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2015年6月18日 (木)

ノーマン・デイヴィス「アイルズ 西の島の歴史」共同通信社 別宮貞徳訳 1

国制史に興味をもつのはごくわずかの人だが、ロビン・フッドはみんなのものだ。
  ――海外領土の島

歴史の物語は政治の強力な武器となるのである。
  ――第8章 二つの島、三つの王国

【どんな本?】

 イギリス。正式名称は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」。「英語」は「イングリッシュ」だが、ビートルズは「ブリティッシュ・ロック」だ。サッカーの国際試合では、イギリスだけイングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランド(そしてアイルランド共和国)と代表が多い。エリザベス女王はカナダとオーストラリアの国王でもある。憲法はないのに、立憲君主制と言われる。

 今調べて知ったんだが、ラグビーはアイルランド共和国と北アイルランドは一つの合同チームを作っている(→Wikipedia)。

 なぜこんなややこしい事になったのか。そもそも「イギリス」とは何か。どのように成立し、どんな歴史を辿り、現在に至ったのか。ロンドン大学で史学部教授を務めた著者が、独特の視点で綴ったイギリス史とアイルランド史の大著。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は THE ISLES : A HISTORY, by Norman Davies, 1999, 2000。日本語版は2006年12月5日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約1,278頁に加え訳者あとがき5頁。9ポイント50字×20行×1,278頁=約1,278,000字、400字詰め原稿用紙で約3,195枚。文庫本の長編小説なら6冊分の巨大容量。

 日本語の文章は比較的にこなれている。内要は少し敷居が高い。というのも、ある程度の前提知識が要るからだ。恐らくイギリスの一般人を読者に想定した本らしく、日本の義務教育が教える日本史と同じ程度のイギリス史・欧州史の知識があった方がいい。

 それ以上に難関なのが、大きさと重さ。通勤電車内で読むと、いい筋力トレーニングになるだろう。

【構成は?】

 歴史の本らしく基本的に時系列順で進むので、素直に頭から読もう。

  •  謝辞
  • はじめに:トレヴェリアンとテイラー/退歩する歴史教育/名称と名義/図書館の分類/広がる混乱/五つの目標/本書の構成
  • 第1章 真夜中の島
    • 太古の時代:峡谷穴居人/出身はヨーロッパ大陸
    • 石器時代から鉄器時代まで:「島」の形成/新石器革命/巨石記念物/ビーカー族とフランジ斧戦士団/長い移行期/「グリーン島」の遺跡/神話と伝説
    • ■考古学と政治
  • 第2章 彩られた島 紀元前600年-起元43年ごろ
    • ケルト人の登場:ゲール語の物語/ケルト世界の拡大
    • 大陸からの移住:Qケルト語とPケルト語/早期ケルト文化/カスワラウンとクノベリン/古代ケルト文明/エールの伝説群
    • ■ケルト研究の発展:神秘主義と文芸復興/文明以前への憧れ
  • 第3章 辺境の島 紀元43―410年ごろ
    • ローマ帝国時代の始まり:クラディウスの侵攻/ハドリアヌスの城壁
    • ローマン・ブリタニア:エールの上王/北部辺境地域/ピクト人の謎/民政地域 上ブリタニアと下ブリタニア/初期のキリスト教教会/帝国の分裂
    • ■古代ケルト人とローマ
  • 第4章 ゲルマンとケルトの島 410年ごろ―800年
    • 民族移動の時代:ヘンギストとホルサ/ローマ軍撤退後の状況
    • 政治的空白期:ゲルマン民族の定住/キリスト教の広がり/城壁の北では/ブリトン人の抵抗/ローマ伝道団/再ケルト化される西部
    • ■アングロ=サクソンとケルトの溝
  • 第5章 西方の島 795―1154年
    • ヴァイキングの時代:吟唱詩サガ/古代スカンディナヴィアの社会
    • 戦うノース人:ハーラル美髪王/ブライアン・ボルー/アルフレッド大王の活躍/デーンローの創設/マカルピン王朝/イングランド王国の誕生/「征服王」ギヨーム/スコットランドの状況/他の地域への影響
    • ■ノルマン征服の余波
  • 第6章 海外領土の島 1154―1326年
    • 十字軍の波紋:リスボン征服/アリエノール・ダキテーヌ/アンリ一世死後の混乱/ルイ七世の結婚/アンリ・フィッツエンプレス/ウィンチェスター条約
    • ブランタジネット朝:フランスとの結びつき/アイルランド征服/ワリア・プーラ/失地王ジョンとマグナ・カルタ/「議会」の発展/中休み アイルランドとウェールズ/エドゥアール一世の時代/ウィリアム・ウォレスと「ブルース」/エドゥアール二世の悲劇
    • ■イングランド中世国家の歴史像:国王大権と議会/ロビン・フッドとアイヴァンホー/カトリック共同体/スコットランドの誇り
  • 第7章 イングランド化される島 1326―1603年
    • 百年戦争:アミアンの臣従礼/スロイスの海賊/近代英語の登場
    • 1.有益な失敗:長期化する戦い/ジャンヌ・ダルク
    • 2.生え抜き王朝 ステュアートとテューダー:スコットランドの世襲執事/ウェールズのオウェン
    • 3.国会と議会:初期の議会/庶民院の台頭
    • 4.宗教改革 分裂と障壁:ヘンリー八世の野心/メルヴィル主義/孤立からの出発
    • 5.スペインの影 アルマダを撃退
    • 6.外洋 出遅れ:重商主義/探検航海の始まり
    • 7.領有地 イングランド帝国の出現:西部反乱の鎮圧/同君連合への道のり
    • 8.英語の広がり:チョーサーの『カンタベリー物語』/祈祷書反乱
    • ■イングランド神話の誕生:中世は暗黒時代だったのか/シェイクスピアの影響力/宗教的非寛容/プロテスタント側の反論/テューダー革命/スコットランド女王メアリー
  • 第8章 二つの島、三つの王国 1603―1707年
    • ジェイムズ一世の即位:カリスマ性に欠ける王/イングランドへの旅/火薬陰謀事件/挫折した連合計画
    • 1.宗教問題 抗争の源:反カトリック風潮/新イングランド体制の押し付け
    • 2.アルスター入植 「大飢饉」
    • 3.国王と議会の対立:王の特権とは/チャールズ一世
    • 4.三国王戦争(1639―51年):盟約者戦争とアイルランド紛争/大内乱の時代/王の処刑
    • 5.イングランド共和国と「イギリス共和国」:残部議会/護国卿クロムウェル
    • 6.王政復古:空位期間/チャールズ二世/教皇派の陰謀
    • 7.ジェイムズ七世兼二世の統治:「名誉革命」の実態/オランイェ公ウィレム
    • 8.連合:王位継承法/「連合法」の裁可
    • 9.連合から連合へ 1707―1801年:様変わりするアイルランド/1800年の「連合法」
    • ■17世紀のとらえ方:揺れるクロムウェル評価/マコーレーとスコット
  • 第9章 帝国の島 1707―1922年
    • スコットランド帝国の挫折:エルドラドを求めて/スコットランド会社/ニューカレドニアの悲劇
    • 連合王国の設立:安全保障法/議会での審議/イギリスの創出
    • 1.海軍 「ブリタニア、四海を制す」:ロイヤル・ネイヴィーの誕生/二百年にわたり無敵
    • 2.英国陸軍 「情けない豆軍隊」:常備軍の形成/将校と兵士の区別
    • 3.帝国 内部帝国と外部帝国:アメリカ独立戦争/日が沈むことのない帝国
    • 4.続くプロテスタントの優勢
    • 5.ウェストミンスター 「議会の母」:初代首相ウォルポール/腐敗選挙区/選挙法改正
    • 6.イギリスの貴族 世襲貴族と准男爵:『バーク貴族名鑑』/貴族の生活と活動
    • 7.君主 国民を元気づける異邦人:ジャコバイトの反乱/ハノーヴァー家
    • 8.王室費から公務員制へ
    • 9.世界の工場:「発明」と「離陸」/労働者階級の誕生
    • 10.スターリング圏 たぐいまれな安定性
    • 11.イギリスの人口学 誇張の羅列:マルサスの『人口論』/都市化と移民
    • 12.帝国英語の台頭:地名と姓の標準化/サミュエル・ジョンソンの『英語辞典』/初等教育とマスメディア
    • 13。イギリス人 「世界最高の人種」
    • 14.イギリス式スポーツ精神 「フェアに戦え!」:ゴルフ、クリケット、テニス/サッカーとラグビーの発展
    • 15.イギリスの法 独立した惑星:コモンローと衡平法/遅れた法制改革
    • 16.帝国の宇宙 度量衡の標準化
    • 17.「栄光ある責任」 大英帝国の精神:複雑な愛国心/帝国主義的エートス
    • 18.ヨーロッパとの関係 関与を避ける姿勢
    • ■近代の歴史学と文芸:ヒュームの『イングランド史』/ウォルター・スコットの世界/対照的なスコットランドとアイルランド/旅行と探検記/キプリングの予言/コンラッドの「海洋小説」/副次的な帝国主義文学/イギリス中心史観
  • 第10章 ポスト帝国の島 1900年ごろ以降
    • 帝国最後の栄光:ジョージ五世の戴冠式/祝祭の背後で
    • 1.海軍力 二次的軍事力に
    • 2.イギリス陸軍 栄光の思い出
    • 3.大英帝国 すべては過去のもの:アイルランドのイースター蜂起/雲散霧消する植民地
    • 4.プロテスタントの優位 「文化の表現」:変わる宗教地図/北アイルランドの状況
    • 5.さまざまな議会 大きな賭け
    • 6.世襲貴族 絶滅危惧種
    • 7.ウィンザー王家 前途多難:王室スキャンダルの続出/ダイアナの悲劇
    • 8.公務員 連続と不連続:福祉国家をめぐる争い/情報公開をめぐって
    • 9.イギリス経済 成功への道は一つにあらず:重工業の衰退と産業再編成/欧州共同市場への加盟
    • 10.ポンドからユーロへ 終わりのない物語:ブレトンウッズ会議/サッチャーのマネタリズム
    • 11.人口統計 谷と山:下がる出生率/いまや中くらいの国に
    • 12.言語と文化 求心的傾向:カウンターカルチャーの発達/アイルランド復興運動/スコットランド語の再創出/世界英語の出現
    • 13.多民族国家イギリス 新しいイギリスのありよう:外国人移民の流入/人種平等委員会
    • 14.イギリスのスポーツ 歴史的退歩:過剰な商業主義/世界ランキングから後退
    • 15.イギリスの主権 分割可能な実体:法制改革の変遷/大陸法との融合
    • 16.メートル法化 徐々に変わる知的世界
    • 17.ポスト帝国のエートス コミュニティ精神:廃れる愛国心と道徳/イギリスの消滅?
    • 18.イギリスとヨーロッパ 発展への選択肢:交通革命とグローバリゼーション/深まる大陸との関係
    • ■イギリスはどこに向かうか:アイデンティティの危機/歴史教育をめぐって/ポーコックの問い/イングランドらしさをめぐる論争/イギリスのジレンマ/現況に対する五つの提案/私自身の立場
  • 注/訳者あとがき/関連年表/索引

【感想は?】

 本書の特徴は、著者の独特の視点にある。ある意味、異端の史観によるイギリス史と言っていい。

 どう異端なのかは、次の記事で。

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