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2019年3月21日 (木)

シルヴァン・ヌーヴェル「巨神覚醒 上・下」創元SF文庫 佐田千織訳

科学者というのは子どものようなものだ。彼らは常にあらゆることを知りたがり、そろってやたらと質問ばかりして、けっして指示を守ろうとしない。
  ――上巻P36

守るべき理想がなければ、私のような人間になにができるでしょう?
  ――下巻p53

闘うのはやめるのです。あなたがたに勝ち目はない!
  ――下巻p110

【どんな本?】

 ロンドンの中心部に、何の前触れもなく巨大なロボットが現れた。

 形はヒトの男に似ているが、身長は約70mもある。その姿は、あのテーミスを思わせる。かつてサウスダコタで見つかった巨大な掌を先駆けに、世界中から部品を集め組み上げたテーミス。ロンドンのロボットは、今は何もせず、ただ茫然と立っているだけ。だが、テーミスと同じテクノロジーで作られているなら、ひとたび暴れはじめれば人類の手には負えない。

 世界中の話題になり、野次馬も集まってくるが、多くのロンドン市民はいつも通りの暮らしを続ける。軍と科学者たちは観察を続けるが、ほとんど収穫はない。具体的な対応を迫られた英国議会は…

 話題を呼んだ「巨神計画」に続く、巨大ロボットを描く娯楽SFシリーズ第二弾。SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2019年版」海外篇12位。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は WAKING GODS, by Sylvain Neuvel, 2017。日本語版は2018年6月22日初版。文庫本の上下巻、縦一段組みで本文約356頁+319頁=約675頁に加え、堺三保の解説6頁。8ポイント42字×18行×(356頁+319頁)=約510,300字、400字詰め原稿用紙で約1,276枚。上下巻は妥当なところ。

【感想は?】

 ノリが大事な作品だ。だからノレるか否かが評価を左右する。

 異星人がもたらした(と思われる)、オーバーテクノロジー満載の巨大ロボット。最初は操縦法すらわからない。どうにかこうにか動かすことはできたが、マニュアルがあるわけでもない。いろいろ試してはみるが、時として思わぬ惨事すら招く。

 わはは。マジンガーZかいw まあ、そういうノリだ。ただし、ドクター・ヘルのような、分かりやすい敵がいるわけじゃない。前巻では、部品を集めて組み上げ、パイロットを揃えてなんとか動かすまでを描いた。なお、パイロットは単独じゃなく、特定の適性を持ったペアってのも、この作品の特色。パシフィック・リムかよw

 そういうお馬鹿なクスグリは、この巻でも健在だ。にしても、子供の名前で遊ぶなよw まあ、それ以外は大事に育てたみたいだからいいけど。

 この上下巻では、いきなり「別のロボット」が現れる。しかも、ロンドンのド真ん中に。すわ敵かと思いきや、たたヌボーッと突っ立っているだけ。何もしなけりゃ無害と思えそうなモンだが、既に人類は巨大ロボットと出合い、身の毛もよだつほどの威力を知っている。

 手探りで操縦法を身に着けた素人パイロットですら、都市を破壊しかねない威力を持つ。しかも謎の装甲で、傷をつける事すら難しい。他にどんな武器を備えているのかもわからない。そんな巨大ロボットに、プロのパイロットが乗っていたら…

 などと怯える者もいれば、ピクニックがてら能天気に見物に出かける野次馬もいたり。そりゃそうだよね。私だって異星人の巨大ロボットなんてあったら、きっと見に行っちゃうだろう。

 そんな素人連中をよそに、科学者たちは何とかコンタクトを取ろうと試みるが…。そう、これはファースト・コンタクト・テーマの一種でもある。パイロットの一人、ヴィンセント・クーチャーが、最初の巨大ロボットのテーミスを「動かそう」と試みるあたりは、意外とちゃんと考えてるなあ、と感心したり。

 なまじ設定がおバカなだけに、こういう細かい所でキチンと考察してると、一気に嬉しくなってしまう。やはり途中にある、時間旅行の難しさを語るあたりも、「よくぞ書いてくれた!」と感激してしまった。

 さて。得体は知れず、底知れない力を秘めているらしい、正体不明の巨大ロボットに対抗するには、やっぱり巨大ロボットだろう、ということで、テーミスにもお呼びがかかる。が、果たしてソレは、ファースト・コンタクトの方法として賢いやり方なのか。言われてみれば確かに、な理屈でもある。

 などと感心する暇もあらばこそ、物語は二転三転、とんでもない方向に転がってゆく。素直にバトルで必殺技を繰りだしたりしないあたりが、著者の曲者っぷりだよなあ。

 果たして異星人の目的は何か。いきなり姿を現したローズ・フランクリンは、どこから来たのか。正体不明の「インタビュアー」と、何かを知っているような「バーンズ」の正体は。果たして人類は生き残ることができるのか。

 この巻では、多くの謎を解き明かしつつも、終盤でまたもやアサッテの方向にスッ飛んでいくからたまらないw ちゃんと続きも刊行されているそうなので、期待して待とう。

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