SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2016年版」早川書房
TVドラマ化が決まったキム・スタンリー・ロビンスン『ブルー・マーズ』なども準備中。
――このSFを読んでほしい! 東京創元社
信じるぞ、信じていいんだね?
今年もやってきました、「SFが読みたい!」の季節が。2015年のSF関係出版の状況をおさらいし、SF初心者は「どこから手をつければいいか」を知り、マニアを気取りたい人は見逃していた国内外の注目SF作品をチェックできる、手軽な最新SFガイドとなるムック。2016年2月15日初版発行、ソフトカバー192頁。
やはり目玉は「ベストSF2015 国内篇・海外篇」。
国内篇だと、情けない事に私は今回のトップ3を全部読んでない。いやSFマガジン連載で読んでたのはあるけど。つか円城塔、ベスト10に2作もランクインって、暴れてるなあ。藤井太洋もベスト20に2作入ってる。円城塔が数学・哲学・芥川賞なのに対し、藤井太洋は工学・会計学・直木賞なんだよなあ。いやまだ直木賞は取ってないけど。
ザッと見ると、ベテラン・中堅そして若手&新人が満遍なくランクインしていて、書き手の層の厚さを感じるのが嬉しい。ハヤカワのSFコンテストや創元SF短編賞とかの新人賞が増えたのに加え、NOVAなどアンソロジーで積極的に若手を発掘しているのに加え、上田岳弘みたくSF以外のフィールドから乱入してくる人がいたり、盛り上がってきたなあ。
海外篇のトップは予想通り。読みやすいわ泣かせるわ驚かせるわと芸達者だしなあ。こっちは国書刊行会が荒らしまわってるのが凄い。お高いハードカバーな上にマニアックなセレクションなんだけど、年齢的に趣味がコアで懐に余裕のある人が多いのか。
「ヤングアダルトSF繚乱の時代に 中の人、緊急対談!」は、早川書房の某氏と東京創元社の某氏+αによる、最近の海外の青少年向け作品の出版・翻訳状況のお話。「日本には一対一で対応する市場がない」ってのが、ちょっと気になる所。いわゆるライトノベルとは少し違うようで。これについて、
ティーンエイジャーが主人公になるけど、若い世代を描くには文化的背景が欠かせない。端的に言って、ブロムは日本と縁遠いわけですから。
と、国による読者の生活環境や感覚の違いが、輸出入の難しさを作り出しているようで。音楽だとアイドル歌謡みたいな市場なのかな? AKB48やSMAPとかは海外進出が難しそうだし、逆にテイラー・スウィフトとかは日本じゃピンとこないっぽいし。けど「最初から異世界が舞台の作品だと、そこのねじれは緩和され」るのがSFのいい所だ、えっへん!
「新訳&改訳版で、あの名作をもういちど」。かの問題作「宇宙の戦士」が内田昌之で蘇るのは嬉しいが、矢野節も捨てがたいんだよなあ。暴力の是非ばかりが注目される作品だけど、組織の中の能力と責任と役割りとか、別の意味で刺激的で生臭いネタを扱ってるって意味でも、かなりの問題作。
あとシマックの「中継ステーション」も読み逃してたんで、是非読んでおきたい。シマックの「都市」はナメてたけど、とんでもない傑作でガツンとやられたんだよなあ。
「世代別SF作家ガイド111」。まず磯部剛喜による田中芳樹の紹介がちょっと笑える。「銀英伝なんて語りつくされてるじゃん、今さら何を語れってんだよ」的な開き直りなんだろうか。ちょっとネットで漁れば絶賛の声は尽きないし、でもそれコピーしたらモノ書きとしての沽券に関わるし、みたいな苦悩の表れかしらん。
あと、つかいまこと「世界の涯ての夏」の終盤への評価が「ほえ~」と思った所。正体不明って点じゃ<涯て>は<ジャム>みたいなモンだよなあ。なら、終盤だけを舞台に絶望的な戦いを挑む人類の姿を描いたら、それなりにエンタテイメントになるかも。
紹介する作家の数が111と奇数で、1頁2作家のレイアウトのため、最後のコマが空白となってるけど、これは「最後のコマは読者がお好きな著者を紹介して埋めてね」的な編集部から読者への挑戦状なのかな?えっと、8ポイント26字×20行=520字。さて、誰を紹介しよう?
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