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2014年12月29日 (月)

SFマガジン2015年2月号

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  ――円城塔「エピローグ<9>」

 280頁の標準サイズ。今月は創刊55周年期年号。特集は PSYCHO-PASS サイコパス2」として、吉上亮の「PSYCHO-PASS GENESIS<予告編>」や第2期主要キャラクター紹介&全エピソード・ガイド。小説は三津田信三「影が来る」,円城塔「エピローグ<9>」,上遠野浩平「製造人間は頭が固い」、小田雅久仁「長城」中編,ケン・リュウ「どこかまったく別の場所でトナカイの大群が」古沢嘉通訳に加え、新連載が2本。冲方丁「マルドュック・アノニマス」と川端裕人「青い海の宇宙港」。

 吉上亮の「PSYCHO-PASS GENESIS<予告編>」。Wikipedia によると、第1期の舞台は2112年。この掌編の舞台は2080年~2093なので、第1期の30年前~20年前。主人公は、第1期で渋い元刑事として登場した征陸智己。若き刑事の彼が親父として慕っていた、古参刑事の八尋和爾との関係を描く。

 今回は5頁だけの掌編で、まさしく予告編といった感じ。若き征陸智己と、先輩の八尋和爾を通し、PSYCHO-PASSの世界の成立を描くらしい。<シビュラ>システムが、どうやって受け入れられていったのか。変形する銃ドミネーターが、どう導入されていったのか。征陸智己と八尋和爾の因縁は。などの謎を提示するだけの導入部で、掴みはバッチリって感じがする。

 三津田信三「影が来る」。円谷プロダクション×SFマガジンの第2弾。今回のテーマはウルトラQ。毎日新報の報道カメラマン江戸川由利子は、今日も忙しく駆け回っている。だが、ここ何日か、奇妙な事が起きている。社会部の記者の相馬や、デスクの関が、奇妙な事を言い出したのだ。どうも由利子の記憶と、彼らの言動が食い違っている。

 多くの仕事に追い回され、「忙しい」が口癖になっている人にとっては、少し羨ましい気もする現象の話。実際に自分がこんな目にあったら…いや私は怠け者だから、結局はたいした問題にならないような気も。こんな形で話が進むのも、仕事熱心な江戸川さんならでは。ウルトラQの怪しげな雰囲気が良く出た作品だと思う。

 円城塔「エピローグ<9>」。事態の原因と解決法に至った前のクラビト回を受け、今回は朝戸とアラクネの回。いよいよ時間も空間も因果も論理も言語も崩壊しつつある様子で、著者も思いっきり悪ふざけしまくっている。どういう形で入稿したのかが気になってしょうがないw

 上遠野浩平「製造人間は頭が固い」。オハラ夫妻は、深刻な様子で相談に来た。二人の子は生まれつき心臓が弱かった。そこで夫婦はあらゆる手段を尽くし、わが子の命を繋いできた。だが万策尽き、ここに来たのだ。だが、彼らの嘆願を聞いたウトセラは素っ気ない。

 冒頭から霧間誠一の著作の引用で始まるので、ファンなら「ビギーポップのシリーズね」と一発でわかる作品。短い作品ながら、ブギーポップ世界の仕組み(の一部)を分かったような気分にさせ、かつ「まだまだ沢山の謎が隠れていますよ」と感じさせ、つい他の作品にも出を出したい気分にさせるあたり、実に巧い。

 小田雅久仁「長城」中編。吉井康之は、時おり“叫び“を聞く。これは長城からの呼びかけだ。これに応じて出かけると、やがて奇妙な城壁にたどり着く。そして巨顔に飲み込まれるのだ。そこで吉井は他の者の人生を生きる…夷狄に出会うまで。夷狄は普通の人間の姿をしている。吉井は夷狄を殺し…

 なんとも奇想天外な舞台設定で始まった前編を受け、若き吉井康之を主人公に物語は進む。突然に呼び出され、記憶をすべて失って他人の人生を初めから生き、目的を果たしたら元の自分に戻る。人生を何度も繰り返せるわけで、それはそれで羨ましいような気もするが、目的を果たしたら全てがチャラになるわけで、どうなんだろう。うーん。

 ケン・リュウ「どこかまったく別の場 所でトナカイの大群が」古沢嘉通訳。あたしはレネ・タイ=O・<星>・<鯨>・フェイエット、六年生。今は親にもらった世界で暮してる。ここは四次元空間。パパは高次元環境に慣れていて、こっちに来るときは四次元空間に投影された形で出現する。

 人類が肉体を捨て、サーバースペースに移住した未来を舞台にした作品。今まで紹介されたケン・リュウの作品は、彼が持つ中国のルーツを感じさせるものが多かったが、これは全く違った舞台設定の作品。にも関わらず、読後感は相変わらずのケン・リュウ節。失われるものと、受け継がれてゆくもの。姿は変わっても、ヒトの本性は…

 冲方丁「マルドュック・アノニマス」。スラム専門の弁護士、サム・ローズウッドが、<イースターズ・オフィス>を訪れる。依頼は、証人の保護。だが、条件は最悪だ。証人は内部告発を目論んでいる。だが、誰に対するどんな告発なのか、何も話そうとしない。おまけに、敵に自分の存在を知られている。

 あの名作「マルドゥック・スクランブル」の続きとなるシリーズ。この作品では、序盤からウフコックは絶体絶命のピンチに投げ込まれる。あらゆる兵器に変身できる万能ネズミ、ウフコック。自らの能力を充分に自覚し、それ故に使用者にも厳しく接する。緊迫したアクション場面が楽しいシリーズだけあって、このシリーズも連載初回から激しいバトルが展開する。

 川端裕人「青い海の宇宙港」。六年生の天羽駆(あもうかける)は、宇宙遊学生として多根島へやってきた。ここで一年間を過ごすのだ。今までの学校は全校で千人近い生徒がいたが、ここには全校で30人ほど。ここは世界で一番宇宙に近い小学校だ。なんたって、ロケットの射点まで10kmぐらいしかない。

 「川の名前」では、小学生たちが「秘密」をめぐり「冒険」する話で、とても爽やかで楽しい作品だった。この作品も主人公は小学六年生。宇宙港というから、ロケットに憧れる少年かと思ったら、同じ理科系でも天羽駆は昆虫派らしい。ウミガメにワクワクするあたり、ちょっとあの頃の気持ちを思い出してしまった。

 長山靖生「SFのある文学誌」。「壮士の梅、立志の夢 明治二十年の若者は何を欲望していたのか」。引き続き、明治時代の議会開設を前に、大量に湧き出た政治小説をネタにしつつ、当事の「壮士」の背景を語ってゆく。「そもそも民権運動家の主張する政策のほとんどは、政府と基本的に同じ」であり、単に威勢がいいだけ、などのしょうもない実体を暴いてゆく。いわゆる床屋政談なわけで、それに勢いと行動力だけはある若者が熱中して…って、今のネトウヨと似たような…

 飯田一史「エンタメSF・ファンタジイの構造」。今回は丸山くがね「オーバーロード」をネタに、アクションやバトルの描き方を学ぶ。こう冷静に分析されると、アニメのテラフォーマーズが、いかに充分に計算して登場人物に能力を割り振っているか、改めて実感させられる。それとは別に、「小説家になろう」の方針も面白い。サイト自体は出版に関与せず、エンターブレイン/主婦の友社/メディアファクトリーなどに出版を任せている。まあ、出版には独自のルートとノウハウは必要だから、「餅は餅屋」と割り切っているのかな。

 ところで塩澤編集長のツイートによると、ゲリラ的な出版があるとか。どうなるのか楽しみにしてます。

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