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2018年4月30日 (月)

SFマガジン2018年6月号

(ヘイ、ルーン。ぶっとばしちゃいなよ)
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第20回

あらゆる異世界ものは、広義のファースト・コンタクトものと言えるのである!
  ――柿崎憲「SFファンに贈るWEB小説ガイド」

『生き物は、身近な環境にあるものをなんでも利用して生きていく』
  ――神林長平「先をゆくもの達」第3回

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ゲームSF大特集」。映画「レディ・プレイヤー1」を中心に、小説・インタビュウ・最新ゲームガイドなど。

 小説は豪華13本。まず「ゲームSF大特集」で読み切り4本。小川一水「プレイヤーズ・アンノウン・ストリーミン・グラウンド」,柴田勝家「姫日記」,クラベ・エスラ「超能力戦士ハリアーの意志」,廣江聡太朗(あでゆ)「ハイ・リプレイアビリティ」。

 連載は5本。夢枕獏「小角の城」第47回,椎名誠のニュートラル・コーナー「居酒屋会議」,神林長平「先をゆくもの達」第3回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第20回,藤井太洋「マン・カインド」第5回。

 読み切り&不定期掲載は4本。菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第3話 手回しオルガン」,早瀬耕「十二月の辞書」,瀬尾つかさ「沼樹海のウィー・グー・マー 前編」,小川哲「ひとすじの光」。

 小川一水「プレイヤーズ・アンノウン・ストリーミン・グラウンド」。C-130H輸送機の後部ハッチから放り出された。パラグライダーを開いて島に降りる。降りるのは99人、生き残るのは一人。最初は丸腰。武器は自ら見つけるか、敵のを奪うか。そんなゲームを実況中継していたあたしは…

 同じ特集中の「読者に薦めるゲームガイド2018」によると、ゲームのモデルは「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」だろう。次第に戦場が狭くなるって仕掛けは、とても優れていると思う。だって潜んで獲物を待つスナイパーも、否応なくアジトから叩き出されるので、プレイに動きが出るから。

 柴田勝家「姫日記」。日頃から『信長の野望』で鍛えた軍師の腕の見せ所だ。どんな弱小大名だろうと天下人にしてみせる。今回の主は毛利元就。だがなぜか三つ編みの眼鏡っ娘。まず毛利家当主としての立場を確たるものにして…

 ゲームの道は修羅の道。ちょっと見は似たようなゲームでも、同じ名前のパラメータが全く異なる働きをしたり、バランスが違ってたり。などと他のゲームで刷り込まれた思い込みを消していく過程も、新しいゲームに挑む楽しさの一つ。にしても、柴田勝家が毛利家に仕えていいのか?

 クラベ・エスラ「超能力戦士ハリアーの意志」。14歳のオランダ人少年は、1986年12月3日に横須賀生まれの日本人になった。人生を変えたのはドリームキャストのゲーム「シェンムー」。殺された父親の仇をとるため、俺は横須賀の街を走り回り…

 ゲーム内のキャラクターの行動ってのは、明らかに奇妙なもので。自由度が高くグラフィックがリアルなゲームほど、その奇妙さは目立ってしまう。特に会話は難しくて、NPCは予め設定した台詞しか喋ってくれない。将来は多少マシになるんだろうか。

 廣江聡太朗(あでゆ)「ハイ・リプレイアビリティ」。左の画面には“彼女”、右の画面には「彼女」。数日前、何者かが全世界の全ての家庭に一台の古いコンピュータを配った。ある事件を記録した現物のコピーだ。真相を突き止めると、莫大な報酬が手に入るらしい。

 大量に残された証言の動画を手掛かりに、事件の真相を突き止めようとする僕。下心まじりに、その手助けを頼んだ相手が「彼女」。「彼女」とのコミュニケーションは、テキストチャットのみ。今ならLINEになるのかな? こういう世界は流行り廃りが早いんで、小説家も大変だなあ。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第3話 手回しオルガン」。手回しオルガンで日銭を稼ぐ少年は、絵のモデルになった。絵は話題になり、少年も観光名物となったためか、多少は稼ぎも増えた。ただしメシのタネのオルガンには少し手が入り…

 オルガンってのはやたらとバリエーションの多い楽器で、建物に組み込まれたパイプオルガンから、肩にかけて持ち歩ける小型のものまで、実に様々。ここに登場するのは、屋台で曳くタイプだろう。高尚な雰囲気のアフロディーテながら、庶民的で親しみやすい一面を描く一編。オルガンの音を表すオノマトペが、とっても楽しい。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「居酒屋会議」。再び地表?に戻った私は、高原線路の終点イースト駅へと向かい、居酒屋に入った。幸い店はにぎわっていて、馴染みのメンバーが飲み食いしている。ばかりか、新顔も…

 読んだのが晩飯前のためか、オマール茶,ベニヒメスソハライのソテー,踊り豆のタカトントンなんてメニューが頭の中で暴れてしょうがない。特に踊り豆のタカトントン。どんな歯ごたえなんだろう。ムニムニって感じなんだろうか。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第20回。ついに合流したウフコックとバロット。お互い話したいことは山積みだが、今はそれどころじゃない。早くも敵の手が回ってきた。天井に広がる赤錆。クインテットのエンハンサー、ラスティの攻撃だ。

 お待ちかねウフコック&バロット大暴れの回。今回の事件では多くのメンバーを失ったイースターズ・オフィスだけど、バロットの能力は飛びぬけている上に、ウフコックとの相性も抜群にいい。ただ、ウフコックはそれを素直に喜べないだろうなあ。

 小川哲「ひとすじの光」。執筆支援AI「Leibniz」。ヒトはシナリオに必要な設定をする。AIは原稿を吐き出す。その原稿にヒトが赤を入れる。僕はLeibnizでゲームのシナリオを作り、二つの会社に勤めた後、独立して小説を書き始めた。

 これを読む直前、スペシャルウィークの訃報が流れた(→JRA)。打ち切りになった小説の続編が読めるのは嬉しいなあ。ガンパレも「未来へ 4」を無かったことにしてブツブツ…。疑問があると、とりあえず調べちゃうのは学者の性なんだろうか。血統の記録がよく残っている競走馬ならではの作品。

 瀬尾つかさ「沼樹海のウィー・グー・マー 前編」。ウェイプスウィード事件から二年。事件の影響で、ヨルは生まれ育った島を出され、もっと広い島の全寮制学校に進んだ。ケンガセンは食い詰めている。上司の大学教授が失脚し、そのあおりで大学を叩きだされ、住処も失う。そこに仕事の話が舞い込み…

 ヨルとゲンガセンに再び会えたのも嬉しいが、それ以上に、六年を経てハヤカワ文庫JAより書籍化ってニュースが嬉しい。さてお話は。現地住民との関係がややこしい所にコロニーの有人船が落ち、再びヨルとゲンガセンが調査、というより調停に赴くことに。両名共にハグレ者だけに、どんな展開を見せてくれるか楽しみ。

 早瀬耕「十二月の辞書」。既に書籍化された「プラネタリウムの外側」の番外編。高校三年の秋、南雲薫はガールフレンドの「母の昔の恋人」に紹介された。その男は、彼女に別宅を遺した。別宅には彼女のポートレイトがある、と言うのだが…

 舞台は函館。しかも海が見える高台にある別宅って、美味しい海鮮が食べ放題じゃないか…と思ったが、北海道の人には美味しい魚介類なんか当たり前すぎて、あまり有り難くないのかも。いやそういう話じゃ全くないんだけど。

 神林長平「先をゆくもの達」第3回。ナミブ・コマチが生んだ火星で初めての男子ハンゼ・アーナクが、地球に来て60年になる。一人で暮らすハンゼを、カリンが訪ねてきた。火星に向かった若生の姪だという。

 いきなり60年も時代が進むのに驚いたが、雰囲気はのんびりしたもの。「トーチには、機嫌よく働いてもらいたい」って発想が、ケッタイなシロモノを祀りたがる精霊信仰や神道の感覚と似ているような。小難しい理屈を並べるよりも、感覚的にわかった気になるから面白い。

 藤井太洋「マン・カインド」第5回。戦死者の遺族を訪ねる旅を続ける迫田とレイチェル。次に向かうのは、ジャスパー・ジョーンズの両親、モーリスとミシェル。追ってコヴフェのトーマも加わる予定だ。ジャスパーの肌は白いが、両親の肌は黒い。

 新しいモノにい疎い老いた両親の目を通し、最新技術の原理と動作を説明するのは巧い工夫。コヴフェ台頭のきっかけはトランプvsヒラリーからヒントを得たんだろうけど、麻疹流行は現実の動きを読んだのか単なる偶然か。「赤いマフラーをなびかせて」ってのはアレのネタ? かと思えば tail コマンドとか、ほんと芸が細かい。

 「ゲームSF大特集」の記事、『レディ・プレイヤー1』監督スティーブン・スピルバーグ・インタビュウ。お相手は渡辺麻紀。よく記事が取れたなあ。コンテンツの自由度が高いと、ユーザを創作側が望む方向に誘導しにくくなる。これの両立は確かに難しい。その点、ドラゴンクエストの巧みさはよく話題になるなあ。

 鹿野司「サはサイエンスのサ」性淘汰の逆転劇。19世紀には性淘汰って現象が全く受け入れられなかったってのも驚きだが、その理由もなんともはや。ヒトの思い込みってのは、相当に強いものなんだろう。そういえば、そろそろカラスの子育ての時期だなあ。

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