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2013年12月16日 (月)

ヴェルナー・ゾンバルト「戦争と資本主義」論創社 金森誠也訳

戦争がなければ、そもそも資本主義は存在しなかった。戦争は資本主義の組織をたんに破壊したばかりではない。戦争は資本主義の発展をたんに阻んだばかりではない。それと同様に戦争は資本主義の発展を促進した。いやそればかりか――戦争はその発展をはじめて可能にした。

「一般に、国王陛下がお買い求めになると、材料をはじめすべてが品不足になり、価格が上がる。また陛下がこれをお売りになると、すべての材料が満ちあふれ、価格が下落する」

【どんな本?】

 ドイツ生まれの社会学者・経済学者ヴェルナー・ゾンバルト(→Wikipedia)が、第一次世界大戦直前の1913年に出版した、中世~現代にかけてのヨーロッパ経済史の研究書。軍や戦争が国家に与えた経済的・社会的影響を、大量の資料から掘り起こし、軍が現代的な姿に変貌する過程が資本主義を発達させたのだ、と説く。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Krieg Und Kapitalismus,  Werner Sombart, 1913。日本語版は1996年4月5日初版第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約289頁+訳者あとがき10頁。9ポイント43字×17行×289頁=約211,259字、400字詰め原稿用紙で約529枚。長編小説なら標準的な分量。

 元が古い本のためか、日本語の文章もやや硬い。中世以降のヨーロッパの歴史から自らの仮説を検証する内容のため、例として西洋史上の出来事や人物が頻繁に出てくる。また、「連隊」や「口径」などの軍事関係の用語も必須だし、高炉など製鉄の技術と歴史や、帆船など船舶の技術も出てくる。真面目に読み込むと、幅広い知識が要求される。また、出てくる単位が「ポンド」「ターレル」「ツェントナー」「ラスト」「エレ」と様々な上に見慣れぬ単位が多い。

 とまれ、各章は 1)最初に仮説を提唱し 2)次にそれを裏付けるデータを提示する 構造なので、面倒くさかったら検証データの部分は読み飛ばしても、著者の主張は理解できる。というか、私は読み飛ばしました、はい。

【構成は?】

 はじめに/序文
第一章 近代的軍隊の誕生
第二章 軍隊の維持
第三章 装備
第四章 軍隊の給養
第五章 軍隊の被服
第六章 造船
 参考書目と文献/訳者あとがき

【感想は?】

 ちと古い本ではあるが、執筆の姿勢は極めて誠実で、かなりの労作だ。

 著者の主張は冒頭の引用どおり。ヨーロッパ社会が中世の封建社会から現代の資本主義社会に移行する際に、戦争が重要な役割を果たした、と言っている。読んだ感想としては、役割を演じたいは、戦争というより「現代的な軍」だけど。

 当然だが、戦争は経済活動を破壊する。著者もそれは充分に認めている。と同時に、資本主義を育てもしたのだ。

 そのひとつは、軍の組織だ。かつては騎士と傭兵だった。それぞれの武器・防具や糧食は、騎士や兵が自前で用意した。傭兵などは、隊長が用意して兵に有料で貸し与える場合も多かった。服も、兵ごとにバラバラだった。つまり、見ただけじゃ敵か見方か区別がつかない。

 これが、次第に国家の常備軍へと変わってゆく。まずは武器の国有化で、国家が兵に武器を貸す形になる。当然、国家は大量の武器を用意しなきゃいけない。特に砲と銃と弾薬だ。従来の職人仕事じゃ、とても大量の要求には応えられない。そこで、幾つかの動きが出てくる。

 砲ごとに弾丸が違ってたら、面倒くさくてしょうがない。そこで口径=規格化の概念が出てくる。すなわち「商品の統一化」だ。1540年にニュルンベルクのハルトマンが口径の基準を考案し、フランソワ一世とアンリ二世がカノン砲の口径を六種に限定する。これは銃も同じだ。

 小銃は大量に必要になる。職人が手仕事でやってたんじゃ、間に合わない。買い付けに走り回る商人が、従来の手工業から、「資本主義的武器産業の組織者」になり、「請負制度と大企業」が育ち始める。特に大量に必要なのは弾薬で、弾丸鋳造所と火薬工場ができる。フランスとドイツは国家独占企業で、イギリスは民間企業となる。つまり、大企業の発生だ。

 銃と砲は、製鉄技術の発達も促す。「製鉄のなかへの高炉方式導入の強制として作用した」。また、「金属製中ぐり機と旋盤の発展はなにはともあれ大砲製造のおかげである」。

 軍ヲタとしては、今さらながら当事の軍艦の砲の数に驚いた。90門とか100門とか。第二次世界大戦時のように甲板に回転する三連砲を置くんじゃなく、舷側にズラリと並べたんだろう。改めて考えると、当然ながらこれは海戦の様子も変えてゆく。当時は舷側を敵に向けなきゃ攻撃できないから、敵味方の艦の向きが重要だけど、砲台が回転するなら向きはあまり意味がない。

 この大量発注は、糧食や被服でも同様に働く。つまり徴集兵や傭兵隊長が自前で用意するのではなく、国家が兵に供給する形へと変わってゆく。とまれ、その動きは、近衛兵から始まり、中隊ごと・連隊ごととかの過程を経るんだけど。と同時に、軍服は二つの効果を持つ。

 ひとつは、敵味方の識別が簡単になること。もうひとつは、帰属感。「同じ衣服を着ていないと、どうしても保持しえない団結間を抱かせた」。

 発注側としては、同じ品質の物を大量に安く仕入れたい。これが均一化・大量生産を促進する。また、軍がいちいち買い付けてたらやってらんないから、御用商人も育てる。国は一括発注して、調達は商人に任せるわけだ。「巨大な購買力を備えた陸軍の活発な影響力がもしなかったとすれば、資本主義が始まるまでに、おそらく百年は待たねばなかったろう」。

 国軍化・常備軍化は、都市も育てる。大人数が特定の場所に定住すりゃ、衣食住すべてに多くの需要が生まれる。

ベルリン自体も、18世紀末までは、純粋に軍の駐屯都市であった。1740年、軍関係者の人口は21,309人であった。その頃の全人口は約9万人である。もし、あらゆる軍関係者には、かならず第二の人物が付随していることを認めたとすれば、この都市人口の半数は、軍隊の駐屯によって生じたことになるだろう。

 そんな軍の影響は、どれぐらいあったのか。「計算によればその頃(1610年ごろ)のスペイン国家歳入のほとんど93%にあたる軍事目的用の支出の中味がこの債務の利息支払い」というから、凄まじい。これは極端にしても、フランスのルイ14世やプロイセンの大選帝侯じゃ「国の歳入全体の2/3」だったりする。

 で、そんな大金を調達するために、国家は債券を発行する。海外貿易会社の株式をきっかけに生まれた有価証券取引は、公債の請求権も扱い始め、証券取引所を作り出し、ロスチャイルドなどの金融家を育ててゆく。

 なんて話を読んでると、著者の主張以前に、ヨーロッパにおける国家の概念そのものが、戦争を通じて創られてきたんじゃないか、なんて気になってくる。そして日本は、ちょっとした著者への反証になってるかも。徳川300年の歴史で、大阪に先物取引所が出来て、先物取引や手形取引が発達してたりする。

 軍需産業が資本主義を育てた、みたいな主張なわけで、なんとも気に食わないけど、豊富な資料の裏づけはかなりの説得力がある。今でも自動小銃を輸入に頼ってる国は、なんか国家制度や為政者が信用できないと私は感じてしまう。緻密な資料で経済史と軍事史の深い関係を暴く、衝撃的な本だった。

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