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2017年4月11日 (火)

アレックス・ヘイリー「プレイボーイ・インタビューズ」中央アート出版社 マレー・フィッシャー編 住友進訳 2

ヘイリー:弁護士に医学の心得は不可欠なものなのですか?
ベリー:絶対に必要です。
  ――メルヴィン・ベリー

 アレックス・ヘイリー「プレイボーイ・インタビューズ」中央アート出版社 マレー・フィッシャー編 住友進訳 1 から続く。

【メルヴィン・ベリー】

 個人傷害保険や医療事故などの訴訟で保険会社などから恐れられ、マスコミからも注目を集めた弁護士。ケネディ暗殺犯オズワルドを殺したジャック・ルビーの弁護が有名。有罪判決が気に入らなかったためか、散々にダラスを貶している。保守的なテキサスの中でも更に酷い、と。

 生い立ちを語る所で、若い頃に政府調査官の職に就いた話が凄い。なんと浮浪者と共に暮らし、彼らが勘新を持っていること、望んでいることを調べるのだ。目的は浮浪者救済策を手引を作ること。アメリカって国は、そこまでやるんだなあ。

【ジョージ・リンカーン・ロックウェル】

 ある意味、この本で最もエキサイティングなインタビュー。なんたってアメリカ・ナチ党総統だ。

 こんな、平然と人種差別やユダヤ人弾圧を主張する奴のインタビューを取り付けたってだけでも凄いのに、黒人でありながら一人で本部に向かい、あけすけな本音を語らせてるのも凄い。

 いきなり「ニガーは野生動物なんだ」とカマし、その後も平然とニガーを連発し、ユダヤ人への憎しみも隠さない。白人の優越性やユダヤ陰謀論を滔々と語り、その根拠をあげ、「証拠を送ってあげよう」といっているが、それに対し編集部がいちいち「証拠は届いていない」と註をつけてるのが笑える。

 遺伝学の優性・劣性を勘違いしてるのもお約束通り。浅沼稲次郎暗殺事件も、自分の部下がやったとか、もう無茶苦茶だ。これが単に口だけならともかく…

 ホロコースト生存者を乗せた船がイスラエルを目指す映画「栄光への脱出」上映を邪魔するため、上映を待つ群衆の真ん中に突っ込んだロックウェル一党、おもむろにコートを脱ぐと、その中は「ナチスの制服姿」。それでユダヤ人が怒ったのを見て、「ユダヤ人も愚かな振る舞いをする」。

 ナチスによるホロコーストはなかったと主張するロックウェルだが、彼が実行しようと望む政策は…。論理的な思考ができない典型的なトンデモさんなんだが、それなりに支持者がいて組織が運営できてるってのも信じられない現実。

 ところでアレックス・ヘイリー、100ドルは受けとれたんだろうか?

【サミー・デイヴィスJr.】

 前のロックウェルの正反対みたいな人で、この本に登場する中では最もカッコいい。

 サミー・デイヴィス・Jr、オジサン・オバサンには有名なエンタテナー。どこがカッコいいって、自分の欠点を隠さず、かといって僻みも開き直りもせず、素直に認めちゃってるのがカッコいい。

 『人から認められたいという熱望』がある、なんて問いに対し、アッサリと「おそらくその通りだと思うよ」と認め、観衆を楽しませる、いや熱狂させるため常に考えていると続ける。学校に行けず読み書きできなかったと認め、綴りを間違っちゃ恥ずかしい思いをしてると語る。

 ここまで率直に、怒りも恥ずかしがりもせず自らをさらけ出せる素直さが、やたらカッコいい。そんな彼が軍に入って本を読み始めたきっかけを語る所は、本好きなら感涙物のエピソード。売れ始めて散財し、借金が嵩んだ事についても…

「俺はそんなヘマなんて一度もしたことがない」と思うより、「そんなヘマもしたな」と思ってた方がずっといい。

 と、力まず受け入れてる。たぶん、気持ちが若くて、自分はもっと成長できると信じてるんだろうなあ。

 そんな彼の売れない頃のドサ周りの話はやたら悲惨だし、黒人だからと差別されたエピソードも多い。従軍した時は二度も鼻を折られてるし。にも関わらず、ここまでまっすぐな気持ちを持ち続けられるのは、なぜなんだろう?

黒人が実力によって判断される権利を獲得したということは、エンターテイナーとして、スターダムに登る権利だけでなく、“並み、及第、まあまあ、ぱっとしない”という評価を得る権利も獲得したってことだ。

 なんて言ってるように、実力を正当に評価されやすい芸能界で成功してるからなんだろうか?なんにせよ、とにかくカッコいい人なのだ。

【ジョニー・カーソン】

 TV番組「トゥナイト・ショー」の司会で有名な人。日本だとタモリのポジションかな?

 ジョークには型があって、使いまわしが効くってのは知らなかったなあ。大学で喜劇の論文を書いたってのも驚き。曰く…

当時演じられていた最高のコメディーを分析し、急所となる文句、オチの工夫、連発ギャグを構成する所作と台詞のテンポや演出の一連の流れなどを説明するため…

 と、コメディを分析して論文にしてる。アメリカじゃお笑いも真面目な研究の対象になるのか。お話を自動生成する人工知能なんて研究もあって、でも喜劇は難しいだろう、とか思ってたけど、案外とギャグににもパターンはあるのかも。

【ジム・ブラウン】

 アメリカン・フットボールの花形プレイヤーから俳優に転身し、活発な社会運動も始めた人。

 アメフト時代の話は、プロ・スポーツ界の物騒さがヒタヒタと伝わってくる。もともと球技だか格闘技だかわからん競技だけに、審判の目が届かない所じゃ大変な事が起きてるのがわかる。

 とはいえ、彼もモハメド・アリ同様に頭のいい人で、プレイ前には集中して戦略を練っているとか。そのせいで「周囲にとけこまない」と噂されちゃうんだけど。身体能力があれば一流のプレイヤーになれるが、超一流になるには賢くないといけないようだ。

 幼い頃は不良のボスとしてブイブイいわしてた人に相応しく、彼の社会運動の手段もユニークなもの。曰く…

暴動が起きないようにしたいなら、通りにいるチンピラであれ何であれ、暴動を起こす人間を牛耳っていられる人物が、プログラムを実施する資格がある人間だ。

 と、その地域のボスを味方につけろ、と説く。一見無茶なようだけど、占領軍が住民を掌握する際に使う手口も同じですね。そう考えると、当時のアメリカは内戦状態だったって事にもなるけど。問題は、どうやってボスを味方にするかって事だけど、そこは「もの凄い忍耐のいる仕事だ」と認めてる。

 結局のところは経済力だよね、としつつ、「ストリートを捨てて、教室、大学、図書館に入れ」と、その手法は王道そのもの。スポーツ選手が社会問題に携わる理由についても、実に説得力のある説明をしてくれる。酷い差別がある反面、こういう人が活発に活動できるのも、アメリカなんだよなあ。

【「ルーツ:血の交わり」】

 小説「ルーツ」の抜粋。語り手がクンタ・キンテからキッジーに交代する場面。

【アレックス・ヘイリー】

家族のひとりが社会で成功すると、まず自分の母国――それにその伝統や文化――を忘れ、新しい母国に自分を適合させていこうとするものなんだ。

 これはアレックス・ヘイリーが逆にインタビューを受ける側に回った記事。「ルーツ」創作にまつわる話が中心。作家が小説を書き上げるために、どれだけの事をやっているのか、その凄まじい手間と努力が恐ろしくなる記事。なんたって12年もかかってるし。

 加えて、締め切りを伸ばす秘技もありますぜw

【有名にならなければよかったと思う日もある】

 アレックス・ヘイリーによるエッセイ。有名になるとはどういう事かを、ユーモラスに語る。やたら親戚や友人が増えるのは想像通り。忙しさも相当なもので、肝心の「ルーツ」のドラマを見る暇すらなかったりするw

【クインシー・ジョーンズ】

ポップスの世界に入る決心もした。素晴らしい批評は書いてもらえても、レコードを買ってくれる人がいないジャズのプロデュースをするのは飽き飽きしていたからね。

 マイケル・ジャクソンの「スリラー」のプロデュースなどで知られる、大物ミュージシャン。日本ツアーの途中で倒れたエピソードは、読んでるこっちの背筋が寒くなる。無茶しやがって。「ウィー・アー・ザ・ワールド」製作秘話もチラリ。

【「回想のマルコムX」】

マルコムX「殉教者になる時が来た。だが、自分が死んだとしても、それは同胞たちのためなのだ」

 アレックス・ヘイリーによる、マルコムX追悼文にして、アレックス・ヘイリーが最後に発表した文章。当初、警戒感バリバリのマルコムXの心を、どうやって開いたのか。ジャーナリストとしいてのアレックス・ヘイリーの力量をうかがわせる文章。

【終わりに】

 激動の60年代に書かれたものが多く、また大半のインタビューで人種問題を扱っており、かなり政治的かつ刺激的な本だ。市民運動が活発なアメリカだけあって、運動のコツも少しだけわかる。机に向かって文書を書いてるだけじゃダメで、やっぱり街に出て体を動かし人に会うのが王道なんだろうなあ。

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