榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 未来へ 2」電撃文庫
「むろん。じゃっどん、大量の肉、魚、野菜を貯蔵する業務用冷蔵庫とプロ仕様のキッチンも要求する。俺の当面の目標は、この地をグルメ天国にするこつバイ。ラーメン、蕎麦、うどん。麺類もメーカーを指定して、支給してもらう」
【どんな本?】
元は2000年9月28日に発売された SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。難航した開発が宣伝費を食いつぶしながらも、野心的なシステム・過酷な世界設定・魅力的なキャラクターなどが、熱心なファンを惹きつけてロングセラーとなり、第32回(2001年)には星雲賞メディア部門を受賞、2010年にはPSP用のアーカイブで復活した。
そのノベライズとして2001年12月15日発売の短編集「5121小隊の日常」から始まったのが、榊涼介の小説シリーズ。ゲームに沿ったストーリーは「九州撤退戦」で一段落し、その後「山口防衛戦」より榊氏がオリジナルのストーリーを発展させ、この巻へと続いている。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2014年11月8日初版発行。文庫本当て一段組みで本文約264頁。8ポイント42字×17行×264頁=約188,496字、400字詰め原稿用紙で約472枚。長編小説としては標準的な分量。
文章は読みやすい。内要は前巻の「未来へ 1」から続くお話。
この巻に限れば、お話は難しくないのだが、なにせ長く続いたシリーズだけに、登場人物も設定も膨大になっている。理想を言えば最初の短編集「5121小隊の日常」または時系列順に最初となる「episode ONE」から読んで欲しい。が、さすがにこの巻で42巻目なので、ゲッソリする人も多いだろう。その場合は、ちょうど前の「未来へ 1」から新しい舞台に移ったので、「未来へ 1」から読んでみよう。
【どんな話?】
1945年。月と地球の間に黒い月、地上にはヒトを狩る幻獣が現れ、第二次世界大戦は唐突に終わる。幻獣は圧倒的な数で人類を圧倒、1999年には南北アメリカ大陸・アフリカ南部そして日本列島に押し込められた。
1998年に幻獣は九州に上陸、自衛軍は戦力の8割を失いながら勝利を得た。1999年、日本政府は熊本要塞の増強と、14歳~17歳の少年兵の強制召集を決める。少年兵を盾に自衛軍を立て直す計画だった。持て余し者の学兵を集めた5121独立駆逐戦車小隊は、使いにくさで廃棄が決まっていた人型戦車の士魂号を使いこなし、大きな戦果を挙げる。
だが5月6日から始まった幻獣の大攻勢に自衛軍は壊走、九州を失う。5121小隊は撤退戦で殿を務め多くの兵を救うが、10万人ほど召集された学兵の半分以上が本州に戻れなかった。一度は山口から本州に攻め込まれた自衛軍だが、岩国要塞などで盛り返し、九州への逆上陸を果たす。
日本政府は、敵の内紛も利用し幻獣の一部と休戦を実現、青森・北海道も防衛に成功する。
北米にはワシントンとシアトル、二つの政府がにらみ合っていた。ワシントン政府の強引な招聘に応じた5121小隊は、幻獣に包囲されたレイクサイドヒルの市民を、ワシントン政府軍と協力して救い、市民の人気者となるが、同時に政界を揺るがす醜聞を明らかにしてしまう。
日本政府とは国交のないシアトルへも親善使節として立ち寄った5121小隊は、ここでも派手な戦闘を繰り広げた上に軍と政界に嵐を巻き起こし、帰国を命じられた。
デリケートな外交問題で騒ぎを起こした5121小隊は、日本政府の頭痛の種となったが、国民の人気はある。彼らに下された処分は、かつての戦場である熊本での遺骨収集だった。懐かしい熊本に帰ってはきたが、そこには共に戦った数万の学兵が白骨となって眠っていた。ばかりでなく、正体不明の生存者の影もあり…
【感想は?】
今までずっと読んできたファンにとっては、懐かしい場面を思い出させる描写がいっぱい。
なにせ熊本だ。久しぶりに帰ってきたゲームの舞台。だが、賑やかだった新市外も今は人通りが途絶え、夏草が生い茂る廃墟。もちろん、滝川や新井木が楽しみにしていた屋台も姿を消している。あの傑作「憧れの Panzer Lady」(「episode ONE」収録)を思わせる場面が、私にはひたすら嬉しかった。
季節は夏。蒸し暑い熊本で、夏草を刈りながら遺骨を収集し、身元を確認する毎日。今までの戦闘続きとは違い、規則正しい生活は送れるが、色濃い死の匂いは、若い彼らの気持ちを沈ませてゆく。
ってな中で、明るく気分を盛り上げるのは、なんと中村。ヨーコさん・祭ちゃん・新井木と共に5121スローフード連盟を立ちあげ、食生活の改善を画策する。ゲームでも炊き出しなんてイベントがあったんだよなあ。なぜかジャガイモだけは豊富にある5121小隊。今まではコミック担当だった中村が、意外な面を見せるのも、この巻のお楽しみ。
中村のコミック担当は意図してのものだが、意図せずにコミック担当となってしまうのが茜。どう考えても体力じゃ小隊についていけない茜、やはり真夏の日差しの下での作業は堪える模様。にしても、夏真っ盛りに草むらで半ズボンじゃ、自慢の脚も蚊に食われてボロボロになるぞ。
とまれ、館山の士官学校で身につけた意外な特技を活かし、予想外の活躍を見せてくれる。仮に戦争が終わったら、滝川と組んで土建会社を立ち上げるといい線いくかも。経理は祭ちゃんにお願いして。
寄生虫だのイルカだのと、人間以外を相手にする趣味ばかりだった舞も、5121小隊に毒されてか、独特のユーモアのセンスを身につけた様子。さすがに素子さんの域には達しないまでも、予備部品ぐらいは軽くあしらえるまでに成長したらしく。いるよね、真顔で冗談とばす人。
などとモソモソしていると、やってきました増援が、これまた懐かしい方々で。そっかあ、一見クールに見えるけど、そういうのが好きなのかあ。
などの楽しい場面ばかりでなく、ちゃんとお話も少しだが進んでゆく。無人のはずの熊本に、いつの間にか住み着いた共生派らしき者たち。それも一つに組織されでいるわけではなく、様々な性質の者が入り込んでいる。5121小隊へ攻撃を仕掛ける者たち、ひたすら逃げ隠れるだけの者たち。
そういえば前に読んだ「物乞う仏陀」にも、戦場だった故郷の村に戻ってきた人の話しが載っていた。片腕を失いながらも、無人となった故郷の村に妻と共に戻り、住み着きながら元いた村人たちが帰ってくるのを待ったトンディーさん。特に農民は土地に愛着を持つから、やっぱり生まれ育った村で生きたいんだろうなあ。
「未来へ」という副題ながら、舞台は懐かしい熊本。彼らが出会い、戦った場所。そこで共に戦い、だが帰れなかった戦友たちの遺骨を拾いながら、若い彼らは何を考えるのか。
様々な経験を積み、徴兵され戦わされた仕組みの裏側を知り、また置き去りにされた学兵たちを救うために最後まで戦った5121小隊。それでも救いきれなかった戦友たちの、無残な末路と否応無しに対峙しながら、彼らはどんな未来を思い描くのか。
他にも懐かしい方の、いかにもあの人らしい派手な登場もあり、お話は波乱の予兆を含みつつ次の巻へ続いてゆく。また大手柄をモノにしそうだなあ。でもスキャンダルには気をつけ…いや、きっと開き直り喜色満面で売り込むチャンスと踏み台にして、更なる注目を集めそうだなあ。
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