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2012年12月14日 (金)

デイヴィッド・ミーアマン・スコット+ブライアン・バリガン「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」渡辺由佳里訳 糸井重里監修・解説

「毎晩真珠を獲りに潜るのだが、ときにはアサリを獲って来てしまうこともある」
  ――ジェリー・ガルシア

【どんな本?】

 糸井重里が監修して話題を呼んだ本。サイケデリック調の表紙、安っぽい紙と印刷、そしてグレイトフル・デッドという聞きなれない名前。「マーケティング」というからにはビジネス書っぽいが、パラパラめくると長髪のヒッピーっぽいオヤジがギターを弾いてる写真が沢山載っている。一体、なんの本なのだ?本気なのか冗談なのか、どっちだ?

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Marketing Lessons from the Grateful Dead - What Every Business can Learn from the Most Iconic Band in History, by David Meerman Scott and Brian Halligan, 2010。日本語版は2011年12月12日第一版第一刷発行。私が読んだのは2012年1月24日発行の第一版第五刷。

 単行本ハードカバーで274頁。縦一段組11ポイント36字×15行×274頁=約246,600字、400字詰め原稿用紙で約617枚…だが、写真やイラストを多数収録している上に、要所でレイアウトを変えているので、実際の分量はその半分ぐらいか。長編小説なら短め。

 文章そのものは読みやすい。ただ、出てくる言葉が1960年代のヒッピー文化やロック・ミュージック関係、そして近年のオープンソース系の単語が多いんで、そっちに関心がない人には意味不明かもしれない…というか、はっきり言って DeadHeads 向けの本。原書はかなりユーモラスな文体だと思われるが、ギャグが通じていない部分がある。ロゴ警官は Logo-Cop じゃないかな?

【構成は?】

 彼らはそれをやっていた。 糸井重里
 Introduction 「グレイトフル・デッドのライブほど素晴らしいものはない」
PART ONE - THE BAND
 Chapter 1 ユニークなビジネスモデルを作ろう
 Chapter 2 忘れられない名前をつけよう
 Chapter 3 バラエティに富んだチームを作ろう
 Chapter 4 ありのままの自分でいよう
 Chapter 5 「実験」を繰り返す
 Chapter 6 新しい技術を取り入れよう
 Chapter 7 新しいカテゴリーを作ってしまおう
PART TWO - THE FANS
 Chapter 8 変わり者でいいじゃないか
 Chapter 9 ファンを「冒険の旅」に連れ出そう
 Chapter 10 最前列の席はファンにあげよう
 Chapter 11 ファンを増やそう
PART THREE - THE BUSINESS
 Chapter 12 中間業者を排除しよう
 Chapter 13 コンテンツを無料で提供しよう
 Chapter 14 広まりやすくしよう
 Chapter 15 フリーから有料のプレミアムへアップグレードしてもらおう
 Chapter 16 ブランドの管理をゆるくしよう
 Chapter 17 起業家と手を組もう
 Chapter 18 社会に恩返ししよう
 Chapter 19 自分が本当に好きなことをやろう
  本書の発刊によせて(ビル・ウォルトン)/訳者あとがき

【感想は?】

 DeadHeads の、DeadHeads による、DeadHeads のための、DeadBook。

 DeadHeads とは何か。60年代にデビューした、アメリカのロックバンド Grateful Dead の熱狂的なファンを言う。では、Grateful Dead(→Wikipedia) とは何者か。ゴチャゴチャ説明するより、とりあえず音を聞いてみよう。比較的一般ウケしそうな曲を曲あげる。以下、リンクは全て Youtube、全てライブ版。長い曲は途中でスキップして構わんです。

  • Uncle John's Band(8分20秒) : カントリーっぽいシンプルな曲。アルバム Workingman's Dead 収録。
  • Shakedown Street(13分6秒) : 当事の「ディスコ」風のリズムを取り入れている。アルバム Shakedown Street 収録。
  • Sugar Magnolia(9分6秒) : 軽快なロックンロール。アルバム American Beauty 収録。

 ナニやら意味ありげなバンド名のわりに、意外と音は普通…というか、むしろ古臭く泥臭いんで呆れたかもしれない。長く続いたバンドでもあり、途中で色々と新しいオモチャで遊んだりもしたけど、基本的にはカントリー&ウエスタンやブルースを基本とした、アメリカの田舎者向けの音だ。日本なら、演歌に相当するマーケットだろう。

 いやこういう事を言うと「貴様は Mars Hotel や Aoxomoxoa を知らんのか!」と怒られかねないが、まあそれはそれで。まさか初心者にいきなり Dark Star(→Youtube)や Terrapin Station(→Youtube) を薦めるのもどうかと。やっぱり大人しい Ripple(→Youtube) あたりがとっつき易いだろうし。アルバムなら American Beauty とか。

 …って、全然書評になってないな。一応はビジネス書の体裁をとってるし、糸井重里は「掛け値なしの『ビジネス書』」と冒頭で書いてあるが、信じちゃいけない。末尾のビル・ウォルトンの「本書の発刊によせて」を DeadHeads が読めば、爆笑間違いなしだ。ところで「約束の地」は Promised Land(→Youtube)だよね。

 各章の構成は、だいたいこんな形だ。

  1. こんな問題がある。
  2. Grateful Dead はこうやって対応した。
  3. 最近のビジネスでは○○社が似たような事をやって成功している。
  4. キミもやってみよう。

 ミソは、Grateful Dead の方法が、今のオープンソース・ビジネスと似ている、という点だ。例えば、Grateful Dead はコンサートでの録音をファンに許可した。そして、ファン同士が自由に録音テープを交換できるようにしたのだ。これでファン同士の結束が固くなり、Dead の知名度も上がった…少なくとも、アメリカでは。

 この辺、今の若い人には、初音ミクに代表されるボーカロイドや、上海アリス幻樂団による東方Projectのキャラクター管理あたりを引き合いに出せばピンと来るかもしれない。ライセンスの扱いを緩くして、活発なファン活動を促す戦略だ。私はチルノが好きです。

 …じゃなくて。ビジネスとして云々なら、オープンソース系の本を O'Reilly あたりで探せば、もっと真面目な本が見つかるだろう。が、それじゃ、 Dead Heads がついてこない。日本じゃ Grateful Dead は悲しいほど知られていないけど、アメリカじゃビッグ・ネームなのだ。ビル・クリントンやバラク・オバマも DeadHeads だし。

 上の構成を見て欲しい。こんな事を言われれば、DeadHeads はそりゃ嬉しくなる。私も DeadHeads って程じゃないが、それでも Grateful Dead は大好きだ。だもんで、読了後の今はやたらいい気分だったりする。Amazon がどうとか mySQL が云々とか書いてあったような気がするが、それよりジェリー・ガルシアの笑顔の方が印象に残っている。つまり、そういう方面をターゲットにした本だと思う。なんで日本で四刷まで行ったんだろう。

 まあ、アレです。この本で多少なりとも Grateful Dead に興味を持ってもらえれば、私は嬉しい。暇があったら、この辺を聴いてみて下さいな。

  • インターネット・ラジオのGDRADIO.NET : iTunes を使っている人は、ラジオ→Classic Rock→gdradio.net で見つかる。24時間 Grateful Dead 垂れ流し。
  • Podcast の mvyradio Shakedown Stream : だいたい毎週更新。一回の放送が4~5時間に及ぶ大ボリューム。

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