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2012年2月16日 (木)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2012年版」早川書房

 携帯電話が出てくるような小説は文学ではない、なんてことが絶対起こり得ないとはいえなくて、わりとありうるんじゃないのかという気がしてるんですよ。  ――円城塔

 SFマガジン編集部が、2011年の日本のSF状況を総括するムック。というと堅苦しそうだが、最近のSF関連コンテンツの中でも面白そうなモノにスポットをあてた冊子だと思って結構。というか、私はブックガイドとして使ってます、はい。対象は2010年11月1日から2011年10月31日に出た作品。

 昨年に続き今年も国内編のトップ10は全部読んでなかった。トップは円城塔の「これはペンです」。芥川賞に続く栄誉だなあ。世間の注目度は全く違うけど。「各作品の獲得点数を見てみると、一位の点数は過去五年で最小、そして二十位の点数は同最高」の大混戦だとかで、なら「シンギュラリテイ・コンクェスト」が圏外なのも納得しよう。というか、その山口優を始め、私が知らない作家が沢山ランクインしてるのが面白い。もしかして、優れた若手SF作家が続々と登場してる日本SFの春なんだろうか。

 海外編はイーガンの「プランク・ダイヴ」とバチガルピの「ねじまき少女」が大接戦。こっちはバチガルピを除くとビッグネームが揃ってる。やっぱり「ダールグレン」は話題なんだなあ。気になるのがウィリアム・コッツウィンクル「ドクター・ラット」。「アクが強く読者を選び」とか言われると、つい挑戦したくなるじゃないか。

 芥川賞の受賞インタビュウでは常識人を装ってた円城塔、こちらのインタビュウ「変動するSFの立ち位置」ではかなり挑発的な発言を連発してる。なお、このインタビュウは芥川賞発表前日。文学界での自分の位置を「捨扶持をもらいながら、暮らしてる武家の三男坊」などと傍流を意識しつつ、「切り込み要員」と自分を表現している。鷹の団なら特攻隊長ガッツですか。なお、このインタビュウで今後の予定を聞かれ「まあ…ないですね」などと答えつつ、自ら註で伊藤計劃の「屍者の帝国」を引き継ぐ由を発表している。期待してまっせ。今年中に河出書房新社から出る予定。

 続く山岸真インタビュウでは、イーガンの言葉が印象的。大意だけど。

地動説が最初に提唱されたときに人々が感じただろうような驚きを、最新の科学の成果――時空や心の構造といった問題――を追及することで読者にあたえたい

 うんうん、そうなのよ、そーゆーのを期待してます。山田正紀の「想像できないことを想像する」にも通じる、SFの醍醐味なんだよなあ。

 もう一つ、これは「仙台文学館トークイベント採録」として瀬名秀明×巽孝之×小谷真理の対談「科学と文学の境界を越えて」。これで面白かったのがパラサイト・イヴ英訳の経緯。ゲーム版パラサイト・イヴにハマった理系の学生タイラン・グリロが、日本語を独学で学んで全訳し、出版社に持ち込んだそうな。ってことは、アニメ化されたライトノベルも、近く米国本土進攻が始まるかも。

 海外文学では相変わらずジョルジュ・ペレックを贔屓してる牧眞司。面白そうなのがM・バルガス=リョサの「チボの狂宴」。「独裁者トゥルヒーリョの暗殺というドミニカの史実に基づいた、空想的な要素のないリアリズム文学」「時間も視点も多元化する大胆な叙述テクニック」って、どういうんだろ。ラピエール&コリンズみたいな感じかしらん。

 近く新☆ハヤカワ・SF・シリーズから出るパオロ・バチガルピの「第六ポンプ」、SFマガジンで紹介済みの短編を集めたのかと思ったら、なんと「全十編のうち半分が新訳」。カロリーマンは衝撃的だったなあ。

 「SF出版各社2012年の刊行予定」では、久しぶりに菅浩江がJコレクションに登場。山本弘「輝きの七日間」も出るというから、連載は佳境に入ってるのか。神林長平の「敵は海賊」にも期待。国書刊行会が「出せる可能性の高い順から…」と弱気なのが可笑しい。眉村卓「引き潮の時」は東京創元社から出るそうな。何かあったのかしらん。

 21世紀SF必読書100では、「マルドゥック・スクランブル」の刊行秘話が衝撃的。当初のタイトルが「事件屋稼業」だった、というのも面白いが、複数の出版社に刊行を断られた、というのも意外。結果として最も相応しい出版社から出たんだから、まあいいじゃないですか。

 ところでSFアニメのベスト10、「魔乳秘剣帖」と「時計仕掛けの哀女神」がないのはおかしい(けっこう本気)。

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