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2018年6月20日 (水)

涌井良幸・涌井貞美「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」中経の文庫

エスカレーターの利点は搬送能力が高いこと。エレベーターに比べて格段に効率がいい。
  ――エスカレーター

電気自動車は普通の車よりも部品点数が少なく、2/3程度ですんでしまう。
  ――ハイブリッドカーと電気自動車

人の汗自体にはニオイがない。
  ――制汗・制臭スプレー

ファクスの起源は古く、電話よりも早い1843年にイギリス人が発明したそうである。
  ――ファクス

【どんな本?】

 新幹線のぞみはなぜアヒルの口みたいな恰好なの? 電子温度計が早く体温を測れるのはどうして? お米はとぐものだよね。じゃ無洗米は予めといであるの? デジカメのオートフォーカスはどうやってるの?

 私たちが日ごろ使っている新商品や、よく見かける新しい機械は、便利だし使い方も簡単だ。でも、どんな理屈で動くのか、どんな素材を使っているのかなどは、まずもってわからない。身の回りにある最新テクノロジーを、ふんだんにイラストを使ってわかりやすく伝える、一般向け科学(というより雑学)解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2012年8月1日第1刷発行。私が読んだのは2012年12月31日発行の第8刷。売れたなあ。文庫本で縦2段組み、本文約274頁。9.5ポイント17字×15行×2段×274頁=約139,740字、400字詰め原稿用紙で約350枚。文庫本としてはやや少なめの文字数。加えて、ふんだんに説明用のイラストが入っているため、実際の文字数は7割程度。

 文章は比較的にこなれている。内容も、あまり細かく難しい所には踏み込まない。特にデジタル処理のあたりは、かなり大雑把に感じた。反面、機械工学や化学の方面では、イラストが絶大な効果を発揮して、とってもわかりやすい。

 ただ、表紙の独特なセンスは好みが分かれる所w 昭和30年代の子供向け漫画雑誌に描かれる21世紀の風景、とでも言うか。むしろ、そういうモノを読むつもりで、気軽に手に取ってほしい、そんな想いを込めたのかも。

 ちなみに表紙図版は小林哲也、表紙イラストは松島ひろし、表紙デザインはMalpu Design(清水良洋)。本文デザインは島田利之(シーツ・デザイン)、本文イラスト・図版は小林哲也。

【構成は?】

 ぞれぞれ4頁ほどの独立した記事が並ぶ格好。しかも、各記事には1~2頁のイラストが必ず入っている。しかもこのイラスト、実に的確かつ分かりやすく原理や仕組みを伝えてくれる。

  • はじめに
  • 第1章 街で見かけるモノの技術
    タワークレーン/エスカレーター/エレベーター/耐震・制震・免震構造/飛行機/新幹線の形/自動改札/ETC/交通信号
  • 第2章 外出先で触れるモノの技術
    FM放送とAM放送/カーナビ/パワーステアリング/歩数計/ハイブリッドカーと電気自動車/高機能タイヤ/WiFiとWiMAX/リライトカード/バーコード/ICタグ/生体認証
  • 第3章 身近にあるモノの技術
    ボールペン/電子体温計/体脂肪計/使い捨てカイロ/制汗・制臭スプレー/日焼け・日焼け止めクリーム/瞬間接着剤/撥水スプレー/形態安定シャツ/ヒートテック/遠近両用コンタクトレンズ/放射線測定器/紙おむつ/透けない水着
  • 第4章 生活で使うモノの技術
    無洗米/石けんと合成洗剤/洗剤浮揚の布とスポンジ/抗菌グッズ/フッ素樹脂加工のフライパン/電子レンジとIH調理器/スチームオーブンレンジ/曇らない鏡/LED照明/リンスインシャンプー/サイクロン掃除機/リモコン/ファクス/エアコン/インバーター蛍光灯/電波時計/ガラス
  • 第5章 ハイテク時代のモノの技術
    フラッシュメモリー/デジカメ/オートフォーカス/ブロードバンドの上りと下り/インターネット電話/デジタル放送とデジタルテレビ/インターネット放送/薄型テレビ/立体テレビ/DVDとBru-Ray/BSとCS/タッチパネル/ノイズキャンセリングヘッドフォン/サイレントギター/プラズマクラスターイオン
  • コラム
    コンセントの穴の大きさが異なる理由/電線は3本1セット/電池の起源は「カエル」だった!?/羽根のない扇風機/お掃除ロボット
  • おもな参考文献/おもな参考ホームページ

【感想は?】

 表紙で損してるんだか得してるんだかw

 先にも書いたように、昔の少年漫画雑誌に載ってる「未来のメカ」みたいな雰囲気で、かなり遊んでる。悪く言えばふざけた感じがあるが、同時に親しみやすく楽しげだ。

 で、読んでみると、確かに親しみやすくて楽しいんだけど、決してふざけてはいない。ICやLSIなどデジタル関係のネタは相当にはしょった感はある。でも、「じゃお前が書いてみろ」と言われたら、お手上げだなあ。

 本当に「わかる」かどうかは置いて、とりあえず「わかったつもり」にはさせてくれる。それぞれの記事はせいぜい4頁な上に、イラストで少なくとも1頁は取られるので、実際の文字数は3頁程度。それで最新技術を素人の読者に一応は納得させるんだから、これは難行だよなあ。

 じゃ誤魔化しているのかというと、決してそんなことはない。私がこの本を読もうと決めたのは、無洗米の記事だ。書棚から取りだしパラパラとめくって、たまたま無洗米が目に入った。てっきり予めといであるのかと思ったら、全然違った。

 普通に精米すると、米粒の肌に糠がこびりついてる。これを更に精米して、肌の糠を取るのだ。というか、米を研ぐって、米粒の肌に残った糠を取るって事だったのか。しょっちゅうやってるのに、私は作業の意味を全く分かってなかった。

 比較的に良く知られていそうなのは、新幹線のぞみの先頭車両、あのアヒルのくちばしみたいな格好。てっきり空気抵抗を減らすためと思ったが、これも全然違った。トンネルか抜ける時に出る爆発音を減らす工夫だったのか。

 つまりは銃口にサイレンサーをつけるのと同じ目的ね。ということは、弾丸も形を工夫すれば消音弾が←これだから軍ヲタは

 こういう基本的な事を、ちゃんと書いてあるのが、この本の嬉しい所。例えばラジオのAMとFM。AMは振幅で、FMは周波数を変える。これはよく言われるんで知ってたんだが、なぜFMは雑音が少ないのか私はわからなかった。理屈は簡単で、雑音は振幅を変えるけど周波数は変えないから。

 そういう事かあ。いや電気に詳しい人なら雑音と振幅と周波数の関係がスグ分かるんだろうけど、素人にはソコがわかんないんだよなあ。こういう素人がつまづきそうな所まで、キチンと目を配っているのが、この本の嬉しい所。

 かつて途上国が発展するにはまず軽工業を立ち上げ、次第に重工業に、なんて言われてた。でも、そんな発想は時代遅れなのかも、と思わされるのが、繊維関係の記事。

 「形態安定シャツ」「ヒートテック」「紙おむつ」「透けない水着」、どれも昔なら軽工業に属する製品だ。しかし、そこに使われている技術は、とんでもなく精密かつ高機能なシロモノ。いずれも独特の性質を持った複数の素材を、ミクロのレベルで組み合わせている。

 透けない水着とかは、繊維からして三重構造だし。こんな繊維、どうやって作るんだ? よほどの化学技術と精密工学技術がなきゃ出来ないぞ。 かと思えば、「形態安定シャツ」では…

ちなみに、形態安定加工された衣服は、「濡れ干し」が基本である。雫がたれるぐらいが理想だ。水分の重みでシワが自然に伸びるからである。

 とか、使い方のコツまで教えてくれたり。

 IT関係だと自動改札やETCや生体認証やタッチパネルなど、ワンチップ物に驚くばかり。ああいうアナログな信号に近いモノってのは、電源も不安定だし雑音も多い上に演算能力も貧しいってのに、なんであんな高機能な情報処理ができるんだか。

 いや理屈は分かるんだが、テキスト・エディタ一つ満足に作れないヘタレプログラマとしては、あれだけ不安定で資源も貧しい環境で、あんな高度な機能を実装できるってのが信じられないのよ。まさしくウィザードだね。

 などと、素人には優しく痒い所に手が届き、同時に自分たちの身の回りに溢れている驚異に改めて気づかせてくれる、センス・オブ・ワンダーを詰め込んだ本だった。

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