内容も初歩的・入門書的なものが多い。

【構成は?】

 1~2頁の独立した記事をカテゴリごとに集めた形なので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。

Chapter1 物理と科学の迷信
Chapter2 古代の迷信
Chapter3 人体の迷信
Chapter4 生物の迷信
Chapter5 地球の迷信
Chapter6 宇宙の迷信

【感想は?】

 SFやオカルトのネタ定番帳。

 つまりは古今の迷信を集めた本だ。迷信にも色々あるが、特に科学のフリをしたモノを集めている。

 中には錬金術や火星の運河やなど、ずっと昔に廃れたものもあるし、ホメオパシーや「ワクチンで自閉症になる」なんて現代でも猛威を振るっているものもある。こういう最近になって出てきたモノはすぐに廃れそうな気がするが、歴史の古い占星術は廃れそうにない。そういえば占星術にも西洋式だけでなく中国式とかもあるけど、こっちはあまし流行らないなあ。なんでだろうね。

 全般的に初歩的なモノが多いが、私の勘ちがいを指摘してくれたモノもあった。例えば「指の節を鳴らすと関節炎になる」。これは勘ちがいを教えてくれるだけでなく、ドナルド・L・アンガー(→Wikipedia)の実証実験が凄い。科学者の鑑だw あと、「大人の脳細胞は増えない」もすっかり勘違いしてた。思い込みの元は確かラリイ・ニーヴンの「無常の月」だったかな?

 ちとガックリきたのが、「毛はそると濃くなる」。いや頭頂部が砂漠化している者にとって、「じゃ丸坊主にして剃れば…」と妙な期待を抱いたが、「それで毛包がよみがえったという話は聞かない」。ぐぬぬ。

 やはり勘ちがいを指摘されたのが、「体温は頭から失われてゆく」。このネタ元は「米陸軍サバイバル全書」で、体温の40~45%は頭から失われる、だから帽子をかぶれ、とある。

 実は間違いとも言い切れない。追実験で確かめたところ、「外気にさらされている肌から熱が逃げる」。そして、米陸軍が測った際は、極地仕様のサバイバルスーツを着ていたが帽子はかぶっていなかった。つまり、最も露出面積が広いのが頭部だったのだ。日本じゃあまり帽子が流行らないことを考えると、あながち間違いでもないでしょ、でしょ。

 とはいえ、全般的に初歩的なネタが多いので、科学の本としてはいささか食い足りない感がある。また、個々の記事が短いため、いずれも科学的な説明やエピソードの記述が短すぎて、ちと駆け足だよなあ、と感じる部分は多い。が、逆に、だからこそネットで検索して、より深く突っ込んで調べる楽しみもある。

 特にソッチの楽しみを与えてくれるのが、日本ではあまり知られていないネタ。

 私が最初に「おおっ!」と思ったのが、「レッドマーキュリー」。1991年のソ連崩壊のドサクサに紛れ、国外に持ち出された赤軍の秘密兵器を示すものだ。本書では謎の金属だったりステルス塗料だったり。何せソ連、国土は広いし周辺はアレな国ばかり、サスペンス小説のネタとしては実に美味しい。でも、きっと既に誰かが書いてるね。フォーサイスの「第四の核」は、違ったっけ?

 陰謀論で有名なのは「月着陸捏造説」だが、「ケムトレイル」(→Wikipedia)を知る人は少ないだろう。長く残る飛行機雲だが、これを「有害物質をまき散らしている」と考える人がいるのだ。いやコッソリ何かを蒔くなら、目立たないようにするんじゃね? 航空機産業が盛んなアメリカらしい陰謀論だなあ。

 やはり知らなかったのが、コロイダルシルバー。銀には抗菌特性があるとして、微小な銀の粒子を混ぜた水を特効薬として売っているとか。今、検索したら、日本語でもウジャウジャ出てきた。マジかい。商売人は逞しいねえ。でも摂りすぎると肌に青みがかったり最悪の場合は脳卒中を引き起こすので、ロクなモンじゃない。

 とかの中で、ケリがついていない話もある。特にSF者として気になるのが、「宇宙戦争」だ。1938年10月30日、H・G・ウェルズ原作オーソン・ウェルズ翻案のラジオ・ドラマ「宇宙戦争」がパニックを引き起こした、とする事件だ(→Wikipedia)。ところがこのパニック、「番組放送後に新聞社が創作した話だったという」。信じちゃった人もいるが、大きな騒ぎにはならなかった、と。今の所、実態はよくわからない。

 などの文章以上に、何せ版が大きいだけに、豊富に収録した写真やイラストの魅力も大きい。Chapter4 の扉の恐竜のCGとか、壁紙にするためデジタルで欲しくなったり。またシカみたいな角の生えた野ウサギ「ジャッカロープ」とか、いかにもアメリカの田舎らしい法螺も楽しい。家族で楽しむ本だろう。

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