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2011年12月 4日 (日)

篠田雅人「気候ブックス014 砂漠と気候 改訂版」成山堂書店

…日本における平均的な年間の降水量は約1700㍉で、世界の陸地における平均の約750㍉と比べて2倍以上もあります。(略)
砂漠が存在するためには、年降水量がおよそ200㍉を下回ることが必要となります。

【どんな本?】

 砂漠とは何か。どんな所にできるのか。なぜ砂漠になるのか。砂漠にはどんな種類があるのか。サハラは昔から砂漠だったのか。砂漠は気候にどんな影響を及ぼすのか。鳥取大学乾燥地研究センター教授で、世界各地の砂漠を観測した経験を持つ著者が、気候学的アプローチで語る砂漠の解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2002年10月8日初版発行、2009年4月8日改訂初版発行。ソフトカバーで幅広の新書サイズ。縦一段組みで約166頁。9ポイント45字×16行×166頁=119,520字、400字詰め原稿用紙で約299枚。小説ならやや短めの長編程度。

 素人向けを意識した親しみやすい文章ではあるが、所々に数式や分子式が出てくるし、離れた章の図を参照しての説明があったりで、読み下すには相応の心構えが必要。ただ、気候学系の専門用語はたいてい文中で説明しているので、前提知識は特に必要ない。小学校で習うレベルで天気図の読み方が分かっていれば充分。

【構成は?】

 はじめに/改訂版にあたって
第1章 砂漠をみたことがありますか
第2章 砂漠はどこにあるのか
第3章 砂漠はどうしてできるの
第4章 砂漠はなにでできているの
第5章 砂漠はあついの
第6章 砂漠は昔からあったの
第7章 砂漠化とは
第8章 砂漠化が気候に影響するの
おわりに 将来の砂漠像を描くために
 参考文献/索引

【感想は?】

 この国に住んでいると、どうも砂漠というモノが理解しにくい。夏ともなればアスファルトの道路の隅っこからでも、オヒシバなどが逞しく生えてくる。「植物なんて土さえあれば生える」などと、ついつい考えてしまう。

 そういう感覚は、水が豊富な日本ならではなのだな、と冒頭で実感できる。日本の降水量1700mmは、「世界の陸地における平均の約750㍉と比べて2倍以上もあります」。恵まれてるわけです、この国は。

 口絵で世界の様々な砂漠を紹介している。砂漠と言えば赤茶けた大地が広がっているか、砂山が広がっている印象があるし、そういう写真もあるのだが、ウズベキスタンの粘土砂漠は灰色だし、ホガール高原の礫砂漠は尖った石や岩がゴロゴロ転がって、見るからに不毛な雰囲気がある。

 降水量で砂漠を定義する流儀もあるけど、植生で考える流儀もある。ってことで、植物に関する部分も出てくる。まずは光合成のエネルギー変換効率。「1メガジュールの日射あたり約25キロジュールの熱量をもつ1.4グラムの乾物(炭水化物)ができます」として、変換効率を2.5%と計算してる。太陽電池って、実は凄いのね。

 砂砂漠で凄いのがタクラマカン砂漠。「そこでは、高さ50~300㍍の移動砂丘が85%を占めています」って、ゴジラの身長より高い砂丘が動きまわってるのかい。

 温度変化も凄くて、「中緯度砂漠である中央ユーラシアのカラクーム砂漠(レペテック)では、年間で最高となる地表温度が80℃弱ですが、最低はマイナス40℃」って、年間の温度差が120℃ですぜ。ところが、温度が安定している砂漠もあって、南アメリカのアタマカ砂漠と南部アフリカのナミブ砂漠。共通点は沿岸に寒流が流れていること。

沿岸には寒流が流れているため、大気は下から冷やされ低温となります。また、海から水蒸気の供給があるので、湿度は高いのです。亜熱帯高気圧の南東側(南半球では北東側)の下降気流によって昇温した上層大気が、下層の冷涼湿潤な大気によって冷やされるため、水蒸気が凝結して霧が形成されます。そのため、日射も少なくなります。

 と、霧が出る砂漠もあるってのは意外。名づけて「霧砂漠」。
 有名なサハラ砂漠、実は昔は緑に覆われていた模様で。

 地球規模で温暖化が始まった1万4000前ごろになると、熱帯アフリカは湿潤になってきます。それ以降、さらに湿潤化し、湿潤な状態は10000~9000年前と8000~6000年前にピークを迎えます。ふたつの大湿潤期には、サハラ奥深くまで多量の雨が降り、砂漠はサバンナやステップの緑に覆われました。

 と、砂漠とは常に移動・変化するものなのですね。しかし温暖化でサハラ砂漠が縮小するってのは意外だった。てっきり拡大するとばっかり。

 もうひとつ、「あ、やられた!」と思ったのが、古代の四大文明の共通点。大河のほとりってのは知ってたけど、もうひとつ、「乾燥地である」と指摘してる…って、もしかして、これは常識で、知らなかったのは私だけかしらん。

これらの大河は、いずれも湿潤地の山地に源を発し、乾燥地の平野を流れて海に注ぎます。このような大河を、外来河川と呼びます。黄河の中流域は乾燥地ですが、下流域は乾燥地でないと思われるかも知れません。しかし、年間の水収支を計算すると、下流域も中流域と同程度の水不足となっているのです。

 ということで、大河が運ぶ肥料分とかんがい技術が、文明の発生に都合が良かった、と述べている。なるほど。

 全般的に気団がどうの水収支がどうのと、理学を中心にした本ではあるものの、過放牧やアラル海の縮小など社会的なトピックも織り込み読者の興味を引こうと努力している。機会があれば降水量が社会や文化に与える影響を考察した本を読みたいんだが、「肉食の思想」でも読み返そうかしらん。他にいい本を知ってたら教えてくださいませ。

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