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2017年12月31日 (日)

SFマガジン2018年2月号

われわれSFファンというのは、気に入った作品にすこしでもSF要素があると、すぐに“あれってSFだよな”といいだす困った人種なのである。
  ――酒井昭伸「ガルパン礼讃」

「こんなのフェアじゃない」ティモシーは不平をもらあし、玄関ドアにもたれかかった。「絶対にフェアじゃない。みんな、あれだけの目にあってきて、こんどはクリスマスがくるなんて……」
  ――スティーヴ・ベンスン「からっぽの贈りもの」中村融訳

「ここが我々の重大な分岐点となる」
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」

その手のいわば震災カルトたちはその後様々な道を歩んだが、彼の場合は精神世界に傾倒した結果、物質文明や科学技術を否定することを選んだ。ネットを活用して信者を集めていたにもかかわらず。
  ――澤村伊智「マリッジ・サバイバー」

21世紀以降、探査を目的とした単発の有人火星行はべつにして、人類は火星に三度地球人を送り込んで植民を図ったが、三度とも失敗した。
  ――神林長平「先をゆくもの達」

 376頁の標準サイズ。

 特集は豪華三本。オールタイム・ベストSF映画総解説PART3,「ガールズ&パンツァー」と戦車SF,アーサー・C・クラーク生誕100年記念特集。

 小説は9本+アーサー・C・クラークのショート・ショート2本。

 連載は5本。椎名誠「岩石回廊」,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第18回,三雲岳斗「忘られのリメメント」第6回,藤井太洋「マン・カインド」第3回,神林長平の新連載「先をゆくもの達」。

 読み切りは4本+ショート・ショート2本。まずガルパンもとい戦車SF特集の2本。ティモシー・J・ゴーン「サイバータンクVSメガジラス」酒井昭伸訳,スティーヴ・ベンスン「からっぽの贈りもの」中村融訳。次にクラーク生誕100年記念でアーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター「タイムをお願いします、紳士諸君」中村融訳。最後に澤村伊智「マリッジ・サバイバー」。

 オールタイム・ベストSF映画総解説PART3。銀河ヒッチハイク・ガイドなんて映画化されてたのか。高山羽根子が紹介するのはどれもマニアック。どっからネタを仕入れたんだか。

 「ガールズ&パンツァー」と戦車SF。「大嘘をついても小ウソをつくな」はまさしく正論。これはハードSFに限らず、あらゆる物語の原則でしょう。

 ティモシー・J・ゴーン「サイバータンクVSメガジラス」酒井昭伸訳。遠未来の某惑星。全幅30m全長60mの電脳戦車<オールド・ガイ>は、単独で警備と採掘監督の任務をこなしている。探索用プローブなども従えているが、それらは周辺機器であり、ここに居るのは自分だけ…

 なぜ戦車が自意識を持つのか、ちゃんと理屈をつけてるのが楽しい。出合い頭の戦闘で、危機を脱する手段、たぶんこれ実際の戦闘を参考にしてるんじゃないかな。第四次中東戦争のシナイ半島で、エジプト軍の対戦車ロケットに苦しんだイスラエル軍が編み出した方法に似てる(→ヨム・キプール戦争全史)。

スティーヴ・ベンスン「からっぽの贈りもの」中村融訳。大人たちが消えた街。生きているのは子供だけ。リーダーは12歳のティモシー。雪降る中、空腹を抱えながらもバケツで雪を運ぶ。4歳のアンジーが尋ねる。「サンタさんはまた来てくれるよね?」

 クリスマス・ストーリー。食糧が乏しい中、リーダーだからと黙って自分の食事を抜くティモシーが泣かせます。「こんなのフェアじゃない」と愚痴をこぼしつつ、幼い仲間たちのために奮闘するティモシーの前に現れたのは…

 椎名誠「岩石回廊」。惑星だと思っていたが、それはパイプ型の外殻惑星だった。実は中に内惑星があったのだ。わたしは外殻惑星の内側に沿って進む。ここでは、なぜか重力は惑星の外側に向かっている。

 「ラクダ」というからラクダだと思い込んでいたが、そういう事か。やたらタフな上に働き者だし、そういう目的には確かにあってるけど(→ラクダの文化史)。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第18回。長い雌伏の時は過ぎ、今日は作戦決行の日。ハンターらをブチ込む証拠は揃った。ウフコックの活躍によるものだ。そのウフコックは、ブルー&スティールと共にカジノへと向かう。だがそこには…

 物語序盤から不思議な存在感を示してきたあの方が、ついに本領を発揮する回。相変わらずマイペースだけどw 対するハンターは、思いもよらぬ作戦に出てくる。じっくりとハンター一味を書き込んできただけに、私もかなりハンターに肩入れしちゃってるんだよなあ。

 澤村伊智「マリッジ・サバイバー」。父親は幼い頃に家を出て行った。母親は新興宗教に入れ込み、新しいモノを拒む。俺はタブレットを与えられず、級友たちから取り残される感覚を味わった。18で家を出て職に就き、今は35歳だ。そろそろ結婚した方がいいと思い始め…

 何者だ、この作家。「コンピューターお義母さん」の「九十八円ぺたり」も凄いが、今回の「取り残されている」も、やたらと鋭い。いやホント、世間からズレた環境で育つと、常識的な感覚を身に着けるのにやたら苦労するんだよなあ。なんで著者はそれが判るんだろ?

 三雲岳斗「忘られのリメメント」第6回。連続殺人犯の朝来野唯は、四年前に死体となって警察が確保した。朝来野の模倣犯を追う宵野深菜は、リギウス社CEO迫間の自宅を訪れる。他人の記憶を体験できる疑憶素子MEM、そして「神の記憶」とは…

 連載もこれだけ続き、衝撃の展開が繰り返されると、ネタバレを避けて紹介するのは難しい。今回の引きも、「おい、ここで続くかよっ!」と、思いっきり読者の気を引きまくる見事な幕の引き方。

 アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター「タイムをお願いします、紳士諸君」中村融訳。キングズ・カレッジの学生SFクラブのコンヴェンションは同窓会となり、ゲスト・オブ・オナーのベン・グレッグフォードを引き連れ、ハリー・パーヴィスを先頭に<白鹿亭>へ…

 でお分かりの通り、短編集「白鹿亭綺譚」を受けた作品。ベテランらしく、有名SF作家や作品を贅沢にクスグリに使いつつ、いかにも「白鹿亭」な香り高い皮肉なユーモアが漂う作品。ガジェットの扱いもクラークらしいが、最後のオチのキレもいい。

 同じクラーク特集で、中村融「知識の探求と美の想像 クラークがめざしたものについて」。科学解説書も書くSF作家というと、日本じゃアイザック・アシモフが有名だが、私はクラークの方が好きだ。アシモフは学者って感じなのに対し、クラークは油臭いエンジニアって雰囲気があって、そこが好きなんだよなあ。

 神林長平の新連載「先をゆくもの達」。舞台は未来の火星。ラムスタービルの人口は約120。機械が自動で建設し、管理・維持する環境だ。31歳のナミブ・コマチは幼いころから<全地球情報機械>に親しんだ。地球人が残していったものだ。

 皆さんお待ちかねロングピース印の火星物。人類はノイマン・マシンっぽい機械が建設した環境の中に住んでいる。というと、ちょうど先日読んだ「からだの一日」の腸内細菌を思い浮かべて、そんな感じの共生体なのかな、と思ったり。

 藤井太洋「マン・カインド」第3回。反乱軍の指揮者チェリー・イグナシオは、軍事企業<グッドフェローズ>の捕虜を殺した。それをスクープした迫田の記事は、デマと判断される。残虐行為をスッパ抜かれたチェリーは意外にも…

 相変わらずガジェットは細かい所まで目が行き届いた、この作家ならではのもの。銃や防弾ガラスなどの軍用装備はもちろん、貨幣・交通機関・通信・エンバーミング、そしてニュースの審議判定方法など、凝りに凝ってる。数の数え方とかも、国際派らしい見事な書き込み。

 鳴庭真人「NOVEL&SHORT STORY REVIEW」巨大ロボット、発進! なんと巨大ロボット物を集めた書き下ろしアンソロジーが出てるとか。MECH: Age of Steel。鉄人28号の英語版なんてあるのか。

 山本さをり「世界SF情報」。エリック・コタニって、天文学者の近藤陽次だったのか。「彗星爆弾地球直撃す」も「小惑星諸島独立す」も大好きだった。続きが出るのを待ってたのに、結局出なかったなあ。

 大野典宏「サイバーカルチャートレンド」コンピューターギークの楽しみとストレス。チューリング・マシンの停止性問題とプログレス・バーの話。やっぱりアレはインチキだったのかw

 日下三蔵&筒井康隆「筒井康隆 自作を語る」第5回 『虚人たち』『虚構船団』の時代 前編。日本SF大賞設立の驚きの真相にビックリ。「同時代ゲーム」、面白そうだなあ。

 にしても、戦車SF特集で榊涼介の「ガンパレード・マーチ」シリーズがないのは何故だ。少年少女が戦車に乗る話だぞ。人型だけど。人型が駄目なら、「5121小隊の日常Ⅱ」収録の「Panzer Ladys」はどうだ。装輪式戦車士魂号L型が活躍するぞ。そもそも戦車は集団で使ってこそ本領を発揮する。その戦車の機動力と打撃力を活かしたフォーメーション・バトルが堪能できる稀有な作品だというのに。

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