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2018年12月 2日 (日)

月村了衛「機龍警察 狼眼殺手」早川書房

 「ここが俺達の腕の見せどころだ。カネの絡んだ事案なら、特捜や一課の連中がどうあがいても俺達にかないっこないってところを見せてやろうぜ」
  ――p75

「由紀谷志朗。おまえのことはよく知っている。<白鬼>か。おまえは俺たちの側の人間だ。警察なんかに入らず、こっちの世界に来ていればよかったものを」
  ――p92

「こうなると、警視庁と地検との全面対決だ。先ほど総監から私のデスクに連絡が入った。徹底してやれとな」
  ――p105

「私だって、警察官です」
  ――p484

【どんな本?】

 アニメの脚本などで活躍した月村了衛による、近未来を舞台とした警察ハードボイルドSFシリーズ「機龍警察」シリーズ第6弾。

 高級中華料理屋で五人が殺された。被害者はフォン・コーポレーションの程詒和,その部下の仲村啓太,金融コンサルタントの花田猛作,木ノ下貞吉参議院議員の私設秘書の湯浅郁夫、そして巻き添えと思われるウエイトレス。

 神奈川県警が現場に赴くが、いきなり警視庁の捜査二課が割り込んだ。本来は詐欺・選挙違反・贈収賄など知能犯を担当する部署である。フォン・コーポレーションの程詒和を追う過程で、事件を嗅ぎつけたのだ。現場には[聖ヴァレンティヌス修道会]の護符が残されていた。

 殺人でもあり、捜査一課も乱入してくる。他の殺人事件との絡みで、経産省主導の国家事業である新世代情報通信クイアコンが浮かび上がってきた。政財界に広く関わる事件だけに、様々な圧力が予想される。その弾除けとして警視庁特捜部を立て、合同捜査が始まった。

 警視庁特捜部。お堅い警察の中では、異例づくしの新設部署である。トップは元外務官僚の沖津旬一郎。また得体の知れない技術を使った龍機兵=ドラグーンを擁し、それを操るのは三人のヨソモノ。元傭兵の姿俊之、ロシアの元刑事ユーリオ・オズノフ、元IRFの闘士ライザ・ラードナー。

 クイアコンは大規模なプロジェクトだけに、関係者も多い。大掛かりな捜査は覚悟していた面々だが、捜査が進むうち想像を超えた多方面へと事態が発展し…

 SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2018年版」のベストSF2017国内篇で11位。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2017年9月15日初版発行。単行本ハードカバー縦一段組み本文約477頁。9ポイント45字×22行×477頁=約472,230字、400字詰め原稿用紙で約1181枚。文庫本なら上下巻ぐらいの分量。

 警察物だけに、ちょっと見は文章が硬そうに見えるが、読み始めると意外とそうでもない。というか読み始めると、早く続き読みたい気持ちと、じっくり事態を把握したい気持ちとの板挟みに苦しむだろう。

 この巻だけでも一応は完結しているので、ここから読み始めても構わない。とはいえ、今までのシリーズで掘り下げてきた人物像や、積み上げてきた人間関係が、重要な下味として効いているので、できれば最初の「機龍警察」から読んだ方がいい。

 この巻だとSFガジェットはあまり出てこないので、SFが苦手な人でも大丈夫。

【感想は?】

 ドSの著者、再びライザちゃんをいぢめまくり。クールな美女に恨みでもあるのか。

 お話はミステリの定番に従い、予告殺人風に始まる。高級中華料理店に残った聖ヴァレンティヌス修道会の護符。これは七枚セットのうちの一枚だった。過去の殺人事件を洗ううち、他の二枚も出てきて…

 と、連続殺人の様相を呈してくる。残るはあと四枚。今までの三枚の共通点は何か。次に狙われるのは誰か。犯人(たち)は誰で、その目的は何か。わざわざ遺留品を残す理由は。

 これに加え、警察内の縄張り争いを中心に、警察組織内の軋轢を巧みに浮かび上がらせてゆく。これは今までのシリーズも同様なのだが、この巻では、一つの頂点に達した感がある。

 新参者の特捜部は、当然ながら他の部署から嫌われている。それでも、今までは確執を乗り越えて、なんとか協力してきた。「暗黒市場」では組織犯罪対策部第五課=マル暴、「未亡旅団」では公安部外事三課。

 この巻でも、殺人を扱う捜査一課と知能犯担当の捜査二課が、冒頭からいきなり角突き合わせてたり。おまけに殺された者の一人は中国のフォン・コーポレーション関係のため、公安も絡み…。

 捜査が進むに従い、話はさらに大きくなり、意外な連中も絡んでくるあたりは、冒険物語の「少しづつ仲間が集まってくる」ワクワク感が漂ってきたり。ほんと、意外な連中が絡んでくるからお楽しみに。

 などに加え、巻を重ねたことで、人間関係にも面白さが深まってきた。「未亡旅団」でロリコン疑惑を掛けられた(←をい)由紀谷主任に対し、体育会系な夏川主任はあまりスポットが当たらなかったが、この巻では男の哀愁が漂いまくり。お互い頑固そうだしなあ。

 などのレギュラー陣は、今までの仕込みがバッチリ効いて、一つ一つの台詞の重みがグッと増している。中には小野寺警視みたく、軽さが増してる人もいるけどw 果たしてただの嫌な奴なのか、何か考えがあるのか。

 ゲストでは財務捜査官の仁礼草介がいい味出してます。彼の台詞、特に特捜部技術部の鈴石さんとの会話は、階級を意識しながら読もう。この人の性格がよく出てる。にしても、この場面は、なんというか、同病相憐れむというかw

 ある意味、ハッカーなんだな。人に対する態度は一見丁寧なようだけど、実はワンパターン。場面や相手によって使い分けてない。当たり障りのないパターンを一つ憶えておけば、それでいいじゃん、みたいな感じ。余計な事にはリソースを割かないタイプ。鈴石さんとは気が合いそうだけど、はてさて。

 銃器への拘りは相変わらずで、今回は弾丸にまで凝ってたり。でもライザちゃんは相変わらずM629Vコンプなのでご安心を←ってなにをw

 終盤では少しだけ異例だらけの特捜部設立の狙いも見えてきて、シリーズもいよいよ盛り上がりまくり。早く次の巻を出して欲しい。あ、それと、ライザちゃんにはもう少し手加減してあげて。その代わり姿をいぢめてもいいから←をいw

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