SFマガジン2017年12月号
だいたい、「拡散してください」とお願いするメッセージなんて、ろくでもないものと決まっている。
――山本弘「プラスチックの恋人」おれか? スサノオって風来坊さ。
――草上仁「天岩戸」
376頁の標準サイズ。
特集は2本。「オールタイム・ベストSF映画総解説 PART2」として、1988年の「1999年の夏休み」から2004年の「ハウルの動く城」まで126作品を紹介。加えて「ブレードランナー2049」公開記念特集として、インタビュウやコラム。そしてブライアン・W・オールディス追悼。
小説は7本。
連載は3本。冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第17回,山本弘「プラスチックの恋人」第6回:最終回,三雲岳斗「忘られのリメメント」第5回。
読み切りは4本。谷甲州「新・航空宇宙軍史 ペルソナの影」,草上仁「天岩戸」,早瀬耕「忘却のワクチン」,そしてブライイアン・W・オールディス追悼として「花とロボット」小尾芙佐訳。
冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第17回。イースターズ・オフィスが中心となって始まった反撃は、ハンター率いる<クインテット>へ着実にダメージを与えてゆく。状況の変化に気づいた<クインテット>は、事態の把握に努めるが…
イースターズ・オフィスとクインテットの距離が、ジリジリと詰まってゆく回。今まで丹念にクインテットの内部事情を描いてきたためか、私はクインテット側にも気持ちを持ってかれちゃってる。冒頭に出てくるバルーンにも、ちょっと切なくなっちゃったり。いまだハンターの本音が見えないのも気がかりだなあ。
山本弘「プラスチックの恋人」第6回:最終回。未成年型のセックス用アンドロイド=オルタマシンは、激論を巻き起こした。体当たり取材で連載記事を書いた長谷部美里は、オルタマシンのミーフに心を惹かれつつ、単行本化に向けての作業に追いまくられている。そこにメッセージが届き…
不満。すんげえ、不満。何が不満と言って、これで終わりってのが納得いかない。こんな面白い話が、連載たった6回なんて短すぎる。もっと読ませろ。黒マカロンだけでなく、ナッツ99や月光、小酒井譲、ミーフ、そしてもちろんインドーラちゃんも、もっと語って欲しい。加えて舐めダルマ親方みたいな人も出すつもりだったのか?それは是非読みたいぞ。
などと、それぞれの立場の人が、何を考えどう動くかって点も面白かった。
それと同じぐらいに、ネットワーク時代の討論の進み方を、巧いこと小説の形に落とし込んでるのもワクワクした。もっとも、誤字脱字の指摘などあげあし取りや単なる人格攻撃など、実際にはありがちなセコい手口はバッサリきり落としてるけど。
だからこそ、登場人物たちが問題の真正面に向き合い、誠実に自分の考えを述べているあたりが、気持ちよかったのかも。なんにせよ、思いっきり大量に加筆しての書籍化を強く望む。にしても、あの名台詞をここでこう使うかw
谷甲州「新・航空宇宙軍史 ペルソナの影」。開戦から二カ月。保澤准尉は、タイタン防衛艦隊ガニメデ派遣部隊所属だ。といっても隊員は准尉一人だが。彼は小惑星帯に潜む航空宇宙軍の艦船を捜索している。航空宇宙軍が提供する航路情報サービスは、開戦により使えない。そこで…
「コロンビア・ゼロ」収録の「ギルガメッシュ要塞」「ガニメデ守備隊」から続く作品。今回も情報戦。とはいえ、舞台は太陽系だ。その広さを実感させられる描写が続く。最近の風潮を反映してか、別の次元での盛んな情報戦もチクリと皮肉ってたり。
三雲岳斗「忘られのリメメント」第5回。他人の体験を追体験できる<メメント>の憶え手、宵野深菜。彼女に妙な依頼が来る。「かつての連続殺人鬼アサクノの模倣犯を追ってくれ」。アサクノを追う深菜は、模倣犯の目的をかぎあてる。「神の記憶」。それは…
スプラッタ・シーンの多いこの作品、今回は冒頭からサービス全開。この手のお話じゃお約束とはいえ、やはり「芸術家」と呼ばれる人は、こういう役を割り振られるんだよなあw
ブライイアン・W・オールディス「花とロボット」小尾芙佐訳。新しい短編にとりかかった日。今日はカー夫妻とピクニックに行く予定だ。いつもなら作品の話なんかしないが、今回はマリオンのご宣託を伺おう。それはエイリアンとロボットの話で…
SFというより、SF作家の日常を描いた掌編。つか単なるノロケって気もする。カーはテリー・カーかと思ったが、違うみたいだ。他にもJ・G・バラード,ポール・アンダースン,ハリイ・ハリスンなど、往年のファンには懐かしい名前がいっぱい。
草上仁「天岩戸」。少しばかり名は売れてる流れ者のコンビ、スサノオとタヂ。ある村の木賃宿にいたところ、妙な依頼がやってきた。「うちの娘を、部屋から引っ張り出して欲しいんです」。余計者のおれたちに頼む仕事なんだから、どうせロクなモンじゃないだろうと思っていたら…
天岩戸にスサノオとくればピンとくるように、皆さんご存知のあのお話をアレンジした作品。スサノオ,ダヂカラオ,オモイカネ,ウズメなどのオールスター・キャストに加え、定番のアイテムも取りそろえた上で、こうアレンジするかw
早瀬耕「忘却のワクチン」。高校時代にできた、はじめてのガールフレンド。でも今は同じ大学に通っている、ただそれだけ。そんな彼女の困った写真が、ネットに流出してしまった。かつて彼女と通った植物園に足を向けると…
「グリフォンズ・ガーデン」から続く、有機コンピュータ・シリーズの一作。問題を片づける南雲の手口、いろいろと応用できそうで怖い。
オールタイム・ベストSF映画総解説 PART2。どの映画を紹介してるかに加え、誰が何を推してるかにも注目。なんとピーター・トライアスも寄稿してる。高野史緒のアレは順当として、北野勇作の怪獣愛溢れるレビュウもいい。また、高山羽根子の文体も独特でいい味出してる。しかし「ババ・ホ・テップ」が映像化されてるとは知らなかった。
あれ?「マイク・ザ・ウィザード」(→Youtube)は?とっても楽しい底抜けお莫迦映画なのに。でもSFというよりSFX映画だしなあ。そういえば、前号も「ショート・サーキット」が出てなかったね。
「ブレードランナー2049」公開記念特集。押井守インタビュウ「過去を否定して、未来を作り出すSF」が、たった1頁だけど読み応え十分。自らも映像作家だからこそ分かる、あの映像の秘訣を明かしてくれるのが嬉しい。
横山えいじ「おまかせレスキュー」。ジョン・レノンとオノ・ヨーコかよw
柴田勝家「2017ワールドコン・レポート 戦国武将、世界へ羽ばたく」。身振り手振りの勢い英語に大笑い。案外と通じちゃうんだよねw
SF Book Scope。いきなりの仕掛けに、「あれ、誤植か?」と何度も見直した。こういう工夫が出来るのも、SF専門誌ならではかな? なんにせよ、どっちも楽しみな作品。
「筒井康隆 自作を語る」第四回は、「『欠陥大百科』『発作的作品群』の時代 後篇」。あいかわらず聞き手の日下三蔵の下調べは凄い。「ヤクザの話だから、どう書いても面白くなるぞ」ってのも、わかるような、わからないようなw 「男の飛び道具」って、そういう意味かいw 「文春の一番嫌がることを書いてやろう」ってのも、実に筒井康隆らしいw
東茅子「NOVEL&SHORT STORY REVIEW」、今回のテーマは「スーパーヒーロー!」となれば忘れちゃいけない≪ワイルドカード≫。翻訳は途切れているが、アメリカじゃ続いてて、既に23巻目。なんとか翻訳も再開して欲しいなあ。
山本さをり「世界SF情報」。今月のローカス・ベストセラーリストに、チャールズ・ストロスがハードカバーで3位に入ってる。The Delirium Brief。「残虐行為記録保管所」から続く<ランドリー>のシリーズみたいだ。これも続きを出して欲しいなあ。
鹿野司「サはサイエンスのサ」、今回は「AIのだまし方」。siri など音声認識機能のだまし方から始まって、ディープラーニング式による現在の AI の意外な盲点と、それのヤバい悪用法を紹介してる。将来的には、やっぱ魔法みたいな扱いになっちゃうんだろうか?
次号の特集は「『ガールズ&パンツァー』と戦車SF」。とくれば、当然ガンパレード・マーチも。ええ、戦車が活躍する話だし。人型戦車だけど←をい
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