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2013年12月28日 (土)

SFマガジン2014年2月号

あまりおもしろいものばかり摂取していると、知らないうちにその作家に対する期待値が上がってしまうものなのだ。
  ――若島正「乱視読者の小説千一夜」きみはカーペンターを知らない

 280頁の標準サイズ。特集は二本。ひとつは日本作家特集で、扇智史「ナスターシャの遍歴」,オキシタケヒコ「亡霊と天使のビート」,松永天馬「自撮者たち」,森田季節「カケルの世界」。もうひとつは「エンダーのゲーム」映画化記念小特集でご本家オーソン・スコット・カードによるエンダー・シリーズの短編「かわいい子」,堺三保「エンダーとその世界」,編集部による年表,ギャヴィン・フッド監督インタビュウ。それとは別に、季節柄かクリスマスに因んだ短編小説「ウィンター・ツリーを登る汽車」アイリーン・ガン&マイクル・スワンウィック。

 扇智史「ナスターシャの遍歴」。この街に住んで30年以上になる繭子は、散歩に出かける。いつものように、彼女に寄り添うのは姪の春那。なにかと気遣ってくれるのだが、どこか保護者気取りな所も見える。その日、繭子は懐かしい人に出遭った。ナスターシャだ。幼い頃、いつも一緒に遊んでいた。
 繭子を気遣いながらも、どこかよそよそしい春那。長く同じ街に住んでいながら、妙に街に馴染んでいない繭子。そして、日常風景に突然の乱入者ナスターシャ。彼女の語る「お話」は、何かを暗示しているようで…

 オキシタケヒコ「亡霊と天使のビート」。武佐音研シリーズ第二弾。依頼人は、四十代の夫妻。古い洋館の子供部屋に、なんと幽霊が出るのだという。その部屋で眠る九歳の少年は夜な夜なうなされ、やせ細ってゆく。そこで確かに聞こえる死者の囀りは、なぜか全く録音できない。不在の所長に変わり対応した、武佐音研きっての常識人・鏑島カリンが出動し…
 音に関する問題なら何でもござれの武佐音研が、鮮やかに問題を解決するシリーズ第二弾。オーディオや楽器が好きな人なら、随喜の涙とヨダレをタレ流す悶絶の一編。お話の中核をなすネタもさる事ながら、今回は私が大好きなアイルランドのネタまで入ってるんだからたまらない。ケルト音楽と若い女性が好きな人は、この動画をご覧あれ→Youtube
  「ヴァイオリンは歌うが、フィドルは踊るんだ」が心地いい。

 松永天馬「自撮者たち」。地下八百階で72億人収容のJST劇場で、わたしと舞舞子は殺影会を行なう。女の子が一対一で戦うゲームだ。わたしたちがいつも持ち歩くアイポンは、単なる情報端末だけでなく、アプリをインストールすれば兵器にだってなる。
 相変わらずエキセントリックで軽薄で悪趣味なシーンや言葉を次から次へと繰り出し、エスカレートするパパラッチや炎上Tweetを揶揄しながら、斜め上の解釈でイれた世界を語ってゆく。かと思えば「創作」に関する面白い視点や、過激な炎上対策もあったり。

 森田季節「カケルの世界」。八方美人で、波風立てずに生きてきた翔(かける)。特に好きなものもなく、周りに合わせてやってきた翔を、色々と引っ張ってくれたのが、親友の春奈。中学から五年、お互いにフォローしあってやってきた。来週からの実力テストを前に愚痴をこぼす春奈に、フォローする翔。けど、その日、春奈は…
 紙面を見れば分かるように、上下二段で別々の話が進む。かんべむさしが「決戦・日本シリーズ」で使った手法だ。女子高生の学園生活を描く話かと思ったら、ナニやらデムパなネタが出てきて「うわ怪しい」といぶかり、最後まで読むと、もっと怪しい物語だった。大変な問題作だと思うんだが、下手に感想を書くとネタバレになるんで、もどかしい。ぐぬぬ。

 アイリーン・ガン&マイクル・スワンウィック「ウィンター・ツリーを登る汽車」。クリスマス・イブの夜。エルフが鏡から抜け出し、おとなを皆殺しにして、成り代わった。そして朝。最初に起きたのは七歳のローランドだ。大きくそびえるクリスマス・ツリーを見上げ、そのなかを走る汽車に驚いた。
 エルフといっても、「ホビットの冒険」に出てくる温和な連中とは一味違う。アッチなら、むしろゴブリンに近い凶悪で残忍で狡知に長けた連中だ。衝撃的な開幕と、おとぎ話のように不思議と冒険に満ちた中盤を過ぎて辿りつくのは…。

 オーソン・スコット・カード「かわいい子」。父のアマーロは弁護士で、我が国スペインを誇りに思っていた。快活で弁が立ち、家にはいつも友人が沢山集まってきた。息子のボニートが二歳になる前にIF(国際艦隊)がテストをした際は、ボニートを奪われまいとしながらも、IFの目に止まったボニートを勲章に感じていた。
 聡明で早熟な子供ボニートの目を通して見る、家庭内の人間関係が鮮やかな一編。幼いながらも天才というボニートの特質を見事に活かし、少ない人生経験と知識から、鋭い推理力で家族の関係や父母の気持ちを悟ってゆくボニートが、切ないやら恐ろしいやら。こういう、親密ながらも緊張した人間関係を描くカードの筆が冴え渡る作品。SFかと言われると首をひねるけど、小説としては熟練の技が堪能できる作品。

 若島正「乱視読者の小説千一夜」きみはカーペンターを知らない。古本屋を漁って掘り出し物を見つけては喜んでる者にとって、電子書籍がどんな意味を持つかというと…。うん、まあ、アレです。欲しい本がスグに手に入るのはいいけど、掘り出し物を探すトレジャー・ハンター的な喜びもあるわけで。絶版直後に諦めていたキース・ロバーツの「パヴァーヌ」を定価以下で発掘した時は、わが目を疑ったなあ。いや今は復刊してるけど、パヴァーヌ。名作だよ~。

 岡和田晃と大野万紀による、上田早夕里「真紅の碑文」レビュー。著者が「シリーズの長編はこれで終わり」としているのに対し、二人とも「なら中編と短編はあるんだよね」とプレッシャーをかけてるのが楽しい。

 大森望「新SF観光局」日本ファンタジーノベル大賞の二十五年。「企画段階では、おそらく“子供に夢を与えるファンタジー”をイメージしていたのだろうが」って、その基準なら「星虫」でしょ、なんで「後宮小説」なんだw まあ作品の面白さじゃ後宮小説は無視できないインパクトを持っていたわけで、受賞作が賞の方向性を決めるという、なかなか楽しい経過だったなあ。人気作家を続出した、貴重な賞でありました、はい。

 大野典宏「サイバーカルチャートレンド」白金の指輪は日本だとモバイル通信の品質になるという話。噂のプラチナバンドの解説なんだが、いきなりエアコンの話で大笑い。
 「この製品にマイナスイオンってあるんですけど、これって何ですか?」
 「さあ? そんな回路を入れた覚えはないんですけど…」

 次回は久しぶりの吉富昭仁「ニュートラルハーツ」第2回に期待。

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