キース・ジェフリー「MI6秘録 イギリス秘密情報部1909-1949 上・下」筑摩書房 高山祥子訳 1
本書は、イギリス秘密情報部(SIS)の歴史において画期的なものである。
前長官ジョン・スカーレットの主導で、SISは設立100周年記念に先がけて、みずからの創設から40年間の歴史に関する、信頼に足る独自の歴史書の執筆を依頼することを決めた。
――序文
【どんな本?】
007ジェームズ・ボンドなどで有名なイギリスの秘密情報機関MI6、またはSIS(Secret Intelligence Service)。この本は、そのSISが自ら1909年から1949年までの歴史を公開した、画期的な本である。
著者のキース・ジェフリーはイギリスとアイルランドの近現代史を専門とする歴史家であり、クイーンズ大学ベルファウスト校の英国史教授を務める。国益上の観点から1949年以降の事柄は伏せられるが、それ以前に関してはジェフリー教授は公文書館の自由な利用が許可され、他省庁が管理する非公開の関連書類も参照できた。
SISは何のために設立されたのか。どんな国で、どんな者が、どんな任務についたのか。第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけ、複雑に絡み合う各国の思惑や外交関係の中で、それぞれの国とどんな関係を築き、どう出し抜き、または出し抜かれたのか。そしてイギリス国内の陸海軍や外務省,MI5とは、どんな関係だったのか。
秘密情報機関が自ら語る、その活動と奮闘の歴史。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
原書は MI6 : The History of the Secret Intelligence Service 1909-1949, by Keith Jeffery, 2010。日本語版は2013年3月20日初版第一刷発行。単行本ソフトカバー上下巻で縦一段組み、本文約478頁+468頁=約946頁に加え、防衛省防衛研究所戦史研究センター主任研究員の小谷賢による解説6頁。9ポイント43字×20行×(478頁+468頁)=約813,560字、400字詰め原稿用紙で約2034枚。文庫本の長編小説なら四巻でもいいぐらいの大容量。
文章は落ち着いた雰囲気で、いかにも歴史家の書いた文章だ。なにせスパイと外交が絡む本なので、ややこしい状況が多い上に、一つの文章に沢山の人物が出てくるため、注意してじっくり読む必要がある。
扱うのは、だいたい第一次世界大戦~第二次世界大戦あたりだ。本書中でも大まかに時代背景を説明しているので、素人でもだいたい判るが、はやり20世紀前半の世界史に詳しい人ほど楽しめるだろう。
なお、文中には予算なども出てくる。2015年10月現在のレートは1ポンド=約185円。
【構成は?】
全般的に時系列順に進むので、素直に頭から読もう。
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【感想は?】
日本語の書名の「秘録」は正確じゃない。この本は、MI6が自ら明かす、正式なMI6の歴史だ。
上巻は設立から第一次世界大戦、戦後の軍備縮小の困窮期、そして第二次世界大戦前のナチス・ドイツの拡張までを扱う。下巻は第二次時世界大戦から、戦後初期までだ。1949年で終わっているのは寂しいが、第二次世界大戦をフルに扱っているのは嬉しい。
詳細な感想は、次の記事で。
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