イアン・ホワイトロー「単位の歴史 測る・計る・量る」大月書店 冨永星訳
これは、ごく古い文明の時代から今日に至るまでに、人間が世界を秩序立てて理解するために用いてきた手段についての本だ。
――はじめにA0の紙は、縦横比が1.4142であるだけではなく、じつは面積がちょうど1平方メートルなのだ。
――第3章 面積の単位いったいどうやって陽子や中性子の質量を求めたのだろう。
――第5章 質量の単位1キロカロリーとは、標準大気圧の中で1キログラムの水の温度を1℃上げるのに必要な熱量…
――第10章 エネルギーと仕事率の単位
【どんな本?】
単位にはいろいろある。メートル/キログラム/秒などは、SI基本単位として国際的に使っている。また、マイクロ・ミリ・センチ・キロなど、いろいろな接頭語がつく場合もある。
加えて、国や分野や業界に特有の単位もある。アメリカは今でもガロンやマイルで、ボクサーの体重はポンドだ。文字サイズはポイントで、ダイヤモンドはカラット、原油はバレル。SF者ならAU・光年・パーセクなどがお馴染みだ。
メートル法だと、ミリやキロは、たいてい10のn乗を示すので、なんとなくわかる。が、ヤード・ポンド法などでは、同じ長さでも、1マイルは1760ヤードと、妙に半端な数字になる。
なぜこんな半端な数字になるのか。それぞれの単位は、いつ、何を、どう測るために決まったのか。そして、科学者たちは、どのようにモノゴトを測ってきたのか。
単位をめぐる歴史と、様々なものを測ろうとした科学者の試みを、軽快なコラムで語る、一般向けの科学・歴史解説書。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
原書は A Measure of All Things : The Story of Man and Measurement, by Ian Whitelaw, 2007。日本語版は2009年5月20日第1刷発行。単行本ハードカバー横一段組みで本文約240頁。8.5ポイント36字×34行×240頁=約293,760字、400字詰め原稿用紙で約735枚。文庫本なら厚い一冊分ぐらいだが、イラストや写真が多いので、実際の文字数は7~8割ぐらい。
文章は比較的にこなれている。内容も特に難しくない。が、ヤード・ポンド法が盛んなアメリカ人・イギリス人向けに書いてあるため、日本人には慣れないグレインやパイントなどの単位が出てくるのは、少し辛かった。また、読み終えてから気がついたんだが、フィートをフートと書いてある。
【構成は?】
それぞれ1~5頁ぐらいの独立した短いコラムが並ぶ構成だ。だから、気になった所だけをつまみ食いしてもいい。
- はじめに
- 第1章 度量衡
ごく初期の計測/古代地中海文明での計測/世界各地の度量衡/英語を話す世界では/帝制度量衡と慣用度量衡/メートル法の起源/国際単位系/米国でのメートル法
- 第2章 長さの単位
フート、ハロン、ロッド/マイルとヤード/海に関する長さの単位/メートルという基本単位/宇宙を測る/馬に関する単位/計測の限界/ゲージ
- 第3章 面積の単位
中世の土地の単位/面積の単位/メートル法の面積の単位/紙の大きさを定義する
- 第4章 体積や容量の単位
メートル法の体積の単位/ワインボトルのボトルサイズとその呼び名/帝制度量衡の体積の単位/液体を入れる樽の容積/料理に登場する単位
- 第5章 質量の単位
質量と重さ/帝制度量衡と慣用度量衡の質量の単位/少量の物や貴重な物の質量/メートル法の質量/きわめて小さなものの質量/物質の密度
- 第6章 温度の単位
熱さと冷たさ/度の問題/絶対温度
- 第7章 時を計る
年と月/時間と国際単位系/1秒をさらに分割する/地質年代を測定する
- 第8章 速さの単位
速さの国際単位/平均の速さ/帝制度量衡と慣用度量衡の速さの単位/光と音の速さ/Cを求めて/加速度
- 第9章 力や圧力の単位
力とは何か/国際単位系と慣用度量衡の力の単位/重力と重さ/トルクとてこ/圧力/大気圧
- 第10章 エネルギーと仕事率の単位
力が働く/国際単位系以外のエネルギーと仕事率の単位/国際単位系の仕事とエネルギーと仕事率の単位/放射能/電気の単位/放射エネルギー/レーザーで測る/爆発のエネルギー/風力
- 第11章 さまざまな物を計る
デジタル情報の単位/薪の量/唐辛子はどれくらい辛いか/指輪のサイズ/濃度の単位/硬さ/活字/国際単位系の図 - エピローグ
- 解説 日本の単位 高田誠二
- 索引
【感想は?】
世の中には暗記が得意な人と苦手な人がいる。私はとても苦手だ。
お陰で海外の小説を読む時は、けっこう苦労したり。最近になって、やっと1マイル≒1.6kmと覚えたが、ガロンは今でもピンとこない。
こないのも当たり前で、アメリカのガロンとイギリスのガロンは違うのだった。アメリカは1ガロン≒3.8リットル、イギリスは1ガロン≒4.5リットル。あー面倒くさい。これは計量スプーンにも影響してるとか。料理本を翻訳する人は大変だ。
ある意味、メートル法は不自然な単位で、だから直感的にピンとこないのだ、みたいな話を聞いた事がある。というのも、昔の単位は、「何を測るか」に基づいて決まったからだ。例えば、船や航空機の距離や速度を表す、海里やノット。
船が経線に沿って航行し、緯度にして30分移動すると、その船は30海里進んだことになる。
――第2章 長さの単位1時間に1海里進む速さのことを1ノット〔knot〕と呼ぶ。
――第8章 速さの単位
確かにこれだと、色々と便利そうだ。天測で位置を調べるにせよ、海図で距離を調べるにせよ、地球上の角度を単位の基本とすれば、いろいろと便利だろう。なお、ここでの1分は1度の1/60で、1海里≒1.85キロメートル。
便利そうな単位として面白いのが、「ジレット」。レーザー研究の初期に、レーザーの強さを表すため、研究者のセオドア・レイマンが考え出し、ソレナリに使われたとか。これは、「レーザーで一度に穴をあけられるジレットのカミソリの刃の枚数」を表し、初期のレーザーは2~4ジレットぐらい。
なんかいい加減なようだけど、「ジレット社製安全カミソリの刃は厚みがかなり一様なので」けっこう信頼できた、というから、工業製品の精度は恐るべし。
やはり昔の単位は人の身体を基準として決まってるから便利、みたいは話もある。けど、1フート(フィート)は足の大きさで、約30.5センチメートルと聞くと、「ホンマかいな?」と思ったり。いやそれ、やたら足デカくね?見栄はってるだろ、絶対。もしくは足じゃなくてサンダルの大きさなのかな?
などと、前半では「どうやって決まったか」の話が多い。これが後半になると、「どうやって測ったか」が増えて、科学の色が濃くなる。
最初に凄いと思ったのが、光速の測り方。ガリレオは巧くいかなかったようだが、1675年にオーレ・レーマー(→Wikipedia)が巧みに計算している。木星の月イオの(食の)周期は、季節により違う。これは季節により地球とイオの距離が違うからだと考えたのだ。
実際、最も近い時と、最も遠い時では、約2AU(30億km)違う。この距離を光が進む時間だけズレると考えた。今 Google に尋ねたら約16分38秒です。発想も鮮やかだが、当時の観測装置でやった執念も凄い。ちなみにレーマンの誤差は25%だとか。
光はもっと身近な所でも使われてて、例えばレーザーで距離や大きさを測るなんて技術もある。とはいえ、花火との距離は音と光のズレで分かるけど、光はやたらと速い。んなモン、どうやって調べるのかと思ったら…
レーザービームを分割し、ビームを半分づつ異なる経路を通してから組み合わせ、2つのビームの干渉の具合を見れば、これらの経路に違いがあるかどうかが、ビームの波長の何分の1といったわずかなレベルでわかるのである。
――第10章 エネルギーと仕事率の単位
そうか、位相の違いを見るのか。それなら、波長を変えれば短い距離もわかるね。もっとも、どうやって位相の違いを調べるのかはわからないけど←をい。
どの章も、ほぼ独立した数頁のコラムを束ねた形なので、気になった所だけをつまみ食いできるのも嬉しい。また、テラ・ギガ・メガ・キロ・ミリ・マイクロ・ナノ・ピコ・フェムトなど、国際単位系の接頭語が整理してあるのも有り難い。ちょっと独自の単位を作ってみたくなったなあ。食品の腐りやすさとか。
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