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2017年9月28日 (木)

チャーリー・ヒューマン「鋼鉄の黙示録」創元SF文庫 安原和見訳

「自分が連続殺人鬼だとなったら、いろんな疑問が湧いてくるもんだよな」
  ――p11

エズメがいなかったらとうぶんいいこともできやしない。でも悪いことばっかりじゃない。うまくすれば、敵に向かってまともに銃をぶっ放せるかもしれないぞ。
  ――p286

「現実のほうが妄想より変だってこともあるんだぞ、少年」
  ――p322

【どんな本?】

 南アフリカはケープタウン出身の新人作家による、コミック風味のお馬鹿冒険SF。

 バクスター・ゼヴチェンコは、ケープタウンの高校に通う16歳。学校じゃ二組のギャングが争ってる。アンワル率いるナイスタイム・キッズは武闘派でヤクをさばき、デントンがまとめる知性派のフォームは書類偽装で稼いでいた。

 そんな中、バクスターは小集団スパイダーを結成、マニアックなポルノを売りさばく。学校の平和が乱れれば商売どころじゃない。そこでバクスターは両巨頭の調停に頭を痛めている。頭痛の種はもう一つ、妙な夢にも悩まされていた。

 その日、ガールフレンドのエズメから不吉な話を聞く。ひとつ年上のジョディ・フラーが殺された、と。連続殺人鬼マウンテン・キラーの餌食になったらしい。奴は被害者の額に眼のような絵を残していく。この事件を機に、バクスターはケープタウンの闇の世界へと足を踏み入れ…

 ヤンキー漫画,トールキン風のファンタジイ,悪趣味なホラー・ゲーム,ハリウッド風のガン・アクション,秘密組織がらみの異陰謀論,勘ちがいした東洋趣味などの定番に加え、南アフリカ土着の伝説をまぶし、外連味たっぷりに描くケープタウン風俺TUEEE!な厨二病小説。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Apocalypse Now now, by Charlie Human, 2013。日本語版は2015年3月13日初版。文庫本で縦一段組み、本文約418頁に加え、橋本輝幸の解説6頁。8ポイント42字×18行×418頁=約316,008字、400字詰め原稿用紙で約791枚。文庫本としては厚めの部類。

 文章は比較的にこなれている。内容も特に難しくないが、ボーア戦争などの南アフリカの歴史と現状を知っていると、より楽しめる。

【感想は?】

 高校生が主人公の馬鹿話だ。そのつもりで、リラックスして読もう。

 出だしはヤンキー漫画風に、高校の様子を描いてゆく。ったって、Be-Bop Highschool みたく可愛らしいモンじゃない。拳でケリつける日本の不良が平和主義者に見える。なんたって、銃器を振り回しヤクをサバいて稼いでるし。ヤンキーどころか、ヤクザやマフィアの世界だ。

 やがて知人が連続殺人鬼の被害にあったのを機に、バクスターはケープタウンの裏社会へと首を突っ込む羽目になる。彼の案内人となるのが、ジャッキー・ローニン。ローニンの名でわかるように、この作品のスパイスの一つ、勘違い東洋趣味のはじまりだ。

 ジャッキー・ローニン、賞金稼ぎ。ただし、普通の賞金稼ぎじゃない。「化けもん探し」が専門。おんぼろビルにオフィスを構える、40過ぎのむさ苦しいオッサン。バクスターが訪ねた際は、借金取りに間違われ…ってのも、貧乏探偵の定番のパターンだね。

 このしょぼくれた中年探偵ローニンが繰り出す無情不死酔拳ってのも、まるきし南アフリカ版の民明書房。

 酔拳で見当がつくように、ブレイク前のジャッキー・チェンのカンフー映画に、勘ちがい東洋趣味とトールキン風ファンタジイを混ぜ、隠し味にシモネタと南アフリカの伝説を紛れ込ませた、この小説を象徴するような小話。文庫本だと140p~5頁ほどなんで、味見にはちょうどいいかも。

 そんなローニンと組み、最初の化け物退治に出かける場面では、南アフリカ版のゴースト・バスターズが炸裂する。映像化するにしても、かつての香港映画のように低予算の特撮が似合うシーン。当然、主演はカンフーの使い手じゃないと。

 その後の<肉欲の城>は、ホラー・マニア大喜びの酒池肉林が延々と続く。当然、ホラーのスターとくればアレで、そういうのもゾロゾロと。などといった店内の様子もさることながら、その裏方で働くオバチャンたちの逞しさには、思わずニヤリとしちゃったり。

 とまれ、日本の特撮映画や漫画じゃ、この手の化け物には銃などの物理兵器が効かないのがお約束になってる。が、このお約束、海を越えるとチャラになるんだよなあ。まあ、その方が画面が派手になるからいいけどw

 やがて話が進むに従い、ローニンの過去の因縁が明らかになり、また仲間も増えてゆく。これまたハードボイルドな探偵物のお約束通り。なんだが、肝心のローニンが、いまいちヘッポコなのが、この作品ならでは。みんなビンボが悪いんや。

 笑っちゃうのが、最後の決戦に赴く前の武装を整えるシーン。やたらと話が壮大な割に、どうにもローカルな所で済ませちゃうあたりは、日本のライトノベルにでも影響されたんだろうか。

 肝心のラストバトルも、やたらと壮大な設定を背負っちゃいるが、あくまで舞台はケープタウンってところが、これまた日本の怪獣映画を思わてるところ。もちろん、巨大なアレが、周囲の迷惑も顧みずに大暴れします。つか、なんじゃその決着はw

 などと、行き過ぎヤンキー漫画に始まり、勘違い東洋趣味・カンフー映画・落ちぶれ探偵者・悪趣味ホラー・秘密組織と陰謀論・トールキン風ファンタジイ・因縁の対決など、「混ぜるな危険」な素材をコッテリとブチ込み、南アフリカの伝説をふりかけ、厨二な妄想で仕上げた、能天気冒険アクションSFだ。

 あくまでもお馬鹿な話なので、真面目に突っ込まないように。もっとも、突っ込みながら読むのも面白いだろう。疲れるけどw

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