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2012年7月18日 (水)

榊涼介「ガンパレード・マーチ 逆襲の刻 津軽強襲」電撃文庫

 「またふたりで戦場めぐりしましょ? それがふたりの恋のランデブー♪」

【どんな本?】

 2000年9月発売の SONY PlayStation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」を、榊涼介がノベライズするシリーズとして、短編集「5121小隊の日常」から始まったシリーズ。シリーズが続くに従い榊オリジナルの設定や登場人物も増えつつ、ゲームに沿った内容は「5121小隊の日常Ⅱ」で一応終了。

 ところがゲーム本体同様に根強いファンが多いためか、ゲームのエンディングの後を描く「山口防衛戦」でシリーズは再開、続く九州奪還編も完結。大判のファンブックも出て、新たに「逆襲の刻」編が始まり、これでシリーズ通算22巻目(ファンブックとガンパレード・オーケストラは除く)。

 なお、この巻は最後に特別短編「青森からの通信――箕田少尉の女難」が付属。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2010年1月10日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約296頁。8ポイント42字×17行×296頁=211,344字、400字詰め原稿用紙で約529枚。標準的な長編小説の分量。

 文章そのものは読みやすいが、内容がほとんどゲームのノベライズというより架空戦記になってる。そのため、師団だ連隊だと軍隊用語が頻出するので、将兵の階級と編成単位は覚えておいた方がいいかも。まあ、ケロロ軍曹で知った程度で充分楽しめるから、あまり悩む必要はない。

 ただ、元のゲームが独特の世界観を持っている上に、登場人物も多い。手っ取り早く概要を知りたい人は、直前の「逆襲の刻 東京動乱」に「これまでのあらすじ」が入っているので、「東京動乱」から入るのも、ひとつの手。「とりあえず味見してみたい」とか「じっくり腰を据えて読みたい」という人は、シリーズ最初の「5121小隊の日常」か、時系列的に最初期を描いた「episode ONE」がお勧め。短編集なので、味見には最適。

 懐に余裕のある人は、「ガンパレード・マーチ ファンブック」から入ってもいい。今までのシリーズのまとめや、主な登場人物・アイテムを、イラスト入りで紹介している。

【どんな話?】

 クーデターは沈静し、5121小隊の面々は東京で平穏な正月を迎えていた。連戦の疲れが溜まっている上に、人間相手の戦闘で各員のストレスは限界を突破し、それぞれが様々な異常行動を見せる。昏倒癖がつき入院中の壬生屋、ハンバーガーの過食に走る滝川、そして借金女王となりつつある原。矢吹中佐をはじめ、大原首相など周囲の大人は、そんな彼らに充分な休養を取らせようと配慮するが…

 年明け早々、津軽半島西海岸に、幻獣の大群が上陸。山口・九州の戦役で主力部隊を引き抜かれ穴だらけとなった自衛軍はあっさりと蹂躙される。日本の重要な補給源は、北海道だ。命綱である青函トンネルが遮断されれば、日本は一ヶ月もたずに窒息する。広島・九州で素寒貧な上に、クーデター騒ぎで屋台骨がガタついた自衛軍は、なけなしの戦力をかき集めて津軽へと向かうが…

【感想は?】

 冒頭から、従来との役割交代のヒネリが利いてる。九州奪還では困ったちゃん役だった森さんが、今度はお守り役になって、困ったちゃん役は滝川と原さん。ただ、滝川は哀れではあっても、イマイチ怖さがないんだけど、ヤバいのは原さん。やっぱし、美人ってのは、アブナい雰囲気もトンガってるというか。にしても、舞、手配書はあんまりだろ。つか滝川、お前はケロロ軍曹かい。

 前巻で大活躍を見せた茜、この巻では序盤から飛ばしまくり。いきなり山川邸に突撃を敢行、中将閣下相手に大演説。九州奪還じゃ敵役だった両者なのに、この和やかさはなんなんだ。まあ茜は人を道具としか見てない部分が多分にあるんで納得だが、半ズボンの怪人と会話を成立させる中将の柔軟性も相当なもの。とはいえ、やっぱりイマイチ人類なのかという疑問は拭えないようで。つか「似たようなものですよ」って、それは日頃の尻拭いを押し付けられる立場としての、ささやかな復讐なんだろうか。

 なお、中盤から後半にかけては、山川中将閣下が八面六臂の大活躍を見せたりする。オジサマ好きは期待しよう…そんな人がいれば、だけど。

 舞台が西から東に大きく移動したためか、この巻は自衛軍で榊オリジナルの登場人物が続々登場。九州撤退戦あたりまではあまりオリジナル登場人物に名前をつけなかった著者だが、九州奪還あたりから登場してすぐ戦死する将兵や学兵も名前を出すようになってきたんで、油断できない。というか、こういう変化が、いかにも架空戦記っぽい雰囲気を醸し出してる。

 戦闘シーンは、地形の違いで恐怖が倍増してる。戦場は、津軽平野。農業が盛んらしく、一面が田んぼか畑で広い平地が多く、道は狭い。つまり、人?海戦術を得意とする幻獣にきわめて有利で、補給が必須の自衛軍には不利な地形。おまけに山口防衛戦・九州奪還戦、そして首都のクーデターと相次ぐ引き抜きで、駐在の自衛軍は手薄になってる上に、経験豊かな古参兵は払拭。

 しかも、困ったことに、この世界じゃ東北は軍人が尊敬される土地柄、という設定。だもんで、将兵の皆さんも戦意は盛ん。いきおい、撤退を潔しとしない小部隊が拠点に孤立して死守、弾薬が途絶えた時点で玉砕、というパターンになる。この辺はデイヴィッド・ハルバースタムの「コールデスト・ウインター」あたりを思わせるけど、多分モデルはもっと前。終盤で展開する幻獣の戦術もアレだし。ただ、季節柄、ひとつだけ自衛軍に有利な点があって…

 特別短編「青森からの通信――箕田少尉の女難」は、白雪姫と七人の愚連隊のお話。いや名前が出てくるのは植村・箕田・中西・久萬・能見の五人だけど。いずれも出世とは縁がないかわりに、始末書とはラブラブな面子。新顔の能見の話に反応する久萬の突っ込みどころが、この愚連隊らしくて爆笑。しかし能見の得物、どっから手に入れたんだ?

 いよいよレギュラー・メンバーが津軽に集結する次巻。人類の命運は、そして4ヶ月連続刊行の無茶に著者は耐えられるか?

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