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2012年5月22日 (火)

榊涼介「ガンパレード・マーチ 5121小隊の日常」電撃文庫

「菓子ば食えんようになったら、戦争は負けばい。おれは意地でもつくり続けると」

【どんな本?】

 2000年9月28日発売の SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」のノベライズ。予算を開発で使い果たし広告費ゼロというゲームにあるまじき状況で発売されたが、そこは「リンダキューブ」・「俺の屍を越えてゆけ」とクセモノで定評のあるアフファシステム。口コミでジワジワと売れ行きを伸ばし、野心的なシステムがマニアに受けて第32回(2001年)星雲賞メディア部門もゲームとして初受賞。

 大人の事情で続編が出ないものの、中古市場では新品とあまり変わらない4千円台を維持し続けた化け物ゲーム。2010年9月22日に PSP 用ゲームアーカイブスでダウンロード販売で復活し、今も新しいファンを獲得し続けている。

 これをライトノベル作家榊涼介がノベライズしたのがこのシリーズ、2001年12月15日にシリーズを開始して以来10年以上も続き、既に30冊以上を刊行し、舞台を広げつつまだまだ続く模様。

 なお、2001年1月5日に広崎悠意による「高機動幻想ガンパレードマーチ」が出版されているが、完全な別物だ。同じゲームを元にしているだけで、連続性はない。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2001年12月15日初版発行。私が読んだのは2002年3月5日の三版。文庫本で縦一段組み本文約272頁+芝村裕吏の解説2頁+きむらじゅんこの憂鬱2頁。8ポイント42字×17行×272頁=194,208字、400字詰め原稿用紙で約486枚。長編小説なら標準的な長さ。

 ライトノベル作家だけあって、文章の読みやすさは文句なし。ゲームをプレイした人なら問題なく入り込める。そうでない人も、登場人物は多いが、口絵のカラーで紹介しているので、大丈夫だろう…たぶん。

【どんな話?】

 1945年、黒い月と幻獣の出現で第二次世界大戦は終わった。補給を必要とせず、大群でひらすら人類を狩る幻獣に人類は敗退を重ね、南アフリカの一部・アメリカ・日本だけが人類に残った。1997年九州に幻獣が上陸、1999年に日本は熊本を要塞化し14歳から17歳の学兵召集を決議する。

 そして1999年3月。稼働率の低さが嫌われた人型戦車・士魂号3機を中核戦力とする、召集された学兵が中心の5121小隊が発足。絶望的に短い訓練期間を経て戦場に駆り出される寄せ集めの5121小隊の戦いが始まる。

【収録作は?】

絢爛舞踏――幾千万のわたしとあなたで
 3月28日土曜日。山鹿戦区に出撃した5121小隊。壬生屋未央の重装甲一番機は先陣を切り突進し、超硬度大太刀の白兵戦に突入。続いて速水厚志と芝村舞の三番機複座型が追従、ミサイルで幻獣を一掃。出遅れた滝川陽平の軽装甲はジャイアントバズーカでミノタウロスを撃破後、追撃に移る。
 戦闘後、速水は死地にありながら笑みを浮かべる自分に戸惑う。必然的に被弾の多い戦い方となる壬生屋は、整備班班長の原素子に咎められ不機嫌になる。一方、滝川は気になる田辺真紀にどう話しかけるか迷っていた。

 記念すべき榊ガンパレの開幕編。人物紹介を兼ね、主に四人のパイロットを対照させながら描く。天才の片鱗を見せつつ、自分の才覚にに戸惑う速水。生真面目で突進することしか知らない壬生屋。やはり生真面目ながら、一歩ひいて全体を見つめる頭脳派の舞。戦場にありながら「楽しい青春」を夢見る煩悩まみれの普通の少年・滝川。
 後には躊躇いもなく戦鬼と化す速水が、ここでは猫をかぶっているのが可愛らしい。猫をかぶっているのは瀬戸口も同じで、この巻では軽薄なプレイボーイで通している。が、やっぱり光ってるのは原さん。頭の回転が早く仕事に厳しく、猛毒が混じったユーモアを吐く彼女を、ここまで巧く書くのはさすが。うんうん、プールチケットは重要だよねえ。
附・イ号作戦秘話――3月31日(火)夜半
 配備の少ない士魂号だけに、補給物資の調達は難しい。だが、5121小隊には奥の手があった。
 坊ちゃんこと遠坂圭吾にスポットがあたる貴重な一遍。といっても、ほとんど道具扱いだけど。最近、出番少ないんだよなタイガー。
原日記
彼女の秘密が覗ける掌編。そういう設定があったなあ。
突撃準備よろし
 5121小隊では少し浮いている田代香織。本人は武闘派のつもりだが、ここでタイマンに付き合ってくれるのは脳筋の若宮だけ、しかも奴は本物の兵隊でケンカ屋の田代は全く歯がたたない。スカウトへの転属を願っているが、未だ希望はかなわず。要領よく整備の仕事を終え帰宅し田代だが、思わぬ待ち人が…

 これも珍しく田代香織にスポットがあたる一遍。いやあ、ゲームじゃ苦戦してる時に彼女が歌いだすと、大変な事になるんだよねえ。腕が上がってくると「早く歌わせろ」と待ち望むようになるんだけど。
原日記Ⅱ
整備班の裏話。善行もげろ。
豪剣一閃!
 軽装甲が煙幕を張り、重装甲が突進して幻獣を集め、複座型がミサイルで一掃する戦術が板についてきた5121小隊。勝ち戦が続いたためか、壬生屋の剣も冴えを見せてきたが、思わぬ問題が発生した。なんと、超硬度大太刀が折れてしまったのだ。

 突進乙女、壬生屋未央が主役の一遍。一見ガチガチの和風に見える彼女、ソックスハンター編をプレイするとわかるんだが、意外と靴下に強く執着するんで、巧く条件を揃えないと「交換しよう」での入手は難しい。ここで出てくる北本特殊金属の親父さん、出番こそ少ないものの結構ファンは多かったりする。
楽しいピクニック
 ゲームでは作戦会議で決議するキャンプ・イベント。小隊全体の和を図りたい場合に有効。私は未央ちゃんの「なんですって」が好きです。

 ゲーム内のイベントを、どう自然に物語に組み込むか、もノベライズ作品の楽しみのひとつ。武闘派は香織ちゃんのライダー・グローブにお世話になるだろうし、男性プレイヤーにプールチケットは必須。ファーストマーチでしかお目にかかれない原素子親衛隊なんてのも軽く触れてるのが嬉しい。そうそう、表紙にイワッチが出るのも、これが最初で最後かも。不憫だなあ。

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