ジェレミー・ウィンヤード著ホセ・クルース画「傑作から学ぶ映画技法完全レファレンス」フィルムアート社 吉田俊太郎訳
『Uボート』では、潜水艦が外海に向かって進むときは必ず画面の右方向へ、そして戻ってくるときは必ず左方向へ進行するように撮られている。
――スクリ-ン・ダイレクション
【どんな本?】
映画やドラマは、全て人が作るものだ。だから、全てのシーンやカットに何らかの意味・意図がある。何かの動きを伝える・舞台の大きさを伝える・観客に不安感を与える・余韻を残す・何かに注目させるなど、目的に応じ映像作家は様々な技術を駆使し、工夫を凝らす。
市民ケーン・スターウォーズ・ターミネーターなど有名な映画のシーンを題材として、「何をどう撮ればどんな効果があるか」を、ふんだんにイラストを使って親しみやすくわかりやすく解説した、初心者向けの映像作りの解説書。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
原書は SETTING UP YOUR SHOTS - Great Camera Moves Every Filmmaker Should Know, by Jeremy Vineyard, 1999。日本語版は2002年2月28日初版発行。単行本ソフトカバーで横2段組、本文約140頁。8ポイント19字×13行×2段×140頁=約69,160字、400字詰め原稿用紙で約173枚。
文章は比較的に読みやすい。というか、この本の真価は文章の下にある絵で、文章はそれを補足する役割だ。内容も特に難しくない。読みこなすだけなら、中学生でも充分に楽しめる。書名どおり、多くの例をアメリカ映画から取っているので、映画に詳しい人ほど楽しめるだろう。出てくる映画はオーソン・ウェルズの市民ケーンからジェームズ・キャメロンのタイタニックまでバラエティ豊か。とはいえ、個々の技術は現代の映画やドラマでも頻繁に使われているので、特に映画ファンでなくても意味は通じるだろう。
【構成は?】
- まえがき
- step1 基本テクニック
- ズーム/フォーカス/モンタージュ/パン/ティルト/ドリー/メカニカル/トランジッション/フレーミング/練習課題
- step2 画面構成のテクニック
- カメラの高さ/カメラのアングル/スクリーン・ダイレクション/傾斜ホライゾン/エクストリーム・クローズアップ/ステージング/デプス・ステージング/プレーン・ステージング/マルチ・レベル・アクション/練習課題
- step3 クレーン装置を使ったテクニック
- クレーン・アップ+退出/クレーン・ダウン+接近/サイチング・クレーン/ライズ・アップ/フォール・ダウン/クレーン・フロント・トゥ・トップ/クレーン・アップ・エントランス/クレーン・アップによる感情表現/クレーン・アップ+ルック・ダウン/クレーン・ダウン+ルック・アップ/練習課題
- step4 動きに変化をつけるテクニック
- ドリーによる感情表現/ディスカバリー/プル・バック・リトラクション/プル・バック・リヴィール/スピン・アラウンド/フライ・オーバー/デプス・ドリー/ドリー・アップ/ドリー・ダウン/スピン・ルック/トラック・スルー・ソリッド/バーティゴ/エクスバンド・ドリー/コントラクト・ドリー/コラプス・ドリー/練習課題
- step5 視野に変化をつけるテクニック
- POV/イヴェントリーPOV/POVオブジェクト/POV発射物/ヴォイヤー/ダーク・ヴォイヤー/マスク/ヴィネット/反射/ポータル/シャドウ/シルエット/サブジェクティヴ/練習課題
- step6 カメラ操作によるテクニック
- ホイップ・ズーム・ルック/ホイップ・パン/ホイップ・カット/スリープオーバー/サーチ・アップ/バック・トゥ・フロント/フォーカス・アウト+パス・アウト/フォーカス・トランジッション/露出操作/シーリング・ツイスト/フリップ・オーバー/シフティング・アングル/練習課題
- step7 フィルム編集のテクニック
- ジャンプ・カット/マッチ・カット/クロス・カット/サブリミナル・カット/カット・アウェイ/フリーズ・フレーム/ルック・アット/マルチ・テイク/カット・ズーム・イン/カット・ズーム・アウト/モンタージュ・シークェンス/ジャンプ・カット・シークェンス/画面分割/画面内画面/スーパーインポジション/遮断+リヴィール・フレーム/歩行+リヴィール・フレーム/コラージュ/カメラ・スナップ/フォト・トゥ・シーン/フラッシュ効果/練習課題
- step8 その他の重要テクニック
- モーション・コントロール/スプリット・フォーカス/クロマキー/彩度変化/CGI/ジャーニー・スルー・アイ/リア・プロジェクション/グローバル・ズーム/スライス・オブ・ライフ/ストロボ/セマティック・フィルター/ネガティブ/イメージ/キネティック・エナジー/レンズ/ミックス・メディア/ミキシング・ストック/サウンド・デザイン/ボイスオーバー/練習課題
- 訳者あとがき/プロフィール/逆引きムービー・レファレンス
個々の技術は1頁で、舷側として頁の上半分に説明文、下に効果を表現する1~4コマのイラストがつく形。基本的に個々の技術は独立しているので、気になった所だけ拾い読みできる。
【感想は?】
文章量は少ないので読み終えるのは簡単だが、折に触れて何度も見直したい、そんな本だ。
映画、それもアメリカを題材としているが、ドラマ・アニメ・漫画など映像・画像が重要な役割を果たすコンテンツが好きなら、この本は大いに参考になる。個々の場面で、製作者が何を狙っているか、何を意図しているか、何を伝えたがっているか、よりハッキリとした形で理解できると共に、作者の使っているテクニックを巧く言語化できるようになる。
取り上げた技術は、恐らく基礎的・基本的なものばかりだろう。動画が撮れるカメラを持っていれば、クレーンなど大掛かりなものを除き、大半の技術は素人でも真似できる。例えば、カメラの高さ。
『ターミネーター2』でターミネーターを映し出すシーンでは、ロー・アングルが多用されている。このテクニックを使うことで彼のパワフルなイメージを強調する効果を得ているのだ。
おお、言われてみれば!やっぱり見上げる効果を上手に使っていたのが、平成ガメラこと「ガメラ 大怪獣空中決戦」。徹底して人の視点で撮ることで、怪獣の巨大さと恐ろしさ、怪獣が巻き起こす被害の大きさを実感させてくれた。つまりは、被写体を強く大きく見せたいなら、下から撮ろう、そういう事です。男の子がいるお父さん・お母さんは、一度やってみよう。
やっぱり基本だなあ、と思うのが、「クレーン・アップ+退出/クレーン・ダウン+接近」。真っ直ぐな一本道を去ってゆくバイクを思い浮かべて欲しい。この際、カメラはバイクに焦点を合わせながら、少しづつ上に持ち上がってゆく。すると、映像は多くの風景を写しながら、バイクが遠ざかってゆくだろう。旅烏のヒーローが去ってゆくラストシーンにはバッチリ合う撮り方だ。これがクレーン・アップ+退出。
クレーン・ダウン+接近は、この逆。高いカメラ位置で、一本道をやってくる車を撮り、ゆっくりクレーンを降ろしてゆく。これだと、「何かがやってくる」雰囲気が漂ってくる。車種によっては、物騒な感じにもなる。
オープニングでもエンディングでもキまるのが、「プル・バック・リヴィール」。例えば、原野で死んでいる兵を映す。「ああ、残酷だなあ」と観客に思わせて、次第にカメラが引いてゆくと、そこは死屍累々の戦場跡。言葉で「一人の死は悲劇だが大勢の死は歴史だ」なんてカッコつけるより、遥かに説得力がある。そういえば、映画「タイムズ・スクエア」のエンディングもコレだったような…って、知らないよね、そんなマイナーな映画(→予告編、Youtube)。
POVは Point of View、つまり視点。一般には第三者的な視点で撮るけど、「『ジョーズ』ではサメの視点」「『ターミネーター2』ではターミネーターの視点」。私の印象に残っているのは、むしろターミネーター1の、赤外線カメラっぽいサングラス。あれ欲しかったなあ。次のイヴェントリーPOVはFPSでよく使う技術で、持っている銃器を映しこむもの。
「マスク/ヴィネット」は、双眼鏡越しや望遠鏡越しに見てる形にフィルムを編集するもの。現実の双眼鏡や望遠鏡の視界はそうじゃないけど、映像テクニックとしては、こういう形で「コレは双眼鏡越しに見てる映像ですよ」と観客に伝わる。映像ってのは、「実際に見えているモノ」を映すわけじゃなく、常に製作者の作為が入ってるわけ。
最近よく使われるのが、マルチ・カット。「大事なことだから二度言いました」じゃないけど、印象的なシーンを多数のアングルで撮り、それを何度も繰り返し再生して、「ここ大事ですよ」と強調する手法だ。「『ターミネーター2』では、ターミネーターが凝固した敵のターミネーターを粉々にするシーン」。
使われすぎてギャグと化してるのは、「モンタージュ・シークェンス」。「『ロッキー』では、大試合を前にトレーニングするロッキーの姿」って、日本だと重いコンダラ(違う)を引く星飛雄馬と、ソレを見つめる明子姉ちゃんかな。今はギャグになっちゃったけど、それだけ教科書になるぐらい巧いモンタージュ・シークェンスの使い方だからだろう。
という具合に、映像の撮り方や効果を、有名な映画の具体例と、豊富なイラストで紹介している便利な本。映画だけでなく、ドラマ・漫画・アニメなど、映像モノが好きな人なら、読んで楽しめるだけじゃなく、コンテンツの見まで変わってくる、かなりインパクトの強い本だ。もちろん、「動画を作りたい」「漫画を描きたい」人なら、最初に読んでおこう。きっと表現の幅が広がるし、アイデアに詰まった時の参考にもなる。
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