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2019年6月 5日 (水)

森奈津子「セクシーGメン 麻紀&ミーナ」徳間書店

「きみたちの新たな任務だが、次の二組の夫婦に健全なる夫婦生活の場を提供してほしい」
  ――スワッピング大作戦!の巻

「そ、そんなけがらわしい行為を、一体、だれがしろとおっしゃるんですっ?」
  ――オナニスト・クラブに潜入せよ!の巻

(仲良き事は美しき哉)
  ――変態性欲夫婦を矯正せよ!の巻

【どんな本?】

 SFとSMの境界を容赦なく踏みにじり、読者の理性と腹筋を破壊する魔性の作家、森奈津子による変態ポルノSFギャグ作品集。

 近未来の日本。少子高齢化に悩む政府は、婚姻する男女を様々な形で厚く優遇している。しかし、この制度にタダ乗りする形で偽装結婚する者たちや、自分たちの主義主張によって子をもうけぬ者たちもいた。これらの不届きな者たちに正しい夫婦の在り方を指導するため、厚生労働省は秘密組織を結成する。少子化対策局夫婦生活捜査課、人呼んでセクシーGメン。

 その実体は謎に包まれていた。噂では好色な美男美女によって組織され、セックスレスが発覚した夫婦は組織によって厳しい矯正措置を受けると言われている。

 スレンダーでクールな香田麻紀と、グラマーでコケティッシュな瀬戸ミーナは、セクシーGメンである。今日も厳しい上司の山縣ヒロ子課長の命により、セックスレス夫婦に正しい性の営みを指導すべく、勤務に邁進するのであった。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2011年7月31日初刷。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約238頁に加え、あとがき3頁。9ポイント45字×19行×238頁=約203,490字、400字詰め原稿用紙で約509枚。文庫なら普通の厚さの一冊分。

 文章はこなれていて読みやすい。内容は…って、普通に変態SMポルノですw

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 初出。

スワッピング大作戦!の巻 / 週刊アスキー2007年7月3日号,7月10日号,7月17日号,7月24日号
 獲物もとい任務は二組の夫婦。片や20代の芸術家と大学講師、一方は壮年の医師と女優。上司の山縣の命が下ったのは深夜にもかかわらず、麻紀はさっそく行動に移る。任務に熱心なのか単に好色なのか。それはともかく、麻紀とミーナはターゲットの確保を確保し…
 出だしからオヤジなキャラ丸出しなミーナちゃんが、なんというかw 今の若い女性歌手の衣装は大人しいけど、昔のピンクレディとかはなかなかに過激でありました。いやあいい時代だったなあ←をい クールビューティーな麻紀さん、ちょっと見は凄腕のように見えるけど、最中のチョッカイはどうなのよw もしかして邪魔されると余計に燃えるロミオとジュリエット効果を狙ってるとか?
ハネムーンに介入せよ!の巻 / 週刊アスキー2007年9月18日号,9月25日号,10月2日号,10月9日号、10月16日号
 バリの一流ホテルで優雅な休暇を過ごす麻紀とミーナに、突然の任務がおりてきた。ターゲットは20代で新婚一カ月の若き夫婦、しかしセックスレス歴は3年11カ月に及ぶ。どうやら法的な優遇措置を目当てに入籍したと思われる。二人をまっとうな夫婦に導くか、または婚姻関係を解消させるか、麻紀とミーナは奮闘するのだが…
 二話目ということか、段々と筆が乗ってきた感があって、何より最中の会話がやたらと楽しいw この夫婦、セックスレスとはいえ、ちゃんとお互いを理解し合い尊重し合ってる上に趣味もピッタリで、コンビネーションも息があってるあたり、実に似合いの夫婦なんだけどw 何より道正君のAV論に激しくうなずいてしまうw いやピアノとサンタクロースもいいけどw
オナニスト・クラブに潜入せよ!の巻 / 週刊アスキー2007年10月23日号,10月30日号,11月6日号
 今回の任務は危険である。なにせ秘密クラブへの潜入捜査だ。身元が露見したらタダでは済まない。クラブの名は「オナンの会」。その名のとおり、セックスを拒みオナニーに邁進する者たちの組織である。しかも会員は筋金入りで、セックスレス歴3年以上の猛者ばかりだ。なんとか会場に潜り込んだ麻紀とミーナだが、さっそく麻紀の正体が暴かれてしまい…
 麻紀さん推しの人には嬉しいやら切ないやらの回。つか、なんちゅう羨ましい罰だw ぜひ私もw 「変態には…」ってあたりから、著者の筆はノりにノるw かといって、モテない若者の傷口に容赦なく塩をすりこむのはいかがなものかとw つか麻紀さん、「過去にたしなんでいたもので」って、をいw 終盤での展開は、かの迷作「花と指」を彷彿とさせるスペクタクルですw
SMカップルを裁け!の巻 / 週刊アスキー2007年11月13日号,11月20日号,11月27日号,12月4日号
 弁護士の笹野文太29歳と会社経営者35歳、結婚歴2年6カ月の夫婦のセックスレス歴は5年6カ月に及ぶ。二人はSMカップルである。SMそのものは非難されることではない。性交そして妊娠に至るための段階としてなら、政府は関知しない。しかしSMに入れ込むあまり、性交すら拒むとあらば、セクシーGメンの出番である。
 やっぱりこの人が描くマゾヒストの心情は、かの名作「哀愁の女主人、情熱の女奴隷」で存分に実証済みなわけで、実に楽しいw 特にこの夫婦の場合、そこにキチンとスジを通してるあたり、むしろ尊敬の念すらおぼえてしまうw とはいえ、セクシーGメンにとってマゾヒストってのはなかなかに厄介な相手でw
変態性欲夫婦を矯正せよ!の巻 / SF Japan 2010Autumn
 本間定夢28歳会社員、ユキ25歳公務員。結婚2年1カ月ながらセックスレス歴4年4カ月。いずれも羨まれる職に就いた夫婦であり、また異性愛者でもある。にもかかわらず、両者は妊娠へとつながるセックスを頑なに拒むばかりか、ネットで自らの変態セックスを堂々と喧伝するありさまである。この夫婦を矯正すべく、麻紀とミーナは任務に邁進するのだが…
 序盤、生真面目で理想に燃える山縣課長の演説が楽しい楽しいw それに対して趣味を貫徹しようとする夫婦の主張も、妙に説得力があったりなかったりw かと思えば、それに反論するミーナの理屈も、あってるような違うようなw 麻紀もミーナも山縣課長もガックリきてるけど、これはこれでハッピーエンドだからいいんじゃないかなw
偽装結婚を粉砕せよ!の巻 / SF Japan 2011Spring
 母からの見合いの勧めも断り、麻紀と添い遂げ得ようと考えていたミーナに、衝撃が走った。なんと、麻紀が婚約したというのだ。相手は同僚の伊部、両刀使いの男である。
 今までとは打って変わって、かなりシリアスな作品。いやちゃんとアレな場面はあるんだけど。しかも、ちゃんとSFになってる。それも、かなりまっとうな。いやありがちなオチなんだけど、それを森奈津子ならではの解釈で全く別の形に着地させた、佳作SF短編。

 直前に読んだがズッシリと重い作品なので、気分をリセットすべく頭のネジを緩めてくれる本を選んだんだが、見事に大当たり。やっぱり森奈津子の斜め上にブッ飛んだ発想と異常な状況で連発するギャグは、脳みそをグチャグチャにシェイクしてくれる。中でも、煩悩まみれな小僧をイカれきった設定に投げ込む「オナニスト・クラブに潜入せよ!の巻」が好きだなあ。

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