榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 新大陸編 2」電撃文庫
「ぬほほー、さすが原さん、良いこと言うバイ。空気は読むもんじゃなか! 読んで、暗~い雰囲気に合わせて、どうすっとか? 空気はな、切り裂くものタイ! 切り裂いて新しい状況を作り出すっとバイ……!」
【どんな本?】
元は2000年9月発売の Sony Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。根強い人気を誇りながらも、大人の事情で続編が出ないが、2010年にPSPのアーカイブでめでたく復活、新たなファンを惹きつけている。
そのノベライズとして出た本作は2001年12月発売の「5121小隊の日常」から始まり、浮き沈みの激しいライトノベルの世界で10年以上も定期的に刊行を続け、この巻で32冊目。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2012年5月10日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約280頁。8ポイント42字×17行×280頁=199,920字、400字詰め原稿用紙で約500枚。相変わらずの安定した執筆量。
文章そのものは読みやすいが、なにせ長大なシリーズの途中、登場人物と設定がやたらと多い。一時期は榊氏オリジナルの登場人物が5121小隊以上に活躍したものの、新大陸編に入ってグッと整理された。この巻で活躍するのは浅井と箕田小隊の四人を除けば、新大陸の者ばかり。いきなりこの巻から読むのは無茶だが、新大陸編1からなら、何とか…できれば「5121小隊の日常」から入るのがいいんだけど、店頭に置いてないんだよねえ。
てんで、そろそろ、巻頭に登場人物一覧をつけて欲しい。
【どんな話?】
新大陸へ渡ったものの、米の軍/政府内の軋轢でフォレストウッド空軍基地に幽閉された5121小隊。同時期、東海岸北部からオンタリオ湖東部で幻獣が突如大攻勢に出る。大西洋岸はボストンを死守する体制となるが、ニューヨーク州側の戦線は崩壊、湖畔のレイクサイドヒルなどは孤立した。運悪くレイクサイドヒルに滞在していた浅井は、正体を隠して警察署長のマクベインに示唆を与え、市民の避難を優先させる。
度重なる嫌がらせに対し、大原首相よりフリーハンドを与えられた舞は、フォレストウッド空軍基地を飛び出し、海兵隊のフェルナンデス大隊と共にレイクサイドヒル救出に赴く。突然の共同作戦に戸惑う両者だが、フェルナンデス中佐の副官プラッター大尉の仲介もあり、次第に連携を深めていく…
【感想は?】
表紙は5121小隊が誇る美脚コンビ。口絵は中西に笑った。コイツ、大人しそうな顔してるけど、キレさせたらヤバい、きっと。間違ってもエリー湖の向こう、デトロイトに行かせちゃいけない。
前巻では土木作業で活躍した士魂号、この巻では冒頭から戦闘で大活躍。向うでもテレビ新東京みたいなのがあるみたいで、それぞれ人気者になりつつある。ただ、人気の傾向の違いはなんとも。つか何やってんだパーシバル。いっそ絆創膏とゴーグルをセットで売れば…嫌だな、そんな流行ファッション。
とまれ、やっぱり問題は補給。ここでも何考えてるんだパーシバル。まあアッチの世界じゃあまし反りがない鎌倉時代のが良しとされてるというし、本来は両手で扱うものだけど。
テレビ新東京が出ないからレイちゃんの出番もなし、ショボ~ン…と思ってたら、似たような人がいましたよ、こっちにも。上司に心酔してる所も、変にズレたポイントに拘る所も同じ。こんなのを選ぶってのも、人を見る目があるのかないのか。ちなみにピアニストの手は力が必要なのでゴツいそうな。
妙に映画ネタが多いのもこの巻の特徴。やっぱりね、コックは頑張らないと。それと、茜、安請け合いは危険だぞ。のぼせ上がってるようで、案外とフォンタナさんも目ざとい。
前巻でタダモノではない片鱗を見せたプラッター大尉、この巻でも表には出ない形で活躍してる、というか、活躍しすぎのような。今のところ状況証拠しかないけど、狼の匂いがする。異様に広い人脈、整備班への心配り、そして中西の奇襲成功。困った人たちが太平洋を越えてしまったような。そう、
「……趣味は時として身を滅ぼすもとになります」
北海道で雪豹に出会って以来、多少はコツを飲み込んだらしい舞、今回はちゃんと準備万端怠りなく、楽しくランデブーを楽しんでる。ほんと、向うは多いんだよね。公園の樹に結構いたりする。銃の練習で撃つガキもいるんだけど。
ここまで来てまだ出てくるゲームのネタ、この台詞は滝川か新井木か岩田…が言ったら、シャレにならんな。時として便利なんだけどね、PCとして選ぶと雰囲気に関係なく仕事できるし。
この巻の終盤は、ファンブックを持ってるとより楽しめる展開。「もしかしてファンブック第二段も…」などと期待してしまう。なんとかなりません?むつけき海兵隊も、案外と困った趣味の人が多いようで。良かったな滝川、ご指名があって。トラウマ復活かと思ってヒヤヒヤした。しかしあのチョイス、舞の陰謀ではなかろうか。
実在の地形を微妙にいじった設定、海兵隊の登場と、何か考えがあるな、と思ったら、やっぱりそうだった模様。次巻あたり、陸水空の三次元で電撃的に作戦を敢行する海兵隊の本領発揮となるか?
【関連記事】
| 固定リンク
「書評:ライトノベル」カテゴリの記事
- 小野不由美「白銀の墟 玄の月 1~4」新潮文庫(2019.11.12)
- 森岡浩之「星界の戦旗Ⅵ 帝国の雷鳴」ハヤカワ文庫JA(2018.10.14)
- オキシタケヒコ「おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱」講談社タイガ(2018.08.05)
- エドワード・ケアリー「アイアマンガー三部作3 肺都」東京創元社 古屋美登里訳(2018.06.25)
- エドワード・ケアリー「アイアマンガー三部作2 穢れの町」東京創元社 古屋美登里訳(2018.06.24)
コメント