SFマガジン2013年1月号
なんだよ、あの翻訳の一歩後ろにいつも控えておりまする白髪美髯の執事的な絶妙な距離感がいいんじゃないか。
――池澤春菜「SFのSは、ステキのS」
280頁の標準サイズ。今月は日本SF作家クラブ創立50周年記念特集として、巽孝之「日本SF作家クラブ気質考」やイベントレポート、牧眞司「日本SF年表」など。小説は夢枕獏「小角の城」・北野勇作「カメリ、ツリーに飾られる」・草上仁「ミサイル畑」に加え、巻末には年末恒例の2012年度版SFマガジン・インデックス。
特集では、いきなりMARUZEN&ジュンク堂書店によるSFブックミュージアムの告知。場所は池袋本店7階特設会場、2013年4月13日まで。ちょっと行ってみようかしらん。
巽孝之「日本SF作家クラブ気質考」、発足当時の世間がSFを見る目は冷たい。江頭淳や吉田健一には叩かれ、荒正人とは論争となる。面白いから引用しておこう。最近は世間でSFが認知されつつある、どころか変に頭よさげな印象すら持たれてる感があるけど、空気読んで言わないだけで、内心は両者みたく思ってる人が結構いるんじゃなかろか。円城塔の芥川賞受賞の騒ぎも、同じ感覚が残っている由を実証してるし。ま、アレは若手が老兵を叩き出す格好になったけどね。
吉田健一「科学小説という形式だけを取り上げていうならば、外国の小学生が熱中するものに日本のおとなの読者がわれを忘れる時代が来るというのは、情けない話だなどというのでなしに、そんな時代は来ないのに決まっている」
荒正人「マンガ、テレビ、映画などからは本格的SFは育たぬであろう」
続くSFWJ50ブックガイドでは星新一「人造美人」から上田早夕里「華竜の宮」まで日本SF作家クラブ会員の作品から50冊を厳選して紹介。7ポイント26字×26行=676字×50本、今月もSF書評マガジンだなあ。個人的に矢野徹は「折紙宇宙船の伝説」の方が好き。あれは傑作ですぜ。
巻末の「SFブックミュージアム」参加作品リストは、まんまお勧めSF作品リストとして使える。SF作家クラブのマークの右肩についたアクセントが、頁ごとに微妙に違ってるあたり、芸が細かい。
などと日本SF特集なのに翻訳物を持ち上げてどうする池澤春菜w 翻訳者を執事に例えるあたりは見事。作品世界との距離感が日本語ネイティブの作品とは違うよね、という感覚には激しく同意。やっぱりレムは多少堅い文体じゃないと納得いかないし、チャールズ・ストロスは O'REILLY っぽくクール気取ってヒネた雰囲気が合うし、SFじゃないけどギャビン・ライアルは気取った文体であって欲しい。
Media Sgowcase/MUSIC、「いまロックは、屍者の帝国である」って、納得しちゃうのが哀しい。特にプログレ者には身に染みる。これがブルースになると伝統芸能として開き直れるんだが。まあジョジョで ROUNDABOUT が流行るから、もしかしたら復活も…ないか。
北野勇作「カメリ、ツリーに飾られる」。今回はクリスマスのお話。今朝のカフェでは、クリスマスの話題でもちきり。常連のヒトデナシたちが話している。大川のあたりでクリスマスが膨らみかけている、この調子だと地上の街角までクリスマス一色になる、今夜あたりイブじゃないかな、と。
相変わらずノスタルジックながら少しズレた、微妙にユルくてボンヤリした世界だけど、今回はクリスマスだけあって、ちょっと賑やかで華々しい雰囲気がある。つかなんだこのオチはw
草上仁「ミサイル畑」。いろいろとドジを踏んで左遷され、ド田舎のサント・ヨハネスブルグに飛ばされた遺伝子技術者のわたし。農業惑星のここで、軍需産業に売り込める作物を作る仕事だが、ここでもロクなモノができず、製品開発部長に嫌味を言われている。せっかく作ったSB17Kも、タブついて利益がでなくなった。いまさら転職しようにも歳が歳だし…
誰だ原稿落としたの。お得意のサラリーマンもの。熾烈な新製品開発競争に投げ込まれた技術者の悲哀がしみじみ伝わってくる。他社との競争になると、キリがないんだよね。開発競争に苦しむ技術者諸氏は涙するだろう。
金子隆一「SENCE OF REALITY コメの飯とお天道様は」。今回はインディカ米とジャポニカ米をネタに、栽培稲のルーツのお話で、なんとも意外な最新情報。常日頃から思ってるんだけど、日本のコメって凄まじい常習性・依存性があるよね。私は24時間ぐらいで禁断症状が出ます。
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