榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 未来へ 4」電撃文庫
いかん、いかん……! 深刻な顔をしているソックスハンターなど、人間失格タイ。む、ハンターの本能も衰えてきとる。
【どんな本?】
2000年9月28日に発売された SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。プラットフォームの限界を超えた野心的なシステムの開発は予算を食いつぶし、宣伝費ゼロというゲームソフトにあるまじき状況での登場となった。
だがその練りこまれた設定と絶妙のゲーム・バランス、奥行きのある世界観と個性的なキャラクター、そしてプレイヤーのスタイルによって千変万化するゲーム・システムは一部の者を強力に惹きつけ、第32回(2001年)には星雲賞メディア部門を受賞する。
その後もファンの熱は覚めやらず、中古市場でも新品とほとんど変わらぬ価格を維持し続けた。2010年にはPSP用のアーカイブで復活し、2015年9月の今でもニコニコ動画にはゲームの実況動画が次々と登録され続けている。
榊涼介の小説は、そのノベライズとして2001年12月15日発売の短編集「5121小隊の日常」から始まる。
ゲームの主要登場人物である5121小隊の面々を主体とした青春群像劇であり、少年たちの成長物語であり、また少年兵の戦場生活を描いた作品として始まったシリーズは2004年10月25日発行の「九州撤退戦」までゲームと同じ物語を綴り、「山口防衛戦」より榊オリジナルのストーリーで再開、今日まで続く。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2015年9月10日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約274頁に加え、著者あとがき2頁+きむらじゅんこのあとがき?1頁。8ポイント43字×18行×274頁=約212,076字、400字詰め原稿用紙で約531枚。文庫本としては標準的な分量。
文章はあまりライトノベル的なクセもなく、読みやすい。内要は素直に前巻の「未来へ 3」から続く。今回は阿蘇周辺から熊本・大分・宮崎の県境を中心に物語が進むので、そのあたりの地図があると、より楽しめる。
長いシリーズでもあり、設定は壮大で、登場人物も多い。この巻から読み始めるのは厳しいだろう。理想を言えばシリーズ開幕編の「5121小隊の日常」か、時系列で最初になる「episode ONE」から読み始めるのがいい。気の短い人は、「未来へ 1」の冒頭に世界設定と物語の概略が載っているので、そこから読み始めてもいいだろう。
【どんな話?】
1945年、第二次世界大戦は意外な形で終結する。月と地球の間、24万kmの距離に出現した黒い月、そして人類を狩る幻獣の登場である。圧倒的な数を誇る幻獣はユーラシア大陸を席巻、人類は南北アメリカ大陸とアフリカ南部、そして日本に追いつめられた。
1998年、幻獣が大挙して九州西部に上陸。自衛軍はからくも撃退したものの、戦力の大半を失う。1999年、日本政府は二つの法案を可決する。幻獣の本州上陸を阻止するための熊本要塞の戦力増強、そして14歳から17歳までの少年兵の強制召集である。少年兵で時間を稼ぎ、その間に自衛軍を再編する予定だった。
1999年3月、海軍陸戦隊中尉の善行忠孝を中心として5121独立駆逐戦車小隊が発足。他部隊の持て余し者や新兵を集め、その能力が疑問視されていた二足歩行の人型戦車・士魂号を主力とする部隊である。捨て駒と思われていた5121小隊は戦闘を重ねるごとに成長し、やがて他部隊からも頼りにされる部隊へと変身を遂げてゆく。
だが圧倒的な数の幻獣に軍は抗しきえず、逃げるように九州から撤退する。しんかりを務めた5121小隊は多数の学兵を救うものの、取り残された兵も多かった。続く本州上陸の阻止・九州奪還・東北防衛そして北海道と5121小隊は転戦を続けた後、北米に渡りボストン・ロサンゼルスでも活躍すると共に、政治的な嵐も巻き起こしてしまう。
日本に帰国した5121小隊は、懲罰として熊本に派遣された。先の戦いで亡くなった将兵の遺骨を収集せよ、と。懐かしい熊本に戻った5121小隊は任務に励むが、奇妙な事実に気づく。無人のはずの熊本に、幾つもの人影があるのだ。偵察と捜索により明らかになった事実は、意外なものだった。
複数の集団が、隠れるように熊本で暮している。
【感想は?】
2015年4月10日刊行の予定が何度か延び、ファンをやきもきさせた第4巻が、遂に発売となった。
発売延期で嫌な予感がしたものの、帯の表には「小説シリーズ完結」とある。今までのお話の展開から考えて「こりゃホライゾンを越えるサイコロ本になるか」と期待したが、書店で本を見ると標準サイズ。どうななっとんじゃ、と思ったら帯の裏にはこうあった。
「あと少しだけでも、何とかしたかった……!」
実際、そんな感じで終わってしまった。数度の発売延期や著者のあとがきから考えて、オトナの事情があるらしい。ゲームも権利関係でリメイクできないし、どうにもガンパレというのはファンに愛されるものの、ビジネス面では呪われたコンテンツらしい。なんでこんなモンに惚れこんじゃったんだろうなあ。
さて、お話は、最終巻に相応しくオールスター・キャストで展開する。
中でも私が喜んだのは、イエロー・ヘルメットでデンジャー・ゾーンを踏破する、熱血お騒がせ突撃レポーターの桜沢レイちゃん。登場時こそ東京でクダまいていたものの、ネタのにおいを嗅ぎつけたら最後、あらゆる障壁を潜り抜け現場へと向かう特攻精神は映像ジャーナリストの鑑。
当然ながら、この巻でもユニフォームのミニスカ・スーツを身に纏い、分厚い壁へと食って掛かって行く。彼女を主役に新シリーズを書いてくれないかなあ。せめて短編集だけでも。ミニスカスーツのナイスバディ、ワンポイントはイエローヘルメットの突撃レポーター、絵的にも映えるし正確も強烈、ライトノベル市場で充分にイケるネタだと思うけど、どうかな?
もちろん、レイちゃんが出るとなれば、そのオマケにも出番は回ってきて。にしても、お邪魔虫は酷いw
やはり笑っちゃったのが、山口防衛戦でも活躍したお馬鹿化け物兵器。やはり一つの能力だけに賭け、バランスを一切考えずに突き抜けたシロモノというのは損得抜きで熱狂的なファンがつくもので。にしても海峡を越えられるんだろうかw
懐かしいキャラで最初に登場する、あの目つきの悪い支配人は、なんとイラストつき。いやイラストの主役は違うんだけど。つか、あんな目つきで「いらっしゃいませ」とか言われてもなあ。タチ悪い客のクレーム対応なら巧く捌けるかもしれんが、あまり表には出ない方がいいと思う。でないと、経営母体を疑われるぞ。
今回は戦闘がエキサイトしてゆくために、 自衛軍も次々と懐かしい面々が登場してくる。九州奪還ではええトコなしだった閣下も、この巻では軍人としての貫禄たっぷりな役どころ。彼と高山の会話はいかにもありそうなだけに、政治制度の是非まで考え込みたくなる。
一般に組織では現場を離れ指揮系統の上位に行くほど危機への認識が甘くなる傾向がある。多くの国家じゃ軍は政府の指揮下に置かれるため、戦場の経験がない政治家が軍事戦略に口を出してくる。だからと言って、軍人が政治を牛耳ると、軍事独裁に陥って窮屈な世の中になってしまう。
この辺のバランスの取り方を考えたお話の代表がR・A・ハインラインの「宇宙の戦士」で…って、関係ないか。
もう一人の閣下も相変わらずの派手好きなキャラクターは変わらず、ちょっと安心しちゃったり。なんとか組織の力で椅子に縛り付けてはいるものの、事あるごとに外の空気を吸いたがる癖は治らぬ模様。いい加減、自衛軍も愛機を取り上げちゃえばいいのにw
レギュラー陣では、対人戦闘とあって、若宮と来須が大活躍を続ける。意外?な事に、イワッチの出番も結構あったり。しかし隅っこで何やってるのかと思ったら。
など、続々と人物が集結し、世界の謎が明かされ、決戦の準備が整った…と思ったら。これでは星雲賞の候補に挙げられないじゃないか。ちなみにワシントンの事情は「5121小隊帰還」の297頁で変わる事が予告されてます。ある意味、人類の尊厳に関わる情勢になるわけで、果たしてそんな世界がいいのかどうかw
長く続いたシリーズだけに、名残惜しすぎる。なんとかスピンオフの短編集で繋ぎ、シリーズを続けて欲しいところ。
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コメント
ゲームのガンパレにハマった頃は、人のプレイ日記を貪り読んでました。
突撃仕様で一網打尽・92mmで狙撃・二刀流で突進・蹴りとパンチで肉弾戦など、
人により戦術が様々で、真似して試してると何周してもキリがないゲームでした。
なんとか小説も続いて欲しいですね。電撃ゲーム文庫ってレーベルがどうなるかに注目してます。
投稿: ちくわぶ | 2015年9月20日 (日) 23時15分
15年前に出会ったゲーム、今まで多くの名作・大作ゲームをやってきたけど、思い出しては時たま棚から引っ張り出し、スカウトになって40mmボフォースぶっぱなして遊んでいるのはガンパレだけ。
思い返せば榊ガンパレも15年続いたんだなって・・・九州撤退戦なんて何度も読み返してるからこの話の小説だけは際立って小口が黒ずんでる(*^m^)
夢物語を提供し続けてくれた榊ガンパレの終わりがまさかこんなのって・・・
ファンブック、最悪同人誌みたいな形でもいいから完結させてほしいなあ(;ω;)
投稿: 紺青 | 2015年9月20日 (日) 09時37分