アンドルー・ファインスタイン「武器ビジネス マネーと戦争の[最前線]」原書房 村上和久訳 1
武器取引は全世界の取引の腐敗行為の40%以上をしめている。
――序文ふたりきりになるとすぐに(ラッセル・ロング)上院議員はいった。「私の票がほしいんだね?」バンダル(・ビン・スルタン王子)は「ええ」と応じた。「それには1000万かかるよ」とロングはいって、バンダルの肩に腕をまわし、椅子に座らせた。
――3 サウジ・コネクションウクライナの軍事資源は1992年には890億ドルの価値があったが、それから六年のあいだに、320億ドル分の武器や装備、軍事資産が盗まれ、その大半が転売されたのである。
――6 ダイヤモンドと武器「[南アフリカで]おかしくなっていることの大半は、武器取引に端を発している」
――9 なにもかもばらばらに <BAE>の力で
【どんな本?】
銃弾は撃てば減る。銃も消耗品だ。撃つたび銃身はすり減る。戦いを続けるには、武器と弾薬の補給が欠かせない。そのため、重大な紛争には、国連が武器禁輸措置をとる。それでも、世界に紛争や内戦は尽きず、始まった戦いはなかなか終わらない。
アフガニスタン、旧ユーゴスラビア、そしてリベリアとシエラレオネなどの内戦で、各勢力は、誰からどのように武器や弾薬を手に入れ、禁輸措置をかいくぐって運び入れるのか。その代価はどうやってひねり出し、どのように支払うのか。
オイルマネーで潤うアラビア半島の大国サウジアラビアは、近年急激に軍事予算を増し、湾岸の軍事大国として台頭してきた。その陰には、支配者として君臨するサウド家と、綿密な関係を築き上げた武器メーカー、そして英米両国の隠された関係がある。
世界を飛び回り暗躍する武器商人、彼らと結託し国を食い物にする権力者たち、国家を巻き込んで取り引きに熱中する武器メーカー、彼らの隠された関係を暴こうと奮闘する捜査関係者やジャーナリストたち。
南アフリカの下院議員を務め、武器取引の収賄事件調査の中止に抗議して辞職した著者が、BAEとサウジアラビアによる<アル・ヤママ>事件を中心としつつ、世界各国で活躍する武器商人たちの姿を生々しく描き、また武器取引が国家に与える影響に警鐘を鳴らす、迫真のルポルタージュ。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
原書は The Shadow World : Inside the Global Arms Trade, by Andrew Feinstein, 2012。日本語版は2015年6月30日第1刷。単行本ハードカバーで上下巻、縦一段組みで本文約360頁+421頁=781頁に加え、訳者あとがき9頁。9ポイント43字×19行×(360頁+421頁)=約638,077字、400字詰め原稿用紙で約1,596枚。文庫本なら上中下の三巻でもいい大容量。
文章はイマイチこなれていない。が、訳者の仕事は極めて誠実で、著者があやふやに書いた兵器の名前を正確に補ったり、登場人物の最近の動向を補足したりと、正確さと新鮮さには細心の注意を払っている。
内容は素人でもじっくり読めばついていける反面、かなり歯ごたえがあり、相応の覚悟が必要だ。
世界中の国名や武器名が次々と出てくる。読みながらの泥縄式で構わないので、Wikipedia や Google Map などで調べながら読もう。登場人物もとても多く、何度も前の頁を読み返す必要がある。また取引の実態は幾つものトンネル会社を通すなどややこしい。
ただし、グリペン信者には不愉快な記述が多いので、そのつもりで。
【構成は?】
上巻と下巻は比較的に独立しているが、できれば頭から素直に読もう。また人名・地名・兵器名などが次々と出てくるので、できれば索引をつけて欲しかった。
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【感想は?】
今の所は上巻しか読み終えていないので、その感想を。
上巻が描くのは、大きく分けて二つだ。一つは、ユーゴ内戦やリベリア内戦などで暗躍した、大小の武器商人たち。もう一つは、イギリスとサウジアラビアの武器取引スキャンダル<アル・ヤママ収賄事件>。
同じテーマとはいえ、一方は怪しげな民間の武器商人で、もう一方は国家ぐるみの問題だ。スケールが大きく異なるが、両者は上巻の終盤になって鮮やかに合流してゆく。
武器商人のパートは、同業者同士や軍と政界の複雑なネットワークを通し、互いに持ちつもたれつの関係を築き上げている様子を描く。最初に出てくるのは、元ナチ高官による<メレックス>。
彼らの人格はともかく、ビジネスマンとしての能力は素晴らしい。多国語を操る頭脳、自ら危険地帯に飛び込む度胸、商機を見つける目ざとさ、在庫や輸送経路の幅広い知識、世界中を飛び回るフットワーク、各地に根を張るネットワーク、残酷な独裁者と取引するタフさ。
国際商社なら是非とも欲しがる人材だろうが、人に使われて満足するような輩じゃないだろうなあ。仕事の好みもあって、小さい取引を積み重ねるのではなく、時間をかけて大きなビジネスを狙う山師タイプ。
国連は紛争地域の武器取引を禁じる。それで国家間の取引は制限できても、民間の商人にまでは手が回らない。その具体例として、上巻ではリベリアに君臨したチャールズ・テイラー(→Wikipedia)にスポットをあてる。
ここで描かれるリベリア内戦に至る経緯だけでも、ニワカ軍ヲタの私には涎が止まらない内容で、シエラレオネはもちろんリビアのカダフィ・ロシアとウクライナ・イスラエルの退役軍人そしてアル・カーイダまで、怪しげな固有名詞のオンパレードだ。もちろん、ブラッド・ダイヤモンドも。
ここに登場する武器商人ヴィクトー・バウトが典型的で。ロシア軍高官が「余剰の」軍用機をスクラップとして叩き売り、代金を懐に入れる。この機を買って手を広げ、1992年にはアフガニスタンの北部同盟にロシア製武器を売る。
ところが1995年に輸送機がタリバンに落とされ、乗員が人質になる。この交渉でタリバンとコネができ…
それから数年間、彼はアラブ首長国連邦のシャルジャにある基地からタリバンに莫大な量の武器を送とどけ、推定5000万ドルもの利益をあげた。
このタフさ、ピンチをチャンスに変える卓越したビジネス能力、そして北部同盟とタリバンの双方に武器を売るしたたかさ。人格は酷いが、商売人としてはとてつもなく優秀、なんでこんな優れた能力を持つ人が、危ない橋を渡る武器商人なんかやってるんだか。
ここじゃリベリアとシエラレオネ内戦の血も凍る酷さに加え、ソ連崩壊時のロシアの腐敗状況も出てくる。「1990年代前半には、ロシアからの石油の全輸出量の67%が組織犯罪に支配されていた」というから凄まじい。そりゃロシア人がいつまでたっても貧乏なわけだ。
上巻のもう一つのテーマ、<アル・ヤママ>事件は、イギリスがサウジアラビアに武器を売り、見返りに石油を受け取る取引を扱う。
これは日本にとっても他人事ではない。なにせ日本は石油の30%以上をサウジアラビアに頼っており、また近く武器輸出に乗り出す意向だ。おまけに、この事件にはサウジアラビアを支配するサウド家の体質が強く関係している。この事件のイギリス政府の立場は、近い将来の日本政府の立場そのものだ。
という事で、<アル・ヤママ>事件については次の記事で。
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