2017年に面白かった小説3つノンフィクション3つ
例年と同じに、今日の気分で選んでます。明日になったら、また違ったラインナップになるでしょう。
【小説】
- オキシタケヒコ「波の手紙が響くとき」ハヤカワSFシリーズJコレクション
- 武佐音響研究所。音響工学の技術を売り物にした零細企業だ。普段は古くなった録音テープから音をサルベージしたり、店舗の音響環境を整えるなどの仕事を請け負う。が、ときおり、奇妙な依頼も舞い込んでくる。録音された音源から録音環境を突き止めるなんてのは可愛い方で、心霊現象の解明なんて事件も…
- SFマガジンに第一話「エコーの中でもう一度」が載った時から、音響科学・工学を素材にする発想の素晴らしさに舌を巻き、書籍化を心待ちにしていた作品。書籍では、そんな私の期待を充分に満足させてくれた。どころか、最終話の「波の手紙が響くとき」では、まさしくSFの王道で彼方まで突き抜けてくれた傑作。
- A・E・ヴァン・ヴォクト「スラン」浅倉久志訳 早川書房世界SF全集17
- 時は未来。特殊な能力を持つ新人類「スラン」は、人類から追われる身だ。9歳の少年スランは目の前で母を殺され、お尋ね者の烙印を抱え、敵だらけの世界で、ただ一人で生き延びなければならない…
- 1940年発表と、SFとしてはとんでもなく古い作品だから、「どうせ古臭くて退屈なんだろう」と思い込んでいたら、とんでもない。危機また危機、謎また謎の連続で、常に緊張感あふれる場面を途切れさせず、またお話もコロコロ…というよりアッチコッチの思わぬ方向へハイスピードで転がってゆく、ジェットコースター・ストーリー。
- アレックス・ヘイリー「ルーツ Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」現代教養文庫 安岡章太郎・松田銑訳
- 西アフリカのガンビア。マンディンカ族の少年クンタ・キンテは白人に捕えられ、奴隷としてアメリカ南部に売り飛ばされる。事あるごとに希望を打ち砕かれる奴隷の暮らしの中で、しかしクンタ・キンテはマンディンカ族の誇りを持ち続けようと抗うのだが…
- 発表した当時はベストセラーとなり、ドラマも史上最高の視聴率を稼いだ化け物コンテンツ。これに影響され、アメリカではご先祖探しのブームまで巻き起こした。そのブームの主流は白人なのが、このお話の凄さを物語っている。奴隷にされた黒人による白人への恨み節として書き始めたそうだ。が、完成した小説は人種間の垣根をアッサリ越え、今生きている全ての人に力強く訴えてくる、骨太の作品となった。今の日本では手に入りにくいのが、つくづく悔しい。
【ノンフィクション】
【おわりに】
などと三冊づつ選んだが、当然ながら私は未練タラタラ。
小説では、16年の時を経て刊行された「ブルー・マーズ」が期待を裏切らない出来だったし、「スペース・オペラ」で一段落ついたジャック・ヴァンス・トレジャリーも捨てがたい。イーガンの「アロウズ・オブ・タイム」も、こんなとんでもないシロモノが読める時代に感謝したいし、「捜神記」の怪しさも捨てがたい。
ノンフィクションも面白いのがいっぱいあった。
音楽好きとして「音楽の進化史」は外せない。「暴力の解剖学」は、SF者の妄想マシーンを暴走させる衝撃作。衝撃ではデーヴ・グロスマン「[戦争]の心理学」も期待を裏切らない迫力だった。「戦地の図書館」も、本好きなら感涙の一冊。冒頭に収録した海兵隊員の手紙は、創作に携わる全ての人の心を揺さぶるだろう。その言葉は朴訥ながら、物語に何ができるかを、戦慄すら感じさせる激しさで伝えてくる…
とか書いているとキリがないので、今日はここまで。
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