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2012年7月22日 (日)

榊涼介「ガンパレード・マーチ 逆襲の刻 弘前防衛」電撃文庫

「おお、ソックス・ダンク。カレーはとっくに完成しとる。今は普通の煮干しと、青森湾の焼き干しの違いを検証しとるところタイ。ぬしゃ、どっちが好みかの?」

【どんな本?】

 2000年9月発売の SONY PlayStation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」を、榊涼介がノベライズするシリーズ通算23巻目(ファンブックとガンパレード・オーケストラは除く)。短編集「5121小隊の日常」で始まり、熊本城決戦など欠かせないイベントを挟みつつ、ゲーム・シナリオに準じたストーリーは「5121小隊の日常Ⅱ」で完了した。

 その後、榊オリジナルの登場人物も含めゲームのエンディングの後を描く「山口防衛戦」でシリーズは再開し、続く九州奪還編→逆襲の刻編へとつながっている。

 この巻も最後に特別短編「首相暗殺(裏)――浅井遊馬の流儀」を収録。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2010年2月10日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約312頁。8ポイント42字×17行×312頁=222,768字、400字詰め原稿用紙で約557枚。標準的な長編小説の分量。

 文章そのものは読みやすいが、内容は架空戦記に近いため、迫撃砲だの12.7ミリだのと軍事系の言葉が頻出するので、そっちに詳しいとより楽しめる。また、舞台が津軽半島なので、地図帳か Google Map があると更によし。

 ただ、元のゲームが相当に込み入った世界設定である上に、登場人物も多いので、さすがにこの巻から読み始めるのは無茶。気が短い人は、逆襲の刻編の始まり「逆襲の刻 東京動乱」の冒頭で「前史」として「これまでのあらすじ」がまとまっているので、そこから入ってもいい。理想を言えば、シリーズ最初の「5121小隊の日常」か、時系列的に最初期を描いた「episode ONE」から入るのが最善。また、「ファンブック」収録の短編が伏線になっている部分もあるので、完璧主義の人は「ファンブック」も必須。

【どんな話?】

 津軽半島に上陸した幻獣は自衛軍を席巻し、国家の流通の補給の命綱である青函トンネルを遮断した。方面軍の指揮官として難がある木崎中将は、山川の策略で後送に成功、替わって荒波と岩田が津軽へと向かう。同様に、5121小隊をはじめ、急遽召集された多くの部隊も津軽へと向かう。

 平坦な津軽平野にあって、前線の部隊は高所などの拠点に篭り、それぞれが孤立して抵抗を続けているが、弾薬が尽きれば後がない。5121小隊・鬼瓦大尉こと那智大尉率いる四十二師団戦車隊第一中隊・アフロ少佐こと植村少佐率いる植村中隊が護衛となって、補給物資を各拠点に届ける作戦が始まる。

 陸軍士官学校生一ノ瀬千穂が率いる学兵部隊は青森市街に撤退し、山川道久が率いる海軍士官候補生たちなどと共に市街地の警備にあたる。藤崎町陣地に篭る合田強欲小隊は、拾った陸軍幼年学校兵の相馬順平・小林恵津子と共に、なんとか拠点を維持してはいたが、蓄積する疲労と欠乏する物資に焦燥を募らせていた。

 その頃、クーデター計画の首謀者の一人で、東京憲兵隊本部に監禁されていた泉野大佐が、何者かに拉致され…

【感想は?】

 どんどん話が大きく複雑になり、シリーズは架空戦記から大河ドラマになりつつある。実のところ「東京動乱」は「ちょっと浮いてるなあ」という感があったんだが、この巻に来て、その伏線が活き始めた、というか。

 話の大筋は津軽半島での戦闘なんだけど、首都である東京でクーデターの後遺症がくすぶり、泉野や木下が行動を始めて大騒ぎ。生徒会長閣下が再び老骨に鞭打って苦労を背負い込む羽目に。にしても泉野、頭がいいんだか悪いんだか。

 合田強欲小隊は、相川が少ない出番で美味しい所を浚っていく。しかし恵津子ちゃん目ざとい。つか子供相手に何言ってるんだ斉藤。おじさんにはダルマストーブが懐かしい場面。現実の今の川口はすっかりベッドタウンになっちゃって、鋳物工場は大半がマンションに替わっちゃってたりする。工場は跡取りがサラリーマンになっちゃうし、職人が集まんなくてさあ。

 根拠地では、潜伏・浸透したゴブリンに苦戦中。陸軍士官学校の一ノ瀬と、海軍士官学校の山川が、どんな化学反応を見せるか。ここでは、懐かしい顔がひょっこり登場。相変わらず冷静と言うかドライと言うか、そーゆー所が素敵です。生き残っただけあって、意外な得意技も明らかに。まあ、あーゆー兵科じゃ当たり前なんだろうなあ。でも、肝心の本職の腕前は、気候の問題で発揮できず。残念。

 一方、山川は、いつの間にかソックス・ダンクという事にされ、色々と便利に使われている、というか、将来のリーダーの片鱗を覗かせている。5121小隊整備班・海軍士官学校候補生・一ノ瀬小隊、そして地元の憲兵や警官との調整役という、これまた親父さんと似たような役柄を、ボヤきながらもそれなりにこなしている模様。

 緑子と共に青森入りしたカーミラは、このシリーズの根幹をなす設定に食い込んでくる。というか緑子ちゃん、彼女の「常識」がいささかアレだった原因もここで明らかに。そりゃ芝村とアレじゃ偏るって。もちょい、師匠は選ばないと…って、教師役に相応しいのは森さんぐらいだしなあ。つか岩田参謀、なんとも準備がいい事で。そーゆー制服の中学校があったら大変だろうなあ。

 肝心の5121小隊戦闘班は、ほぼいつも通り。なにせ九州で大活躍した後、首都でも護衛任務で巨体を晒し、日本中の人気者になった士魂号。それぞれどんな層に人気があるかというと、やはり乗り手のセンスと連動しているようで。森さんに怒られた甲斐があったね、滝川。

 ゲームだと一番楽なのは複座なんだけど。ミサイルの一網打尽も魅力だけど、それ以上に相方が整備してくれるんで、仕事を怠けても勝手に性能が上がるってのが魅力←をい。ちなみにこれ、スカウトも共通してて、しかも滅多に故障しないんで、コツさえ掴めば戦車より楽だったりする。ただ、PCが来須以外だと陰謀人事で押し出し無職の危険があるのが難点。

 さて、補給基地には、依存性の強いトラップが仕掛けられ、舞が大変な目に。うんうん、寒い日にアレはマズい。マズすぎる。島国日本が誇る、最強のトラップかもしれない。

 九州以外の幻獣の内情、そして日本が置かれた立場など、グッと世界の広がりを感じさせつつ、次巻へと続く。

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